冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今さらながら3日に一度のペースで別の仕事を入れる設定ってけっこうキツイ。おもに原作に関わらせるという意味で。
反省はしている、だが後悔はしていない。これからもこの設定で突き進みます!


激闘、モンスターフィリア
祭りの準備


「ふう」

 

 額を流れる汗を拭い、今しがた終わった自分の仕事のできばえを確認する。なかなかかな?

 

「毎年すまんね~」

「いえ、大丈夫です。それでは次の仕事があるのでこれで失礼します」

「あいよ」

 

 おじいさんにお別れを言い、次の仕事場に向かう。

 

 防具の作製をスミスさんに依頼してから3日が経った。つまり、何でも屋の仕事の日なのだが……俺はいつものように自宅待機ではなく、オラリオ中を駆け回っていた。

 

 その理由は開催を明日に控える怪物祭(モンスターフィリア)の準備の手伝いだ。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)とは、強豪派閥【ガネーシャ・ファミリア】が1年に一度開催するお祭りのことだ。東のメインストリートにある闘技場をまる1日使い、ダンジョンからモンスターを捕らえてきて、そのモンスター達を手懐ける(テイムする)までを見世物(ショー)として披露するイベントだ。

 

 年に一度ということもあり、世界中からオラリオに人が集まってくる。かく言う俺も毎年楽しみにしているイベントだ。登場するモンスターは『上層』では見られないモンスターばかりだし、手懐ける(テイムする)冒険者も一流ばかりで立ち回りがすごく参考になる。

 

 さて、そんな大きなイベントだから当然街は明日に向けて準備に大忙し。露店もたくさん出て、とても盛り上がる。だからどこも猫の手も借りたいくらい忙しくなる。

 

 そんな訳で前日にあちこちから手伝い要請が入っており、こうしてオラリオ中を駆け回っているのだ。

 

「こんにちはー。お手伝いに来ました」

「ああ、トキちゃん。ありがとね」

 

 やってきたのは北の商店街にあるじゃが丸くんの販売露店。このお店は怪物祭(モンスターフィリア)が開催される闘技場に続く東のメインストリートに露店を置くことができる権利を獲得したラッキーなお店だ。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)は当然だがその日に東のメインストリートに人が殺到する。すると必然的に他の地域に人が来なくなり、東のストリートに店がないところはその日の売り上げがぐっと落ちる。そこで【ガネーシャ・ファミリア】は救済処置として事前に東メインストリートに露店を置くスペースを作り、そこに露店を作るなり、移動させたりなどできるという権利を作った。

 

 毎年凄い倍率らしいが今いるこの露店はそれに当選した幸運なお店の1つだ。

 

 移動式の露店を引いて東のメインストリートに向かう。かなりの重労働だ。

 

「すまないね。急にヘスティアちゃんが来れなくなっちゃったんだよ」

「ヘスティア様が?」

 

 そういえば2日前にベルが神様がパーティーに行ってそのまま帰って来ない、と言っていた。

 

 ベルが言うパーティーというのはおそらく怪物祭(モンスターフィリア)前にガネーシャ様が開く『神の宴』のことだろう。前にヘルメス様がタケミカヅチを弄るために参加する、と言っていた記憶がある。まあ、あの方は現在オラリオにいないため、結局参加できなかったのだが。

 

 しかし、あのヘスティア様がベルをほっとき、バイトも休むなんて……よっぽどのことがあったのではないか?

 

  いろいろ考えてみたが……やっぱり神の考えていることなんてわかんないや、と結論づけ、露店を引くことに集中した。

 

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「あー疲れた……」

 

 肩と首を回しながら帰路につく。朝早くから夜遅くまでオラリオ中を駆け回り、ようやくすべての依頼が終わった。とりあえず日を跨ぐことはなんとか防いだ。

 

 しかし、俺も信用されたものだ。最後のほうの依頼なんかギルドの雑用だったり、怪物祭(モンスターフィリア)で使われるモンスターの移動の手伝いだったり、普通に考えれば他の派閥の冒険者にやらせないような仕事ばかりだった。それだけ忙しかったというのもあるが、俺への信用もあるのだろう。やはりこういう仕事は長年の信用の積み重ねであると実感した1日だった。

 

 それに今日はオラリオを駆けずり回り、時に力仕事、時に精密作業と様々なことをした。今日はかなり【経験値(エクセリア)】が貯まったのではないかと期待してしまう。

 

「ヘルメス様、早く帰って来ないかなー」

 

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「はっくしょん!!」

「わっ! び、びっくりした……」

「ああ、すまないアスフィ。んー、誰かがオレのこと噂してるのかな?」

 

 オラリオから離れた街道で男神ヘルメスはそんなことを言っていた。

 

「それにしても今年のフィリア祭は見れなさそうだなー。あー失敗した」

「3年前まで気にもしてなかった人が言う台詞ではありませんね」

 

 その少し後ろを【ヘルメス・ファミリア】団長アスフィ・アル・アンドロメダが溜め息を吐きながら続く。

 

 今回の旅はあまりに唐突だった。ある老人(かみ)を訪ねるだけの旅。団員、トキ・オーティクスが話したベル・クラネルという少年のことを報告するだけだという。

 

 そんなことでつれ回さないで欲しい、と心底思うアスフィだが、ふと以前から気になっていた疑問を口にした。

 

「ヘルメス様、1つお聞きしてもよろしいですか?」

「ん? なんだい?」

「トキのことです」

 

 まばらに広がる雲がちょうど月を隠す。辺りが暗くなる中アスフィは疑問を続けた。

 

「彼に何を期待しているのですか?」

「何のことだい?」

「とぼけないでください。あなたが子にあれほど肩入れするのを私は知らない。彼になにがあるというのですか」

「なんだ、嫉妬かい?」

 

 からかうような主神に思わず顔を赤くする。

 

「ち、違います。ただ、あなたの我が儘に振り回されるのは私1人で十分だと思っただけで……」

「ああ、トキに対してではなくオレに対してか。確かに自分の弟分がこんな神に振り回されるのはおもしろくないよな」

「いいから質問に答えてくださいっ!!」

「ははは」

 

 そして先程までとは打って変わって真剣な雰囲気が漂う。

 

「最初は気紛れだった。汚れ仕事をしていた死にかけの少年を育てようとあちこちに振り回した」

 

「ところがその少年はオレの予想をはるかに超えていた。一を聞いて十を知る、それを自分の糧とする。天は二物を与えずって言葉を正面から叩き壊すような天才だ」

 

「極めつけが彼に【ステイタス】を与えた時だ。彼のスキルを見たとき歓喜したよ。そして思った」

 

「ああ、この子を英雄に育ててみたい、と」

 

 そう語るヘルメスはまるで子供のように目を光らせていた。その様子は新しいおもちゃを買ってもらった子供そっくりだった。

 

「……はあ、わかりました。しかし彼も大変ですね。自らの主神に眼をつけられてしまうなんて」

「ははは、そうだね。ちなみにあの子が可愛いのも本心だ。具体的に言うならあの子をいただくとか言う【ファミリア】に戦争遊戯(ウォーゲーム)をふっかけるくらいには」

「洒落にならないからやめてください!」

「ははは、心配するなアスフィ。お前が同じ立場でも同じ選択をするからさ」

「そんなこと心配してません!」

 

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「はっくしょん! ……誰かに噂でもされているのかな?」

 

 明かりがまばらな道に俺のくしゃみが響き渡る。

 

「まあ、いっか。さて、明日どうしよ。誰かと一緒に行くか?」

 

 まあ、せっかくのお祭りだし、誰か誘おうかな? と思った。例年はヘルメス様やアスフィさんといくのだが、今年はいないので今のところ1人だ。

 

「明日一番にベルでも誘ってみようかなー」

 

 そんなことを思いながら家が見えた時、誰かが家の前に立っていた。

 

 いや、誰かじゃない。あれは……

 

「レフィーヤ?」

 

 急いで近寄り確認する。やはりレフィーヤだった。

 

「あ、お帰り」

「なにやってんだよ、こんな時間にこんな場所で」

「ひどいなぁ、トキを待ってたんだよ?」

 

 いや、待ってたんだよって……

 

「明日……は無理だから明後日とかじゃだめなのか?」

「うん。今じゃないと、だめ」

「はぁ。わかった。で用件はなんだ?」

「えーっと……」

 

 それからレフィーヤは少しもじもじし始めた。緊張しているのか、言いにくいことなのか分からないがどことなく顔が赤い気がした。

 

「なんだよ、早く言えよ」

「うん。あのね、明日誰かと回る予定、ある?」

 

 思わずドキっとしてしまった。確かにベルを誘おうかと思っていたが今は誰もいない。

 

「……いや、誰もいない、かな」

「じ、じゃあ、明日一緒にフィリア祭、行かない?」

 

 実はこれまでレフィーヤと一緒にフィリア祭を回ったことはない。お互いに、別の人と行ったりしていたからだ。

 

「あ、ああ。別に構わないぞ」

「ほ、本当!?」

「ああ」

 

 よし、っと小さくガッツポーズをとるレフィーヤ。

 

「じゃあ明日迎えに来るからね」

「え、いや俺が……」

「トキが迎えに来たら余計手間がかかるじゃない」

「あ、そうだな……」

 

 ヤバイ、そんな簡単なことにも気づかないくらい頭が回ってない。

 

「じ、じゃあまた明日!」

「お、おい! レフィーヤ!」

 

 その後いつもなら考えられないようなスピードでレフィーヤは走り去っていった。




東のメインストリートの露店設置の権利はオリジナル設定です。

また、感想でいくつか誤解されていた部分があったのでこの場を借りて説明させていただきます。

まず、主人公のトキはもともと闇派閥に所属していた訳ではなく、オラリオの外の暗殺組織に所属していました。その辺は『親友』の話でも取り上げています。

次に主人公のスキル、【果て無き深淵】の『神の力』無効化というのは【ステイタス】自体を無効化するのではなく、【ステイタス】を無視、つまり【ステイタス】の耐久の値を無視して攻撃できる、というものです。またこれはスキルにしか効果がついていないのでトキが持つ武器が耐久の値を無視できるわけでもありません。

まあ、生まれたころからついてますし、影で攻撃できない訳ではありません。それどころか、遠くから伸ばして不意討ち、影の触手をたくさん出して全方位攻撃。重装備相手には鎧のスキマに通してブスリ、など応用すれば子供でも簡単に暗殺できます。

さらに暗殺者としての英才教育もあり、かなりの腕前でした。

以上で補足を終わらせていただきます。また何かご不明な点がありましたら感想欄にご記入ください。作者が心の中で小躍りしながら回答させていただきます。

ご意見、ご感想、ご質問お待ちしております。

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