迷宮掃除屋   作:query

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第二話

 リディアを伴い、十二層を探索する。かれこれ一時間半は歩いているが、出くわすのはゴブリンを始めとする低級な魔物ばかりで、彼女の友人の影も形も見つけられてはいなかった。

 一層から十九層までは、時折広間がある程度で、基本的には単調な回廊が続く。通路を曲がってすぐに敵と遭遇することもよくあるので、俺が索敵しつつ前を歩き、リディアは後ろから付いてこさせた。

 普段から潜る階層ではないためか、俺という同行者がいるとはいえ、リディアは気を張りすぎて消耗している。興奮やら義務感やらではじめは元気だったのだが、今はさすがに肩で息をしていた。

「ちょっと休憩にするか?」

「いえ、まだ行けます」

 気丈に返してくるが、精神的にも肉体的にも疲弊しているのが目に見えるので、無理はさせられない。

「十分だけ休もう。いざってときに力を発揮できないんじゃ困るからな」

 周囲の気配を探り、安全を確認してから地面に座る。腰のポーチからヒールポーションの入った瓶を取り出し、渋々傍らに腰を下ろしたリディアへ差し出した。

「飲め。疲労が少しはとれる」

「ありがとうございます……」

 リディアは顔を顰めながら中身を飲み干し、ふうと息を吐いた。

 俺ももう一つポーションを取り出して口に含み、嚥下する。過度の甘さで苦味を誤魔化している粗製品固有の味は、いつまで経っても慣れないものだ。

「先輩」

「ヤヒトでいい」

「ヤヒトさんは、十二層のマッピングは済んでるんですか?」

「ああ、バイトで支給されるからな」

 マップを記録させた記憶結晶を見せて答えた。

 掃除屋(スカベンジャー)は政府直轄の組織のため、バイトの俺にも、仕事で必要な範囲のマップは支給されている。尤も、迷宮は一月ごとに様相を変えるため、翌月には役立たずになってしまうのだが……。

「バイトって」

「掃除屋(スカベンジャー)だよ。俺は死体を収容する人間の護衛で飯を食ってる」

 大抵の人間に告げたときと同様、リディアもまた表情を曇らせた。エルのような特例を除いて、わざわざ関わりたいと思う人間の方が少ない職業だから無理もない。

「他の上級生みたいにギルドに所属して迷宮を攻略したりは」

「しない。そういうの、あんまり興味がないからな。お前こそ、どこかに所属してないのか?」

 俺の問いにリディアは顔を曇らせた。

 ギルド、というのは学園の生徒達が集まって作る迷宮攻略のための組織のことだ。魔物の情報やマップの共有等、入っておくだけで便利なことがたくさんある。新入生ともなれば、はじめのギルド選びが非常に肝心で、この選択が探索者として順風満帆なスタートを切れるかどうかを左右すると言っても過言ではない。

「私はその、入学直後の授業で怪我して出遅れちゃって、ちょうど勧誘期間を逃しちゃったんです……。いったん静まってしまうと、入れてくださいって言い難くて……」

 どこも有望な新入生を確保しようと例年躍起になってる印象しかなかったが、そういうこともあるのか。命が懸かっているのだから、体裁なぞ気にするべきじゃないと思うが、端から興味のなかった俺にはわからない何かがあるのかもしれない。

 学園は優秀な探索者を養成するための機関だから、落ちこぼれた者には厳しい。半年ごとに到達階層の目標が定められており、達成できなければすぐに放逐されてしまう。

 そんな厳しい学生生活を耐え抜き、学園を無事卒業できれば、その後の人生はある程度保障されると言っても過言ではない。プロの探索者になったり、研究機関に所属したりと進路は様々だが、世間一般の基準では十分幸せと言えるだろう。

 だが、一度落伍者になってしまえば、先行きは暗いものだ。街角に座り込み施しを受ける乞食の中には、元学園の生徒だった人間がいる。

 俺とて今は探索者として開店休業状態だが、一応今期の目標を達成済みだからであって、決してサボっていても何とかなるようなものではないのだ。

「アイリスは、一人で途方に暮れてる私に声をかけてくれた娘だったんです。迷宮のこととか学園のこととか色々教えてくれました。初めての探索にも付き合ってくれて、一緒にいるとそれだけで楽しくて……」

 楽しかった日々を思い返すように、友人との思い出を語っていく。

 俺に聴かせるというよりは、自分が噛み締めるための独り言だ。それがわかっているから、俺は時折頷くのみで、言葉を返すことはしないでおく。

 学園は探索者を養成する機関である以上、死人は後を絶たない。気が付いたら同級生が半分切っているなんてざらにあり、親しい人間が死ぬこともしばしばだ。そういう生活に耐えられず、自ら学園を去るものも決して少なくはない。

「だけど私、あの娘にまだ何にも返せてないんです……!」

 話していく中で感情が昂ぶってしまったのか、リディアは涙を流しながら訴える。

 それを聞いても、他人である俺にはただ「可哀想だな」と安っぽい同情を向けることしかできない。これはそれくらいありふれた悲劇だ。

 それきりリディアは黙り込んでしまい、気まずい沈黙の中、束の間の休憩時間は過ぎていった。

 

 *

 

 捜索を再開してから少し後、長めの直線を歩いているとき、通路の壁に通常ではあり得ない亀裂を見つけた。罅の入った壁の先には、無理矢理叩き壊したような穴が空いており、その奥から人と魔物の気配がする。

「近いな」

 ようやく当たりと思しき気配を感じ取った。

 背後でリディアが唾を飲み込んだ。

「オークの巣だ。人の気配もある」

「じゃあここが」

「ああ、お前の友人がいるところだろう。いいか、まず俺が突っ込むから――っておい!」

 俺が簡単な作戦を伝え終わるのを待たず、リディアが駆け出す。もはや気が気でないのだろう。

「ったく」

 舌打ち一つして俺も走り出した。

 先に穴の中に消えたリディアを追って飛び込んだ先には、広い空間があり、無数のオーク達がいた。

 オークの巣は、迷宮の他の広間とは違って、岩をくり貫いたような空間だった。ごつごつした壁に覆われた巣は、獣臭い匂いに包まれている。

「アイリス!」

 リディアが友人の名を呼ぶが、返事は返ってこない。人がいるのは間違いないが、大量のオークの陰に隠れてしまって、姿は見えなかった。

 突然の侵入者に、オーク達は動きを止め、こちらをねめつけてくる。威圧されたのか、リディアは短い悲鳴を漏らして硬直した。

「リディア、お前は下がって自分の身だけ守ってろ。俺が片付ける」

 改めて作戦を伝えた後、即座に抜刀し、近くのオークの首を撥ねた。勢いよく血が噴出し、辺りを紅く染め上げる。

 仲間の血を見て興奮したオーク達は吼え、俺の方へと殺到してくる。

 勢いよく振り下ろされる棍棒を避けつつ、カウンターの一撃を加える。返す刀で身体を斜めに両断し、こちらへ倒れてくる死体を蹴り飛ばした。

 走り寄ってくる一体の頭部へ脇差を投げつけ、刺さったのを確認せず横薙ぎに太刀を振るえば、数体を巻き込んでどうと倒れる。

 もはや流れ作業に等しい。受けようとした棍棒ごとオークを唐竹割りにしながら、数の減ったオークの影に、壁際で蹲る人間の姿を確認した。

 予想通りといえば予想通りだが、酷い有様だ。早めに片を付けよう。そう決めて、刀を振るう速度を増す。

 オークは鎧の代わりに厚い脂肪に覆われているため、打撃の通りが悪いとされている。反対に、斬撃は脂肪ごと斬り殺せる腕さえあれば、非常に有効だ。それゆえ、俺にとっては数の差が問題にならない程度には相性がいい。

 短い間にすべてのオークを処理し終え、死体の山を前に刀を拭いていると、リディアが友人のもとへ駆け寄って行った。

 小柄な彼女の友人は、こうなる前はさぞや愛らしい少女だったのだろうが、今となっては虚空を見つめ、何かをぼそぼそと呟くばかり。

 身に着けていたであろう衣服はずたずたにされ、ほぼ全裸だ。手足はあらぬ方向へ捻じ曲がり、あれでは立つこともできないだろう。

 今となっては濃厚な血の匂いに隠れ気味になっているが鼻をつく不快な匂いから考えても、オークに身体を弄ばれたのは明白だった。

 二人の傍へ寄ると、アイリスの肌は青黒く腫上がってしまっており、目立つところ以外にも酷く痛めつけられたのがわかった。

 先ほどまで懸命に声をかけ続けていたリディアが俺に言う。

「ヤヒトさん! ポーションを!」

 だが。

 そんなリディアには答えず、あえて俺はアイリスに問うた。

「どうしてほしい?」

 少しの沈黙の後、

「殺して、ください……」

 視線の定まらないまま、呟くように漏らした。

「わかった」

 そう言って俺が鯉口を切ると、リディアがしゃにむに齧り付いてくる。

「止めてください! アイリスはまだ生きてるんですよ!?」

「いや、誰が見たってそれはもう死んでる」

「ッ!」

「ただ呼吸するだけの肉を生きてるとは言わないだろ。連れ帰ったって、一生を病院で過ごすことになるぞ。それは幸せなことか?」

 俺の問い掛けに返事はない。

 理解できないものを見るような目で、リディアは俺を見た。

 俺との間に自分の身体を割り込ませた後、しゃがみ込んで目線を合わせる。

「アイリス、大丈夫だよ。今は混乱してるだけだよ。だから一緒に帰って、ゆっくり休めばすぐに良くなる。そしたらまた一緒に学校へ行こう。ね?」

「……」

 リディアが必死に声を掛けるが、まともな反応はなく、声が届いている様子もない。

 脅えるように身体を震わせ、頭を抱えたまま言葉にならない声を漏らすばかりだ。

 やはり死んでいる。

 再び刀に手を掛けようとした俺の腕をリディアが掴む。

「……お願い、します。彼女を殺さないでください……」

「悪いが断る」

 リディアと俺では力の差は歴然だ。彼女が組み付いたところで、俺を止められはしない。

 リディアを払いのけ、アイリスに斬り付けようとしたそのとき、微かな風切り音と共に飛刀が跳んできて、俺の目の前に突き刺さった。

「ッ」

 広間の入り口にはいつの間にか5人の人間が立っている。

 リディアが息を呑み、俺は厄介な事になったと悟った。

 五人のうちの一人、銀髪で眼鏡を掛けた男が俺に話しかけてくる。

「人殺しは感心しないよ、ヤヒト・アキヅキ」

「マーヴィン・ケルコフ……。クソ生徒会長様と生徒会のお歴々がこんなところに何の用だ?」

「人助けだよ。一足遅かったようだがね。そこのお嬢さんには申し訳ないことをした」

 沈痛そうな面持ちでケルコフは言う。他のメンバも悲痛そうに顔を歪めた。腹立たしいことこの上ないが、役者としては上出来だ。

「出遅れたんなら、大人しく引っ込んでてくれないか? 迷宮(ここ)じゃ、最初に見つけた人間に権利があるだろ」

「それはできないな。何度でも言うが、君の人殺しを看過することは有り得ない」

「死にたいって言ってるのに生かそうだなんてのは、無事な側にいる人間のエゴだ。本当にそれのためを思うなら、望みどおりにしてやった方がいい」

「それこそ君のエゴだろ。彼女は不幸な目に遭って、冷静な判断ができなくなっているだけだ。そんな状態の人間が言うことを真に受けて首を撥ねようだなんて、とても正気の人間がすることとは思えない。そっちの娘の方が言っていることの方がよっぽど理に適っているじゃないか。だいたい――」

 一拍おく。

「そこの彼女がそんな風になったのも、間接的には君のせいなんじゃないか?」

 リディアが目を見開く。

「どういう、ことですか」

「僕達に彼の職場の人間から連絡があったんだよ。『全滅したパーティの遺体を回収した。死体が一つ足りないから、おそらく連れ去られたと思われる。そっちで探してやってくれ』ってね。君もその場にいたんだろ?」

「……ああ」

 勝ち誇ったように、ケルコフは言った。

「人並みの良心があるなら、すぐに探しに行こうとは思わなかったのかい?」

「人並みの良心しかないから、無駄なことはしないんだ」

 冷めた目でケルコフを見返す。

 リディアがぎりと歯を噛み締めた。

「ヤヒトさん! 私のことは助けてくれたじゃないですか! なのになんでアイリスは……」

「お前はまだ生きてるだろ。あれはあの時点で死んでるも同然だった。死人に貸す手はないが、生きてる奴が死のうとしてるなら、話は別だ」

「そんな……酷いですよ……。もっと早く助けていればアイリスだって……!」

 涙声でリディアに訴えかけられるが、今更宗旨替えするつもりもないので、返す言葉はない。

 このままやり取りをしていても、話は平行線だろう。時間の無駄だ。

「もういいか。放っておいたらさすがに可哀想だから、さっさと斬っちまいたいんだが」

「人殺しは重罪だよ。僕がやらせると思うかい?」

 ケルコフが再び飛刀を構えると共に、他の四人も臨戦態勢になる。

 生徒会の人間と直接事を構えた経験はないが、実力者揃いなのは聞き及んでいた。人数的にもかなり分が悪い。だが。

「邪魔があろうとなかろうと関係ないね。やりたいようにやるだけだ」

 俺と奴等の立ち位置を考えれば、俺の斬撃が首を切り落とす方が速い。斬ってる間に攻撃をもらうかもしれないが、目的の達成は揺るがない。

 問題は――俺の前に立ち塞がるリディアだ。

 蒼白な顔で震えながら両手を広げてアイリスを庇っている。歯の根が合わず、かちかちと小刻みな音まで鳴っていた。

「こいつのためを思うならどけ」

「どきません」

 震えてはいるが、強い意志の篭った声だ。

「お前ごと斬るくらいわけないんだぞ?」

「それでもどきません」

 こいつごと斬るのは宣言通りわけないが、進んでやりたいことではない。

 こう着状態が生まれたことに気づき俺は呻いた。

「あのな、この有様を見て、それでもまだ生きてた方が良いって言うのか?」

「アイリスにとってどうかはわかりません。でも、私は彼女に生きてて欲しいです」

「身体は治せるが、心は簡単には癒せない。探索者としてやってくのは難しいぞ?」

「別の道を一緒に探します。私が絶対に見つけます」

「ただの同級生だろう。何でそこまでする?」

「彼女が私の孤独を救ってくれたから。

 エゴでも何でも良いんです。

 始めはつらいことばかりかもしれないけど、最後は絶対に生きててよかったって思わせて見せます! だから!」

 あまりに必死な様子に、思わず溜め息がこぼれる。

 ここまで想われているのならば、彼女にももう一度訊いておいた方が良いだろう。

「だ、そうだが。お前はどうしたんだ?」

 迷うような表情を浮かべる。先ほどと変わらず、アイリスの瞳に力はない。だが、そこにあったはずの諦念はなくなっていた。

 そして。

「……ごめんなさい。やっぱり私、死にたくない……です」

 と予想通りな言葉が返ってきた。

 リディアがアイリスの名前を叫んで抱きつき、二人は声を上げて泣く。

 感動的な場面の最中にあって、もはや完全に俺は悪者だ。

「本人が生きたいと言ってるのだから、斬るのはお預けだな?」

 ケルコフが鼻に付く調子で勝利宣言をしてくる。

「うるせえ」

 俺とて死にたくないと言っている人間を斬りたいとは思わない。

 斬っていいのは人以外だ。ここにはもう人以外いない。

 こうなってしまえば、俺のような者は用済みだろう。治療の足しにと、残りのヒールポーションをすべてリディアの脇に置き、その場を離れた。

 巣の入り口でケルコフたちとすれ違い様、後を頼んで帰路に着く。

 マップを確認しながら帰りのルートを模索していると、

「ヤヒトさん!」

 リディアの声が後ろから追いかけてくる。

「あの娘を見捨てたのは絶対に許せませんけど……私達を助けてくれて、ありがとうございました!」

 深々と頭を下げられた。

「私、あそこでヤヒトさんに助けてもらえてよかったです!」

 曖昧な笑みで応え、俺はその場を後にした。

 今後どうなるかは二人次第だ。

 大変なのはこれからだが、上手くやれればいいなと思った。

 

 *

 

 リディアの友人探しから数日後。

 仕事で死体処理所に立ち寄った俺はエルに捕まり、いつぞやに約束した通り、一緒に肉料理の店に来ていた。酒場と違って落ち着いた雰囲気の店内はたくさんの人間で賑わっており、ぱりっとした服装の給仕がてきぱき仕事をこなしている。

 色々な意味で肉にこだわりのあるエルがおいしいと言うだけあって、料理の味は確かに良く、誘われたことに感謝しようと思った矢先――

「で。まーた先輩は貧乏くじ引かされちゃったわけですね? 学園内でも噂になってますよ。『死体漁り』がまだ生きてる人間をぶち殺そうとしたって」

「うるせえな」

 これである。

 学園での噂、というのはどうやら本当らしく、偶にはと授業に出席してみれば、俺の方を見てひそひそと囁く者多数という有様であった。大方生徒会の人間が良いように吹聴したんだろう。教員からも生徒会からも呼び出しを食らっており、明日にでもそれぞれのところを訪問しなければならない。

 被害妄想かもしれないが、この店でも何だか他の客から見られているような気がする。

「だけどですね」

 すっと指を立て、エルは言った。

「一部の新入生の間だけで広まっているものですけど、先輩に好意的な噂もあるんです」

 なんとなく内容に予想は付くが、俺は無言で先を促した。

「生きる気力を失っちゃってる女の子の気持ちを変えるために、あえて冷徹に殺しにかかるふりをした。自分が憎まれ役になった上で、友人に彼女への想いを洗いざらいぶちまけさせることで、一人の女の子を絶望の淵から救い上げた、と」

 何がそんなに面白いのか、にやつきながら、あの日の出来事を俺に都合の良いように再構成した話をする。

 おちょくられているようでいい気がしないが、確かにそういう取り方もできなくはない振る舞いだったかもしれない。言うまでもなく、こちらの噂の出所はリディア達だろう。彼女らにも色々と思うところはあるだろうに、俺を庇ってくれるのだからありがたい話だ。

 もちろん悪い気はしない。だが、それは真実ではない。

 そんな俺の胸中を見透かしたように、エルは俺の顔を覗き込み、

「結果的に生徒会長さん達の邪魔が入ったので、美談風に再構成できない話じゃなくなりましたけど――彼らに止められなければ、先輩、ほんとに斬っちゃうつもりだったんですよね?」

 真剣な瞳でそう言った。

 図星を突かれ、一瞬思考が止まるが、辛うじて「さあな」と言葉を濁しておく。

 俺の返答を聞いたエルは、いつもと変わらぬとぼけた調子で笑った。

「まったくもー。素直じゃないですね。可愛い後輩の前でくらい、正直に言っていいんですよ?」

「わかったわかったまた今後な」

 適当にあしらいつつ、伝票を持ってくるよう給仕を呼び、伝票を見て蒼褪める。二人分で俺の一週間の稼ぎが丸々吹き飛ぶのだから、高い店での食事は恐ろしい。久しぶりにちょっと遠出して小金を稼ぐ必要があるかもしれない。

 会計を済ませ、店の外で待っていたエルに追いつく。もう遅いから帰るぞと声を掛けようとしたとき、「先輩が本当に酷い人だってことくらい、私わかってますから」エルが楽しそうにそう言ったのを聞いた気がした。

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