今年から、就職の事も考え無きゃなあ……LAST・YUTORI世代だし、色々と頑張らなきゃ……。
私――八雲紫には、夢がある。
だけど、その夢の実現には人手と、周囲の実感が足りないのだろう。頭が良いわけでは無い。でも、聡明だった私には、このまま時代が進んで行った先、『
人間というのは、大昔に現れ留まること無く進歩している。妖怪に一方的に貪られるだけだった人間たちは気が付けば武器を持ち始め、今では霊力を使って私たちを
それだけなら、因果応報だ。私とて人を食らったことがないわけでもない。けど、仕方が無いことだと割り切れる。妖怪――人外、というのは総じてそういうものだ。
しかし、その先は? 百、二百、三百――千を越えれば、果たして私たちは『居る』のだろうか?
きっと、千年も経てば私たちは時代に淘汰される。わかってしまったのだ。
ならば、止める術も在る筈だ。最悪――時間稼ぎくらい、出来る筈だ。
そう考えて、八雲の地を飛び出した私は――とある神に言われた。
『小娘。我とて分かる。信仰の糧となる民に、いずれ忘れられる日が来ると。そして、その様な逸脱した願いは己が身を焦がすことになろう。だが、そんな願いも侮れん。
もし実現した暁には、我を酒の席にでも呼んでくれ! 同時に、貴様にこれより『八雲』の姓を名乗ることを許そう! 名は尋ねん。何時か先の未来、酒の席にて聞かせてもらおう!』
ずぼらな外見をしたあの神――たとえ上位の妖怪だったとしても敵わない。頭も周り、嵌められたとはいえ八岐大蛇を殺した神――素戔嗚尊。
妖怪に対する絶対的な殺害者。そんな神に背中を押されたという事実が――この上なく嬉しく感じられた。
「――ちょ、待って、うびゃあ!? 助けてー!?」
今、私は全力で逃げていた。鬼から、全力で。
鬼なのだろう。師匠がそう言っていた。信じたくない。そういうのが本音だ。絶対的にある物が足りなかった。酒の入った瓢箪でも無い。
角だ。角が無いのだ。
しかし、事実として鬼なのだろう。木々をなぎ倒して追跡してくるその様が、身体能力の高さが、唯の妖怪では無いことを実証していた。
左右非対称の大きな頭。大きく見開いた目。師匠とはまた違う青い体。
角を持たない――鬼。
『ウッウウゥウッ……ヴ』
おまけに不気味な呻き声のような声を出すものだから追いかけられると尚怖い。
それに、外見こそあれだが鬼なのだ。身体能力は間違いなく高い。今逃げ切れているのだって、あの鬼が手加減しているからに他ならない。
師匠――霞と名乗ったあの異形に助けられて一ヶ月がたった。私の願い出もあり、結果的に『師匠』という位置に落ち着いた彼だけど。……こう呼ぶのに、大して抵抗が無かった自分が意外だった。
外見とは不相応な内面に驚きを隠せない。それが第一印象だ。
同時に――どんな形であれ、最強の詐欺師というのが私の印象だった。
だって、素の力が弱いのにそれを補う所か『そういう穴を意図的に作っている』としか思えないような存在だ。未だに師匠の幻術――幻覚か、それを抜け出せる気がしない。
おまけに、能力が……なんというか、外道だ。集団戦だったら絶対逃げる。
そんな師匠の傍で過ごすようになって半月がたった頃だった気がする。
「八雲紫。お前には体力が足りない。いや、能力で補うことも可能だろう。しかし、それでも
――だから鍛えることにする。
そんなことを言い始めて、当初は何をするのかと思い、聞かされた内容が『鬼ごっこ』――鬼役に捕まれば、追加で特訓すること。制限時間は朝と夜の二時間ずつ。
まあ、最初の内は余裕だと思っていた。……うん、舐めていた。
まさか、あんなわけ分からない者に追い掛け回されるなんて、思いもしてなかったから……。それも、捕まれば
だから私は必死で逃げる。
「し、しょー! 助けてー!?」
――青色が嫌いになりそうな、今日この頃。
八雲紫――彼女は俺の知る限り、この世界において途轍もなく重要な存在だ。
彼女がいなければ幻想郷は成り立たなかったし、彼女が居たからこそ幻想郷は人外の楽園として存在しえた。
しかし、こうして過ごしてみると、結局の所少女なのだなあーと、実感している俺が居る。
けどまあ、俺の基準がガイアやら晴明やら依姫やらの影響でやや狂ってる影響もあるのかもしれないが、『あ、このままじゃ死ぬな』と何となく分かった。
こないだの盗賊の一件でも確定的に明らかだ。
だから出会って十五日が過ぎた頃、紫に言った。鍛えることにすると。
というわけで、十五日ぶりに新しく幻覚を考える。クロユリは関係無く、周囲も後から目撃した誰かも騙せる、広範囲の物を。
けどまあ、この時点で決めてたんだよねえ。……体力を作るには、逃げ足を鍛えるには。――逃げる事の重要性を知らしめさせる為には?
候補に『旦那』か『追跡者』、あえての『某大きな蜂ポケモン』でもよかったのだけど、それじゃあ親切設計ならぬ心折設計になりかねなかったので、
いや、少しでも愛嬌があった方が旦那の河やら追跡者の頭にぶすり、やらあの大きな針に滅多刺しにされるよりかはマシだと思ったんだよ。
まあ、設定した感じで言えば『追跡対象の近くの影から現れ、二十秒間追跡して消える。捕まえれば捕食』『捕食された者は十分後に目が覚めるような内容の幻覚を見せつけられる』
……正直、やり過ぎかと思った訳でも無いけど、ガイアはもっときつくて構わないと言ったので俺に責任はない!
でまあ、今日で十五日と三日が経ったわけだ。
いやー、思いの外上手く聞いているようだ。問題は偶に俺のこと、化け物を見るような目で見てくるようになったことだけど、まあ良いとしよう。
さて、今俺は紫が鬼ごっこを終えるまで近場の山を登っていた。食料探しの為だ。俺では無く、紫のだ。
流石にくたくたになった後、自分で食い物も探して来いという程外道でもないからねー……。
……はあ。自分勝手にふるまって何戯けたこと言ってんだろ、俺。
結局の所、『自分の知る都合のいい選択肢に強引に針を傾けただけ』じゃないか。それで師匠? ガイアのマスター?
……笑えてくるな。
ガイアはそれでいいと許容してくれても、俺が自分に耐え切れそうもない。
「……そろそろ、か」
紫が今日の分を終えた筈だ。この分なら、もう少しきつくしても大丈夫だろう。
……それに、あれも早く完成させてやらないとなあ……。
私が師匠に負けている――その中で、特に落ち込んでいる部分は二つ。
一つは縫い物だ。正直、なんであんな手で縫い物ができるのか不思議でならない。今だってあの紫色の変てこな服を器用に縫い進めている。私は、その工程を見ているだけでめまいがしてきそうだった。元々考えるより先に体が動く方だったから――それでも家事というか、そういうことは妖怪が言うのもおかしいけど、一人前にできると自負していたのだけど――心がおられそうね。
もう一つは考え方だ。
「八雲紫。お前の能力はスキマを操る――ようは、此処と別の地点を結び、その出入り口を開くことができる能力なのだな」
「はい」
「成程。ならば、それを使った攻撃も容易いわけだ」
「そうですね。妖怪が殴り掛かってくれば、腕だけをスキマに入れてその妖怪自身を自爆させたり」
「そのままスキマを閉じてやって、切断も可能、か」
「……え?」
「……どうした?」
そう言われた時はわけがわからなかったけど、翌々考えてみると確かにそうだ。
空間に干渉する能力。ならば、その出入り口そのものが干渉できないなんて、在りえない。スキマに腕が突っ込まれた状態で閉じてやれば、スキマの内側と外側にあるものが泣き別れするのは、考えてみれば当然だった。
実際、スキマを小さく開いただけでは引っ掛かって入れずじまい、なんてこと昔はよくやった。
「くやしいなあ……」
でも、師匠の下で長居する訳にもいかない。
あと半年。それが私が私に科した目標で、制限時間だ。
「八雲紫。夕食が出来たぞ」
……でも、本当にどうやってあの姿で料理をしているんだろう。
ふと思いついた。
『東方我流羅』
『純愛とは何か』
……俺は何をしたいんだ……。