新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完) 作:EKAWARI
今回の話はあるキャラが大変な目に合っちゃうYO回です。
ではどうぞ。
諦めてきました。
全てあきらめて、心を閉じればどんな苦痛だっていつしか通り過ぎていくから。
だから、諦めて生きてきました。
深く、深く、心を閉じて。
希望なんて最初から抱かなければ、そうしたらこれ以上傷つかずにすむのだから。
そうしながら時折思い出す。
ボロボロで、非力で、その癖おじいさまに逆らっては、ズタズタのぼろ雑巾のようになっていった雁夜おじさん。
出来もしない夢物語を口にして、ある日出て行ったおじさん。
帰ってくることは無かったけれど、きっと死んだんだと思う。
それがおじいさまに逆らった代償、その先の結末。
あんな風にはなりたくないと、諦めてわたしはこれからも生きていくんだとそう思っていた。
それが変わったのはいつだったんだろう。
きっと、あの人に出会ったから。
ずっと諦める事しか知らなかったわたしには、諦めるということを知らないかのように前を見ているその姿が、凄く眩しく見えた。
あまりにわたしとは正反対で、真っ直ぐすぎて馬鹿みたいだと思うのに、なのにそれが凄く綺麗だなと思えたんです。
イリヤ先輩と紛らわしいからと、下の名前で呼んでいいと言われたときは本当にくすぐったくて、うれしかった。
裏表の無い笑顔で、名前を呼ばれる瞬間が凄く好きだった。
先輩、大好きな○○先輩。
結ばれることが無理だとしても、貴方の傍にいることだけは許されたかった。
ね、先輩。
どうしてでしょうね。
あんなに大好きだったのに、貴方の名前が思い出せない。
餌
side.遠坂凛
「全く、どうなっているのよ」
いつもの自宅、いつもの居間でわたしはどかりとソファーに座りながら、苛立ち混じりの声を上げた。
「あんなの、普通じゃないわ」
思い出すのは、柳洞寺で鉢合わせをした黒い異常な影のこと。
あの時出会ったアーチェのやつの知り合いらしき女性、舞弥さんのことも気にならないわけではないけれど、あの後出会った異常である、あの黒ウィンナーみたいな影に比べたらそんなこと些細な問題とすら言えた。
「で、どうする? 凛」
ふと、霊体から実体に切り替えたアーチャーがすぐ隣に立ってそんな言葉を口にした。
「アレを追うか。それとも……」
そこでわたしの顔を試すように眺めながら、赤い外套の男は言葉を1度切った。
当然、その言には学校に張られた結界の件が含まれている事ぐらいはっきり明言されていなくてもわかっている。
つまり、どちらを優先するのかとこいつは聞いているのだ。
「どちらもよ」
きっぱりとそう口にして、方針を固めた。
「昼は学校の件に対処、夜はあの影を追う。あの影の正体についてはもっと調べたほうがいいとは思うけれど、だからといって野放しには出来ないわ」
遠まわしに、放っておけば人死にが出るのだと、そう口にしてわたしはアーチャーの顔を真っ直ぐに見た。
「やれやれ……二兎追うものは一兎も得ずというぞ。それで本当にいいのかね?」
口調自体は皮肉がかっているけれど、その鋼色の瞳にはわたしを心配する色がある。
おそらくは、昼も夜もどちらも動くというわたしに対して、疲弊することを心配しているのだ。
それがわかっていても、わたしはだからこそいつもどおりに憎まれ口を叩く。
「何よ、アーチャー。アンタ、自信ないの?」
口元に笑みを浮かべて、挑発するようにちらりと見上げる。
それに対してアーチャーは「まさか」と口にして、こちらも皮肉った微笑を浮かべながら、極いつも通りの口調で次のようなことを言ってのけた。
「先ほどはああはいったが、私も君の方針には概ね賛成だ。私がついているのだ、余計な露は私が払おう。君は大船にのったつもりで、やるべきことだけを見ていればいい」
くつ、と笑い、横目でわたしを見るアーチャーは、それだけの言葉じゃ足りないと思ったのか、更に続ける。
「それに、言っただろう? 君は最強のマスターだ。そして、そんな君に召喚された私が最強でないはずが無い。誰が相手であろうと、勝利して見せるさ」
わたしの
まるで少年みたいな笑みを浮かべて、そんな普通なら赤面しかねない言葉を吐いているけれど、それはきっと自分の力に自信があるからとかそれだけじゃなくて、わかり辛いけれど、きっとこいつはわたしを安心させたくてこんな言葉を口にしたのだろうとそう思い、そうやってこいつの本心に思い至ったと同時に、ぷっと思わず噴出した。
「む、なんだ、その反応は。失礼だな、君は」
片眉を吊り上げ、子供っぽいむくれ面になりながら、わたしを見てくるこいつに対し、わたしはくくっと笑い声をかみ殺しきれず、少しだけ目元に笑いの涙を滲ませながら、アーチャーを見上げつつ言う。
「いやね、ほんっと、アンタってキザ」
ぷすすと堪え切れない笑い声交じりにそう口にすると、「それは私を馬鹿にしているのかね」と益々むっつりと子供みたいな拗ねた顔でむくれる白髪の大男。
それに対し、わたしは更に笑いが止まらなくなって、それから本当自然な気持ちでこいつを見上げた。
「ごめん、ごめん。ありがとう、アーチャー。貴方のお陰で少し気が楽になったわ」
それは本心からの言葉だ。
思えばこいつを召喚してから今まで、ずっと気が張っていて体が固くなっていたような気がする。
こんな状態じゃ上手くいくものも上手くいかない。
それをきっと見抜いてリラックスさせようとしてくれていたんだと思うのは、わたしの自惚れなんだろうか。
ううん、きっとそうじゃない。そうでしょう?
「マスターのお役に立てたのなら何よりだよ」
そんなわたしに対し、子供みたいな膨れっ面のまま、アーチャーはそう言った。
その顔には大きく何だか納得いかないという文字がかかれている。
そんな自身のサーヴァントが少しだけ可愛く思えて、わたしは淀みなく感謝の言葉を述べた。
「アーチャー、ありがとう」
「……君が素直だと、どうにも調子が狂うな」
参った、降参だといわんばかりの顔で見てくる白髪の弓兵。
それに微笑んだ次の瞬間、またキリリと空気が引き締まった。
「まあなんだ、私がついている、とはいえ、気は抜いたりするなよ、凛。君は素晴らしいマスターではあるが、いかんせん経験不足だ。ここぞというときに、うっかり大ポカをしました……では話にならんからな」
ここぞと言うときに大きな失敗をやらかすのは、遠坂家に代々受け継がれる呪いのようなものだ。
それはわたしも例外じゃない。耳に痛い言葉。
だけど思えば、そのうっかりによってセイバーをひこうとしてこのアーチャーがきたのだから、必ずしも悪いことばかりともいえない気がする。
そんなことを思う自分に、思わず苦笑。
やっぱり、わたしはこいつを気に入っているらしい。
「わかっているわよ」
「とにかく、情報収集は怠るな。さて、明日も学校に行くのだろう。ならばもう休みたまえ。休めるときに休むのも、戦の基本だぞ」
side.久宇舞弥
10年前、切嗣が参加する魔術師同士の争いである聖杯戦争に参加したバーサーカーのマスターは、人間とも思えぬ異相なる左の顔を持つ、死に掛けの男だった。
間桐雁夜。
切嗣の指示だったというわけでもない。
あまりにも哀れだったからと、そんな理由で私自身の選択で撃ち殺した男。
バーサーカーのような魔力消費の大きなクラスの英霊を使役するマスターとは思えぬほどに、出会った時には既に半死半生であった男。
そのくせ、必死に生きようとしていた男。
思えば、慈悲でもって相手を殺そうと思ったのはあれが初めてだった。
感情などとっくに死んでいる。
そう思ってこれまでの生を繋いできた。
私にとっては昔から、誰かを殺すというのは機械的な当たり前の行動にしか過ぎず、そこに情を挟むなんてことはありえぬはずのものだった。
私にとって人を殺すとはそういうことだ。
そういうことだった。
こうやってしこりのように心にあの光景が残り続けているのも、私にとってはあの殺しだけが違う理由からきたものだからだ。
あんなに哀れな姿になりながら必死に生きようとしていたその姿を羨ましいと私は思ったのだ。
その存在は強烈に私の中に焼きついた。
だからこそ10年前のことだというのに覚えている。
そう、覚えている。
覚えていたのだ。
あの男が最期に口にしたのは「サクラ」と、そんな言葉だったということを。
あの時は、ただなんとなく耳に残った意味の無い文字の羅列。
誰かの名前だろう単語。
その言葉が意味を持ったのは、去年の夏祭り。いつものように衛宮の家に寄って、夏祭りに誘われ、その当日に私が出会った「間桐桜」という娘。
何年もの月日をおいてパズルが組み上がっていく。
間桐雁夜と、間桐桜。
同じ性を名乗る彼らが無関係なわけがなかった。
だから私は、彼女に会ったとき、あの男が最期に口にした「サクラ」というのが彼女、間桐桜を示していることに気づいたのだ。
理由なんて、理由だなんて言えるほどの理由でもなく、ただそれだけの話。
それでも私は間桐のことをそれで調べようと知ろうと思ったのです。
何故、知りたいと思ったのか。
罪滅ぼしなどではない。
そもそも、そんなことを殺した人間相手に一々思えるような女じゃないことは、自分自身が一番わかっている。
そう、わたしが知りたかったのはきっと、あの男が「生きて」いた理由。
あんな哀れな姿になりながら、それでも何かを求めていたその訳。
そうして始まった第五次聖杯戦争、昨日出会った影。アレの気配は間桐桜のそれとよく似ていた。
「シロ」
ランサーと共に、おそらくはあの影を自分でも調査しようとしているだろう、
「舞弥?」
「確信がとれませんでしたので、言わなかったのですが……話したいことがあります」
本当は私がそういうことを言う相手は、私の拾い主である切嗣であるのが筋ではあるけれど、敢えて私は彼女を選択してそう口にした。
……切嗣は永くない。
彼を失ったとき、この家をおそらく支えるのは彼女だからというのもその理由の一面にはある。
話しかけられたシロはといえば、場所を変えようとでもいうかのように、一つ頷いて自分の部屋に向かって移動し始める。それについて、私もすぐ後ろをついて歩く。
「それで……話とは、もしやあの影のことについてかね?」
すっと、私の前に座布団を用意し、席を進めるジェスチャーをしながら、彼女はそう静かに口にした。
「はい」
「聞こう」
「……確信はありませんが、おそらく、あの影を操り、真の暗殺者を生み出した黒幕は間桐の手のものではないかと」
間桐と私が口にしたとき、ぴくりと彼女はこめかみを揺らした。
きっと間桐の後継者である桜のことを意識したのだろう。
そうなるとわかっていて、私も話した。
「……皆の前で話さなかったのはそれが理由か。まあ、いい。君が言うということは、根拠がないわけではないのだろう?」
ぽつりと、シロは、そう重い表情をして淡々と尋ねてきた。
それに、私も淡々と返す。
「間桐の魔術特性は「吸収」と「束縛」です。そして、あの影は他人の魔力を「吸収」する。それに、あのような怪異が昨日今日生まれたとは考えがたい。考えられるのは、もとよりこの地に根を張っていた魔術師が元凶である可能性が高いということ。ならば、冬木に根を張る御三家の一角であり、「吸収」の属性をもつ間桐が怪しいと考えられます」
「君が別口で調べていたというのは、間桐のことか」
鋭く、鷹のような印象の鋼の目が真っ直ぐに私を射抜く。
「はい」
それに、極いつも通りの口調で私は返事を返した。
それに対して、シロはため息を今にも吐きそうな仕方なさそうな顔をして「全く、無茶をする」そうぼんやりと漏らした。
魔術師は己の魔術を秘匿するのが鉄則であり、情報の漏洩はそうそうするものではない。
間桐について世間に知れ渡っているのは蟲使いの一族であり、聖杯戦争の令呪システムなどを構築した家といったようなものくらいだろう。
御三家同士であればもう少し詳しい事情も互いの耳に入っているだろうが、生憎そのようなツテなどはないし、何よりあの家には間桐臓硯という名の怪物がいる。
落ちぶれたとはいえ、この老体が生きている限りは、間桐にちょっかいを出すのは危険といえた。
「ご心配なく。足がつくような失敗はしませんから」
そうさらりと返せば、シロは「君が優秀で助かるよ」と、そうどことなく皮肉がかった発音でそう口にして、すぐに表情を元の真剣なものに戻して。
「それで、まだ話はあるのだろう?」
そう口にした。
「はい。どうやら、貴女自身も己の目で調査に向かわれようとしているようですが……ついては私から頼みごとが」
「君が?」
それに、少し驚いたような顔をして、まじまじとシロは私の顔を見た。
それほど驚くようなことだろうかと思う心と同時に、確かに私が「頼みごと」をするというのは珍しい行為だったかという気持ちが鬩ぎ合う。
「影の件についてですが、私に任せてはもらえないでしょうか」
「駄目だ」
きっぱりと、彼女は拒否を口にした。
「君には荷が勝ちすぎる」
「それは今の貴女とて同じです」
シロは切嗣のサーヴァントとして呼び出された存在……だったとはいえ、受肉して弱体化してしまった彼女の戦力は既にサーヴァントと互角に戦えるほどのものはない。
普通の人間よりは数段勝るとはいえ、それだけだ。
それが、今の衛宮・S・アーチェという存在の全力だった。
とはいえ、元々が英霊だった存在であるシロだ。
私のような完全な人間と同列に扱われるのは納得していないのかもしれないと思って言葉を付け加える。
「出来る限りでいいのです。それではいけませんか?」
すると、シロはため息を一つ吐き出して、「無理はしないと約束してもらえないかね」そう静かな目で私を見ながら言った。
「可能な限りは」
「……影の件で私のほうにも入った情報は君にも出来る限り流そう。くれぐれも無茶だけはしてくれるなよ」
自分は無茶など平気でするだろうに、他人がやるのは許せないらしいあたりに、シロが抱えた歪みが見えたが、それを指摘することもなく私は「ありがとうございます、シロ」そう口にして衛宮の家を出ることにした。
side.???
少子化のこの時代において、子沢山であることを除けば極々平凡な家庭である三枝家では、幼い弟達が姉の帰りを待っていた。
「姉ちゃん遅いなあ」
ぼんやりと上の弟がぼやく。
いつもは元気でやんちゃが過ぎると姉を困らせている子供達ではあったが、三枝家の夕食は長女である由紀香の仕事だ。それが、こうも帰りが遅くては腹が減っては力が出ないというのもあった。
「姉ちゃんどうしたんだろ」
今までも、時折姉の帰りが遅いことがなかったわけではない。
だが、遅いとはいっても、7時にならずに帰ってきていた姉である。それが、いまだ帰宅していない。
流石におかしいと幼心なりにも思う。
そのとき、がらりと戸を開け「姉」が帰ってきた。
「ただいまー」
そう口にするその顔は、いつも通りのほにゃりとした「姉」の顔である。
しかし、僅かながらもよくわからない不安感を抱いて、上の弟はそんな自分の違和感を押しつぶすかのように「姉ちゃん、遅いぞ!どこいってたんだよ」とわざとらしいほどの声で「姉」に向かって捲くし立てた。
「おなかすいたよー」
下の弟も、下の弟でぐぅぐぅとなる胃を抱えながらそう訴えを起こす。
「ごめんね。今作るからね」
そう口にする姉の顔もいつもどおり……のはずなのに、やはりどこかおかしい。
「……姉ちゃん?」
上手くいえない違和感をもった。
姉はそのまま、10分ほどで作った簡易料理を弟達に差し出して、「さ、食べよう」そう口にする。
どうしようもなくおかしい。
いくら急いでいるからといって、自分たちの知っている姉はこんな杜撰な料理など出さない。
下の弟達もそれに気づいて、同時に顔を上げて……その目を見た。
「ね……ぇ」
ぐらりと、頭の中身が傾いていく。
次の瞬間には、弟たちはふと、自分達はなんで違和感などを姉に感じていたのかということだけでなく、「違和感を感じた」という事実ごと忘れ去っていた。
ぼうとする頭のまま、ただ出された食事を口にする。
「ねえ」
にっこりと、姉は綺麗に笑って弟たちに声をかける。
「何?」
もぐもぐと租借しながら、弟達は再び「姉」を見る。
「おねえちゃんね、風邪ひいちゃったみたい。だから、しばらく寝込むことになるから、学校とかいけないの。お父さんやお母さんにも言っておいてね。風邪がひどいから、部屋に入っちゃ駄目だって」
一見何の変哲も無い言葉が力を持つ。
弟達は姉の何がおかしいのかすらわからないままに、頷いた。
「じゃあ、おねえちゃん寝てくるから」
そういって、席を立った姉の姿が、一瞬黒く細長い男の姿に見えたが、次の瞬間にはまた子供達はその記憶を忘却する。
そうして違和感は消し去られた。
この家の長女である少女、三枝由紀香の部屋について、そこでようやく私は自分につけていた「仮面」をはずした。
鏡に映るのは、ほにゃりとした笑顔が印象的な茶色のやわらかい髪をした少女ではない。
黒い外套に身を包んだ、黒き貌なき異形の男の姿。
つまりは、アサシンのサーヴァントである私、ハサン・サッバーハだ。
この家を訪れたのは最初から私であり、幻術であの娘のフリをして、暗示をかけていたということ。
聖杯から授けられた知識によれば、現代人は1人消えただけでも大騒ぎをしかねないのだという。
あの娘を寄り代にすると決めたのは私だが、それによって騒ぎが入ることは私にとっても好ましいことではない。何より、そこから別マスターに足をつけられなどすればたまったものではなかった。
だから私は、このような茶番を打ってでも、この娘は家に「居る」ということにしたわけだ。
あとは、この家に術式を張っておいて、この部屋に入ったものは、「由紀香がそこにいて、寝ている」と思い込んで帰っていく仕掛けさえ施しておいたらもうこの家にも用はなかった。
柳洞寺の裏庭、そこに張られた極々小さく、けれど高密度な結界の中、そこにその少女は居た。
「…………ぅ……ぁ……」
衣服を全て剥ぎ取られ、裸で木に融合しているかのような少女。
その声はか細く、息は弱く、その薄く開かれた瞳に映るものも、無い。
意識は混濁し、堕ちている。
(ここは……どこ……)
娘の思考もそれ以上先に進むことはない。
「ほう……」
自分をこうした元凶である男の声には気付いているだろうに、しかし少女はそれにぴくりとも反応を返すことはなかった。
「魔術師でこそないが、適正はあると思ったがあながち外れてはいなかったか」
その意味も言葉も少女には何一つとして理解出来ないだろう。
それがわかっていながら、実質独り言に近いそれを私は淡々と続けていく。
「良い魂だ」
「あぐっ……ぁ」
私が送った木への指令を合図に、びくりと、少女の体が自由にならぬままに痙攣した。
吸い取っている。
霊体となった
それは酷く甘美で、心地の良い魔力だ。
甘く清らかな魂。清純でうら若き乙女の生命力。
死なない程度に常時搾り取られていく霊力、この少女、三枝由紀香はこの場においては人間とすら呼べない。
そんな尊厳はここにはない。
今の彼女はサーヴァント・アサシンたる私へと魔力を供給するための餌。
ただそれだけだった。
それ以外の何者でもなかった。
NEXT?