試練の魔王と境界線   作:そるのい

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序章Ⅲ『境界線前の試練』

この一瞬を全速力で駆け抜ける

転んで落ちても気にしない

それら全てが糧となる

 

配点 (学習)

 

 

 アデーレを退けたオリオトライは平坦な屋根の上を疾走していた。ここに至るまでに数々の妨害があったが、それら全てにおいてオリオトライが攻撃が当たることはなかった。

 それらの幾つかを抜き出すと、

 

 妨害一:足場の悪い企業区画における、近接忍術師である点蔵の突撃を囮とした半竜ウルキアガの上空からのパワーダイブ。さらに本命として、点蔵の忍術により隠されたノリキの打撃。

 結果:長剣の鞘を活かしたリーチの延長、及び超蛮族パワーにより無傷で逃走される。

 

 妨害二:跳躍により滞空中に、浅間による自動追尾、迎撃回避が付与された狙撃術式の撃ち込み。

 結果:切った髪をチャフがわりにされて、かわされる。損害は自ら切った髪の毛数本。

 

 これらの妨害をくぐり抜け、オリオトライが現在走っているのは、品川艦尾の貨物庫の屋根。ここからヤクザの事務所までは障害物がほとんどなく、オリオトライの足を緩めるものは存在しない。

 ゆえに、追い付くのは困難であり、ここでの主戦力は遠距離術式主体の者たち。

 まずは、高速機動が可能なナイト、ナルゼの両名がオリオトライを足止めし、その間に他の者たちが術式の準備をするのが鉄板だろう。

 しかし、

 

「は、ははははは! もはや我慢の限界だ! 挑ませてもらうぞ、教師オリオトライ!」

「ああ、やっぱりか……」

「おうとも! ――遠距離砲撃師、甘粕正彦。いざ尋常に、勝負!」

 

 それを待ちきれなかった男が一人。当然、甘粕正彦である。

 むしろ甘粕が、同級生が全力で挑み、それを越えていくオリオトライを見て、ここまで我慢できたことに驚くべきだろう。

 

「さあ行くぞ! シンノ!」

「あぁんめいぞぉぉっ、ぐろぉぉぅりぁぁす!! はーい、主さまー」

 

 甘粕に呼ばれ、首もとのハードポイントから出てきたのは黒い煙。それらが甘粕の肩に集まって出て来たのは二頭身の黒い人影と言うべきもの。

 

「シンノォ! 雷撃術式に停滞祓いをそれぞれ二つ、代演奉納で行う!」

「全く、久々だって言うのに主様はつれないぇ。まあ、いいや。代演四つ、ストックから使うよー」

「問題ない。それで行くぞ!」

「りょうかーい。――ほい、拍手ー!」

 

 シンノの拍手と共にオリオトライの頭上にバチバチと言う音と共に青色の球体が現れる。

 次の瞬間、球体からオリオトライに向けて雷が走った。

 

「っと! やばっ!」

 

 先ほどの浅間の狙撃と違って、外逸と障害の祓いが付いていないため追尾性能は持ってはいない。

 だが、ただでさえ雷は弓よりも速い上に、停滞祓いによる高速化が加護されているため遥かに速い攻撃が二つ。その上、雷であるがゆえに剣による切り払いは不可能である。

 

 

 ああ、もう毎度毎度、体育をやるたびに術式の選択が的確になってきてるわね! と心の中でオリオトライは叫びながらも、雷への対処に動く。

 雷撃は二つ。一つは回避できても、もう一つは回避できない。迎撃は事実上無効化される。

 故に、まずは一つ目の雷を確実に回避し、迫り来るもう一つの雷に対しては屋根に長剣の鞘を立てることで避雷針の代わりとして機能させる。鞘に当たった雷はそのまま屋根を伝い地面へと逃がされた。

 

 

 お互いの誤算は一つ。最初に回避した雷の軌道を考える余裕がなかったこと。

 回避された雷はオリオトライの背後の連接された貨物庫に直撃し、その屋根を伝って電流が広範囲に広がった。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「何でこっちまでー!?」

 

 威力は落とされていたとは言え、さすがに電気を体に流されれば無事ではすまず、周囲から阿鼻叫喚の声が響く。

 

「くひひ、やっちゃったねー、あるじさま」

「おう、やってしまったぜ!」

「ノリノリで言うセリフじゃないで御座るよ!! というか、甘粕殿も電撃食らってるで御座るよ!?」

「この程度の電撃では俺は沈まん! お前たちもこれくらいなら耐えられる!」

「その自信はどこから来るんで御座るか?」

「うん、漫才の流れぶった切るけど、先生は先にいかせてもらうわねー」

「あ……お、追えー!」

 

 

 やがて再開した品川艦上での戦闘音や光を、遠くから見る視線があった。

 中央前艦の艦首付近、展望台となっているデッキの上から見つめているのは、黒い髪の自動人形。肩に″武蔵″と書かれた腕章を着けている。

 不動のまま見つめている彼女だが、彼女の周りではデッキブラシやモップなどが自在に動いて甲板を磨き上げていく。

 そんな彼女の背後から男の声がした。

 

「あれ、どう思う? ″武蔵″さんとしては」

 

 声を掛けたのはくたびれた様相の中年おやじ。武蔵アリアダスト教導院の学長、酒井・忠次である。

 

「Jud.、昨年度より表現的に言えば派手だと判断できます。物質的に言えば破壊量が上がっており、住民的に言えば迷惑度と観戦度が上がっており――」

「個人的に言えば?」

「武蔵本体と同一である″武蔵″は複数体からなる統合物であり、また、人間ではありませんので個人という観点の判断は下せません。――以上」

「武蔵全艦としては、どう?」

「jud.、ここ十年、改修以後の記録で言えば一番かと。戦科が持てず、警護隊以外の戦闘組織も持てない極東の学生としては、他国戦士団と比較して――」

 

 彼女は少し言葉を止め、

 

「個性が生きれば、相応だと考えます。――以上」

 

 その言葉に対して、酒井は煙管を吹かせながら、

 

「じゃあ、今さっき単体攻撃に見せかけた自爆特攻をした副長に関してはどう思う?」

「jud.、商人会から正式に請求書が届きましたので、後で請求に向かう所存です。また、戦闘面で見るならば前回と比べ、術式の展開速度、ならびに精密性が上昇しています。――以上」

「自分から無茶無謀に飛び込み、自爆をも躊躇わないから″神風″か。聖連も皮肉な字名をつけるねぇ」

「jud.、ですが、甘粕様はその字名を気に入っている御様子です。――以上」

「ま、本人がしたくてしていることだからね」

「jud.、ところで――」

「ん?」

 

 酒井が首を傾げたところで、背筋に悪寒が走る。

 

「む、武蔵さん?」

「酒井学長、書類の処理がまだ五割しか進んでいないのですが、ここで何をしているのでしょうか。――以上」

「いや、これには深い訳がありましてですね……あの、武蔵さん? その手に持っているものは何でしょうか?」

「jud.、仕事をしない駄目な大人に使う特効薬だそうです。甘粕様から頂きました。――以上」

「ちょっ、それ絶対ヤバイものだよね!」

「jud.、ご安心ください周囲に被害をもたらすものではございませんので。――以上」

 

 遠くから、爆発の音が再び響いた。




原作部分が多くなりすぎたので、前半部分をカットしました。
甘粕の契約等に関してはまた次回にでも説明できればと思います。

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