東方幻眼魔~あるモンスターになって東方に~   作:眼鏡花

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 先に言っておきます。

 今回のこれはマジで勘弁して下さい…。



現れた希望

 苛烈さを増す炎の嵐を、妖術と陰陽術を駆使して流し、流し、僅かな隙を狙って光の束で攻撃する。

 しかし、それすらも触れる前に焼かれ、小石が直に当たった方が痛手を負いそうな程の威力しかなくなっていた。

 せめて、妖力と霊力を溜めこむ隙さえあればいいが、そんな事をしていては結界がおろそかになってしまいそうだ。

 全く。本当に強い。しかし、まだ浅い(・・)。私達を同時に狙うのではなく、霞殿だけを狙えば完全な防戦一方の状況を作り出せる。しかし、それをしない。

 寄って斬れば、寄られた時点で灰となる。どうしようも無くなるというのに、それをしようとしない。

 なにより、力に振り回されている。国生みの母を焼いた炎がこんなに生易しい訳が無い。加えて、私達に構っていればいる程輝夜姫達は遠くに逃げる事が出来る筈だ。そんな状況で手加減をする意味も無い。つまり、十全に力を振るえないのだ。

 安定性に囚われてしまっている。だから、まだ浅い。それがどうして、楽しみ(・・・)で、しかたが無い。

 それさえ無くなれば、完璧だ。咽喉から肉を剝くように、互いの命を端から毟り取っていくような鮮烈な戦いを繰り広げたいもの……いや、今は目的が違う。私欲に流されるな。今はまだその時では無い。

 ごうごうと空気を貪りながら迫る灼熱の炎を再び逸らす。しかし、先程とは若干違う事がある。一つは、私の体から吹き出すように嫌な汗が流れ出ている事。

 もう一つ――結界に、罅が入り始めた事だ。

 

「『――――――――』」

 

 霞殿の言葉を信じるのであれば、あと二十。それがやけに遠く感じられる。

 突き刺さった剣からは、炎が先程よりも強い勢いで溢れ出ていた。

 如何したものかと悩んでいると、攻撃の手が止まった。右腕は地面に向かって下がり、灼熱の炎を宿し続けている。僅かに、息を切らしていた。

 ……やるなら、今か。

 

「……『安倍晴明』と言ったな。お前が地上に生まれたという事実は、永劫変わらない。だが、……残念に思う」

「……それは、どういう意味で?」

「私は未熟の身だ。戦いを未だに理解していない赤子だ。神の力を借りて、侮辱した相手すら刹那で屠る事すらできやしない。それどころか、部下を巻き込んで殺してしまった。――生きる者として、(もののふ)として、私はお前に敬意を表する」

 

 その言葉の節々に自己嫌悪で塗られた本音があった。

 

「師匠……八意様は私を褒めて下さった。才能の塊だ、と。だが、私はそう思えない」

 

 自身に対する憤り。周囲に対する悲しみ。そして、輝夜姫や永琳殿が見せた物と同じ類の悲哀があった。その全てが、自分に向いている……あまり、見ていて気分の良い類の感情では無い。

 

「……月に地上の者を連れ去る事が許されるなら、私はお前を連れ去ってしまいたいくらいだ。だがそれも許されない。だから決めた。……安倍晴明。我が名を綿月(わたつきの)依姫(よりひめ)。――お前は此処で斬る。斬って、私の糧にする。呪ってくれて大いに結構。だから、だから……その首、置いていけ」

 

 そこまで言って、刀の先を此方に向ける少女の眼には、見た目には合わない覚悟があった。……化ける。そう確信を持つことが出来た。同時に、顔が歪むのを隠しきれなかった。

 そして、惜しくも思う。もうすぐ、時間だ。

 

「……成程。ならば尚更、此処で斬られる訳にはいかなくなりましたな。探し人がいるものでして。何より」

 

 言い終える前に、言葉を潰した。

 重い。そんな表現が妥当だろう。重圧。呼吸すらも妨げられるような背後から感じる、圧倒的な存在感。私も怯んだが、少女――依姫殿も怯んだ。

 霞殿の申した、希望。その僅かな一瞬。依姫殿よりも僅差で早く我を取り戻した私は、ありったけ溜めこんだ霊力と妖力の光の束を放った。張りつめた糸のように真っ直ぐ進む混じり物の力。

 

「すみませんなぁ。これも、経験の一つとして受け入れて下され」

「……成程。『相手から注意を逸らしてはいけない』、か。勉強になる」

 

 致命傷には至らない。神の炎に焼かれ、威力の減衰したそれはしかし人の体を傷付けるのには十分だったようでして。

 依姫殿は頬に横一筋、決して浅くは無い傷を負った。血がぼたぼたと流れ落ちていくのが、否応なく目に映る。

 

「さて、私の役目は此処までのようで――これより先の相手は、私では無いですので……」

 

 ――手合せは、また機会があれば。

 そう言って、ありったけの力を使って結界を依姫殿の周囲に張って前線から退いた。

 

 

 

「――問う。君は、私のマスターか?」

 

 その存在感に、俺は息を飲んだ。儀式魔法――具体的に言えば、『召喚魔法』によって俺が呼び出したのは―――間違いなく、強い存在だった。

 右手に剣を。左手に盾を。体に鎧を纏い、赤髪をポニーテールにして纏めている騎士。

 その力はかの白き龍と同等とすら語られる、最強の剣士。

『カオス・ソルジャー』。遊戯王を代表する最上級モンスターの一体。

 それが、俺の眼の前に、炎の内より現れた。

 

「肯定。名を霞と言う」

「……いいだろう。君が私のマスターと認めよう。これより私はマスターの盾となり、剣となる事を誓う。此処に契約は締結した。――命令を」

「……」

 

 目の前の騎士は片膝をつき、頭を俺に向かって下げた。

 成功した。その感動に体が粟立った気がする。嬉しさに、体が焼けるかと思った。

 ……でも、今はそんな事に時間を取られるヒマは無い。

 だから、無遠慮に。端的に命令を下す。援護射撃もきっと目の前の存在は気に入らないだろう。今俺に出来る最善策は――この程度でしかないんだから。

 

「敵を、あの女を――無力化せよ」

「――承知した。そして、感謝を」

 

 ……? どういう意味だろう。俺は特に、感謝をされるような事を言った覚えは無いのだけど……。

 今は、まあいいか。……ああ、こんな小心者な俺が心底嫌になりそうだ。胃袋なんて無い筈なのにキリキリした痛みに襲われる錯覚を抱いた。幻を得意としている筈の魔法使いが幻痛に悩まされるとか何事だって言いたい、ホントにさ。

 内心、自嘲と溜息が溢れるばかりだよ。

 立ち上がり、濃紺の鎧を纏った騎士が彼女――綿月依姫と向き合う。

 和洋が混じったその奇妙な光景が視界に焼きつき、そして――。

 互いの得物が、接触した。ルーミアを取り込んでいなかったら今頃吹っ飛ばされていたと思う力の衝突に堪えながら、斬り合いを見ていた。

 冗談みたいな威力の応酬を拡散していくその最中で。

 

「――ん?」

 

 目蓋と眉間があれば皺を寄せるくらいの、異様な違和感を抱いた。

 『カオス・ソルジャー』――面倒だ。名前も知らないし、今は便宜上カオスと呼ぼう。

 カオスが袈裟切りに剣を振り下すと依姫が剣術とかに関しては素人の俺が見ても妙に大振りに刀を振るって斬撃を受け流している。火花が二度散っていた。

 どういう事だ……俺の知っている『カオス・ソルジャー』は能力を持っていない儀式モンスターだった筈……。

 ――――……ん? 『カオス・ソルジャー』?

 一瞬脳裏を掠めたあるワードに違和感の正体を察してしまう。

 そして、何処かのフラワーマスターの事を考えた時と同じ位の冷や汗が流れた気がした。

 

「……知りたくなかった」

「霞殿。すこし、構いませんかな?」

 

 推測が当たっているなら、冗談にしたって質が悪すぎる……。

 依姫の右腕の炎が消えて、代わりに両腕の手首辺に岩の腕輪が出ていたけど、あまり気にならない。

 狐耳を生やして九尾になり、若返ったような顔になった晴明の幻覚が視界に入った気がしたけど、その位の事を気にする余裕が一気に失われた気がした。

 彼は、俺が召喚したカオスは、唯の『カオス・ソルジャー』じゃない。

 

 

 

()ッ!」

「くっ!」

 

 重くて速い。言葉にするのは簡単だ。

 だが相対するとその言葉の重みがのしかかってきた。

 愛宕様の火に一切怯まず、手力雄様の腕を借り、両手で刀を振るって漸く拮抗状態が出来上がる。相手は片手(・・・・・)なのに、だ。

 更には、何とも奇抜な能力を持っていると思う。先程から目の前の男が剣を振るうと、別の場所から剣の刀身だけが同時に攻撃を仕掛けてくる。

 同時に、だ。あまりに速く振るっているからそう見えるのではない。増えている、と言った方が近い。

 

「だぁっ!」

 

 受け流し、殺しきれなかった衝撃で体を回して振り向きながらに一閃。

 全体重と遠心力、先程の衝撃を乗せた一撃は――

 

「――甘い」

「ぐっ!?」

 

 懐に潜り込んでいた男の、左手の盾に腹を強打された事により、兜の側面を先端が掠めて火花を飛ばすに終わった。

 男も男だが、あの防具も大概だ。咳込み、呻き声を押し殺して立ち上がる。

 今の一撃が大分効いたらしい。脚ががくがくと震えていた。

 

「……まだ続けるのか?」

「……ぐっ、げほっ、げほっ。それは、私に対する侮辱か?」

 

 その言葉の裏に、眼の前の男が手加減している事を悟って、いっそ冷静になれるほど頭にきた。その間も、よく見れば男は目を僅かも私から逃しはしていない。

 

「――わかっているのだろう。その言葉に、戦いに何かしらの意味を見出している者が、怒りを抱くのを」

「……謝罪する。確かに無礼な言葉だった」

 

 その詫びだと言って、男は剣を構えた。突如として吹き上がる汗。体を潰しにかかる大気よりも重い圧倒的なプレッシャー。眼力から感じ取れるその集中力。

 負ける。そんな確信を抱いた。

 けれども、私の中には対抗意識というものが恐ろしい位に充満している。

 少しでも、少しでも届かせるために、賭けに出た。

 

「――愛宕様の火、手力雄様の腕」

 

 一度も挑戦した事の無い、二柱同時神降ろし。一柱だけなら迅速に神降ろしを可能とする私の能力。しかし、二柱童子は? そんな暴挙に出ればどうなるか、考えたくも無かった。

 体が軋む。内側から体が張り裂けそうな圧迫感と右腕から伝わる激痛が苛む。

 体の中で二つの力がせめぎあって反発しあっているのがよく分かる。

 きっと、十秒も持たないだろう。

 でも、それでいい。必要なのは、相対する目の前の男に、一太刀与える事。

 ――無限に無い物尽くしの私に、有る物を増やすために。

 

「――月の使者、綿月依姫」

「――成程……マスター霞の従者、カオス・ソルジャー」

 

 男が名乗ったコンマ二秒後。同時に動いたはずだ。

 私の視界では、全く男の挙動を見る事が出来なかった事を除いて――。

 ゆっくりと下に沈んで行く視線と意識が、印象的だった。

 

「――見事」

 

 死力を振り絞って頭を回せば、兜を失った男がそう言っているのを、視界に収めた――――。

 




 弁解しておくと、コイツだけはレギュラー入りさせたかったんです……。
 ……のちに入る(予定の)奴らがアレなので。


 依姫は自分に自信が持てないのが個人的に合っている気がしてこんな風にしました。確かにまだ少し抜けている部分もありますけど、殆どは十分すぎるレベルだろこの人、と。
 そこからメンタル的にどんどん成長していく、みたいなのが理想ですね。口調も原作と違う理由も今の所それに準ずるような理由ですし(原作では基本丁寧語ですし)。
 オリジナルが今回はいってしまいましたけど、大丈夫でしょうか。

 晴明は時たま出てくる予定ですね。
 次回で都の物語は終わりです。たぶん。

 それじゃあ、お休みなさい。




 千眼様どうだそうかしら……(ボソッ
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