新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
今回含めてあと4話終われば「束の間の休息編」は終了いたします。
というわけで、それぞれの日常編では後書きのほうで、キャラ紹介や第五次聖杯戦争編の予告漫画の再収録などしていきますので、宜しくお願いします。

PS、因みにレッドヒーローの伝説を作り上げ広めた犯人は某冬木の黒豹と恋愛探偵だ。


12.それぞれの日常 衛宮・S・アーチェ編

 

 

 

 side.エミヤ

 

 

 朝の4時半、夜明けと共に私は目覚める。

 まず始めに、洗濯機をまわし、屋敷中を音を立てないように掃除をする。余裕があれば草むしりや庭木の剪定もこの時済ます。

 それから、約20分ほど外へとランニングに出かけ、帰ってきたら手と顔を洗い、洗濯物を干し終えると、朝食と弁当の下ごしらえへと取り掛かる。

「おはよ、シロねえ」

 そうこうしているうちに士郎が目覚め、朝食の手伝いを申し込んでくるから、一品ほどおかずを任せ、残りの仕上げへとかかっていく。

「ふぁあ、士郎、シロおはよう」

 朝6時を過ぎると、眠そうな顔をしたイリヤが居間へとやってくる。

 高校3年にもなり、部活にも所属していないのだから本当はこんなに早く起きる必要はないだろうに、それでも切嗣より後に来るのは嫌らしく、出来る限り早起きを心がけているらしい。

 殊勝な心がけだ。

 といいたいところだが……あれは、父親への対抗心からきたところがでかいと見た。

 だが、まあ、それはあくまでイリヤと切嗣の問題だ。他者が横から口を出すのは野暮というものだろう。それに早起きは三文の徳ともいう。切欠は何にしろ、早起きは悪いことではない。

「おはよう。味見するかね?」

 そういって卵焼きを一切れつまんで差し出すと「うん、ありがとう」と微笑んで口にするあたりが、なんとも愛おしい。

「うん、美味しい」

 そういってにこにこと、イリヤは私と士郎のエプロン姿を眺めて大人しく朝食が出来上がるのを待っている。

 士郎とシロのエプロン姿を見るのが好きなのよ、と彼女が私達に告げたのは随分昔のことだ。

「おっはよ~~~~! うーん、今日もいい匂い! シロさん今日の朝ごはんな~に?」

 と、そんな風に朝食を作っていると、どたばたと忙しい足音と共に、元気な声が玄関から響いてきて、思わず苦笑する。

「今日は納豆と、豆腐とワカメの味噌汁、鯖の煮付けに、青菜のおひたしだ。ああ、自家製の胡瓜の浅漬けも出そう。楽しみにしてくれているのはありがたいがね、君も女性としての慎みをもってだな、廊下を走ったり叫ぶのはやめたまえ、大河」

「は~い」

 そうやってにこにこと答えるのは小さな子供……などではなく、れっきとした成人を迎えた大人だ。

 ……一応。

 そうやって無邪気に答えたのは、明るい茶髪のショートカットに、幼くさえ見えるだろう、知らぬ人間が見たならかわいいという感想をもってもおかしくない顔立ちをしており、虎柄の衣服を好んで身に着けている、元気な女性だ。名を藤村大河という。

 元々はこの衛宮の屋敷を管理していた藤村組の孫娘で、切嗣に懐いており、今では2日に1度は朝飯と夕食を一緒に囲んでいる。厳密には違うが、半同居人のようなものだ。

「おはよう。大河ちゃんは今日も元気だね」

 そういいながら、にこにこと入ってきた我が家の大黒柱たる衛宮切嗣(ちちおや)は、新聞を片手に定位置へと腰をかける。

「あ、切嗣さん、おはようございます」

 切嗣の出現を合図にするように、ぱっと、大河の顔が輝く。

 それにタイミングをあわせるように士郎の声が呆れたような響きを乗せて、じとりとした視線と共に大河へと向かって行く。

「藤ねえ、顔出すのはいいけど、たまには少しくらい手伝えよ」

 むっすりとした顔でそう声をかける士郎の手には、大皿が2枚のっている。

「何よ、やらないのはイリヤちゃんも同じじゃない。ふんっだ、そういうの贔屓っていうんだからね。全く、おねえちゃんは哀しいわ。すっかり士郎ったら生意気に育っちゃって」

「あら、それは大河が相手だからよ。士郎はわたしにはいつだって素直だわ。それに、二十歳を越えても祖父からお小遣いをもらっている大河とわたしを一緒にしないで欲しいんだけど? 頻繁に家に来て、シロの料理を平らげていくくせに、いい歳をした大人が食費すらいれないのはどうなのかしら? 食費を払わないというのなら、手伝いくらいして然るべきだと思うけど? それが嫌なら、諦めて実家で食べてきたらどう?」

 にっこりとした、これでもかってほど綺麗な笑顔で一息で告げられたイリヤの言い分に、大河は涙目だ。

「う、う、う、シロさ~~~ん」

 虎はがばりと、そのまま茶の用意をしていた私へと突進してきた。

 とりあえず、身動きできない状態で一言いわせてもらうとすれば……。

「……何故、私に抱きつく?」

 最初は切嗣目当てで、私を敵視すらしていたのも関わらず、気付けばいつの間にか私に懐いていた猛獣を前に、思わず途方にくれた声で呟いた。

 

 朝の7時半、学校へと出かける士郎とイリヤ、大河を見送った後食器を洗い、ゴミ出しへと出かける。

「おはよう、エミヤさん」

「ああ、おはようございます」

 近所の奥様達に話しかけられて、慇懃無礼にならない程度に笑みを浮かべて会話をかわす。

 ……本当はこういうのは苦手なのだが、近所づきあいを無視するわけにもいかないし、奥方達の情報網を甘く見るわけにもいかない。もしかしたら、ここでしか聞けない話もあるかもしれないので、会話にのる。

「そうだ、エミヤさんこの間は助かったわ。もう、買い換えるしかないかと諦めてたから……」

 そういって、つい先日、動かなくなったビデオデッキの相談を受け、修理したことについて思い起こす。

「機械の方が完全に壊れていたのなら修理しようがありませんが、あれくらいでしたら、なに、大したことじゃありませんよ」

「またまたそんなことをおっしゃって、素人目から見ても業者よりも手際がよくって凄かったですよ。エミヤさん、昔は修理屋に勤めていたりしたんじゃないんですか?」

「まさか」

 軽く首を振って返事とかえす。

「あたしは助かりましたけどね、でも本当にお礼はいいんですか? 少しくらい……」

「いや、結構。困った時はお互い様です。それに対価なら既に頂いていますから」

「え?」

 不思議そうに首をかしげる中年女性の様子を見て、口の端を知らず吊り上げる。

「貴女の笑顔ですよ。私への礼というのならあれで充分です」

 目の前の奥さんの顔が急に赤らむ。

「あらあら……まあまあ……」

 見れば、他の奥方達3人もどことなく照れたような顔をして私をじっと見ていた。

 ……む? 私はそれほどおかしなことを言っただろうか?

「エミヤさんって本当変わってるわねえ」

「エミヤさんが男の人だったら、わたし、絶対ファンになっていましたよ」

「ふふ、エミヤさん、今度はあたしの家の水道管のほう見てもらってかまいませんかね? なにせ最近調子が悪くて」

「ふむ……構いませんよ。いつ頃が都合がいいですか?」

 

 ゴミだしから帰ってきた後は、その時その時の予定に従って行動する。

 今日は、新都のヴェルデにあるレストランのひとつで、新人への研修指導を頼まれている。時間は二時間ほど。

 その後は深山町に戻り、マウント商店街の骨董屋で、真贋の見分けの鑑定の指導、商店街に戻り夕食の食材を買い込み、帰宅といった予定だ。

 いつ消えるかわからない身でもあるから、1つの仕事だけに従事することは殆どないが、それでも人として生きている限り先立つものは必要だ。

 故に、私の予定は毎日日替わりでめぐるましく変化しており、確実に確定しているのは火曜と木曜の週2回開いている料理教室くらいのものだが……頼まれ始めた時から約9年。そろそろ、潮時かと思っている。

 思っているのだが、想像以上に評判がいいせいで、中々やめるきっかけがないところが辛いところだ。

 とまあ、そんなことはおいておこう。

 そろそろ出る時間だ。

 指導を頼まれているといっても、特別な格好もいらない。必要なものは全部向こうが用意している。せいぜい買い物用のマイバックと財布があればそれでいいといったところだ。

切嗣(じいさん)

 眼鏡をかけて、かたかたとパソコンを操作している切嗣に声をかける。

「ん? 出るのかい?」

「ああ、今から出てくる。昼食は冷蔵庫の中にしまっておいたから、くれぐれも買い食いなどはしないようにな」

「はいはい」

 苦笑しながら答える切嗣だったが、はっきりいってこの人がこういう態度をとっているときはあまり信用がならないのだ。

「それと、出かける時はちゃんと戸締りをしてからいってくれ。爺さんに限って忘れたりしないだろうが、最近の貴方は注意力も散漫気味だからな。私の帰宅時間はそれほど遅くはならないだろうが……なんだ?」

 見れば、くすくすと切嗣は笑っていた。

「いやね、本当にシロはお母さんみたいだなって」

「誰が母親だ。誰が」

「この家の、だよ」

 それがあんまりにも穏やかそうな顔だから、怒るのも馬鹿らしくなってきて、思わず重いため息をつく。

「からかうのなら、他所でやりたまえ」

「そういうのじゃないんだけどな。まあ、シロは頑固だから仕方ないか」

 にこにこと笑う顔はどこまでも食えない。

 あと、頑固とはなんだ。

 アンタには言われたくないし、そもそも私が元は男だと知ってて何故母親に例える。

 嫌がらせとしか思えないのに、この人だけは結局私は憎めないように出来ているらしい。

 まあ、有体にいうならどうでもいいような気がしてきた。

 考えるだけで頭が痛いし、無駄だ。

 これを言ってきたのが士郎だったらもっと遠慮なく怒鳴れるというのに。

「シロ? 顔が怖いよ? 折角可愛いんだから、そんな顔をしていると勿体無いなあ」

「ああ、ったく。貴方は。ああ、もういい。伝えることは伝えたからな」

 ふい、と背中を向ける。

 今日は快晴だ。この調子だったら洗濯物は綺麗に乾きそうだ。

「……父さん、行ってきます」

「うん、シロ、いってらっしゃい」

 

 さてさて、頼まれていた件のレストランの新人への研修講師は無事に済み、さて、深山町へ向かうかと思った矢先……少しだけ困ったことになった。

(何故、こんなことに……)

 思わず呆れ混じりのため息が出そうだ。

「なあ、ねえちゃんちょっとくらいいいだろ?」

「何、もしかして日本語わかんない? ファック・ユーOK?」

「男ばっかりでかわいそーな俺たちと、たのしーことしようぜ?」

「そうそう。痛いことはしないからさ」

 1人で歩いていたのが原因か、気付けば6人ほどの柄の悪そうな、如何にも不良といった感じの男達にかこまれていた。というか、1人が最初話しかけてきたのだが、全くどこから這い出てきたのやら、無視していたらどんどん膨れ上がって6人になった。

 じっと、男達を見回す。

 どいつもこいつもにやけづらしてて、図体ばかりでかい青二才だ。大方、年中女の子をオトすことやらしか考えていないような連中なんだろう。

 あわせて男6人の言い分から判断するとするなら、私の肉体目当てで近づいてきたナンパ連中といったところか。というか、露骨すぎてそれ以外に受け取りようがないが。

 あまり嬉しくない現実ではあるが、現在の私は見た目も肉体も女だ。それも若い女だ。やつらの視線には、欲情交じりの下種びた色がのっている。

 げらげらへらへらした顔といい、どことなく慣れた動きといい、集団レイプなども経験がありそうな奴らだな、とあたりをつける。そういう空気を纏っている。どう見ても真っ当に「女の子とお付き合いする」というタイプではない。

 故に分析するなら、たとえ多少背が高くて近づきがたくとも、一人である私なら襲いやすいと見て声をかけてきたというところか。

 ……まあ、今は夜ではなく、昼間だからそこまであからさまなことはしでかさないだろうが。夜になるのをまてないほど、飢えているという可能性もある。

 だが……。

(……納得がいかない)

 何故、よりにもよって私をナンパする?

 私は別に着飾ってもいなければ、男の欲情をそそるような格好をしているわけでもない。

 黒いシャツに黒いスラックスという、凡そ年頃の『女』とは思えぬほど地味な格好だ。靴だって使い古しのスニーカーだし、外見年齢に似合わず化粧の一つもしていやいない。手にぶら下げている鞄だって、機能性を優先して作られた如何にも無骨なデザインだ。

 それでも、ライダーのような美女であればこのような格好でも声をかけられるのはわかるが、私は生憎そこまでの美形ではない。多分普通か、標準よりは多少見目が良いといった程度だ。

 だが……今までの約10年の月日を思い出してみても、声をかけられるのはこれが初めてではなかった。

 いや、わりと頻繁に声をかけられるほうでさえあるのかもしれない。

 一体、私の何に惹かれて声をかけてくるのやら、理解に苦しむ。

 それとも、女であれば後はどうでもいいのだろうか。

(……いいのだろうな。特にこの手の輩は)

 優越感に満ちた表情を浮かべていた奴らは、私が全く怯えも動揺も見せていないことに気付くと、苛立たしげに舌打ちをしてくる。つまり、奴らとしては怯えた女が好みだったということなんだろう。

 ……こんな連中に情けをかけるだけ無駄だろう。

 これは『女』を食い物にして悦ぶタイプの人間達だ。

 さてさて、ならば、世の女性達に被害がこれ以上出る前に、脅して、『女』への恐怖でも刷り込んでおくか。

「おい、なんとかいえよ」

 ぐいと、リーダー格らしきガタイの良い男が、私の肩を掴もうとしてきたので、そのままその腕をあらぬほうへと捻り上げる。それから流れるような動作で男を巴投げの要領で投げ飛ばした。

「失礼。急に触れてくるものでね、あまりにも驚いてつい手が出てしまった」

「て、てめえええ~~~!」

 永の年月で張り付いた、皮肉気な笑みを携えて、からかうような声音で言うと、男達はリーダー格の男が今あっという間に無力化されたことを忘れて逆上し、私へと襲い掛かってきた。

 ふん……やはり私には、こういう対処のほうが慣れている。

「このアマ、女の分際でいい気になるんじゃねえ!」

「腐れマ○コがッ!!」

「やれやれ、野卑な連中だ」

 右から来た拳をひらりと交わし、1人目の男の腹を蹴り上げて、次に自分にむかってきている男のほうへと飛ばす。2人目の男は、1人目の男にもろにぶつかって、そのまま一緒に転倒。

 その頃には私へとむかっていた、3人目の男と4人目の男の攻撃をひらりと交わして同士討ちをさせ、そのまま一緒に足払いをかけて仲良く倒れこませる。

 それらを見ていて萎縮している五人目の男は首の付け根に一撃、手刀を浴びせ気絶させた。

 残るは、最初に腕を捻りあげて投げ出しておいたリーダーらしき男1人。

 男は、今目の前で起きた10秒足らずの出来事を前に仰天し、腰を抜かしていた。

「さて……まだ、やるかね?」

 にっこりと、笑顔をおまけして意思を尋ねる。

「ア……あ、あ、あ、あんた……もしかして、あの伝説の……」

 ……む?

「冬木に現れたとかいう伝説の紅き女救世主(レッド・ヒーロー)……!」

 おい……唐突になんだ、そのやたらと恥ずかしいネーミングは。

「レッド・ヒーローだって……!?」

「あの、鬼のように強いって言う!? ヤクザにかちこみして勝ったこともあるとか、族を一晩で1つ壊滅させたとかいう噂の!?」

 ていうか、そんなに有名なのか、その恥ずかしいネーミングの伝説。

 そんなものがこの街にあったとは知らなかったな。

「白髪褐色の肌をした20代ぐらいの女だっていうんだから、間違いがねえ」

 ん……? 白髪褐色の肌だと……いくら外国人が多い街でもそんな容姿は1人いるかいないか……む?

 いや、まて……ひょっとしてその恥ずかしいネーミングの主の正体はオレ……なのか?

 寧ろオレ、確定!?

 ちょっとまて、何故私がそんな恥ずかしいネーミングの伝説持ちになっている!?

 いやいや、まてまて……ヤクザにかちこみなんてしたことなんてないぞ。

 せいぜい藤村の爺さんへの鉄砲玉を取り押さえたこととか、夜の巡回の時に、女性に無体を働いていた輩30名くらいをとっちめて、匿名で警察に突き出したことがあるくらいで……あれ……? 話を総合して考えるに、もしやあいつらが族だったのか? そういえば、バイクを全員所持していたような……。

 男達はこわばった眼でオレを見ている。

 く、そんな目で見るな。マジなのか。その恥ずかしい名前の人物はオレなのか。

 ていうか、伝説とはなんだ、伝説とは。

 おかしい……オレは平穏に暮らしている。そのはずだ。目立たないように、普通の人間のように……。

 そう、余計なものに目をつけられたりしないように、士郎とイリヤが普通の生活を維持できるように……そう、してきた……筈……だよな?

 思わず、冷や汗がだらだらと流れる。

「そんな化け物相手に勝てるわけがねえ」

「すみませんっしたー! もう二度と声かけませんから、金潰しだけは勘弁してください!!」

「あ、おいっ」

 ぴゅーっと、逃げ足だけは速く、気絶した男も拾って、蜘蛛の子を散らすようにナンパしてきた男達は去っていった。

 もう少し詳細についてその……れっどひーろーとやらについて聞きたかったんだが……、同時に詳しいことを聞くのも怖く、つい逃してしまった。

(しかし、あれだ……)

 金潰しってなにさ……。

 いや、本当、オレどんな伝説仕立て上げられているんだろう。

 

 と、まあ、今日は予想外のハプニングがあったが、仕事に私情を持ち込むほどは私は落ちていない。マウント商店街の骨董屋で、頼まれていた仕事を済ませ、礼金を手にして商店街の町並みを歩く。

 現時刻は3時半。買い物をする予定だが、それだけで帰るには大分時間がある。

 ふむ、そうだな……1週間ぶりに凛のところに今日は顔を出すか。と決め、買い物を済ませるなり彼女の家に向かって歩き出す。

 確か、最近は実験で家に篭りがちなはずだし、今日この時刻ならそろそろ凛は帰宅している頃合いだ。

(全く、少しは息抜きをしろというのに)

 まあ、私の言うことを素直にきく凛というのも、なんだか気持ちが悪いのだが。

 そうこうしているうちに遠坂の、丘の上の洋館へと辿り着く。

 コンコン、とノック。

 凛は若くても優秀な魔術師だ。誰か来たならそれに気づかないはずがない。

「凛、私だ」

『何、またあんた? わたしが最近忙しいって、あんた知ってるでしょ』

 億劫そうな声が魔術で反響して届く。

「全く、つれないな。根をつめすぎるのも悪いと思ってね。食事を作る時間も惜しいだろう君にかわり、夕食を作りに来たというのに……全く、昔なじみに少しくらい優しくしてくれてもバチがあたらんとは思わないのか?」

『……別に頼んだことなんてないでしょ。でも、まあ、いいわ。あんたが作るっていうなら食べる。入って。でも前から言ってるけど、余計なところに入ったら殺すから』

「重々承知している。私が入るのは、居間と食堂と台所だけというのだろう。他人の魔術師の工房に土足で踏み入るほど、私は無作法者ではない」

『どうだか』

 返ってきた声には少しだけ苦笑が混じっている。

 どうやら、いつもの調子を少し取り戻したらしい。

 そんな今の凛の顔を想像してみる。きっと意地悪げな表情を浮かべているんだろう。だけど、それがどうしようもなく、らしいと思って思わず頬がゆるむあたり、私も大概大馬鹿者だな。

「さて、と」

 とん、と追加で買った材料と、冷蔵庫の中身を見比べる。

「作るか」

 

「あんた、相変わらず料理上手ね」

 凛に出した今夜の夕食メニューは、ビーフストロガノフと、半熟卵のサラダ、胃にもたれないあっさりしたコンソメスープに、食後には蜂蜜を少し混ぜたヨーグルト。凛はあまり食べるほうではないから、量はそれなりに調整をしている。

「それは、褒め言葉と受け取っておこう」

「ええ、文句なしの褒め言葉よ」

 ぶっきらぼうな口調だけれど、凛は本当に味わって、じっくり咀嚼しながら、少しばかり早い夕食を楽しんでいる。その姿を見ていると思わず頬がほころぶ。

 同時に、年齢があの時の『彼女』と近づいていることもあり、己の師匠だった存在ではなく、かつてマスターだった少女と出会ったその日のことを思い出す。

 サーヴァントの召喚に失敗しながら、絶対服従なんて無茶な真似をして、片づけを命じた彼女に自分が放った第一声は「地獄に落ちろ、マスター」だったか。その翌日、疲労していた彼女に差し出した紅茶を、彼女は本当に美味しそうに飲んでいた。

 この凛とあの彼女は違うことはわかっている。それでも、仕方ない。

 同じ顔、同じ魂、同じ容姿の限りなく同一に近い存在が、あの時と同じ顔をして私の料理を口にしているのだ。

 これで感傷に浸るなというほうが無茶だろう。

「あんたは、食べないの?」

「ああ……家に帰ったら、家族の分の食事もつくらねばならないからな」

「ふーん、そう」

 そういう彼女の顔は、ほんの少しだけ複雑そうな色を乗せていた。

 凛は、1人暮らしだ。

 この広い洋館で、家族が亡くなってからずっと1人で暮らしている。

 彼女が両親を亡くした彼の戦いから10年、凛にとって家族というものとは無縁になって久しい。

 以前、一度だけ言ってみたことがある。

『家に一度来てみないか?』

 その時凛は、実にあっさりした声と顔で言ってのけた。

『遠慮しておく。他人の家族にわって入るほどわたしは無粋じゃないの。それに、わかってるんでしょ。わたしは魔術師よ』

 それは独りが当たり前だ、と言ったも同然な言葉だったが、その言葉に悲痛さなどどこにもなく、改めて私は遠坂凛という人間の強さを実感したものだ。

「ねえ、アーチェ、そんなにわたしの顔見てるの楽しい?」

 その言葉に意識を目の前の凛に戻す。

 凛は上品な仕草で私が入れた食後の紅茶を口にしている。

「そうだな。君が満足そうに私の作った料理を食べている様は、見ていて気持ちのいいものだ」

「ふーん……」

 凛は、ちょっと肩を竦めながら視線を斜め下におとす。

「ねえ、今度の日曜、アンタ開いてる?」

「……いきなりだな、私の予定など聞いてどうする?」

「いいから、答える」

 はきはきした少女の声に、思わず苦笑する。

「そうだな。開けようと思えば開けられる」

「そう、じゃあ、駅前に11時」

 それは、なにか。私と出かけるという意味か?

「凛?」

「等価交換よ。確かに一度も私から料理も掃除も頼んだことはないけど、貰いっぱなしじゃ気がすまないわ」

 ああ、本当に君は……。

「とはいっても、それでは私のほうが借りが多いことになるのではないかね? 冬木のセカンドオーナーに我が家が魔術師一家であることを黙認して、見逃してもらっている恩を考えれば、私のしていることなどたいしたことではないだろう?」

「……ああ、もう、煩い。このわたしが貸しだと感じているんだから、ちょっとは素直に受け取りなさいよ、この男女の捻くれ者」

 じろりと、凡そ学校ではとてもじゃないが見せられないような形相をして、ミスパーフェクトの異名をもつ少女は私をにらみつけた。

「それともなに? 私の隣の歩くのはそんなに嫌?」

 そういう顔には、先ほどまでなかった不安が少し隠れていた。

「いや……」

 彼女の食器を片付けながら、自分でも10年前は考えられなかったほどの穏やかな声音で本音を押し出した。

「君の隣を歩けるのは、私にとって何よりも光栄だよ」

 

 夜6時、急ぎ足で残りの買い物を終えて帰宅をする。

「シロ、おかえり」

 玄関では切嗣がにこにことした笑みを浮かべて私を出迎えた。

 慣れなかった筈なのに、いつしか当たり前になった光景。

「ただいま」

 こんなやりとりに自分はすっかり成れ、安堵さえ覚えている。

 それが不思議でしょうがない。

「シロ、おかえりっ。桜、きているわよ。ねえ、今夜の夕食は何にするの?」

 そういって、甘えるように笑いながら私の腕を取り上目遣いで覗き込んでくるイリヤは、もう高校3年にもなるというのに、昔から変わらず愛らしい。

「ああ、ただいま、イリヤ。そうだな。桜は洋食のほうが得意だから、今日は洋食にしようかと思っている」

「ふふ、楽しみにまってるわね」

 いいながら、弾むように白銀の髪を揺らしてイリヤは私から買い物袋を預かり、廊下を共に歩く。

 すると居間で「おー、シロねえ、おかえり。桜さっきからずっとまってるぞ。どこか寄り道してきたのか?」と、人数分の茶を出している士郎がそんなことをいう。

「まあ、そんなところだ。……ただいま」

「おかえりなさい、シロさん」

 顔に似合ったおしとやかな声が、静かに響く。桜は愛用のエプロンを身に着けて、まっていた。

「ああ、ただいま。すまなかったな、遅くなった」

「いえ、私も少し前にきたばかりですから」

 そういって控えめに桜は微笑む。

 そんな桜の声を聞きながら手早く手を洗い、私も愛用の赤いエプロンを身に着ける。

「今夜はどうします?」

「洋食で纏めようとは思うが……そうだな、桜は何がいいと思う?」

 逆に問いを放つ。

「私、ですか?」

 おそらくそう返されるとは思っていなかったのだろう。きょとんと、桜が首をかしげた。

「そうだな、今日の課題だ。鳥胸肉をメインディッシュにするとしたら、今夜の夕食には何が良いか、考えなさい」

「えっと、そうですね。あ、先日藤村先生に新鮮なトマトをいただいてましたから、鳥のトマト煮込みでどうでしょう?」

「ふむ、ならば他の付け合わせはあっさりとしたものがよかろう」

「はい、そうですね。なら……」

 そんな感じで、桜との夕食作りは始まった。

 桜が私の元に料理の弟子として通うようになったのは、今から2~3年ほど前だ。その頃はおにぎりすらマトモに作れなかったというのに、今では間違いなく料理上手と呼んでいいほどに成長したことについては、感慨深いものがある。

 

「ふう、ごちそうさまでした」

 今日は虎が来なかった分、全体的に静かで落ち着いた食卓になったと、食後の茶を配りながら思う。

「しっかし、桜料理うまくなったなー」

「本当、本当。とくに肉料理は思わず感心しちゃうくらいだわ」

「桜ちゃんは、きっといいお嫁さんになるよ」

 そんな衛宮一家全員の賛美を前に、桜の顔は真っ赤だ。

「そんな……シロさんの指導がいいからですよ」

「いや、そんな謙遜をすることもない。君が努力してきた、その結果だ。もう数年もすれば、洋食方面では私を抜くだろうさ」

 ぽん、と頭を撫でながらいうと、桜は、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに「ありがとうございます」とそう言った。

「でも、シロねえ、桜ばっかりじゃなく、たまには俺にも料理の稽古つけてくれよ」

「ほう? どういう風の吹き回しだ? 私の駄目出しをあれほど恐れていたオマエの言葉とも思えんな」

 からかうように言うと、士郎は、うっと声をつまらせて思わず視線を彷徨わせる。

 それに、ちょっと意外なくらい強めの声で、桜が言葉を発した。

「そんなの駄目です。士郎先輩は男の人なんですから、料理なんて出来なくてもいいんです」

「あら? それって性差別よ? 桜。今は男でも出来て当然の時代なんだから」

 ふふん、と愉快気に答えたのは、白銀の小悪魔だ。

「それとも何? 桜は、士郎が料理できないでほしい理由でもあるの?」

 意地悪げに全部わかっていてわざと聞いてくるイリヤの様子に、桜は顔を真っ赤にそめてたじたじになる。

「そ、それは……」

「な~んてね。ふふ、桜、おもしろい顔をしているわよ? 貴女はもう少し表情に出さない術身に着けないと駄目ね」

「もう、イリヤ先輩ったら。からかわないでください」

「ふふ、ごめんね、桜。好きよ」

 そんな少女2人の姿に思わず和んだ。

 この2人は正反対のようでいて、案外仲がいいのだ。

 と、時計を見る。

 時刻は夜の8時を過ぎたところだった。

「と、桜ちゃん、そろそろ君は家に帰ったほうがいいと思うよ」

 爺さんのその言葉を聞いて、桜ははっとした顔をした。

「そうですね。じゃあ、私、そろそろ失礼します」

「士郎、送ってあげなさい」

「あいよ」

「え、先輩、いいですいいです。わざわざそこまでしなくても」

 その士郎の返答に、桜は慌てたような声で言う。

「よくないよ。女の子に夜道を歩かせるわけにはいかないからね」

 とは、切嗣の談。

「そうよ、桜。こういう好意はありがたく頂戴するのが、レディの礼儀よ」

 そのイリヤの言葉が決定稿になったようだ。

「……ええと、それじゃあ、先輩、よろしくお願いします」

 そういって、ぺこりを頭を下げる桜。

 それを前に、士郎は本当に明るい笑顔を浮かべて、手を差し出す。

「何、こんなでも鍛えてるからな。そんじょそこらのやつに負ける気はないから安心していいぞ」

 桜の心配をどうやらずれて認識していたらしい。

「ええ、頼りにしています」

 そういって笑う彼女の顔は、本当に華やかだった。

 ただ……。

「いってらっしゃい。士郎……送り狼になっちゃ駄目よ?」

 というイリヤの台詞が、なんとなく場をかき乱したりしたわけだが。

 

 風呂から上がり、髪をかわかした後、切嗣(じいさん)が取り込んでいた洗濯物にアイロンをかける。

「シロねえ、あがった」

 そうやって家事を順次片付けていると、がらりと戸を開けて、ガシガシとタオルで頭を拭いているいまだ濡れ髪の士郎が居間へと現れた。

「イリヤと、切嗣《じいさん》は?」

「もう、二人とも『土蔵』に入った」

「そうか。では、いくぞ」

 ぱきり、そんな音が聞こえた錯覚が襲う。

 夜の10時。この家の結界は受け入れるものから、魔術を包むものへと変化する。

 日付が変わるまでの約2時間、ここは暫し異界となる。

 士郎と2人連れ立って、道場へと足を踏み入れる。ここが私と士郎の修練場だ。

「さあ、オマエの今の力を見せてみろ」

 すっと、士郎が手を構える。

「…………投影開始(トレース・オン)

 

 士郎に魔術と剣、そして生きていく戦術や戦略などを教えるようになったのは、この家に住むようになってから1年目のことだった。

 私と切嗣が第四次聖杯戦争の10年後にはじまる第五次聖杯戦争と関わる事を決めたのはかなりの初期だ。

 その時、私と切嗣にとって問題だったのは、この世界のイリヤと士郎のことだった。

 聖杯戦争に関わるということは、家族であるこの2人もまた危険に晒すということだ。

 聖杯戦争中も家族と暮らすなど、人質として狙ってくださいというも当然だし、それに、あの時私も切嗣もあまりにも弱体化していた。

 そう、聖杯戦争に関わりながら、2人を守りきる自信なんて双方共になかったのだ。

 だから、これは賭けだった。

 10年後の聖杯戦争で生き延びさせることだけを目的に2人に魔術を教える。

 だが、それも本人の意思を確かめた上でのこと。

 決して「英霊エミヤ(わたし)」の如き存在にはならないと確信が持ててこそ、初めて行えることだ。

 魔術師になるか否か、そのテストを施した末に結論する。そして、その上で一般人として生きさせる場合は、聖杯戦争がおきる時期になれば、本人がどれほど嫌がろうと問答無用で海外へと逃がして、決して期間中は帰ってこないようにする。それが予め切嗣と話し合い、決めていた結論だ。

 そして、その賭けで士郎は、勝った。

 魔術師ではなく、魔術使いになる。けれど、その時答えた士郎の答えは、本質的に生前、衛宮士郎と呼ばれていた時代の私が出した答えとは違うものだったのだ。

 だから、私はその時、士郎に本物の聖剣の鞘を埋め込んだのだ。

 私の属性と起源は『剣』だ。

 だが、その属性が培われたのはアヴァロンが体内にあったからだし、元より私に魔術の才能などない。その辺については並行世界の同一存在である士郎もそれは一緒だろう。

 ならば、同じもの以外果たして私に何が教えられる。

 何を残してやれるというんだ。

 本当は、アヴァロンを埋め込むこと自体危険な賭けだと知っていた。

 既に幼くして私と道を違えた存在なれど、元は同一人物である以上、私と同じ道を辿る可能性を増やすようなものだからだ。

 でも……。

 この世界の士郎は、やっぱり私にはならないのだろうとそう思うのだ。

 この世界の士郎は、私と違って壊れてなどいない。

 歪むこともなく成長し、あどけなく笑う事が出来る無邪気な少年だ。

 だからきっと、同じにはならない。

 それは、それも一つの救いだった。

 私と同じ道を辿るのは私だけでいい。私だけど(オレ)じゃない。だからこそ私はこの『衛宮士郎』に安心する。

 けれど、アヴァロンを埋め込んだ士郎はやはり、産まれ持った能力自体は私と基本的に同じなのだ。

 その力をどう伸ばしていくのか考えるのは、思ったよりもずっと充足を覚える行為だった。

 士郎は、私から魔術も剣も学んでどんどん強くなっていった。それは、過去の私とは全く別の過程。衛宮士郎にはこんなにも可能性が残されていたのか、と驚愕と感心、愛おしささえ感じた。

 それはきっと、この衛宮士郎が、かつて自分が「為ったかもしれない」存在であれど、どこまでも異なる別人であると知っているからこそなのかもしれない。

 

「こんなものがオマエの実力か?」

「ッ、まだまだ」

「基本骨子が甘い!そら、幻想が崩れるぞっ」

「くそ、投影開始(トレース・オン)!」

 互いに投影魔術で剣を作り出しながら、討ち合いを続ける。

 はあはあと息切れをする士郎は、それでもその琥珀色の瞳にいまだ闘志を漲らせている。

「ッ」

「そら、足元ががら空きだ。足元をおろそかにするな。油断をするな。全身を目にしろ。敵がどう動くのか幾千ものシミュレートをたたき出せ。格上の相手に勝つ方法を考えて考えて考え抜け。勝てないのなら勝つ方法を用意しろ」

 返事をする余裕は既にない。だが、どんな攻撃を喰らわせようとも、士郎はもう目を閉じたりなどしない。

 士郎は強い。弱体化した私にすら及ばぬ始末とはいえ、年齢を考えれば充分すぎるほど強くなった。

 人間は英霊に勝てない。だけど、おそらくは今の実力なら、サーヴァントに一撃では殺されずに、なんとか助けを呼ぶ間ぐらいは持つくらいには強くなっただろう。

「うああアアアッ……!」

 気迫の声をあげる。そして踏む込んできた少年を私は真っ向から受け止めた。

「来い、士郎ッ」

 

 そうして夜が更ける。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 おまけ、「オマエに言われたくない」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




 第五次聖杯戦争編・登場人物プロフィール


 衛宮一家編。

 
【挿絵表示】


         

【名前】 衛宮・(シロウ)・アーチェ
【性別】 女性(本人は内心否定したい)
【身長・体重】174cm58kg
【スリーサイズ】B93W61H91
【備考】
 原作UBWルートにて、過去の自分に答えを貰い、そのまま何故か連続で座に戻る事もなく、第四次聖杯戦争に参加した並行世界の養父・衛宮切嗣に呼び出された英霊エミヤシロウその人。
 ……だが、切嗣に呼び出された時点でうっかりの呪いを受けていたり、女性体になっていたり、途中で髪の毛が普通の人間のようにのびる体質に変わってしまったり、おまけに聖杯の泥を浴びて受肉してしまったり数奇な運命を歩んでいる、この話の主人公。
 物語のヒロイン兼ヒーローであり、ヒロインポジションにいると思ったら突如ヒーローポジションに戻ったり、やっぱりヒロインポジションになったりと、とても忙しい人である。
 聖杯の泥の影響で受肉はしてはいるものの、英霊全盛期の2割くらいに能力が落ち込んでおり、魔力の消費を抑えるために普通の人間のように食事や睡眠も取る。
 また、特別性の髪留めをしており、大気中の魔力を少しずつ集めることや貯蔵することが出来る。右手小指に嵌めている指輪は魔力封じの一種で、これによって彼女の魔力量や気配は並みの人間~普通の魔術師程度に抑えられている上、気配も人間そのものに偽装されている。以上、諸々によって指輪が壊されない限り、元英霊だとはまず気付かれない。
 彼女が元英霊だと知っているのは、髪留めと指輪の提供者である蒼崎橙子と、養父の衛宮切嗣、姉で妹のイリヤスフィール、第四次聖杯戦争に参加していた言峰綺礼、蟲を通して全てを見ていた間桐臓硯、生き残り今はロンドンでエルメロイ二世として教鞭を執っているウェイバー・ベルベット、アインツベルンのアハト翁くらいなものである。あと舞弥さん。
 今は一応人間ということにして、ひっそりと暮らそうとしているのだが、気付いたら冬木の伝説的存在になっており、本人もそこは納得いっていないらしい。あと、火曜と木曜の週2回奥様方たってのお願いで料理教室を開いている。評判はいい。仕事は頼まれたらほいほいやってるので定まらない。
 自分が今女性であることについては大分受け入れられるようになってきているが、完全に女性物の衣服を着るのは凄く嫌。あと、男にナンパされるのは個人的に納得いかない。基本的に老若男女、動物にも好かれる。本人が望む形とは限らないが。
 衛宮家を仕切っており、実質みんなのオカン的存在になっているのだが、本人にそのことを指摘すると怒る。士郎の魔術と剣の師匠でもある。偽名のアーチェは、アーチェリー(洋弓)をもじったものであり、その名前で呼ぶ人間は実質1人しかいなかったりする。
 偽造戸籍上の年齢は第五次聖杯戦争開始時点で28歳。が、英霊なので10年経っても外見年齢は変わっておらず、見た目は20代中盤ぐらいである。


【名前】 衛宮 士郎
【性別】 男性
【身長・体重】167cm58kg
【備考】
 やっぱり衛宮家に引き取られて育った原作の主人公にして、この物語の準主人公。
 原作同様、穂群原学園2年C組に在籍しており、弓道部では現在幽霊部員状態。むしろ半マネージャー。
 穂群原のブラウニーになりかけているが、原作と違って人間的には壊れてはいないし、正義の味方の呪いを受けてもいない。だが、多くの人の役に立ちたいという思いだけはゆるぎなく、強く心にもっている。
 アーチェとイリヤという2人の義姉がいるが、アーチェが自分と同一の起源をもつ存在だとは夢にも思っておらず、普段はアーチェのことは「シロねえ」と呼んでいるが、時々うっかり「母さん」と呼んでしまっては怒られている。
 だって姉というよりオカンっぽいから、仕方ない。
 アーチェには憧れ尊敬を覚えている反面、時々発動するうっかりや、自己犠牲を厭わぬそのあり方には危ういものを感じており、強いことは知っていても、寧ろ完全に守護対象なイリヤよりもアーチェのほうを心配してたりする。
 あと、無報酬で士郎が生徒会の雑用とか引き受けた日にはイリヤが報酬を受け取りにいったりするので、士郎は頼まれごとをするとき、何かしら相手から報酬を貰うようにしているらしい。まあ、ジュース一本とかそんな感じだが。
 本来第四次聖杯戦争後に衛宮士郎が持つ筈だったその辺の歪みは、大分イリヤの頑張りとアーチェという反面教師によって修正されている。
 それでも、正義の味方に対する漠然とした憧れは今も胸にある。
 原作と違って、アーチェに主夫として活動の場を奪われているためか、バイト先は「コペンハーゲン」ではなく、週二回派遣の形で家事代行サービス会社に所属して働いていたりする。んでもって、時々アーチェがどれくらい士郎の家事の腕が上がったのか確認したりしてる。頑張れ未来の家政夫。
 引き取られて1年後からの9年間、元来同一の魂を持つアーチェに剣と魔術を師事してきた為、剣と魔術に関しては原作開始時点の士郎よりもずっと格上。
 だが、毎日調理や家事をしてない分、家事スキルは要領がいいだけで、原作士郎よりもずっと格下だったりする。
 魔力殺しのバンドをしているのと、普通魔術の跡継ぎは一人だけとされる魔術師の常識が故に、完全に一般人と周囲には思われている。
 衛宮士郎であるにも関わらず、幸運値がB~Cくらいあったりするので、基本あまり危険な目に合わない。


【名前】 衛宮 イリヤスフィール
【性別】 女性
【身長・体重】157cm45kg
【スリーサイズ】B83W56H84
【備考】
 士郎の義姉であり、アーチェの戸籍上の義妹である。
 私立穂群原学園3年B組に在籍、元生徒会長。
 魔術師殺し衛宮切嗣と、アインツベルンのホムンクルス、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとの間に生まれた、半分ホムンクルスで半分人間という奇跡みたいな存在だった。
 ただし、今の彼女の肉体は人形遣い蒼崎橙子が作った人形体であり、彼女本来の肉体は報酬として蒼崎橙子にもっていかれている。
 彼女本来の身体は、冬木の聖杯の器になるために生まれる前から調整を施されており、そのせいで外見は第二次成長期前の姿でストップしたまま成長することもなく、また、第五次聖杯戦争の小聖杯が故に長く生きることが出来ない運命を背負っていた筈だったが、蒼崎の人形の体に移ることによってそれらの問題は解決した。
 ただし、元の体ほどの膨大な魔力貯蔵量もまた、今の体に移ることによって失われており、今の彼女の魔力量は遠坂凛よりも少し下といったところである。それでも並の魔術師よりは優れているが。
 原作と違って幼い姿ではないためか、10年共に家族として暮らしているからか、士郎を「お兄ちゃん」と呼んだりしないかわりに、よく姉ぶる。
 だが、根本的な性格はあんまり変わっておらず、大河をよくからかったり、士郎大好きスキンシップ大好きだったり、時々誘惑してきたりなんかもする。
 アーチェのことは「シロ」と呼んでおり、彼女に対してもわりと姉ぶる。んでもって、士郎と同一の起源だった存在であることをしっかり認識している。
 だが、元男だと知っていても、あまり気にしていない。
 むしろ、今は女の子なんだから、と内心彼女に可愛い服を着せたくてたまらない。
 拒否られるのはわかっているので、自分の誕生日の時にここぞと着せ替え人形になってもらっている。シロもシロウも自分のもの! と唯我独尊なお姫様であり、実質この物語の第二のヒロインであるといっていい存在。
 どうでもいいが、実の父親である切嗣には冷たい。でも、魔術の師として接している時の切嗣は嫌いじゃないらしい。
 学校での彼女は遠坂凛に並ぶ穂群原二大アイドルの1人で、「雪の妖精」の名で慕われている。現生徒会長の一成は士郎にべたべたしすぎで面白くないので、2人が話をしているとよく割り込みに入る。


【名前】 衛宮 切嗣
【性別】 男性
【身長・体重】175cm67kg
【備考】
 衛宮家の大黒柱。イリヤの実父で、アーチェと士郎の養父。そして、アーチェのマスター。
 10年前、聖杯の泥をかぶり呪いを受けたため、魔術師としての能力はかなり弱体化している。
 だが、原作と違ってアーチェが投影した全て遠き理想郷(アヴァロン)の真名開放によってある程度呪いを浄化したため、未だ存命中。
 とはいえ、呪いの汚染が消えたわけではなく、第五次聖杯戦争開始時点で余命1年を宣告されている。
 そのことを知っているのはアーチェとイリヤ、右腕である舞弥、その体を診た蒼崎橙子くらいのもの。
 戦いが終わって以来、すっかり子煩悩の駄目親父と化している。
 アーチェが士郎と同一の存在で本来は男だと知っていても、その扱いは「娘」。人間、第一印象の影響を受ける生き物だからその辺は仕方ない。アーチェが娘ではなく自分の妻か恋人だと誤解されても、寧ろ嬉しそうにデレデレする。んで怒られる。
 アーチェのことはイリヤと同じく「シロ」と呼んでいる。
 衛宮家に通ってくる間桐桜のことは「桜ちゃん」と呼んで一見可愛がっているけど、実は衛宮家で一番桜を警戒しているのはこの男。蟲とか入ってきたらコロす。
 やっぱり女の子に甘く、だらしない。
 士郎のことも可愛がっているが、元が同一の存在かつ英霊であるアーチェよりは厳し目に接していたり。その辺は性別の差? 息子と認めているからですよ。寧ろ、アーチェ的には「息子」ではなく「娘」にカテゴライズされていることのほうが余程理不尽に感じるようです。
 正義の味方という夢に破れた男としては、子供達が幸せになってくれることを、何よりも望んでいる。それだけが唯一の願いである。

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