冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
たとえどんな日でも生活習慣を変えない、というのが俺の信念である。いつも通りに起床し、いつも通りに訓練し、いつも通りに朝食を取る。たとえ特別な日でもそれは変えてはいけない。そう、変えてはいけないのだ。
それに仕事がある日は二人で出掛ける日もあるし、別に気負うこともない。
そうだ、レフィーヤが来るまでまだ時間があるし、今日は余計に訓練しておこう。その方がなにも考えなくて済むし。
それから一時間、余計に訓練し、リビングでレフィーヤの到着を待つ。そして午前7時ごろ、コンコンコンと控えめなノックの音が聞こえた。
わずかに緊張しながら玄関に向かう。と、ここで気がついた。
(レフィーヤの他に二人いる?)
考えてみれば一緒に行こうと言っていただけで二人きりで行こうとは言ってない。若干落胆しつつ、玄関の扉を開ける。
「おはよう、レフィーヤ」
「お、おはよう、トキ」
いつもと変わらぬ姿の彼女、そしてその後ろに予想通り、二人の人物がいた。予想外だったのはその二人が双子のアマゾネスだったことだ。
「へー、この子がレフィーヤの彼氏くんかー」
「顔はそれなりね。レフィーヤ、どこが好きになったの?」
「ちょっと、ティオナさん、ティオネさん! からかわないで下さい!」
名前から察するに【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者、ティオネ・ヒュリテさんとティオナ・ヒュリテさんのようだ。そういえばレフィーヤが仲がいいって言ってたっけ。
「はじめまして、お二方。【ヘルメス・ファミリア】所属、下級冒険者、トキ・オーティクスと申します。以後お見知り置きを」
「ティオネ・ヒュリテよ。よろしく」
「ティオナ・ヒュリテだよ。よろしく!」
簡単に自己紹介を済ませる。
その上で浮わついていた頭を切り替える。そうだ、これはむしろ役得だ。第一級冒険者と一緒に行動できるなんて滅多にないのだから。
「ねえねえ、彼氏くん」
「別に自分はレフィーヤの彼氏ではないですよ。何ですか、ティオナさん」
「レフィーヤと二人きりじゃなくてがっかりした?」
いきなり図星を突かれ、顔に出そうになるが根性で押し止める。
「そうですね、正直残念ではありますがその分魅力的なお二方と知り合えてしかもお祭りを一緒に回れるのですからむしろ役得です」
「あら、ずいぶん正直なのね」
「偽ってもレフィーヤにはバレてしまいますから」
「ふーん」
「そ、そんな目で見ないでください」
ティオネさんがレフィーヤを弄るなか、その隣ではティオナさんが何か呟いていた。
「ね、ねぇ、彼氏くん?」
「何ですか?」
「ちなみに聞くけど、あたしのどこが魅力的かな?」
「ティオナ、あんた……」
「そうですね、まずティオネさんもそうですが美人ですね。肌もお綺麗ですし、何より活発で親しみやすい性格は個人的に好感が持てます」
ばっとティオナさんはティオネさんの方を向いた。
「ティオネ、この子ものすごく良い子!」
「あんたは何やってんのよ」
と、呆れるティオネさん。そしてレフィーヤは何かおもしろく無さそうな顔をしている。
「それにしてもあんた、ティオナを口説こうなんてね」
「口説いてなんかいませんよ。特にティオネさん、あなたはね」
「あら、私は魅力的ではないと」
と若干怒気を膨らませるティオネさん。しかし恐れることはない。
「いえ、ただティオネさんは【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナさんの女なのでしょう?」
「「「え?」」」
「さすがにかの【
他の二人が驚愕の表情を浮かべる中、ティオネさんのテンションが一気に上がる。
「ふふふ、聞いた二人とも! 他の【ファミリア】のしかもLv.1の子にまで私は団長の女だと認知されているの!」
「えーっと……君本気でそう思ってる?」
「当たり前ですよ。それよりも朝食はお済みですか?」
「う、うん」
「わかりました。では自分は少し出掛ける準備をしてきますので少々お待ちください」
扉を閉め、急いで準備する。別段持っていく物はないが火や蛇口、戸締まり等を確認し、外に出る。
「お待たせしました、行きましょう」
この後テンションが高いティオネさんにフィン・ディムナさんについて話を聞いたのだが……少しだけ後悔した。
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レフィーヤside
大観衆の拍手と喝采が闘技場を揺らさんばかりになり響く。
「やっぱりガネーシャのとこ、すごいなー。
「そうですね。ただでさえ成功率は低いのに、こんな大舞台で……」
「華もあるわよね、一々。ただ調教するんじゃなくて、
朝早くから入場していた私達は【ガネーシャ・ファミリア】の技術の数々に舌を巻いていた。
テイムは素質の面も強いが成功率がかなり低い。ダンジョンのモンスターとなれば尚更だ。それをあんなに簡単に……
「まあ、それだけじゃないけどな」
と私の横に座っているトキがそう言った。
「どういうこと?」
「【ガネーシャ・ファミリア】がテイムを成功させやすいのは単純にテイムの腕が上手いのもあるが、ここがダンジョンじゃないってことも大きな要因の1つだ」
説明しているトキはどこかそわそわしていた。
「ダンジョンのモンスターはダンジョンがホームだ。けどここはダンジョンじゃない。環境が違えばわずかにだが力を十全に発揮できない。それが続けば大きな要因となる。だからダンジョンのモンスターでも成功率が上がるってもんだ」
「へ~」
「もちろん、【ガネーシャ・ファミリア】が上手いっていうのが一番のポイントだがな。……それよりもちょっとまずいことが起こっているみたいだぞ」
「あ、彼氏くんもやっぱりそう思う?」
「そうよね……さっきから【ガネーシャ・ファミリア】の連中が慌ただしいもの」
辺りを見てみれば【ガネーシャ・ファミリア】の人達がしきりに冒険者や神達に耳打ちをしていた。その動きにはどこか余裕がなかった。
「どうしますか?」
「……少し、様子を見てきましょうか」
私達は盛り上がる観客の間を通って階段を駆け上がっていった。
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「ロキ!」
「おっ?」
外に出るとロキがいた。駆け寄る私達に手を上げる。
「よく来たな。……ん? レフィーヤ、その男がレフィーヤの彼氏か?」
「ち、違います!」
「はじめまして、ロキ様。【ヘルメス・ファミリア】のトキ・オーティクスと申します。それよりもロキ様状況のご説明をっ」
「まあ、言いたいことは山ほどあるけど、後にしたるわ。簡単に言うと、モンスターが逃げおった。ここらへん一帯をさまよっとるらしい」
「えっ、不味いじゃん、それ!?」
「ん、不味いなぁ」
驚くティオナさんに平然とした態度を崩さないロキ様。
「なに暢気に言ってんのっ」
「ああ。それでティオナ達はアイズがモンスターを討ち漏らしたら叩いてくれへんか? そうやな、うちももう移動するから、見晴らしいいとこでも陣取っといて」
「アイズさんはもう、モンスターのもとに向かったんですか?」
「いや-」
「闘技場の外周部に立ってるよ」
答えたのはトキだった。言われた通り闘技場の外周部の一角に人影が見えた。
「ミィシャさん、逃げ出したモンスターの内訳は?」
「ええっと。ちょっと待って」
「大丈夫です。焦らせてないですから確実にお願いします」
黒いスーツを着た女性ギルド員から情報を聞き、頭に叩き込む。
「何してるのレフィーヤ! 早く行くよー!」
「ティオナさん、向こうの建物の方が見晴らしがいいです! そっちに陣取りましょう!」
「わかった!」
私達はモンスターを探すため移動を開始した。
やばい。今までで一番つたない文になってしまった。本当に申し訳ありませんでした。
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