新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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 ばんははろ、EKAWARIです。
 なんだかすっかり投稿の間が空いてすみません。
 べ、別に更新しても感想が一件もこなくて凹んだとかじゃ……あるけど、原因じゃないんだからな。ちょっと色々忙しかっただけなんだからな。
 どうでもいい……良くはないけど、ライダーVSランサーの宝具対決シーンの絵が見てえであります。では、どうぞ。


33.怪物の願い

 

 

 

 願い事はただ1つ。

 間桐桜、私のマスター。

 怪物になってしまった彼女の救済。

 それだけが私の望み。

 もう私では彼女を救えないから。

 もう守ることすら出来ないから。

 ただそれだけが彼女のサーヴァントだった私の願い。

 

 

 

 

 

   

  怪物の願い

 

 

 

 side.遠坂凛

 

 

 家を出、先行する女を見やる。

 まるで一振りの剣のように研ぎ澄まされた横顔はキリリと引き締まり、硬質な美しさと共に覗き切れない心の奥底を思わせた。

 思い出すのはつい先ほどまでの会話。

 桜と間桐の魔術について、気がついたことや知っている情報を互いに交換した末にこの褐色肌に白髪の女……アーチェが言った言葉。

『凛、君は家宝の宝石を今でももっているか?』

 それは、私が10年間ため続けた虎の子の宝石のことではなく、アーチャーを召喚する前日に父さんが残した遺言を読み解いて手に入れた宝石のことを言っているのだと、何故かすんなりと私は理解した。

 理解と同時に警戒心が頭を擡げる。

 だって、わたしは父さんの遺産であるあのネックレス型の宝石のことを誰にも話した覚えはないのだから。

 無論、それは正規の従者たる私のアーチャーにさえ。

『なんで、アンタがそんなこと知ってるのよ』

 それに、女はやや困ったように眉をひそめて、だけど表情は厳しく生真面目に言った。

『凛、大事なことだ。君は使わずにまだ持っているのか』

 彼女に対して持っている疑問は多い。

 例えどんなに気安い相手であろうと、他家の魔術師であるという時点で全てを信用し自分の手駒をさらけ出すなんてことは有り得ない。どんなに馴染んだ相手でも、最後の一線だけは越えてはいけないのだ。

 遠坂家の6代目当主……故に。

 それは私の義務であり誇りなのだから。

 だけど、そうやって言ってくる声があまりにも真剣だったから、ついわたしもこんなことじゃ駄目だと内心悟りつつも答えた。

『もっているわ。其れが何』

 それを聞き、ふむとアーチェは何か思案するような顔を見せたあと、真っ直ぐわたしを見て言った。

『凛、朗報だ。桜は、助かるかもしれない』

 それはなんらかの確信をもったかのような顔で、だからこそ出来れば桜を助けたいといったアーチェの言葉をひとまずは信じ、わたしは組することにした。

 けれど……。

 

 本当にこの女は何者なんだろう。

 アーチャーとは双子の姉弟だといった。確かにそういわれてみれば納得出来る節が多分にある。しかしこの神話無き英雄無き時代で英霊に至った存在、そんな途方もない異端の片割れなんて眉唾物の話と思ってもおかしくない。

 それを信じることが出来たのは、アーチャーとアーチェのやつは実際よく似ていて、アーチャーは間違いなく聖杯戦争に呼ばれた英霊(サーヴァント)だったからでしかない。

 思えば、10年にも渡る付き合いがありながら、わたしはこいつのことを何も知らないのだ。

 お節介で世話焼きな魔術師らしくない魔術師。

 だけどそれが彼女の全てかっていわれたら違うと答えるしかない。

 決定的なのは先ほどの語らい。

 わたしは一度もアーチェのやつに家宝の宝石のことは話したことはなかったし、わたし自身これを手に入れたのは聖杯戦争に参加する直前だったのだ。

 だけど、アーチェは確信のように、当たり前のように宝石のことを尋ねた。

 つまり、知っていたのだ。

 わたしがその存在を知らない時でさえ。そしてそれがいつかはわたしの手に渡ることも最初っからこいつは『知っていた』。

 得体の知れない相手、それは間違いない。

 でも同時にアーチェにわたしを傷つける気は毛頭ないのだということも、例えばわたしが手を下すとしても受け入れる気があるってことも肌で理解していた。

 だから、信用はしないけど信頼はする。

 よって、わたしがかけるべき言葉は。

「……後で、全部教えなさいよ」

 教えなかったら許さないからね、そんな想いを込めて低く言い捨てた言葉に、アーチェはふっと僅かに目元だけ微笑んで言った。

「……そうだな、善処はしよう」

 

「凛」

 突如、それまで黙り込んでいたアーチャーが声を発する。

 それによって瞬時に顔を引き締めたわたしはその存在に気付く。

 おそらくは使い魔だろう蝙蝠がこちらに向かって接近していた。それに、ガンドを飛ばそうと瞬時に身構えたわたしを見るより先に、アーチェの手が停止を指示するように前に出される。

「待て、あれは、舞弥の使い魔だ」

「舞弥さんの?」

 そういえば、初接触した時もカメラを取り付けた蝙蝠の使い魔がいた。あれが久宇舞弥の使い魔だったのだろう。拳銃を使う彼女にカメラを取り付けた蝙蝠、辻褄があっている。

 と同時にそれを舞弥さんの使い魔だとてらいも無く口にしたアーチェを前に、私と出来るだけ戦わないようにと彼女に言ったという、わたしのよく知っているヒトというのが、間違いなくアーチェのやつのことだったということに確信を持つ。

 そんな気はしていたけど、やはり舞弥さんとアーチェは繋がっていた。

 同時に着信音が響く。

「ぇ、あ、何?」

 携帯の奏でるその音楽にわたしは思わず吃驚して一瞬だけ取り乱す。

 そんなわたしを見てなかったかのように、アーチェは折りたたんでいた携帯を取り出し、耳にあてた。

「舞弥か」

 電話越しに語りかけるアーチェの声はどことなくほっとしたような色がある。

 そのまま、アーチェは何事か端的に30秒ほどの会話を続けた。

「わかった。ではな」

 ピッと、音を立てて携帯を手馴れた様子で切り、それを仕舞う。

 ついでクルリとわたしに向き合って、彼女は鋼の瞳をまっすぐにわたしの目と合わせながら言う。

「舞弥が合流したいそうだが、構わないか?」

 それを聞きあの日のことを思い出した。

 醜悪な間桐の地下を出て、対峙した時、桜を救おうというのならわたしの敵だと告げたというのに、全く動じることもなく、己のやるべきことのみを見ていたかのような漆黒の女。

『しかし、凛。……わたしにはあなたが無理をしてそう口にしているように見えます』

 本心を見透かすようにそう言った彼女。

 でもそんな彼女だからこそ、信用出来る気がした。

 わたしは今でも桜を殺す気を無くしたわけじゃない。殺す覚悟は今でもある。

 だけど、それでもアーチェと話し合いの末、それでも助かる芽があるのなら、元に戻れる芽があるうちはギリギリまで殺すのはやめて、救うために動くとそう決めた。

 1度は殺すと定めた命でも、そうならない可能性を詰むことはしたくなかった。

「いいわ」

 だからこそ、わたしはそう決断を下した。

 

 

 

 side.バゼット

 

 

 何かあれば連絡をと渡された無線は通じない。

 それに、嫌な予感を覚えて飛び出した私は今冬木の街へと戻っていた。

 この街にいたのはたった1週間ほどの期間だ。

 此処で、憧れであったかの英雄クー・フーリンをピアスを媒介にし、ランサーのサーヴァントとして召喚した。

 終わりは呆気なく、浮かれていた私を討ち取ったのはかの聖堂教会の代行者言峰綺礼だった。

 そして気付いた時には腕を無くし、冬木とは違う街の病院にいた。

 そしてそこで彼女に出会ったのだ。黒髪黒目の硝煙の匂いを纏った女。

 女は私を保護するよう命じられて病院に入れたという。

 あの時は一杯一杯でそこまで頭がまわっていなかったけれど、考えてみれば、あの日私を保護したと告げた黒衣の女について知っていることは何もなかった。なにせ、名前すら知らない。

 聞いていたとしても素直に教えてくれたのかも怪しい、と冷静になった頭でそう思う。

 わかっているのは、あの女はプロの戦闘者だった、ということと仲間がいるということくらいで、けれど今でも何故私を助けたのかはわからない。

 限りなく有り得ないといっていい話だけれど、瀕死だった私を見捨てれなかったというのか?

 だから助けた? 一体誰が。

 私は封印指定の執行者であり魔術協会から派遣されたマスターだった。

 無論、聖杯戦争に臨むにあたっては、敵対するマスターを全て刈り取る気でいた。

 魔術協会について詳しい人間なら、まず私という人間の危険性を認識し、排除しようと思うだろうに、どうして殺さずに置いたのか。

 何故ランサーを引き抜いたことまで明かしたのか、思考する時間を取り戻した私にはわからなかった。

 片腕を失くした私では脅威になりえないと思ったから? でもそれもなにかが違うような気はした。

 嫌だ、こうして1人になると悪いことばかり考えてしまう。

 思考を追い出す。

「まずは、武器を取り戻さないと……」

 何をするにしても、このままでは心もとない。

 病院に置いてあった私の所持品は私が着ていた服とピアスや財布くらいのものだった。

 なら、きっと私の装備一式は全てあそこにおいてあるのだろう。

 あの日私を保護したといった黒髪黒目の女の動向も未だ不明のまま。

 ならば、まず私は自分の礼装こそ確保しないと。

 そう思って、冬木の街にいる間、私の拠点にしていた双子館へと戻ったが……。

「……ない」

 そこにあるはずの武装はどこにもなく、ただ、私の血が流れた痕跡だけがあった。

 これは、もっていかれた? 誰に?

 言峰綺礼ではない。彼は私の礼装に興味すらなかっただろう。そんな真似をしたりはしない。

 では誰が?

 そこで初めに思考は戻る。

 もって行ったのは、私を保護したとあの日いった女の仲間?

「……情報を、情報を収集しなければ」

 どこか、強い喪失感に苛まれながら、震える声で私はそう自分を落ち着かせるように口にした。

 

 

 

 side.ランサー

 

 

 黒く染まった眼球、以前見たときよりも全体的な美しさはなりを潜め、魔性が強く匂い立つ。

 邪悪でおぞましき伝説の怪物、メデューサとしての色を濃くした姿で、ライダーはそこに立っていた。

 これが『英霊』として召喚されたということに、聖杯に対する碌でなさを数瞬感じ入る。

 けれど、それはそれでこれはこれだ。

 俺はさっさとそんな感傷をかっ飛ばし、己がやるべきことだけを見定めた。

 石化の魔眼を受けるのはこれで二度目だが、普通はこの類の魔眼は知っている状態だと効能が下がったりするもんなんだが、ライダーの奴の魔性が強くなっている影響か、プレッシャーとしては前回とそうは変わらねえ結果を招いていた。

 どちらにせよ気は抜けねえ。

 嬢ちゃんに向かっても、俺自身に対しても魔よけのルーンを付加することで、魔眼に対する耐性を強める。

 こうやって、魔眼を晒したライダーとの対峙は二度目だが、狭い室内での戦いだった前回とは打って変って今は野外だ。それは、俺へのアドバンテージになりえる。

「嬢ちゃん!」

 強く呼ぶ。それに察したのだろう。今度こそ大人しく嬢ちゃんは引き下がった。

 刹那、蛇が飛ぶ。

 髪を振り乱しながら、ぬるりと巻きつくような動きで懐へと忍び入り、杭を投げる。

 それを槍の柄で弾き、鎖を掴んで引き寄せようとする。

 そんな俺の動向を察した女は力比べに入る前に自ら鎖を放し、俺の後ろに回りこむように身を捻った。

 槍を繰り出す、パラリと女の紫電の髪が数本舞う、女の頬が裂けた。

 女の手はそのまま構わずに俺の喉を狙う。

 それを、女の腹部を蹴っ飛ばし其の反動で距離を取ることによって避け、次いでグルリと腰で捻って再び突きを繰り出す。その俺の突きを女は後方へ飛翔するように避けた。

 まるで見とれているかのように、逃げようとしていたはずの影はぴたりと動きを止めて俺たちの戦いを見ていたが、そんなことは既に俺の眼中には無い。

 今此処にあるのは血肉沸き踊る戦い、それだけだ。

 愛槍をゆらりと構え、興奮に滲み出る笑みを抑えようともせぬままに、「来いよ」と瞳で誘いをかける。

 女はついさきほど自ら捨てた杭剣を構えて、油断無く俺を見ていた。

 互いの距離は約50m、サーヴァントにとって在って無きが如き距離。

 そうだ、この緊張こそ俺が求めていたものだ。

 ライダーか、俺か、どちらが先に仕掛けるのか。

 だが、其の時割入った声はどちらのものでもなく、故にこそ驚愕すら第三者へ齎した。

「ランサー、イリヤ!」

 未だ離れているとはいえ、サーヴァントが目視するには容易い距離で、走りよろうとしている赤いケープを身に纏った少年の姿がそこにあった。

「馬鹿、坊主来るな!」

 ライダーの魔眼の特徴は伝えてある上に、坊主が身につけているケープには魔術的な(まじな)いがかけてあるが故に最悪は避けれているが、どっちにしろ普通の人間にライダーの魔眼は耐えられるもんじゃねえ。

 ライダーをはっきりと視界にいれちまえば終わりだ。

 そんな僅かな焦りと苛立ちを前に一瞬逸らされた隙、それを使ってライダーは行動に移っていた。

 杭剣を戸惑うことなくざっくりと己の首に突き立てる。

 流れた血は魔方陣を描き、そしてそれは現れた。

 否、産み落とされたというべきか。

 天馬(ペガサス)

 メデューサーの首を落として生まれたという伝説の幻獣。

 それに跨って、ライダーは必殺の宝具を放とうとしていた。

「チッ」

 迷っている暇はねえ。

 幸い坊主にしても、嬢ちゃんにしても距離はそれなりに離れている上に、ここは前回とは違う野外だ。

 ならば、俺が取るべき行動なんて一つだけだ。

 

 

騎英の(ベルレ)―――」

突き穿つ(ゲイ)―――」

 

 互いの魔力の奔流が沸き立つ。

 互いにもって互いの一撃必殺でもって相手を屠る。

 結果はどちらかの敗北、それは疑う余地もない。

 だからこそ俺は、渾身の魔力を込めて、己が槍を投擲した。

 

「―――手綱(フォーン)!!」

「―――死翔の槍(ボルク)!!」

 

 

 

 side.間桐桜

 

 

 ゆらゆらと濁っていく思考の中わたしは其れを見ていた。

 青い光と紫の光。

 会いたくないヒトに出会った、だから逃げ出そうとしていたはずなのに、なのにわたしは気付けば其の光景に見入っていた。

 嗚呼、ナンテ綺麗。

 食べたい、とわたしの奥の何かが叫ぶ。

 それを寄越せと、叫ぶ。

 それは駄目だとわたしの奥の何かも叫ぶ。

 ぐちゃぐちゃでめちゃくちゃ。

 濁った視界、濁った意識、濁った思考、濁った……。

 其の終わりは突然だった。

 誰かが走っている。

(アレハ、ダレ?)

 意志の強そうな上がった眉、ちょっと癖のある赤毛、童顔で歳の割りに小柄で、初めて見た時は同い年か年下かと思った。暖かで大きな琥珀色の瞳。

(アレハ、ダレ?)

 なんで、泣きたいのだろう。

 なんで、愛しいのだろう。

 どんなに遠くても関係ない。たとえどこにいようとわたしは、きっと。

(ナマエ、ハ……)

 

(……思イ出シタ)

 嗚呼、そうだ、なんで忘れていたんだろう。

 どうしてわたし、忘れていたんだろう。

 衛宮士郎、士郎先輩。

 わたしの好きな人。

 ずっと好きだった、傍にいれるだけで幸せだった。

 

 だけど……だけど……!

(ソウダ、ワタシハ)

 わたしは、ヒトを殺シタ。

 食べた。そう、先輩のクラスメイトさえ、わたしに手を差し伸べたヒトさえ食べた。

 わたしは、怪物になっちゃった。

 

(ねえ、先輩、知ったらわたしを嫌いになりますか?) 

 

 ……嫌だ。

 そんなの嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、イヤだ、イヤだ、イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!

 たとえ姉さんに殺されてもいい、他の誰に軽蔑されてもいい、どんなに痛い目にあっても、もう受け入れるから、わたしは怪物だってことも受け入れてもいいから、それでも、わたし、わたしは……。

 先輩にだけは知られたくない。

 

 先輩にだけは綺麗な思い出の中の間桐桜でいたいんです。

 こんな醜いわたしなんて、知られたくない。

 絶対に知られたくない。

 涙があふれる。あは、なんでこんな姿になってもこういう機能はあるんだろう。

 わからないままにうめき声1つ立てられずに泣きながら、わたしは走る。鈍重で実感のない足。

 わたしが影なのか影がわたしなのかすらわからずに走る、走る、走る。

 何かに魅入っているように、追いかけてくる気配なんてなかったけれど、それでも振り向けばあのヒトがいるような気がして、それがわたしを追い詰めるもののような気がして、それが恐くて、先輩がコワくて、わたしはひたすらに走った。

 ねえ、神様と、信じていもしなかった神に願をかけるように、先輩に知られたくないとそれだけを願っていた。

 

 

 

 side.ランサー

 

 

 終わりは呆気なく。

「ランサー……!」

 嬢ちゃんが俺を呼ぶ、それに答える気もなく、俺は千切れかけた右手を抱えたまま、かつては女神の眷属だった女を見ていた。

「ライダーよ、1つ聞いてもいいか」

 其の間にも嬢ちゃんは俺に治癒魔術をかけ、右手を修復にかかる。

 それを半分無視するように、俺は敵たる女だけを見ていた。

「貴様、手を抜いたんじゃあるまいな」

 腹部から胸部にかけてごっそりと喪失した女は、傷ついた天馬の額を撫でながら、そんな俺の言葉を僅かにばつの悪そうな顔で見ていた。

 

 同じ対軍宝具として、ライダーの宝具のほうが格上だった。それは間違いねえ。

 だがあの時、あの一瞬、最後の最後にライダーは振り抜き切らなかった。その結果がこれだ。

 俺は右手が千切れかけるも致命傷は避け、ライダーは霊核にダメージを受けた。

 それが実力差の結果だっていうんならいい、だが俺にはそうは見えなかった。

 

「そうですね……迷いはあった、でしょう」

 ごぷりと血をこぼしながら、それでも冷静な口調でライダーは言う。

「わたしは、サクラを救えません、でした。わたしの声はもう、サクラに届きません、から。だから、去ろうとしているサクラの気配を感じて、きっと迷ってしまった。あなた相手には致命的なミスでした」

 其の口調はまるで懺悔するかのようで、複雑に幾重もの感情が混ざり合ったような声だった。

「イリヤスフィール、でしたね」

「……何」

「敗者の身で勝手な願いだとはわかっています。ですが……サクラのことを頼みます」

 其の言葉に、嬢ちゃんが紅色の瞳を大きく開いた。

「どうか、彼女を救って……」

 それが、黒く染め上げ召喚されたサーヴァント、ライダーの消えゆく直前に放たれた最後の言葉だった。

 

 そして、ライダーが消えたのと入れ替わるように遠くから対決を見ていた坊主が歩み寄る。

「なあ、イリヤ……アイツは、ライダーは慎二のサーヴァントじゃなかったのか」

「……士郎」

 言いづらそうにきゅっと目を細めて嬢ちゃんが迷う。

 それに察したように坊主も眉根を寄せてそれから言った。

「話、少しだけど聞こえてた。ライダーが口にした桜って、やっぱり桜のことなんだよな。なあ、知っているなら教えてくれよ、イリヤ。桜はどうしたんだ」

「……士郎、あのね、よく聞いて。桜は、いえ、桜があの影なの」

 その知らされた事実を前に、坊主は息を呑んだ。

 

 

  NEXT?

 


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