東方幻眼魔~あるモンスターになって東方に~   作:眼鏡花

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 …あっれ? おかしいな。
 今回全面ほのぼので押し切るつもりだったのに、なんか、中盤からシリアスになった?
 まあ、作者の力量がアレなので、読者の方にはそうは映らないと思ますが…。
 では、どうぞ。


宣戦布告の手紙

 あせったああああああ……。

 

 こういう時に人の体だったら能力持ちであっても、俺は今頃ここに居ないだろーなーと、今のこの体に深く感謝した。

 

 …まあ、ルーミアに食われる前に吸収(捕食)したのはいい物の、今の所はそれでどうなると言いたい。

 確かに強くなれるだろう―――それは、虚勢で虚栄な借物の力。

 虚栄の力で見栄を張れるほど、俺は高慢なつもりは(いや、こう思ってる時点でそうか)無い。利用できそうだからさせてもらってる、という表現がしっくりくる。

 …死んだら絶対地獄行きだなー、こりゃ。老衰は無いだろうけど。

 それに、彼女の力を使えるようになったとしても、彼女のように何かを食べられる様になる訳じゃ無い。

 

「…止めだ。こんな事を考える暇が在るなら、もっと有意義な事を考えるべきだ」

 

 昨日彼女達から逃げる形になってしまった訳だし、日が昇ったら謝罪も兼ねて顔を出しに行こう。

 それより前は何をしようか…。

 あ、そうだ。

 ルーミアの能力の使い方の確認と、何処まで力を得たかの確認をして置かないと。

 

 

 

 朝早く。早朝と辛うじて呼べる程の朝早く。

 異国の異形の賞金首の去った雑木林での事だ。

 都で話題の姫に求婚を申し込み、結果として断られたとある陰陽師が、心改め都で話題の常闇妖怪を倒そうと意気込んで踏み入った所、ある衝撃的な物を見た。

 

「―――馬鹿な」

 

 それは、木だ。但し、普通の木と言うにはいかない程大きく、強固な幹を持ち合せている事で陰陽師の間では神木ではないかとも、妖木ではないかとも囁かれている、木。

 但し、この陰陽師が驚いたのは木に圧巻されたからでは無い。木に付けられた―――否、深々と刻み込まれた爪痕のような傷に、圧巻されたのだ。

 この陰陽師とかつて対峙し、今ではそれなりの(と言っても出会いがしらにもれなく軽度の殺し合い…という名目の力比べが発生する)友人関係も持つに至った、季節ごとに咲き誇る花畑を転々と移住し、草木、花を我が子のように育み愛で、機嫌が良い時には余程の無礼を働かない人間であれば人里に送ってやり、機嫌が悪ければ敵と認識できないものにはぼろ雑巾のようになるまで責苦を与え、敵と認めた者には一切の容赦も無く潰す。

 故に恐れられ、故に本当にごく一部の人間からはそれなりに慕われる女妖怪―――風見幽香でも「あの()に傷を付けるのは…絶対にしないけど骨が折れるわ。言いたくないけど、あの()は少し異常よ?」と呟きを漏らしたほどだ。

 

 風見幽香は、肉弾戦を好む傾向にある。

 同時に、その一撃は人間を死に至らしめるには十二分に御釣りがくるほどの力を持つ。

 更には、この時代からすれば珍妙な形状をした雨具の先から放たれる妖力の光線は、対等の力を持つ―――例えば、この陰陽師のような―――者であっても恐れる破壊力を持つのだ。

 そんな、破壊を実行するにはあまりある力を持ち、本人の時折現れる本性というか、性癖のようなものも相まってそれが厄介なのだと、陰陽師は逸れた思考を元に戻す。

 つまり、何をこの陰陽師が言いたいのかと言えば。

 

「あの風見に届き得る力を持った『何か』が…都の近辺に存在している…く、くくく――――くっはっはっはっはっは!! 何と愉快な!」

 

 その時、陰陽師―――安倍晴明の顔には、清々しい、新しい玩具を見つけた子供のような、無邪気な、それでいて心の底から闘争を望む笑みが、浮かび上がっていた。

 

 

 

 …ゾクッ…。

 

 あれ、今何か途轍もない悪寒が…気のせい…だよな?

 お、悪寒はともかく。

 少し手を加えた隠蔽用の魔法を自らに掛け、魔力の僅かな漏洩すらなくなったから、これで殆ど―――というよりは絶対に見つかる事は無い筈だ。

 まあ、見えて無いだけで攻撃とかは十分に当たるんだけど。

 俺があの雑木林で何をやっていたのかというと―――まあ、分かりきってる事だと思うけど、『今の俺に』出来る事の確認だ。

 まず、ルーミアを吸収したからルーミアの出来る事…彼女の『闇を操る程度の能力』が使える事。これは、一切の光を通さない魔法の闇を作り出し、操る能力…これ、応用すれば俺でも似た様な事を出来そうなので、考えておこう。

 次に、戦闘能力。これは、今までの戦闘経験と、妖力、身体能力の総計と考えて良い。

 さて。

 俺の能力の一つに『吸収したものの力を再現する程度の能力』というものが在る。

 この『再現できる力』というのは、妖力はともかく、戦闘経験と膂力は再現できるのだ。

 では、膂力だが…腕力はともかく、俺の場合、再現される脚力は何処に行くのだろう?

 これは、どういう訳だか俺も分かって無いんだけど、腕力として上乗せで換算されるらしい。…M字開脚して手を足の甲に乗せて、でかい独楽の上にでものっかてるのかと最初は思ったけど、考えるのも面倒臭くなってすぐに考えるのを放棄した。

 考えといてあれだけど、すげえ気持ち悪かったし。

 まあ、それはさておきだ。

 本音としては。

 ―――いやー、妖怪であることを知らなきゃ小さい女の子にしか見えないとか、完全に舐めてた。

 腕力だけでは無く、腕の三倍の力は在るとされる脚の力も加わってる。

 近場にあったでかい木に半分くらい本気で腕を振るって見た所、深く傷跡が残るだけで木自体が倒れなかったのが心残りと言えば心残りになる。

 

 え? アニメ版のサクリファイスは目からビーム出してたぞって?

 いや、出せるさ? 『そう言えばアニメだと結局腕で攻撃したとこ見た事無いなー、結構使えそうなのに』なんて考えだしたからでもあるけど、純粋に戦闘の際の手札を増やしたかっただけだ。

 

 さて、そんなわけで俺は姿を消して飛行しながら都―――の、昨日俺が行った、即ち輝夜が居る屋敷を探してる訳なんだけど…意外と見つからない。

 昨日の夜の俺はどれだけ運がよかったのやら…。

 

 等と考えていると、昨日見た人物らが見下ろせた。あの長い黒髪と、同じく長い銀髪は、見間違える訳が無い。

 

「………そうだ」

 

 悪戯心が湧いた俺は、こっそり近づいて驚かせようと考えた。

 徐々に高度を落として、庭の地面すれすれに飛行する。それで驚かすタイミングを見測ろうとして―――まあ、すぐにやめた。

 何故なら。

 

「姫様―――いえ、輝夜。短い間でしたが、貴女に使える事の出来た日々は本当に幸せでした」

「嫌…嫌…嫌だ、永琳! 何で…何で貴女が!」

「…何があった?」

 

 こんな人々が目を覚ましていないような朝早くから、従者が主に土下座をし、主は従者に説得? をしていたのだから。

 

 

 

 何も無き場所から、昨日聞いた、そしていきなり逃げるように姿を隠してしまった彼の声が聞こえた。

 思わず霊力を放ってしまいそうになったけど、頑張って抑え込む。

 でも、今度は一切の力も見受けられなかったし、まるでそこだけ―――奇妙な表現になるけど、見えない霞が掛かっているような錯覚を私に与えた。

 

「貴方、昨日はどうしたのかしら?」

「すまない。少しばかり自身の事で混乱していた。今はもう大丈夫だ」

「そう。なら良いわ。まあ、掘り下げた話は後で聞かせてもらうわよ?」

「…了解した。そして、何があった?」

「………」

 

 彼の話題に、私は思わず唇を噛んだ―――噛み締めた。

 千切れんばかりに。口の中には鉄の味が充満するほど、強く、強く、強く。

 永琳の方を見ても、彼女は正座をしたまま下に視線をやって俯いていた。

 

「言いたくなければ言わなくとも構わない。だが、俺に出来る事が在るのなら言ってほしい。可能な限り、とは言い切れん。が、最低限力になろう」

 

 その言葉に、私の心は少なかれ軽くはなった。でも、同時に彼を巻き込んでも問題無いだろうかという自問が到来する。

 …いや、従者(永琳)の危機に、行動を起こさない()が居るか。

―――居て、堪るものか!

 

「―――昨日の夜の事よ。貴方が帰ってすぐの事、放心していた私達に空から手紙が降ってきたの」

「手紙?」

「姫さ―――」

「手紙には、こう書かれていたわ。『八意永琳を明日の夜、月から迎えに参ります』とね」

 

 永琳が言いかけた言葉を私は途中で遮り、黙殺する。

 そう言えば、彼にはまだ私達が元々月の住人であった事を話して無かった事を思い出し、少し後悔した。

 別に彼になら話しても構わないと思っていたりもする。惚れた…というのは絶対ない。でも、翌々見ていると、何となく構ってやりたいと思っていたりするのかもしれない。外見で判断しちゃうようだけど、本当は『色々と怖がり』だと分かったから。

 

「…確認だ。それはつまり、貴女らが月の住民であるという事か?」

「…ええ、そうよ。そこで私は月の賢者とも呼ばれていたわ。そして、月の上層部は私が居なくなったことを焦ったのでしょうね。…こうして手紙を送っているのは言外に逃げきれないと脅しているのかしらね」

 

 弱弱しく、自嘲するように告げる彼に永琳。

 月でもそうだったけれども、此処まで弱弱しくなった永琳を見たのは二度目だ。でも、今回は前回よりも質が悪い。

 ―――本当は使いたくないけど、いざと為ったら私の能力を使って…。

 

「把握。ならば、俺が為すべき結果は一つ。月の住民である貴女らが、都から離れるまで月からの追手を引き受ければ、何ら問題あるまい」

「あ、あのねえ…それが出来ないから、今こうなって―――」

「出来る。断言しよう、今の俺であるならば、貴女らを月の追手から逃がすのは可能だ。忘れたか。先程俺が貴女らに声を掛けた際、全く気づきもしなかった事実を。それを使えばいい。それだけの話だ…だが、問題がある」

 

 

 

 言葉を切った目の前の異形は、私を月の追手から逃がせると断言したけど、私の中では不可能だと、結論が出ていた。

 月の技術は地上の幾倍も進んでおり、地上の兵器など役立ちもしない。それは、生き物でも例外ではないと、思っていた。

 けど、異形、いえ―――この表し方は不適切ね。失礼でもあるし―――彼の語った事も尤もだ。私は、彼が声を掛けてくるまで、昨晩感じた謎の力も、気配も、一切感じなかった。

 

「その、問題って言うのは?」

「俺のあれは、戦闘も考慮するならば一人分が限界であるという事。これは俺がある物をどちらかに渡す。肌身離さず持っていてくれ。そして―――蓬莱山輝夜。並びに八意永琳。貴女らがこの都から去らねばならなくなる事」

「……っ」

 

 姫様の問いに答えた彼の言葉は、姫様の次の言葉を詰まらせるには十分だった。

 私も陰ながら過ごしてきたからこそ、解る。姫様の気持ちが。

 その気持ちを殺してまで私を優先すべきでないとも、私の中では既に結論づいていた。

 なのに。

 

「…あーあ…結局、それしか無いわね」

「…姫様、これは私の問題です。私が地上を去れば貴女は―――」

「そうかもしれないけど、永琳。貴女はあの日の約束を違えるの? それに、ある意味丁度良かったわ」

「え―――」

 

 なんで。

 

「私の『命』の事、忘れたとは言わせないわよ?」

 

 貴女は。

 

「そういう意味では、潮時よ」

 

 そんなに。

 

「…そりゃあ、悲しくないって言えば嘘になる」

 

 今にも。

 

「でも、私は謝ってくれた貴女を助けたい」

 

 泣き出しそうな顔を堪えて。

 

「お爺さんとお婆さん。あと、帝にもちゃんと事情を伝えて、私も一緒に逃げる」

 

 どうして。

 

「ああ、もう。そんな顔しない! 折角綺麗な顔しているのに台無しよ? 永琳。…まあ、そうね。強いて言うなら―――」

 

 私を。

 

「―――従者を見捨てる主は居ないって事よ」

 

 私として見てくれるのですか?

 




 ちょっとした永琳の心情を最後にやってみた…天才の考えてる事は、凡人の理解の範疇を超えますたい…。
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