広大に、膨大に、そして莫大で甚大な黒の中に、瞬く光があった。
数は三つ。内二つが、一つを中心として回っている。
その光の一つ、"GAT-01 ストライクダガー"は、手付かずとなった(という設定の)資源衛星コロニーを背後につけ、一心不乱に他の二つの光源であるところの"RGM-79 ジム"へとビームライフルを撃ち返している。
似たようなバイザー頭が戦う様子は奇妙なものだが、撃っている本人は必死だ。何せ、今この"ストライクダガー"のパイロットが存在している空間はゲームによって創られた仮想空間ではあるが、しかしながらこの空間で死ぬという事は、即ち現実世界での死を意味する事になるのだから。
それに、何よりもその青く塗られた"ストライクダガー"のパイロットには―――――クジョウ・ミユには、守らなければいけない存在があった。
彼女の機体の背後には、大破した二機の"ストライクダガー"の姿がある。そのコックピットの中には、未だ気を失ったままの年少の少女達がいるのだ。
「だから……!」
退けない。それに、死ねない。
ミユはそう思い、必死にトリガーを引き続けるが、すでに頭部の半分が被弾により煙を上げ、モニターの半分に砂嵐が走っているような状態の機体では、どれだけ撃っても当たりようがなかった。
機体のバッテリーも心許なく、このままではただでさえ防戦一方な状況が、さらに悪化してしまう。
焦りに歪むミユのヘルメットの中を、浮いた汗が漂う。
それを不快に感じつつも、しかしその汗を拭いている暇などない。視線を走らせ、目の前に現れる"ジム"へとトリガーを引く。引いて、そこでミユは目を見開いた。
「……っ!? バッテリーが……!」
あまりに目の前の状況に集中する余り、アラートを聞き逃していたのだろう。
すでに機体のバッテリーが底を尽いていた機体からは、電源供給など成される訳もなく、彼女の"ストライクダガー"の持つビームライフルからは、何も吐き出される事はなかった。
それに気付いたのか、2機の"ジム"は彼女の前へと姿を見せると、待ち侘びたとでも言わんばかりに悠々と背部のサーベルラックからビームサーベルを抜き取り、ビームの刃を発振させる。そして、スラスターが瞬いた。
「くっ……!」
迫る二機のジムへと頭部バルカンである"イーゲルシュテルン"を放ち迎撃を試みるが、所詮は牽制用の武装。シールドで弾かれ、それだけで終わる。
それでも諦めず、ミユは対抗してビームサーベルを抜刀するが、自分自身だけならまだしも、同時に迫る二機の敵機から背後にいる少女達を守りきる自信は、今のミユにはなかった。
悔しさから、戦いの最中、死の間際であるというのにミユの瞳からは涙が零れる。ごめんなさい、と小さく呟いた彼女が、せめて相打ちを狙おうと覚悟を決めた、その時だ。
《――――動くンじゃねえ! ジッとしてろ!》
「え……?」
突然の音声通信に驚き、ミユは反射的に機体に急制動をかける。
すると次の瞬間、目前にまで迫っていた"ジム"が唐突にビームに貫かれて、爆発した。続けざまにもう一機へと、白く光る"何か"が強烈な蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、右手に持つライフルを発射。
あえなく、そして呆気なく、二機のジムは彼女の前へと姿を現した白い、ただただ白い純白のモビルスーツ"ジェノアスカスタム"によって、瞬く間に撃墜されたのだ。
「あっという間に二機を……凄い……」
彼女の目前で佇み、その"ジェノアスカスタム"と思わしき機体はライフルを下ろす。もう敵はいないと判断したのだろう。
だが、今のミユの頭からは周囲確認や索敵などという基本的な警戒意識など、吹き飛んでしまっていた。
何しろ、余りにも彼女の目の前に存在している機体が、美しく輝いて見えていたのだから。
その時の光景を、出来事を、クジョウ・ミユという人間は――――きっと、一生忘れる事はないだろう。
これは、殺し合いを強要される事となったプレイヤー達の、生き残りを賭けた物語である。