東方幻眼魔~あるモンスターになって東方に~   作:眼鏡花

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いつかの感想にあった『この作品のヒロインはサクリファイスです』という発言をタグに入れようか迷う今日この頃。

そして誤字が幾つもある……投稿してはやめに気が付いてよかった。


挨拶

 あれから三ヶ月が経過した。早いなー。……まあ、密度が濃かった分仕方ないと言えば仕方ないか?

 それに、あれ以来鬼役を青鬼から三日おきに変更したというのも大きいかもしれない。第一回の変更でトラウマ克服というか、苦手意識をどうにかさせるための何時かの処刑人を使ったりした。一番いいのはそのまま克服してくれることだ。

 第二回の変更で、時間帯を夜の一回だけに絞り、鬼役に右腕を改造した短剣投擲を得意とする義理堅い暗殺者を作った。……あれ、もしかしたら居るかもしれないな、あのジャスティスハサンさん。右手に捕まったら心臓を握りつぶされます。呪い的に。

 ……どういう感覚かわかんなかったから、それっぽくやってみたら『何でもしますから、なんでもしますからあぁ……』と紫に泣き付かれたのだけど、今回ばかりは心を鬼にして『そうゆう事態になるかもしれないから、今の内に可能性の一つとして頭の片隅に入れておけ』って風に言ったら燃え尽きてしまった。

 うん、ガイアも一度は紫をたしなめたんだけど、身をもって体験。その後『あれは体験するべきではない』と絶賛(というより本気でどん引き)していた。

 

「……」

 

 針を手放し、布を切るときにもこっそり使った退魔の鋏で糸を切り、針ごと収納。最後にコルセットにひもを通す。

 しっかし、本当に早い。実際彼女に師匠なんか呼ばれてるけど、教えられそうなことなんてあの能力を持っていない俺からすればたかが知れているし、何より本人が使いこなせるようになるべきだよ。……たぶん、泣けるなら一日泣きとおしている。それ位、今の俺は穏やかじゃない。

 俺の予定的には、今日までなのだ。目的も何もあった物では無いけど、このままでは何かしらの影響を残すかもしれない。例えば、『幻想郷』という土地を紫が見つけるのが遅くなるかもしれない。出会っていた筈の誰かと出会わなくなったかもしれない。そう考えると怖気がした。

 と、いうわけで今日をもって師匠は終わりで、明日からまた『霞』として生きていく。

 出会いと別れというのは結局の所、世界がうつろうのと、生き物が息をするのと、等しく自然なことでしかないのだからさ。

 

 そんな馬鹿みたいな言葉は、この三ヶ月……紫に愛着というか、何だろうなー……父性? そんな感情を抱いた辺りで自分に言い聞かせているモノだ。

 いやあ、悲しいねえ。悲しいよ。

 でも、同時に潮時でもあんだよこれ。

 簡単に言って、ばれた。俺と紫が潜伏しているこの辺り、実は都からそう離れている訳でも無いらしく、何か、陰陽師をみかけるようになった。現に、俺は今一人『吸収』している。あの馬鹿狐……晴明には当然劣るけど、まあ、藁人形兼的くらいにはなってもらおう。

 それに、お別れの時くらい『師匠らしく』したいしさ。

 

「紫」

「は、はい!」

 

 いい返事だ。口に出さなくてもそう思ってしまう辺り末期なのかもしれないなー、俺……。

 どうでもいいけど、この呼び方は彼女に進められた。『いちいち姓も名も一緒に読み上げたら面倒ですから、気兼ねなく紫とでも呼んでください』と言われたので、そうしている。

 

「今、お前に言っておくべきことがある。心して聞け」

「はい!」

 

 ……うん、間違っても俺は自分より十歳以上(肉体的には不明だけど、精神的には四十以上)年下の女の子を軍隊のように返事をさせる趣味なんてない。まあ、あんな(リアル)鬼ごっこしてたら嫌でもそうなるか……。さて。

 何処まで、偉ぶったふりを出来るかなーっと。

 

 

 

 拝啓、素戔嗚尊様。

 私、八雲紫は泣きそうです。というか、師匠と呼びそれなりに慕っている目の人? が色んな意味で怖くて緊張しています。

 というか、今までの鍛練的に私よく折れなかったな、と。自画自賛にはなるけど思わざるを得ない。

 あの奇怪な青い鬼もそう。私を精神的に殺しかけたあの化け物もそう。右腕が異様に長かった骨の仮面もそう。

 特に、最後は駄目。絶対駄目。何が駄目とかじゃない。あんな体験、感覚を味わっていいのは、せめて死ぬ間際だけだ。

 

「まず、これを渡しておく。それは襤褸切れ同然だ」

「……え」

 

 ……だから、こういう風に何かものを渡されるというのは、凄く印象的だったりした。

 師匠が私に渡してきたのは、私が勝手に弄った着流しと似ているけど、作りが全く違う。お腹のあたりに、ずり落ちないようにする為であろう部分があって、外側に、こう、ゆらゆらした可愛らしい布がいっぱいつけられている。

 そして、ドレスからひしひしと感じる神力と霊力と魔力――魔力に関しては、数日ほど前に師匠から説明があった。曰く『根底が違っても結果だけを見れば同一に至る力』だそうだ。

 しかも、この紫色……。師匠がずっと縫っていた……。

 

「い、いいんですか?」

「本来なら、一月前に渡していた方がよかった」

「……え」

「師匠として、最初で最後の餞別だ。大きいかもしれんが、勝手に大きさを合せるように魔法を掛けてある。着るときは腹の紐を緩めて上から被るように着ろ。防具としての側面も持たせた。攻撃されそうになった際は布そのものが結界である為攻撃を通さず、更に言えば汚れない。一応、まだいくつか――――」

「し、師匠、どうしたのですか。様子が、おかしいというか」

 

 師匠は基本多弁では無い。それどころか、事務的に伝え終わればそれで基本的に関わってこないような内面を持っていた筈だ。

 それなのに、まくし立てるようにつらつらつらつらと言葉を並べる師匠に、絶句した。私の前だけだったのかもしれないけど、何だろう。寡黙な人が壊れたように口を開く様子を見て、なんというか、一瞬頭がついて行かなかった。

 

「否定。そんなことは無い。現に、俺は――」

「此処だけの話、師匠は嘘が苦手ですよね」

「否定。そんなことは――」

「だって、そうじゃ無かったらその眼を私に合せて下さいよ。『人は嘘を吐くとき無意識に眼を左下に逸らす。基本的に人外であってもそれは同じことだ』って、言ったのは紛れもなく師匠ですよ」

「……」

「……」

 

 おかしい。具合でも悪いのだろうか。何というか、本当に師匠らしくもない。

 私の視感だけど師匠は、柔らかい発想や、冷静に相手を陥れるのが大変得意だと私は思っている。スキマの活用法だってそう。幻術の中に幻術を仕込んで、更に幻術を仕込むなんて二十重三十重のえげつない手口だってそう。

 だから、こんな風に凝り固まったような定型文を使う師匠に極めて――いっては酷いけど気持ち悪さを感じた。

 

「……」

「……」

「肯定。その通りだ。……俺は、お前から離れようとした」

「……どうして、ですか」

 

 分からなかった。何だかんだ言って、優しい存在である師匠が、どうして此処まで嘘を吐こうとしたのか。

 

「一つ。八雲紫は既に俺に師事する理由が消失している」

「――は?」

 

 分からなかった。言っている意味が、これっぽっちも理解できそうもない。いや、したくない。

 

「二つ。真に馬鹿馬鹿しいことに、俺は紫に父性に似た感情を抱いた」

「……」

 

 それは私も似たようなことを言える。師匠を間違って『父さん』と呼ぼうとしたことも何度かあった。でも、何でそれが離れる理由になるのだろう。

 

「三つ。都の人間たちに、俺達が此処に潜伏しているらしいことが、明るみに出た」

「――っ。師匠まさか貴方――」

 

 合点がいった。まさか、とは自分の口から出たけど、真実その通りなのだろう。

 おとりだ。でも、私は能力を使って何時でも逃げようと思えば逃げられる。何で……。

 

「紫。お前、いまスキマを使って『どれだけの距離を、どれだけの時間を空けて、何度移動できる』?」

「……それ、は……」

 

 ……私も見落としていた。私は未だに能力を扱いこなせていない。精々、山の端から端までは移動できるだろう。だけど、三十分に一回でそれだ。陰陽師から逃げ切れるかもしれないが、人間には数の力がある。

 だから、こういう風に師匠は言った?

 

 ――悔しかった。嬉しかった。師匠に気を使われて、どちらの感情も等しく抱いた。

 

「でも、そしたら師匠が――」

「肯定。だが、紫――忘れたとは言わせない」

 

 何をですか、と言おうとして。

 師匠の眼に、嬉々とした少年のような笑みを幻視した。

 

「俺の本領は、確かに魔法だ。嘘の形だ。しかし、戦えぬわけでもない。一対多数の戦闘は、最高の戦果を出すための行為に他ならない」

 




 次回、サクリファイスによるマジキチ? 外道無双回を予定しております。
 開闢さんも闘うよ! 本当だよ!(ゲス顔)
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