東方幻眼魔~あるモンスターになって東方に~   作:眼鏡花

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 さーて、土下座の準備をしておこう。
 彼女(・・)のファンである紳士達に告ぐ。
 ……すまなかった。



大事故

 都を出て二日。ガイアの肉体が魔力で構成されていて、必要な時だけ肉体を持っていれば良いらしく、今は魂だけの霊体化している状態だ。

 魂は契約を結んだ事によってこの世に留まっている状態であり、肉体の維持と魂をこの世に留める為に俺の魔力が使われる事、尚且つ消費は召喚の時とは比べるまでも無く少ない事が判明したのは昨日の夜の事。

 普通に、俺が作り出す魔力の方が多いくらいだ。だから大して問題は無い。能力を使おうとすると、その分消費するらしいけどね。まあ、一つ目の能力は兎も角、二つ目は色々不味い。……召喚魔法を行使した時以上に魔力を消費した……。その分、桁外れに強力なのは間違いない。あんなの防げるのは……というか防ぐ方法あるの、アレ?

 魔力消費の事を知らなかった初日はガイアの睡眠とかの事を考えなければならなくなり、一日野宿したわけだ(ガイアは俺が知っているものだと勘違いして、好意と思って甘えさせてもらった、という事を言っていた)。どちらにせよ無駄だったけどね。

 ……話が逸れる。

 そんなこんなあって今に至る俺は、森の中を移動している。偶には、森林浴もわるくないかなー。……晴明には海を渡るとは言ったけど、いやー、迷った。完全に。木々がうっそうと茂る山の方まで迷い込んでしまった。俺は実に馬鹿だな。……真似すんじゃなかった。

 今の所ガイアは俺の背後で何時でも実体化出来るようにしていた。……そこまで気にしなくて良いと思うけど、ありがとう。

 

『……マスター。この先から妖力を感じます。それから、多数の足音が』

「ありがとう」

 

 ガイアがそう伝えてくれる。言う通り、何処だとか、まだそう遠くへは逝ってない筈だ、とかそんな叫びにも似た声が耳につく。耳無いけど。

 ガイアは俺に対して念話のような物を使えるけど、俺は使えないから声に出して伝えなければならない。

 これでガイアに迷惑でも掛かったら、本当に契約破棄されても文句言えないなあ……。

 

「……」

 

 俺とて、この二日で何もしなかった訳じゃ無い。依姫ら月の民との永琳争奪戦争(と俺が勝手に呼んでいる)の時に使えなかった魔法を改良し続けていたりもした。

 その結果が、俺が今爪のような指でつまむように持っている一本のクロユリの幻影。

 どうにか、五本までならタイムラグゼロで発動する状態までこぎつけた。

 でもそれだけ。実質的な戦闘力は文字通り皆無な訳でして。……あ、そうだ。花一つ一つに予め見せる幻覚を決めておこう。

 ……思い浮かんだのは三つ。……正直、一つ目に思いついたのは使い方を間違ったら絶対にいけない奴だ。

 他は……こうするか。

 そうこう考えながら、高度を上げようとして――眼の前をこの辺りではまず見られない金髪が横切った。思わず、視線をそちらにやる。

 後ろ姿しか見えないが、ちらっと見えた顔からまだ若い。幼いでも通じる気がする。金の髪は黒の髪がノーマルなこの国にとってはあまりに映えるか、異端に見えるかの二択だ。

 その子を追っている二人の男――身なりからして盗賊だろうか。あんなのに捕まればどうなるか。

 ……どうしてかは分からない。本音は関りたくない。だけど、見捨てるのも何だかなと思ってしまう。

 

「……馬鹿馬鹿しい。行くぞ、ガイア」

『是非も無い。実体化の許可を』

「拒否。今回は俺が行こう」

 

 さて、……出来るだけ穏便にしたいけど、行こうか。

 

 

 

「はっはっ……ッ!」

 

 助けて。そんな言葉は言葉になる前に口から取り込む空気に遮られて、吐き出す息に空回りしてそもそも声にならない。

 痛い。そんな言葉を言う余裕なんて、そもそもなかった。ただ走る。怖くて、この状況をどうにかするべく硬直した必死に頭を動かす。

 

「待てや、妖怪!」

「逃がすな! あんな上玉そう居ねえ!」

 

 下品な二人の男の口から出るその言葉に、このまま時間が進んだ未来の私を思い浮かべて、必死に足を動かす。

 また走る。走って、逃げて、走って――どす、と体からそんな気味悪い音が聞こえた事を認知したのは、一瞬遅れてから。

 

「――づっあ!」

 

 焼けるような痛み。それは刃物で斬られた時とはまた違う、刺さり体に残る違和感。それが痛みを尚強調させる。

 脹脛から脛を深々と貫通していた。

 能力を使って逃げようにも、こんな平常心を失った状態で私がスキマと呼んでいるそれを発生させる能力が発動するかどうかなんて、是非を問われるまでも無い。それに何より、妖力の残量が心もとなかった。

 ……嫌。こんな、まだ十年しか生きていない能力頼りの弱小妖怪の私にも、理想がある。その理想を形にするまで、私は絶対に死ぬわけにはいかない。あんな、小汚い男ともに邪魔されて堪るものですか。

 けれど無情にも、男達は一歩、また一歩と近づいて来て手を伸ばしてくる。

 その手に捕まれそうになった、次の瞬間だ――男達が一斉に固まった。

 

「……え?」

 

 思わず瞬きを二つして、立とうとして腰が抜けたのか立てなかった。片方の男が「アアアア!? 止め、ギッアヴッ!?」と奇声を上げながら体を抱えて崩れ落ち、立ちながら虚ろな目をしている男が突如として目を剝いて「アーッ!」と叫び、服の丁度股の辺りを濡らして嫌な臭いを出している様子を見て、完全に思考が固まった。

 十数秒後には「ひぃいい……嫌だぁ……」と歯をかちかち鳴らしながら泣いていて、その声を聞いて思考が現実に引き戻された。

 もう一人の様子を見ると片方は死んだように動く気配が無い。けど、時折跳ねて「うぁ……ああ……」と呻き声を上げて涙を流している姿を見て、どうしてかぞっとした。

 

「……どうなってるのよ」

 

 震える声でそう呟くと、男達の体の上に黒い花があるのが目に入った。

 綺麗な花だとは思う。でもこの状況にはあまりに似合わなくて、滑稽を通り越していっそ不気味だった。

 でも、興味を引かれて呻き声を上げる男の背中に乗っていた黒い花に触れる。

 

「――え?」

 

 その直後には今までいた場所とはうって変わって、きっと理性と知性を併せ持った存在なら必ず嫌悪感を抱くような場所に居た。空は鳥肌が立つほど真っ白でその癖雲一つない。

 大地は煌々と輝きながら変色し、思い出したように植物が芽を出してはすぐに枯れてしまっていた。

 でも、声を出してしまった理由はそんな事じゃない。目の前に居る、その存在に、目にした瞬間から恐怖した。能力を使ってスキマを開こうにも、全く発動する兆しも無い。

 鉤爪を両腕に装備した人型のそれ。見た瞬間から湧き上がるように恐怖が募っていく。

 そしてそれは何の突拍子も無く――私の腹に鉤爪を突き立てた。ずぶりと埋まった鋭い爪は赤い血を流させながらねじられていく。

 

「あぎッ――い、やあぁあぐ!!?」

 

 引き裂かれていく痛みと感覚が体中から脂汗と悲鳴を絞り出す。

 意識を失えればいいのだけど、私は妖怪であり、こんな姿をしていても人間に比べれば十分丈夫で、精神力も上々だと自負している。……この時ほど、私が妖怪であることを恨まない日は無いと思うわ。考える事すらままならない……頭の中で、さっきの男があんな様子になった……理由が、……嫌でも分かった。

 …………たす……けて……。

 

 

 

 ……やっべぇ……。どうしよ。ほんとどうしよ。

 両腕で抱えた紫色の着物を着た金髪幼女が辛うじて生きた目をしながら呻き声を上げている。目からは涙が零れて、下は漏らしていた。

 攻撃力皆無であるが故に放置した盗賊らしき二人の男に対して使った幻覚は双方に時間延長(感覚的には、一秒が百秒くらいに感じさせるくらいだ)と、方向性は違う物の気違いじみた幻覚を見せている。片方は男(所謂ノーマルな人)であるならば絶対にゴメンなのを。具体的には青いつなぎを着た……これで察してくれ。

 もう片方は『処刑人マキュラ』に拷問をされる幻覚だ。四肢を端から斬り落としていったり、爪を剥がしたり、目をくり抜いたり、本人に本人の内臓を無理矢理食わせるなど……。

 一つのクロユリの花に触れれば、同時に影響を与えられる事が分かったけど……助けようとした子まで巻き込んで、挙句恐らく妖怪である分、まだ正気を保てているのが尚の事質が悪い。男はもう目が死んでるが、女の子はまだ目が生きている。

 ……ごめんね。本当にごめんね。

 輝夜姫は俺に普通に接してくれたけど(事故とは言え)確実に嫌われる未来が普通に見えた。

 

「ガイア。手頃な洞窟でも無いか、探してくれ。俺も探す」

「――了解」

 

 ……許されないのは分かってるけど、しっかり謝らないとなあ……。――トラウマになってない事を祈るしかない。切実に。

 




 作者はリョナ趣味とか全くないですかんね……絶対。

 矛盾とかあればよろしくです。
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