新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
お待たせしました。今回で第四次聖杯戦争編は完結です。
尚、今回の話の冒頭部分の種明かしについては、第五次聖杯戦争編0話「と或る世界の魔法使いの話」までお待ち下さい。
次回からは暫く、第四次~第五次の間の話である、「束の間の休息編」がスタートします。

因みに、今回で第四次聖杯戦争編完結ということで、後書きのほうで「第四次聖杯戦争編完結記念・衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです×うっかり女エミヤさんの聖杯戦争クロス的座談会」のほうを再録しました。
座談会とか興味ねえよって人は後書きは読み飛ばしてくれていいと思います。
余談ですが、俺はアーチャー絡みのCPなら剣弓が1番好きです。
それではどうぞ。


10.闇の中伸ばされた手

 

 

 

 ―――ザー……ザー……。

 

(接続エラー、接続エラー)

 

 ねえ、□□□□聞こえる?

 

 て……ちょっと、馬鹿□□何言ってるのよ。

 

 あー、もう、煩い! アンタはそこで黙ってなさい!

 

 これが正真正銘、○○のチャンスなんだから。

 

 □□□□を△う機会は○○○○○なんだから。

 

(リンクは蜘蛛の糸のように頼りない)

 

 ―――ザー……ザー……。

 

 ねえ、お願い返事をして。

 

 私、あなたに繋がっている?

 

(接続エラー、接続エラー。次の機会は十年後)

 

 

 

 

 

  闇の中伸ばされた手

 

 

 

 

 side.エミヤ

 

 

 伸ばした左手は確かに、養父(ちち)へと届いた。

 そして、その自分とさして背丈の変わらぬ身体を、黒いコートで武装した男を自分の腕と体で包み込む。

 視界が黒に染まる。

(守ると、そう誓った)

 泥に飲まれる。そうやって、いつかと同じ呪いを全身に浴びた。

 

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死殺死殺死死死殺殺殺死殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺死殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……。

 

 その殺意と憎悪の呪い、この世全ての悪(アンリ・マユ)の願いを受けて変質した願望器の中身、それが私という存在を分解しようとしている。

 いや、今も分解を繰り返していた。

 実体を持たないエーテル体は、呪いをダイレクトに受け、その魂を直接犯されていく。

 英霊(サーヴァント)でありながら、それに正気で耐え切れた実例は最古の英雄王、ただ一人だ。

 もはや、感覚すらない手で、腕の中にいるであろう人を抱きしめる。

 呪いが侵食する。

 殺意と憎悪が私を包んでいく。

 雄叫びのような怨嗟の声が『何故お前は生きているのだ』と糾弾する。追い立てる。嘲笑う。

 穴という穴全てから、全てを余すところなく喰らおうと、獲物(わたし)が自我を手放すのをまっている。恐喝している。

 意思の強さ、それこそがこの泥に対する、最後の砦だ。

 慟哭、憎悪、殺意、あらゆる負の感情が唸りをあげて、直接頭の奥へとそれらを叩きつけられる。

 常人なら疾うに狂っている。

 真っ当な英霊ならとっくに有様を変え反転している。

 それほどの悪意と、膨大すぎる力の波だった。

(駄目だ、私はここで終わるわけにはいかない)

 ここで、諦めれば、この腕の中の人はどうなる?

 ぎしぎしと、体中が悲鳴を上げる。

 脳髄まで犯す呪いに抗う。

 抗い続ける。

 

「が……は……ッ」

 

 呪いが蝕む。

 この身を喰らおうと口を開けている。

 纏わり付く。

 私が堕ちるのをまっている。

 目の前が暗く沈んでいく。

 目が見えない。

 真っ暗だ。

 私は……私は、この手に本当にあの人を掴んでいるのだろうか?

 指の感覚がない。

 身体があるのかないのかさえ、不明、不明、不明。

 だが、なんだ。

 だから、なんだ。

 それが、どうしたというのだ。

 

「は……ぐっ」

 

 そう、守り抜くと約束した。

 彼女に誓った。

 それだけがこの聖杯戦争における私の望みだった。

 ならば、切嗣(じいさん)だけでも、この身にかえて……!

 そこまで思いを馳せたその時、その私の決意をたしなめるような、幼い声を思い出した。

『アーチャーも』

 脳裏に過ぎる。

 それは、10日以上前のこと。その時の記憶。

『アーチャーも戻ってきなさい』

 私の誓いを前に、雪の妖精の少女はそんな言葉を返した。

 …………ああ、そうだった。

 そうだったな、イリヤ。オレも戻らないといけないのだったな。

 君と約束した。君の名にかけて誓いを立てた。

 果たすよ、きっと君との誓いは果たすから。姉さん。

 

「……っ」

 

(体は……)

 そも、この身は正規の英霊とはわけが違う。

 人々が忌み嫌い、畏れ、侮蔑する。それによって信仰を受ける反英霊。

 英雄とも呼べぬ世界の掃除屋、それが私だ。

 呪いなど、こんな怨嗟の声など、聞きすぎるくらい、聴いてきた。

 それに、まだ私が衛宮士郎と呼ばれていた時代、あの時も、セイバーと参加したあの戦いで、私は聖杯の呪いを受けて、それに打ち勝ったのだ。

 ならば、いくらサーヴァントに……呪いへの抵抗が低いエーテル体になったからといって、易々とこんな呪いに屈していいはずがない。

 そうだ、いまだ未熟だったあの時でさえ、耐え切れたのだ。

 敗北はただ一度のみ、それは自分が相手でも例外はない。

 

「……ァ、ぐ……ッ」

 

(体は、剣で出来ている)

 自己を埋没させる呪文を口内で唱える。それだけで随分と楽になった。

 還ろう。

 帰ろう、あの場所へ。

 雪の少女が待つ場所へ。

(約束を……したからな)

 父親を連れて、君の元へ帰る。

 パキパキと、暗闇に、皹が入っていく。

 その向こうには誰かの人影が見える。

 そして私は其処に手を伸ばした。

 

 パキンと、何かの幻想が壊れるような錯覚。

 突如訪れた、呪いや怨嗟の声とも無縁な暗闇空間。

 そこで私が視たものは……誰かの名前を呼んでいる一人の……女……?

 ドクン、と心臓が脈打った。

 誰だ、あれは。

(懐かしい)

 ぼんやりと、輪郭すらおぼろげで、まるですぐに消え去る幻のような。

(ああ、彼女こそが私の……)

 

「……は……ッ!?」

 白昼夢より目覚め、視力を取り戻す。現実に引き戻される。

 何を見たのかすら、こうしている間にぼろりと腕をすり抜け、失われていく。

 目の前には、私の腕に包まれたまま、泥の攻撃を受けて昏倒している衛宮切嗣(マスター)の姿。

 既にこの場所は市民会館ではない。

 泥に飲まれたまま、大分押し流されていたようだった。

「……爺さんッ」

 呼びながら、頬に触れた。

 死んではいない。

 その時、爺さんの頬に触れた時、自分の身体の異変に気付いた。

 この、肉が触れ合う違和感は……そうか。

「受肉……している?」

 呪いの力の影響なのか、身体機能は大分弱体化しているが、間違いなく、この体は生身のものだ。

 その証拠に霊体になろうと意識しても変化は欠片も訪れない。

 聖杯の泥を飲んだから……か。

 自分の迂闊さに舌打ちする。気を抜くと呪いに飲まれそうな肉をもって身体を得ている。それはオレが反英霊に連なる存在の証明でもあるのだろうが、吐き出したいほどに醜悪だ。

 だが、そんな嘆きなどどうでもいい。

 オレの知っている爺さんは、切嗣は、聖杯の呪いを受けて5年後死んだ。このままでは同じ結末を辿るだろう。

(守りきると誓ったのに、なんてザマだ)

 自虐に浸っている場合じゃないのに、胸の奥に苦いものがこみ上げてくる。

 だが、それは今必要なことではない。

(何か、爺さんを救う方法があったはずだ……)

 そうだ、思い出せ、それをオレは知っているはずだ。

 そうだ、聖杯の泥を浴びたのはあの時も一緒だ。衛宮士郎とオレがよばれていたあの時と。

 あの時、オレは、どうやって助かった。

(思い出せ、思い出せ、思い出せ)

 

「……あ」

 そうだ、あの時は……。

「セイバー……」

 ぐっと、息を吐き出した。地獄に落ちても忘れない1秒にも満たない邂逅を思い出す。

 月光に照らされた金紗の髪と、碧と白銀の鎧の少女。オレの騎士王。

「セイバー、力を貸してくれ」

 何故、こんな単純なことさえ、オレは忘れていたんだろう。

 大火災からの10年間、私は聖剣の鞘と共にいた。私の属性は剣だ。投影魔術もそれに特化している。だが、その中の唯一の例外。永い月日で、世界の掃除屋として過ごした日々の中で、忘れ去っていたソレ。

(10年共にあった私が、それを投影出来ないはずがなかったな)

 そんなことすら忘れていた。

 彼女の鞘とは、10年共に生きた相棒だった。だが、今では漠然としたイメージしか覚えていない。あんなに未熟だったのに何故あの時は出来たのかさえわからない。

 けれど、それでは造れない。

 本物には迫れない。

 爺さんを助けることなど夢の又夢だ。

 しかし、ここには、本物の聖剣の鞘(アヴァロン)がある。切嗣の体内(なか)に、其れはあるんだ。掌を切嗣の胸の上にあてる。聖剣の鞘の息吹を感じる。

(嗚呼、そうだった。オマエはそんな形をしていた)

 すまなかったな。オマエは触媒として、主ではなく、私を呼ぶほどに私のことを覚えていたというのに、オレはそうではなかった。

(もう、大丈夫だ)

 オマエの息吹も、形ももう知っている。

 思い出した。思い出せた。思い出すことが出来たんだ。

(力を貸してくれ)

 持ち主に不老不死さえ与える黄金の鞘、そのイメージを丸ごと写す。

投影、開始(トレース・オン)

 此処に本物の聖剣の鞘があるのなら、ならば、私がそれを写しきれない筈がない。

 この身はそれだけに特化した魔術回路なのだから。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 投影された、男の中にある聖遺物と変わらぬ姿の黄金の鞘が降臨する。

 光が溢れる。

 本物の力には及ばないながらも、泥が浄化されていくのを確かに見た。

 ごふ、と黒い血を吐き出す。聖剣の鞘の模造品は、切嗣の体から泥を浄化するだけではなく、私の身体からも呪いの半分を浄化して、それから幻想に戻って消えた。切嗣の顔色が戻っていく。

 その黒い眼がゆっくりと開かれていく、その様子をただ見ていた。

 

 

 

 side.衛宮切嗣

 

 

「ようこそ、切嗣」

 暗闇の中、白銀の髪の女を見た。

「アイリ……」

 懐かしい顔だった。

 愛おしい顔だった。

 9年間愛し共に過ごした僕の妻。アイリスフィール。

 だけど、目の前のアイリはどこか、違う。

 初めて見た黒いドレスのせいか、いや、もっと根本的な何かが決定的に違う。

「きっと来てくれると思ってた。あなたなら、ここに辿り着けると信じてた」

 微笑んでいる見慣れた美貌。だけど、違う。アイリはこんな貌では笑わない。こんな悪意が滲んだ瞳では。

 もっと暖かみのある眼で世界を俯瞰する、そんな女だった。

 だからこれは、そう。コレはアイリではない。

 その証拠に周りにあるのは屍ばかりだ。この光景はまるで、いつか夢で見たアーチャーの過去そのものじゃないか。

「…………お前は、誰だ?」

 銃口をむけながら、気付けばそんな言葉が自分の口から漏れていた。

 いや、正体に察しはついている。

 だから、今度はそれをはっきり口に出す。

「お前が、この世全ての悪(アンリ・マユ)なのか?」

 是というように、にたり、と女の口が笑いを模った。

「ええ、そうよ、その通りよ」

 アイリと同じ容姿をして、それは言った。

「さあ、願いを、祈りを捧げて。人を殺す事でしか人を救う術を知らない。そんなあなたこそ、この世全ての悪(アンリ・マユ)にはふさわしい」

「断る」

 パン、と、女を射抜く乾いた音がした。

「僕には守るものがある。僕はお前を破壊するために此処にきたんだ」

 それは何にも勝る侮辱だった。

 愛しい女(アイリスフィール)の姿をして、破壊を望めと言ったのだ、この存在は。

 ふざけるな。

 アイリはお前のように他者の破滅を望む存在じゃない。

 その想いを、願いをねじ曲げ、彼女(アイリ)の一面だけを映し込んでアイリを演じるこの存在が許せなかった。

 銃弾を放つ。

 何度も、何度も、否定を連ねる。

 この世全ての悪(アンリ・マユ)を拒絶する。

 

「……呪ってやる」

 やがて、アイリの顔をしたそれが、アイリの声でもって呪詛を張り上げる。

「衛宮切嗣…………オマエを呪う…………苦しめ…………死ぬまで悔やめ……絶対にオマエを赦さな……!?」

 憎しみの泥が、僕の血管を通り、心臓に流れ込んできた。

 それが、突如黄金の光に遮られた。

「ぎ……ぁ、ぁぁあアアァあああああ……!」

 目の前の妻の姿をしたナニかが苦しむ。

 僕に侵食していた呪いが突如勢いを止める。

 体内から浄化されていく。

 暖かくどこか懐かしい、そんな光だった。

 呪いの声が衰える。

 瀕死の女は、びくびくと、身体を小刻みに震わせながら、「は、はははっ」そんな感じの心底おかしげな笑い声をあげていた。

「衛宮切嗣、これで終わりだとは思うな……確かに呪いは多くは打ち消されただろう。だが、オマエはどれだけの時間(・・・・・・・)私の呪いを受けていたと思う? 少しずつ、少しずつ、真綿で首を絞められるように、オマエは苦しみ、そうして死んでいくのだ」

「だから、なんだ」

 すっと、愛銃のグリップを握り締めた。

マトモに泥を浴びた(・・・・・・・・・)僕でも5年もった。なら、その殆どを浄化されたこの僕なら、倍以上生きられるとは思わないか? それだけの時間があるのなら充分だよ」

 そうして笑って、女の額を撃ち抜いた。

 

 目を開ける。

 其処には、泣き笑いのような表情を浮かべた、褐色の肌の女が僕の顔を覗き込んでいた。

「…………シロウ」

「全く、いつまで寝ているつもりだ、この馬鹿者。心配をかけさせるな」

 視線を斜め下に落としながら言った、彼女の最初の一言は、ちょっと呆気に取られるくらいに可愛気がない言葉で、でもその言葉がただの彼女流の強がりでしかないことは、その表情(かお)を見れば一目瞭然だった。

「うん……ごめんよ」

 言いながら、上半身を起こす。

 その時、はたと気付いて、慌てて言った。

「シロウ、服、服着てない」

「うん……? あ」

 どうやら、本人も気付いていなかったらしい。

 素っ裸としか言いようのない自分の身体を見てしまって、慌てて己の体から目を逸らしながら、どこかから簡易の衣服を出して着込んだ。その間、10秒もかかっていないあたりが、ある意味凄い。

「……爺さん」

 落ち着いた頃を見計らって、僕の娘(シロウ)は抑えた声を出した。

 現状を把握する。

「…………」

 そこには、いつかも夢を通してみた地獄があった。

 阿鼻叫喚の声、舞い踊る炎が街を焼いていく。僕らの周囲のみ何もないのは、おそらくは彼女が結界か何かを張っているかなにかというだけだろう。

「僕のせいだ……」

 自分の筋張った右手を見つめる。数え切れない人を殺してきた手。

「僕が、君の話を信じなかったから……。聖杯は呪いに犯されていないと、信じたがったりなんかしたから……僕が、決断するのが遅かったから……だから……」

 ぱん、と乾いた音がした。

 右頬が熱い。数瞬後に、彼女にぶたれたのだと理解する。

 見れば、眉を吊り上げ、唇を噛み締めたシロウが、低く声を張り上げていた。

「ふざけるな」

 がっと、胸倉を掴まれる。

「今、そんなことを言っている場合か!? こんな時に、貴方がそんなことを言うのか!? 私の言葉を信じられなかった? それは、人として当たり前のことだ! 誰も初対面だった人間の言い分をそう、易々と信じられるものか! 私は言ったぞ! 覚悟だけはつけておけと。この状況を想定してなかったと、だから、どう動くのかも考えられないと、貴方だけは言うな!!」

 怒鳴り声。

 だけど、それは紛れもなく、懇願だった。

「貴方は、『正義の味方』なんだろう……?」

 ああ、そうか。

(彼女にとっては、僕はそうだった)

 望みと目的がどうであれ、衛宮切嗣という男の実態は、ただの薄汚い暗殺者でしかないのだろう。

 だけど、第四次聖杯戦争のこの大火災で、彼女は『僕』に救われたんだ。

 だから、その憧憬を胸に呪い(りそう)を受け継いだ。

 つまりこの火災現場のどこかには、彼女になる可能性を秘めている子供が生きていて、今も救いの手をまっているということだ。

 例え多くのものが失われたのだとしても、誰も救えない(・・・・)なんて事もまた有り得ない。

「うん、そうだね、ごめん」

 ぐしゃりと、シロウの真っ白な髪を撫で付ける。

「生存者を探そう。それが、今出来る最善だ」

 口調を、魔術師殺しのものに切り替える。それを見てシロウは、一拍ほど置いてから、淡く笑った。

「了解だ、マスター」

「シロウ」

 右手を差し出す。きょとんと、鋼色の目が子供のような表情を作って僕を見る。

「もう、僕は君の『マスター』じゃない」

「…………うん、父さん」

 

 

 

 side.■■士郎

 

 

 ……気がついた時には、既にそこは一面焼け野原だった。

 痛い、遺体、いたい。

 どうして、おれは歩き続けているんだろう。

 熱くて、苦しくて、何が痛いのかさえもうわからないけれど。

 父さんや母さんは、どうしたっけ。

 おれの家族は、その結末は……。

 思い出す事さえ蓋をして、歩いた。

 足を止めたときに自分が死ぬ事には、きっと気付いていた。

 だから……。

『助けてくれ』

『この子だけでも連れて行ってくれ』

 そんな、道中聞こえる声を無視して歩き続けた。

(ごめんなさい)

 おれにはひとを助ける力なんてない。

(ごめんなさい)

 自分が助かることだけで精一杯だ。

(ごめんなさい)

 きっと、本当はもうとっくにわかってる。

 父さんは、母さんは……死んだんだ。

 でも、おれは生き延びた。

 生き延びたからには生きなくちゃとそれだけを思って、ひたすら歩いた。

 生きているのは、動いているのは自分だけ。

 それでも、こんな状況で助かるわけがないとわかっていた。

 そして力尽きて、倒れた。

 ああ……でも、雨が降りそうだ。なら、この火事もきっともう終わる。

 黒い太陽はいつからか、姿が見えなくなっていた。

 朦朧とした頭で手をのばして、そして、その手を掴む人の姿を確かにみた。

 それは、ひょっとすると『奇跡』ってやつだったのかもしれない。

 泣きそうな顔で、笑いながら自分の手を包む黒髪の男と、眉をぎゅっと引き締めて、必死に目を逸らすまいとしているかのような白髪の女性。

 その二人組みに、初めて見た顔のはずなのに、わけのわからない安堵を覚えて、そうしておれは意識を手放した。たった今目にしたこの黒髪の男のように、口元に笑みさえ浮かべながら。

 

 

 

 side.イリヤスフィール

 

 

 あの時、キリツグは二週間もすれば帰ってくる、ってそういった。アーチャーも、キリツグと一緒に戻ってくるってそういった。

 でも、約束の二週間が経っても、二人は戻ってこなかった。

 どうしたのかな。お仕事、そんなに大変なのかな。

 ある日、大おじいさまは言った。

「あいつらは裏切り者だ」

 って。

 嘘だって、わたしは思った、答えた。

(だって、誓ってくれたんだもん)

 必ず、戻ってくるって。いってきますって。キリツグとアーチャーが帰ってくるのはわたしのもとなんだから。だから、わたしは待ち続ける。

 一ヶ月が経った。

 まだ、二人は帰ってこない。

 二ヶ月が経った。

 大おじいさまはいい加減諦めろ、あいつらを赦すなってそう言う。

(だって……約束したんだもん)

 帰ってくるって。

(なのに、どうして、戻って来てくれないの?)

 寒い。

 寒いよ。一人でまつのはとても寒い。

 寒いのは嫌いなの。

 早く、こんな悪夢は終わらせて。

 帰ってきて、抱きしめて。

 また、ホットミルクをいれて。

 遊んで。お話をきかせて。

 この城はひとりで過ごすにはあまりに広くて、寒すぎる。

 やだよぅ。なんで、まだ帰ってきてくれないの? イリヤ、良い子だよね? 良い子にまっているよ。ねえ、なんで、どうして。

(お母様の亡霊が憎みなさいと囁くの)

 早く、帰ってきてよ。ねえ、早く……。

 

 がらん、と何かが音を立てた。

 はっと、自分の部屋で、顔を上げる。

(侵入者だ)

 そうだ、これは結界が破られた合図だ。

 ばたばたと、外から音が聞こえる。重々しい響きで、『何か』と、戦闘用に造られたホムンクルスが戦っている。

(何? 何? 何?)

 ガシャン、と硝子が割れる音までしている。

 音から判断したら、戦闘が行われているのは多分わたしの部屋からそう遠くないところ。

(こわい)

 ぎゅっと、ぬいぐるみを抱きしめて縮こまる。シーツを被る。

 バン、と扉が開けられる音がした。

(こわい、こわい、こわい)

 戦闘用ホムンクルスがどれくらいの強さかなんて知っている。彼女達は制限も多いけれど、でも下級の英霊(サーヴァント)にだって引けを取らない。そういう風に設定されている。それが破られた。殺されるかもしれないと、恐怖に心が震える。

 その心は、「イリヤ」と次の一声で溶かされた。

「え……?」

 幻聴じゃないよね、と目を見開いてかぶりを振る。

「イリヤスフィール」

「……アーチャー?」

 聞き間違いじゃない。

 その、少年にも似た印象のハスキーな女の声。それは、会いたいと思っていたその片割れで。

 シーツを振り払って、扉のほうに顔を向けた。

「イリヤ、遅くなってすまない。約束通り、帰ってきた」

 あちこちに大小の傷を受けながら、それでもいつかのように優しく微笑む顔。以前見たときよりも伸びて肩口まで届く真っ白な髪、褐色の肌、紅い外套。夢幻じゃなく、彼女はそこに立っていた。

「さあ、行こう。切嗣が……君のお父さんが待っている」

 また会えたら色々と話したいことがあった。

 だけど、頭の中がまっしろでなにも思いつかない。頬が熱い。目元がじんわりと、涙に滲む。

「イリヤスフィール」

 差し伸べられた右手。

 わたしの名前を呼ぶその柔らかい響きを、ずっとまた聞きたいと思っていた。

「アーチャー……!」

 走りよってその右手に飛びつく。

 アーチャーはわたしの身体をしっかりと抱きしめて、窓から飛び出し、夜の冬の城を後にした。

 ずっと、この城で育ってきた。外の世界なんてわたしは知らない。

 だけど、そこを出ることに躊躇いなんてない。

 彼女(アーチャー)とキリツグたちと生きていけるなら、どこにだって行けるだろう。

 さあ、行こう。この手に未来を掴もう。

 そして家族みんなで、笑って生きていくんだ。

 

 

 

  第四次聖杯戦争編・完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごぽ、ごぽと、まるでそれは暗闇の海の中を泳ぐようなものだった。

 

(見つけた)

 

 にたり、と哂う。

 

(やっと、繋がったぞ)

 

 (オレ)は、嗚呼、漸くこの舞台へと、出れるのだ。

 

 

 

 そう、これは、衛宮切嗣と英霊エミヤが泥に飲まれたすぐ後にあった出来事。

 

 

 

 

 

 side.言峰綺礼

 

 

 心臓の鼓動がない。

 死んでいる。

 私は間違いなく死んでいる。

 そのはずなのに、動いている。まるでリビング・デッドだ。

 衛宮切嗣と、そのサーヴァントが泥に飲み込まれていくのを私は見届けていた。

 市民会館だった建物は既に見る影もない。

 そんな中、私のすぐ目の前で、ゆっくりと小さな黒い穴が開いていくのをみていた。

 ずるりと、闇の中から男の片手が伸ばされる。何故そんなことをしたのか、自分でも定かではないが、確かに私はその手をとった。

 その途端、軽く電流が流されたような痺れが走る。唐突なことだったが、契約が繋がったのだと、漠然と思った。ずるずると、私に手をとられた男の身体は穴から這い出て、地面へと投げ出され、男がそこから出た後、黒い穴は収縮し、閉ざされていった。

 金の髪の男だった。

 王者としての風格を放つ美貌、それが血に汚れている。その額には何かの剣が突き刺さったあとがあった。片腕も一度切り取られて、また付け直されたかのような有様だ。

「……」

 男は動かない。その身体は瀕死だ。足りない魔力を補うように男は眠りについていた。

 その顔も、造形も初めて見たはずだった、でも私は知っていた。

(ああ、そうか、これが)

 片膝をついて、男の顔を観察する。

(これが、あの声の主か)

 そうして、私はその男を背負って、その場を後にした。

 第四次聖杯戦争は終わった。だが……。

 

(ここから、全ては始まる)

 

 それは予感とも違う、確信。

 飲み込まれていく人々の嘆きと叫び、それらを肴にしながら、私は高らかに、生まれてはじめての大いなる愉悦を前に笑い声を張り上げて、愛おしい黒い太陽を見つめていた。

 

 

 

 NEXT?

 

 

 






 第四次聖杯戦争編完結記念、衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです
                          ×
                うっかり女エミヤさんの聖杯戦争クロス的座談会



【挿絵表示】




  登場メンバー



 衛宮士郎が頭の悪そうなアーチャーを召喚したようです。(以下『頭悪組』)



 衛宮士郎:半人前の魔術使い。聖杯戦争でセイバーではなく、原作より頭悪そうなアーチャーを召喚してしまった、多分主人公の少年。何かとよくキレる。『正義の味方』ならぬ『正義の料理人』を目指した為か、おそらく並行世界1戦闘能力がショボイ士郎。うっかり組の士郎との区別の為、ここでは漢字で『士郎』表記。


 アーチャー:なんか、原作よりも頭悪そうっていうか、ポジティブ? で、趣味全開(人助け&家事全般)で、趣味を自重しない英霊エミヤ。基本的に士郎のことは『駄マスター』と呼んでいる。セイバーの餌付けが特に趣味。基本的には士郎相手にのみ辛辣。


 遠坂 凛:おそらく、このメンバーの中で最も苦労する、元祖うっかり魔女。士郎とアーチャーがアレなため、原作以上に苦労している。いい加減キレてもいいかなあとか思ってる。セイバーがアーチャーに餌付けされたことには苦い思いがあるっぽい。


 セイバー:みんなお馴染み腹ぺこ王。んでもって凛のサーヴァント。ブリテンの赤き龍? 何それ、食べられるんですか? ってくらい、ひたすら飯食ってる。アーチャーの料理に感動して、すっかり餌付けされている。セイバーいわく、「理想郷(アヴァロン)はここにあったのですね!!」そんな感じ。




  うっかり女エミヤさんの聖杯戦争。(以下『うっかり組』)



 エミヤ・(シロウ)・アーチェ:原作UBWルートで答えを得たまま、座に帰ることもなく、なんか女性化とうっかり属性のおまけ付きで衛宮切嗣(ちちおや)に呼び出されてしまった英霊エミヤその人。第四次聖杯戦争終盤で不本意ながらも受肉してしまったため、現在は人間として暮らしているようだ。身体は女になったが、心まで女になったわけではないとは本人談。基本『シロ』と呼ばれてる。


 衛宮士郎:イリヤとエミヤさんの教育によって大分歪みを矯正されたこの話の準主人公。原作より基本的に気が長くて常識人? だが、家事の腕はおそらく並行世界1駄目な士郎でもある。その代わり、戦闘能力は原作開始時の士郎の五倍はある。あと、幸運も多分B~Cくらいある。このメンバーの中で唯一、エミヤさんがアーチャーや自分と同一人物だということを知らず、また夢にも思っていない。頭悪組士郎との区別の為、ここでは『シロウ』表記。


 衛宮イリヤスフィール:第四次聖杯戦争のあと、エミヤさんや切嗣に冬の城から連れ出され、士郎の血の繋がらない姉として育ったイリヤ。今は青崎製の人形の体で生活している為、外見年齢は年相応になっている。そのため、妹ぶらないかわりに、よく姉ぶる。シロウとエミヤさんが同一人物なことは知っているが、もしもシロウにそのことを教えようとするものがいるなら、全力で阻止します。そして制裁します。




 座談会・本編


 アーチャー:ふ……。というわけで、『うっかり女エミヤさんの聖杯戦争』第四次聖杯戦争編完結記念、頭悪組×うっかり組座談会だ。

 士郎:ちょっと、まてえええええ~~~!!

 アーチャー:なんだ、駄マスター。騒々しい。少しは静かに出来んのか、この駄マスター。どこまで貴様は頭が悪いのだ。

 士郎:駄マスター、駄マスター、呼ぶんじゃねえ。それより、オマエ、なんで俺だけ座布団がねえんだよ!!

 アーチャー:む? 貴様にそんなもの、必要なかろう。

 凛:……しょっぱなからこのやり取り? 勘弁してよね。

 セイバー:むむ、アーチャー。これもまた中々の味……素晴らしい。これはなんという料理なのですか?(もぐもぐ)
 
 アーチャー:ああ、それはイチゴ大福というものだ。(にっこり(←最上のスマイル))

 士郎:無視か!?

 アーチャー:煩いぞ、駄マスター。

 イリヤ:ふーん? そっちの士郎はなんだか怒りっぽいのねえ。(くすくす)

 エミヤ:…………。(オレは、あんなに露骨に酷かっただろうか?)

 シロウ:なあ、シロねえ、助けに入らなくていいのか?

 エミヤ:放っておけ。あれくらい、なんとか出来んようでは話にならん。

 イリヤ:あら? シロ、いつもはこういう場面に出くわしたら真っ先に止めにいくのに珍しいわね。やっぱ相手があの士郎だからなのかしら?(意味深な笑み)

 エミヤ:……イリヤ。

 イリヤ:やっぱり、あの士郎は過去を思い出しちゃうから?

 シロウ:なあ、イリヤもシロねえも、さっきから何の話してんだ?
 
 イリヤ:ううん、なんでもないわ。シロウは知らなくていい話。(にっこり)

 凛:あんたたち、呑気ね……。あいつら、凄くヒートアップしてるっていうのに。(ちらり(喚くアーチャーと士郎に視線を一瞥))

 イリヤ:あら? だったら凛が止めたらいいんじゃない?

 凛:イリヤスフィール、冗談はやめてよね。あんな奴らに割って入るほどわたしは酔狂じゃないの。

 セイバー:……(もぐもぐ)素晴らしい。(ごくん(三つ目の大福口に含んでほわんとした笑顔)

 士郎:そっちの『衛宮士郎』にだって座布団を用意してるのに、なんで俺だけいつもこうなんだ、アンタは!

 アーチャー:ふん、貴様とあっちの小僧は大本が同じでも全然違う。そんなこともわからんのか、このたわけ。大体貴様みたいな駄マスターに茶を用意してやっただけありがたく思うのだな。

 士郎:……ッ、テメエ。

 シロウ:俺、そろそろあれ止めてくるよ。

 凛:……平然とした顔でよくいえるわね、貴方。大物?

 イリヤ:ふっふ~ん。シロウはわたしが育てたからね。ちょっとやそっとのことじゃ動じないわよ?(にこ)

 士郎:投影(トレース)……。


 思わず投影しようとした士郎の手をシロウが止める。


 アーチャー:ほう……。(感心したように呟き)

 シロウ:もう、その辺にしとけよ。これ以上やったら近所迷惑だぞ。それに、暴れたら食事中のセイバーの料理に埃が入るし、よくないぞ。

 士郎:あ……(近所迷惑という単語に反応)悪い……。

 シロウ:まあ、あんなふうに言われたら、腹が立つのもわかるけど、ここは一つ抑えてくれ。座布団なら、俺の分使えばいいし。

 士郎:いや、そこまではいいからさ。あー……俺も大人気なかったかなって、思うし。あー……そうだな。うん。(食事中のセイバーちらりと見)ええと、止めてくれてサンキュ……(羞恥照れ)

 シロウ:うん、どういたしまして(にっこり)。

 凛:……あっちの衛宮君随分大物ねえ。

 セイバー:そうですね。私への食事への配慮、感服しました。(ぱくぱく(パフェ食べだし))

 イリヤ:うーん……士郎×シロウかあ。ふふ、こういうのも悪くないわね。

 凛:って、あんたは何を言ってるのよ。

 イリヤ:シロウ同士っていいと思わない? うーん、新しい発見だわ(くす)

 エミヤ:……ぶつぶつ。(体は剣で出来ている、体は剣で出来ている……私は何も聞いていない)

 セイバー:ああ……それは所謂「腐女子」というものでしょうか。(ズズッ(茶啜り))

 イリヤ:あら? でも、わたし、シロウ以外には興味ないわよ? それに、シロウも士郎も「衛宮士郎」である限り、姉のわたしのものだし?(にっこり)あ、当然アーチャーやシロもね?

 士郎:……なあ、そういや、ずっと気になっていたんだけど。……イリヤなんだよな?

 イリヤ:あら? いきなりね。士郎にはわたしが他の誰に見えるの?

 士郎:あ、だよな。でも、その……。

 エミヤ:言いたいことはわかる。オマエの知っているイリヤはもっと小さいのに、何故こんなに成長しているのだろう、だろう?

 士郎:あ、うん。そうなんだけど。

 イリヤ:あら、だってわたしは確かにイリヤだけど、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンじゃなくて、衛宮イリヤスフィールなんだもの。士郎の知っているわたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンなんでしょ? なら、違ってて当然だわ。
 
 士郎:……? それってどういう?

 シロウ:? イリヤ、さっきから何の話をしてるんだ?

 イリヤ:んー……シロウは知らなくて、いい話。

 エミヤ:……シロウ、茶の追加を用意してくる。手伝いにきてくれないか?

 シロウ:あ、うん。シロねえ、わかった。(台所に引っ込み)

 凛:へー……あっちのシロウは、シロさんだっけ? 懐いているのねえ。

 セイバー:シロは確か、アーチャーと元は同一人物と伺っておりましたが(ぱくぱく(大判焼き食い))

 イリヤ:それ、シロウの前で口に出したら、わたし、許さないわよ?(にっこり)

 士郎:なあ……本当にアイツ、アーチャーと同一人物なのか? いや……ていうか、その……本当に未来の……ごにょごにょ……なのか?

 アーチャー:まあ、あの私は大分英霊エミヤとして変質しているような感じがするがな。セイバー、追加でフォルダン・ショコラを用意してみた。これも食すがいい(にっこり)

 セイバー:おお、素晴らしい。

 エミヤ:……人がいない間に好き勝手言ってくれるな。(はぁ(ため息))それに、変質しているのは、オマエも同じだと私は思うのだがね。

 シロウ:? 何の話してたんだ?

 士郎:アーチャーの奴と、シロさん? が同一人物には見えな……(凍りつき)


 シロウの耳を両手で塞いでいるイリヤから、笑顔のまま憤怒のオーラーが立ち上っている。


 イリヤ:士・郎? わたし、言ったわよね? シロウの前でそのことをいうのは許さないって。それは士郎が相手でも同じだって、ねえ、わかってる?

 士郎:……!(がくがくがくがく(高速で頭縦に振り))

 シロウ:こら、イリヤ。人をいじめるのはよくないぞ。(こつんと、頭を軽く小突き)

 イリヤ:むぅ。でも今のは士郎が悪かったのよ?

 シロウ:イリヤ。

 イリヤ:……ごめんなさい。

 凛:へー。向こうの衛宮君にはあんた頭上がらないんだ?(にやにや)

 エミヤ:凛、それ以上つっつくと、危険だ。やめておいたほうがいい。

 凛:…………。(じろじろ(エミヤの身体を上から下まで見))

 エミヤ:……何かね?

 凛:ちょっと、こっちきて、しゃがみなさい。

 エミヤ:……? ああ。(言われたとおりにする)

 セイバー:ふう、ご馳走様でした。(満足そうな微笑み)

 アーチャー:もう、いいのかね?

 セイバー:ええ、今夜は豪華な夕食と聞いていますからね。ふふ、これ以上食べればその愉しみも半減してしまいますから。

 凛:……。(セイバー、空気読みなさいよ)

 エミヤ:? 凛?

 凛:あなた、元男のくせに、随分と豊満な体しているのね?(耳元でぼそりと囁き)。

 エミヤ:……は?(固まり)

 凛:この胸とか、反則なんじゃない?(むにゅむにゅ(胸揉み))

 エミヤ:ひゃ……え? ちょ、こら、凛、やめないかっ。(本気でアセアセ)

 凛:ふふ、随分可愛いらしい声出すのねー?(いじめっ子スイッチオン(胸とか腰とか触りまくり))

 士郎:……///(思わず目をぱちくりさせながら顔赤面)

 シロウ:……遠坂って、百合趣味だったのか?(首かしげ)

 イリヤ:リ~ン? そこまでよ。それ以上するのなら、わたし許さないから。(魔術を発動する直前)

 エミヤ:……はぁ……はぁ(助かった……!)

 凛:はいはい。(エミヤの上から退き)うーん。でも惜しいわね。ねえ、そっちの筋肉達磨と交換(トレード)される気ない?

 エミヤ:散々人を弄んで言う台詞が、それか! たわけ!!(顔真っ赤で怒鳴り)

 士郎:いやいや……やっぱ……アイツと同じとかないだろ。

 シロウ:あいつ?

 士郎:アレと同じとか、嘘だろ。あいつと同じで、こんなイイ女になるわけがな……。(ダンッ!(という音と共に投影された包丁が飛んできて頬の横に突き刺さり))

 エミヤ:……ほう? 私が誰か知ってて「イイ女」だと? いい度胸だな、衛宮士郎? 何、そんな命知らずな言葉を吐いたのだ……三枚に下ろしても構わんのだろう?(にっこり)

 シロウ:シロねえ、落ち着け!! それくらいでそんなに激怒するなんてらしくないぞ! それに、シロねえがイイ女なのは、客観的な事実だって!(エミヤの腰を掴んで引き止め)

 エミヤ:ええい、離せ、シロウ! 知らない奴が言うのと、知っている奴が言うのが同じでたまるか! それと、どさくさに紛れてオマエまでイイ女とか言うんじゃない!!

 凛:あ、今やっとシロさんがアレと同じだって納得した。

 セイバー:そうですね。あれはアーチャーのキレた時の笑顔です。

 アーチャー:さて、私は夕食の仕込みでもしてくるか。(うきうきそわそわ)


 (エミヤ暴走中、10分ほどお待ちください)


 エミヤ:その……色々とすまなかった。

 イリヤ:いいの。あれはシロは悪くないわ。それに、暴走するシロは可愛かったわよ?(にこ)

 エミヤ:…………。

 凛:はいはい。その話はここで終わり。次、いきましょ。

 シロウ:そういえば、俺結構前から気になってたんだけど、これって俺たちの話の第四次聖杯戦争編完結記念企画なんだよな?

 イリヤ:それがどうしたの?

 シロウ:第四次聖杯戦争完結とかなんか関係なくないか?

 凛:凄く今更じゃない?

 セイバー:まあ、所詮はお祭り企画ですからね。(ズズッ(茶飲み))むむ、茶もきれてしまいました。

 エミヤ:ほら、セイバー。調度紅茶が入ったところだ。飲むがいい。

 セイバー:ありがとうございます、シロ(にっこり)

 エミヤ:///……別に、礼を言われるほどのことでもない。(不意打ち赤面(ぷい(顔を横に逸らし)))

 凛:うーん、和むわねえ。

 イリヤ:シロは可愛いものね。(にこにこ)

 士郎:……うーん……うーん。(ダウン中)

 シロウ:大丈夫か?

 イリヤ:シロウ、士郎は自業自得なんだから、ほっときなさい。

 シロウ:そういうわけにもいかないだろ。

 凛:そういえばあんた、士郎と同じくらいは動いていたはずなのに、元気そうね。

 アーチャー:うちの駄マスターとは違って、良い師がついているのだから、当然なのだろうな。(ひょこ(手を手ぬぐいで拭きながら登場))

 凛:って、あんたどこ行ってたのよ。

 アーチャー:夕食の仕込みだ。

 セイバー:夕食……。(じゅるり(思いを馳せてほわんと幸せそうな顔))

 凛:はいはい。話戻すわよ。つまり、アーチャー? 向こうの衛宮君は士郎よりも強いってこと?

 アーチャー:そうなるな。

 セイバー:ええ、それは間違いがないでしょう。最初のアーチャーと士郎の諍い、それを止めに入ったときの足運びや動き、我らサーヴァントには及びませんが、どれも素人とは呼べないほどには昇華されている。間違いなく、こちらの士郎の3倍……いえ、5倍は格が上だといえるでしょう。

 イリヤ:ええ、あたりよ。まあ、シロが教えているんだから当然よね。

 凛:で、師匠として、本当のところはどうなのよ?

 エミヤ:セイバーの言うとおりだよ。シロウの戦力値は、おそらくあっちの今気絶している小僧の5倍前後といったところだ。サーヴァントと戦えるほどではないが、それでもサーヴァントが来るまで時間を稼げるくらいには仕立て上げている。

 凛:へえー……。何々? 向こうの衛宮君に士郎は勝てないってこと。

 エミヤ:まあ、こっちの小僧のほうが勝っている部分もないわけではない。

 凛:と、いうと?

 エミヤ:あっちの小僧は「正義の料理人」とやらを目指しているのだろう。残念ながら、うちのシロウは普段から家事をやっているわけではなくてな……まあ、家事の腕ではとてもじゃないが、そっちの小僧には勝てないだろうな。

 凛:……なんていうか、それ微妙なんだけど。

 セイバー:むむ、それは由々しき問題ですね。シロウは家事が不得手なのですか。

 エミヤ:不得手というわけではないが……まあ、人間何に時間をかけてきたか、ということだ。あれの成長を見るたびに、塵も積もれば山となるという言葉の意味を実感せずにはおれんよ。

 イリヤ:別にシロウも家事が下手ってわけじゃないわ。家事代行サービス会社でバイトしているし。ただ、『衛宮士郎』の中では下手ってだけよ。

 アーチャー:……。(コペンハーゲンではないのか)

 凛:……あれ? もうこんな時間?

 イリヤ:んー……向こうの士郎はまだ眠っているみたいだけど、そろそろお別れにしましょうか。

 セイバー:夕食は食べていかないのですか? アーチャーが折角腕によりをかけて用意しているというのに。

 エミヤ:悪いがうちでは切嗣(じいさん)がまっているのでな。シロウ、帰るぞ。

 シロウ:え? こいつが目覚ますまでまたなくていいのか?

 エミヤ:どうせすぐに目を覚ます。長居しては迷惑だろう。それに……これ以上長引かせれば、爺さんがファーストフードを買い込んでいるかもしれん。台所を預かるものとしては、断じてそんなことは許せん。

 凛:そこまで、ファーストフードって目の仇にするものなのかしら?

 イリヤ:キリツグも困ったものよねー。あんなのの何が美味しいのかしら。

 凛:まあ、いいわ。最後だし、みんな一言ずつ読者にメッセージを送って終わりにしましょうか。

 セイバー:あなた方はこれから帰るとのことですから、あなた方からどうぞ、お先にメッセージをお納めください。

 エミヤ:あー……うん。その、なんだ、良い言葉は思いつかないが、いきなりの企画に付き合いこんなところまで読んでいただき、感謝する……でいいのか? まあ、その、第四次聖杯戦争編こそ完結したが、これからも「うっかり女エミヤさんの聖杯戦争」は続いていく。引き続き愛読していただけたら幸いだ。

 イリヤ:もう、シロったら難いんだから。わたしの出番も、シロウの出番もこれからが本番なんだから、みんなこれからもよろしくね。途中で切ったりしたら許さないんだから。

 シロウ:俺は第四次編のことはよくしらないけど、俺が出るっていう第五次聖杯戦争編のほうがメインだって話だし、伏線も色々回収していくらしいから、気になるんなら見たほうがいいんじゃないかと思うぞ。

 セイバー:僭越ながら私が。また、皆さんにお会い出来て光栄です。もう、出番などないものと思っていましたから、今日は思わぬ楽しい時間を得ることが出来ました。ここまで読んでくれた皆さんに感謝を。

 凛:そうね。もう出番なんてないと思ってたから……その、悪くはなかったわ。

 アーチャー:ふ……まさか、複数のエミヤシロウが集う場所に顔を出すことになるとは、思いもしなかったが……そうだな。案外、悪くはないものなのだな。また、セイバーに食事を振る舞うことが出来る日が来るとは思ってもみなかった。む、いや、こうしてみると「楽しかった」と形容してみてもいいのかもしれんな。……まあ、うちの駄マスターと再び顔をあわせるはめになったことを除けば、だが?

 凛:あんた、相変わらず素直じゃないわね。

 アーチャー:さて? なんのことやら。

 凛:士郎に最後までついていったクセによくいうわ、って感心しただけよ。

 イリヤ:それじゃあみんな、またねー。



 (3時間後)


 士郎:……は? ………………あれ? なんで誰もいないんだよーーー!!


 ……その後、少年の遠吠えが暫く控え室に響いたとかなんとか。


  おしまい。

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