試練の魔王と境界線   作:そるのい

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前に投稿したのが短かったので少し加筆して再投稿


第一章『教導院前の愛求者達』

それは決して美徳じゃない

けれども見ていて痛快で

そして力が湧いてくる

 

配点 (バカ)

 

 

「ハイ、それではこれから臨時の生徒会兼総長連合会議を行います」

 

 教導院前の階段で宣言するネシンバラにパチパチとまばらな拍手が送られる。

 

「本日の議題は『葵くんの告白を成功させるゾ会議』ということで。生徒会書記、僕ことネシンバラの提供でお送り致します。――ってことで葵君、どうぞ」

「んー、いきなり視聴率だけ考えると、俺がフラれた方が面白くね?」

「「「言い出しっぺが会議の意味全否定かよ!」」」

「何だよお前ら! 俺がフラれちゃ駄目なのかよ!? 知ってるぞ、せ、成果主義の押し付けってやつだな!? そんなモテない男を認めない社会に対してワタクシは断固抗議しまーす!」

「俺はそれを認めよう! フラれても諦めず男を磨き、再挑戦し、またフラれる。それによって、どんどん魂が輝いていく。――素晴らしいではないか!!」

「おい、アマッカス! 人がフラれる前提で話を進めるとかひでぇな! 極東最終奥義、遺憾の意を表明すっぞ!?」

「「「お前だよ最初に言い出したのは!!」」」

 

 その後、なんやかんやで落ち着いたトーリは忍者帽子の点蔵を見る。そして、

 

「なあテンゾー、告白って基本的にどうやんの? お前、数だけはこなしてるだろ? 数だけは」

「あれ、今自分ナチュラルに煽られたで御座る? ……まあ、いいで御座るが。告白ならここは一つ手紙などどうで御座ろう?」

「手紙? それでどうすんだよ?」

「正面切っての告白は緊張してトチってしまうことがよくあるで御座る。例えば『君のことが好きだ』と言おうとして『君の男が好きだ』と噛んでしまったり、カッコつけて『月が綺麗ですね』と言おうとして『積み木が嫌いですね』と言ってしまったりなど。……よくあるので御座るよ」

「オマエはホントに経験豊富な。心強いけど、そこまで噛むのお前だけじゃね?」

「そ、そこで手紙を使うで御座るよ!」

 

 逃げたなという声が潜まずに囁かれる。点蔵はそれを遮るように強い口調で、

 

「ま、前もって、伝える代わりに伝えたいことを書いておいて、コクる代わりにそれを手紙にして手渡すで御座るよ! さすれば、絶対にトチることとは無縁で御座る」

 

 トーリは渡されたメモ帳を見て、首をひねりながら、

 

「うーん……、あんまし気が進まねえなあ。だってさ? こういう好きとか嫌いとかの感情の働きって、上手く言葉に出来ねえもんじゃん?」

 

 その言葉に反応したのは点蔵ではなく、橋の欄干に身を寄りかからせていた喜美。風に髪をなびかせながら、トーリを見て、

 

「フフフ愚弟、好きとか嫌いとか、感情の働きが上手く言葉に出来るわけがない? 可愛い話ね。だったら試しにそこのエロゲ忍者と試練バカの嫌なとこを書いてみなさい」

「いや姉ちゃん、友人の嫌なとこなんて、上手く言葉に出来るわけねえじゃん」

 

テンゾー

・いつも顔を隠しているのは人としてどうかと思うが上手く言葉に出来ない

・ゴザル語尾はそれギャグのつもりかと思うが上手く言葉に出来ない

・たまに服から犬のような臭いがするのは本当にどうにかして欲しいが上手く言葉に出来ない

 

アマッカス

・いつも目付きが悪くお前ヤクザか何かかよと思うが上手く言葉に出来ない

・二言目には試練試練とそれ語尾なのかと思うが上手く言葉に出来ない

・バカがバカすぎてどうかと思うが上手く言葉に出来ない

 

「やっぱ上手く言葉に出来ねえもんだなあ、友人の悪いところは」

「ス、スラスラ書きまくって御座るよ! 御座るよ!! しかも箇条書き!」

「俺はバカだが、バカにバカと呼ばれる筋合いは一切ない!」

 

 点蔵と甘粕がトーリの襟首を掴んでがくがく揺するが、トーリはへらへら笑ったままだ。その代わりと言うように、喜美がトーリの背後に立つと、

 

「フフフ愚弟、とりあうずいい踏み台で練習できたところで、アンタの心の中にある彼女のいいところを書いてみなさい」

「ええ? また姉ちゃんは難しいことを要求すんなあ。テンゾーやアマッカスの嫌なところはもう見た目とかのダイレクトだからスラスラ行けたけど、彼女はハートだぜ! そんな俺の清純な思いが上手く言葉に出来ると思うのかよ!?」

 

・顔がかなり好みで上手く言葉に出来ない

・しゃがむとエプロン裾からインナーがパンツみたいに覗けて上手く言葉に出来ない

・ウエストから尻のあたりのラインが抜群で上手く言葉に出来ない

・俺を見つめるあの冷めた目を見るとゾクゾクするが上手く言葉に出来ない

 

「うーん、やっぱ清純な思いは上手く言葉に出来ねえもんだなあ」

「ず、随分と具体的で御座るよこれ! しかも即物的! そして最後なんか目覚めかけてるで御座るよ!?」

「騒ぐなよテンゾー。俺が本気で具体的になったらこんなもんじゃ済まないぜ……!」

「その本気は見てみたい気がするで御座るが、間違いなく犯罪になるで御座るな!」

「待て、待て待て、……その箇条書き、トーリにしては肝心なことが抜けておるぞ」

 

 そんな二人のやり取りにたいし、ウルキアガからの横槍が入る。

 

「え? トーリ君の即物的かつM的好意に何か抜けがあるのかな?」

 

 ああ、とハイディの問いに頷いたウルキアガは、

 

「このオッパイ県民が、相手の胸への言及をしていない」

 

 ウルキアガの言葉に皆は、はっとしてトーリを見る。

 周囲の通行人も静止し、ヒソヒソと言葉をかわす。

 

「……総長がオッパイについて何も言わないなんて」

「……何かの病気か?」

「……毎日連呼してるけど、好きな女相手にはヘタレ……?」

 

 全ての人の注視を受けたトーリは、

 

「俺もしかして、その道のプロになってね?」

 

 そして真面目な顔で頷き、ペンを紙に走らせて、

 

「……出来た。つまり――オッパイは、揉んでみないと、解らない」

「「「無差別に上の句読むなよ!!」」」

「――益荒男ならば、揉みにいくべし、などはどうだろうか?」

「「「お前も下の句読むなよ!!」」」

「あれ、季語どうしよ?」

「ふむ、オッパイは季語にはならんか」

「フフフ愚弟、試練バカ、今ちょっとアンタたちの詫び寂びに戦慄したわ。でも、――」

 

 喜美はトーリの隣に座り、頬杖をつき、

 

「どうしてアンタが相手の魅力の十代喋り場にオパーイ話題を提供しないわけ?」

「そりゃ姉ちゃん、俺が今オッパイ慕情歌で詠んだ通りだよ。揉んでないから解らねえ」

「フフフ、つまり、――オパーイに対していい加減は出来ないのね? なんて誠実な!」

 

 トーリと喜美と、ついでに甘粕は共に握り拳を掲げ、

 

「俺、こう見えても真面目だからな! 適当なことは言わないぜ!」

「そうとも! 揉みにいって初めて、そのオッパイの素晴らしさが解るのだぁ!」

「……この姉弟と甘粕殿の頭がおかしいのはもはやどうでもいいことで御座るが、ここ数分のオッパイ連呼ぶりは一般人の生涯使用量に匹敵するで御座るよなあ」

「フフフ負け犬忍者は黙ってなさい。しかし愚弟、アンタの歌の通りだとしても、大体のところは見ればわかるもんじゃない? 浅間なんか見た目そのままだし」

 

 

 さて、少しだけ時間を戻して、教導院内の畳が敷かれた部屋に視点を移そう。

 そこは静寂に包まれていて、茶を点てる音だけが響いていた。

 

(平穏ですねぇ……)

 

 茶をすすりながら浅間は束の間の平穏を噛みしめていた。

 ……窓の外から聞こえるバカどもの話し声は聞こえないふりをする。

 

「――オッパイは、揉んでみないと、解らない」

「益荒男ならば、揉みにいくべし」

(……聞こえない、聞こえない)

 

「フフフ、つまり、――オパーイに対していい加減は出来ないのね? なんて誠実な!」

「俺、こう見えても真面目だからな! 適当なことは言わないぜ!」

「そうとも! 揉みにいって初めて、そのオッパイの素晴らしさが解るのだぁ!」

 

(な、なにを叫んでるんですかあの三人は!? いけない、我慢、我慢ですよ浅間智! 今は部活中! 精神集中ー!)

 

「大体のところは見ればわかるもんじゃない? 浅間なんか見た目そのままだし」

 

「――っ!」

 

 カラダネタだけならともかく、自分をネタにされたら黙ってなどいられるはずもなく全速力で窓に掛けよった。

 その急ぎ様でも手に持っていた茶碗をきちんと畳に置いていたのは性格の表れなのだろうか。

 

 

 喜美が浅間について発言した瞬間、校舎の窓が開き、そこから顔を出した浅間が赤面全開で叫んだ。

 

「こらー! 勝手に人のカラダネタをやらない! 大体なんですか見た目そのままとか!」

「そうだよな! 浅間のは見た目通りじゃないよな! こう、まろやかな中に少しの――」

「うわソムリエ語り出した最悪です――!」

「まあ待て馬鹿」

「あ、まさかの意外なところから救援が――」

「そういう話は個人的に売りにこい。金になる」

「はい、悪化したー! ちょっ、そこ動かないっ!! 弓! 弓!!」

「おいおい最近の茶道部は弓道もやるのかよ」




活動報告に詳細は書いたけど、この小説は一巻終了時点で一旦完結とさせていただきます。

まあ、当分先の話なんですけどね!

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