冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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さて、これにてダンまち原作小説一巻の内容は終了です。ちょっとしたオリジナル回です。


感謝

 目が覚めた時、見覚えのない部屋に俺は寝かされていた。

 

「ここは……」

 

 起き上がろうとし……腹の激痛で動きを止めた。

 

「っ~~!?」

 

 その痛みを無視し、起き上がる。辺りを観察するがやはり見覚えがない。どうやら拘束はされていないようだ。

 

 確か俺は……

 

 ガチャ。

 

「あ、目が覚めたっすか?」

 

 瞬間、弾かれるように部屋に入ってきた男の背後に回り込み、手から黒いナイフを作り、男の首筋に当てる。

 

「……は?」

「答えろ、ここは何処だ?」

 

  脅すように耳元で囁きながらナイフで首筋を少し切る。男の首筋から血が一筋流れた。

 

「えーっと、ここは【ロキ・ファミリア】のホームで……」

「【ロキ・ファミリア】?」

 

 ふと、背中に嫌な汗が流れる。

 ナイフを離し、男の正面に立つ。そういえばこの人、どこかで見たような……

 

「あのー、もしよろしければお名前を……」

「あ、自分、ラウル・ノールドと言うッス」

 

 ラウル・ノールド。確か【ロキ・ファミリア】に所属するLv.4の冒険者。しかもその筆頭。

 

「す、すいませんでした!!」

 

 飛び上がりながら空中で体勢を変え、着地と同時に額を床に打ち付ける。ヘルメス様がお友達(とある神)から聞いて面白半分に教えてもらった謝罪の最終奥義、土下座である。

 

「ちょ、いきなりなにやっているすか!?」

「すいません! すいません!」

 

 額を何度も床に打ち付けて謝罪する。このやり取りは帰ってこないノールドさんの様子を見に来たティオネさんが来るまで続いた。

 

 ------------------------

 

「何やっているのよ、あんた達……」

「すいません……」

「面目無いっす……」

 

 男二人並んでティオネさんに謝る。いや、ノールドさんは謝る必要無いけど。

 

「ノールドさん、本当に申し訳ありませんでした……」

「いや、いいっすよ。突然見知らぬ場所に寝ていたら警戒するのは当然のことっすから」

 

 ただちょっと怖かったす、とノールドさんは苦笑いしていた。ノールドさん、いい人だ。

 

「まあいいわ。トキ、あなた動けるの?」

「はい、大丈夫です」

 

 本当は腹部がめちゃくちゃ痛いがいつまでもここで厄介になるわけにはいかない。

 

「それじゃあちょっとついて来てくれる? ロキと団長があなたと話したいって」

「? わかりました」

 

 立ち上がって歩こうとし……危うく転びそうになる。

 

「ちょ、ちょっと。本当に大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫です」

 

 影から杖を取り出し、右手に持つ。二人が驚くがティオネさんの前ではスキルを使ったし、隠して置くと後々面倒になりそうだ。

 

 と、言うかこの杖、4日前にも使ったばかりなのだが。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

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「トキっ」

 

 ティオネさんに案内してもらったのはエントランスホールだった。外はすっかり暗くなっており、館内には灯りが灯っている。そんな中レフィーヤが俺を目視するとすぐさま駆けよって来た。

 

「もう動いて大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫大丈夫」

 

 と言ってみたがレフィーヤの目は信用できないっと言っていた。徐々に涙目になっていく。ばつが悪く目を逸らす。

 

「……すいません、腹部がめちゃくちゃ痛いです」

「だったら無理せんでええよー」

 

 レフィーヤの後ろからロキ様が声をかけた。

 

「いえ、そういう訳にはいきません。目も覚めたことですし、自宅に戻ろうかと思います。それでロキ様、なぜ私はギルドの医療室ではなくこちらの館に運びこまれたのでしょうか?」

 

 あの場には確かエイナさんもいたから普通はギルドの医療室で治療してもらう。しかし、なぜか起きたら【ロキ・ファミリア】のホームだった。

 

「ああ、そんなら倒れた君をレフィーヤが離そうとせんでな、仕方なく、ウチがギルドに面倒みますって言うたんや」

「そうでしたか、お心使い感謝致します」

「ああ、そういうのええから。首の裏がかゆうなる。ぜひ止めて」

「ではそのように」

 

 と若干ふざけつつも改めてお礼を言う。

 

「こちらこそ、団員を助けてくれてありがとう」

 

 そのロキ様の側にいた人物が声をかけてきた。

 

勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナさん。【ロキ・ファミリア】を纏めるLv.6の小人族(パルゥム) である。……というかその後ろにいるのは【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴさんに【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロックさんだ。なんだこの豪華なメンバー。

 

 しかも側にはアイズさんとティオナさんもいる。そして……【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガさん。……て【ロキ・ファミリア】の幹部集結してるじゃないか。やっべー、今更ながら緊張してきた。

 

「いえ、ロキ様にも言いましたがたまたま近くにいて、たまたま力になれただけですから」

「しかし、無理はしない方がいい。下手をすれば致命傷になりかねない怪我だったのだから」

「ありがとうございます、リヴェリア様」

「……君はエルフではないのだから様付けは止めてくれ」

 

 と若干表情を歪ませるリヴェリアさん。

 

「く、はははははは! なかなか度胸あるやっちゃな! 普通こんな面子に囲まれとったら緊張でガチガチになっているところやで?」

「これでもヘルメス様にいろいろな経験を積ませていただいたので。その経験の賜物です」

 

 本当はめちゃくちゃ緊張してますが。

 

「なかなか面白いな君。でちょっと聞きたいことがあるんやけど?」

「自分に答られるのであれば」

「君、何者や?」

 

 と細目をうっすら開けながらそう訪ねてくる。それに笑顔で答える。

 

「おっしゃる意味がわかりませんが?」

「ティオネに聞いたら君はまだLv.1らしいな。けどあんな魔法を使って、あんな動きして。とても信じられんのや」

「本当のことですし」

 

 とおどけて見せる。

 

 

 

「なんなら【ステイタス】を今この場で見せましょうか?」

 

 

 

「「なっ!」」

 

 ティオネさん達が息を飲む。ロキ様はまだ目を開けて笑ったままだ。

 

【ステイタス】は冒険者にとって生命線。それを開示するのは愚の骨頂である。しかし……

 

「いや、やめとくわ」

 

  とあっさりとロキ様は引き下がった。

 

「だって君、もし公言したらこの【ファミリア】潰すって目で言うてるやん。さすがに【シャドー・デビル】を敵にまわすほどうちは馬鹿やない」

「彼が【シャドー・デビル】だって?」

「あのー、その名前止めて欲しいんですけど……」

 

 1年前のことだ。ある【ファミリア】が【ヘルメス・ファミリア】の団員に手を出した。

 

 それ以降その【ファミリア】はなぜか他の【ファミリア】 でアイテムの補給や武器の手入れができなくなった。さらに頻繁に起こる闇討ち。

 

【ヘルメス・ファミリア】の報復と思った【ファミリア】がケンカを売り……【ステイタス】すら授かっていない少年に負けた。

 

 少年は影を操り、【ファミリア】構成員の手足を突き刺して動けなくさせ、その構成員にトラウマを植え付けた。

 

 以降、その【ファミリア】は解体され、構成員の多くはオラリオを去ったという。

 

「そんなこんなでついた二つ名が【シャドー・デビル】て訳や」

 

「あのすいません、まじ勘弁してください」

 

 そうその【ファミリア】を潰したのは、なにを隠そう俺なのだ。【ヘルメス・ファミリア】に所属するLv.2のルーシャさんがぼろぼろになって帰ってきた時、頭に血が登って、つい人脈を使いあることないことを吹聴し、暗殺者時代の経験を活かし闇討ちして、最後には構成員全員を脅した。

 

 まあ、ヘルメス様がいなかったし、その事が帰ってきたアスフィさんにバレ、三日くらい怒られた。

 

「けっ、どんな話でも結局雑魚には変わりねえ」

 

 と今まで黙っていたベートさんが口を開いた。その口調はとても不機嫌そうである。

 

「ベート、そんなこと言っちゃ悪いよ。それに彼氏くんはそんじょそこらのLv.1とは格が違うんだよ?」

「はっ、雑魚がいくら足掻こうが雑魚だ。どうせその話もどっか脚色されてんじゃねぇの?」

 

 とさらに不機嫌になる。そんなベートさんに近づいて……

 

「そうですね。自分もそう思います」

 

 徐々に距離を詰め……

 

「それはそうとベートさん」

「ああ?」

 

 あと一歩でぶつかると言うところまで来て、

 

「この度は本当お世話になりました」

 

 と笑顔で言った。

 

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 それを見たベートはキレた。

 

 もともと気になる冒険者が運びこまれたから見にこいとロキに言われどんなやつかと来てみればただの下級冒険者(雑魚)。そんな雑魚が媚びを売るような笑顔で自分の目の前に立ったのだ。

 

「ベート!」

 

 リヴェリアの静止の声も聞かず、右の拳を繰り出した。

 

 カランっと杖が落ちる。

 

 そしてベートは己の目を疑った。他の面々も信じられなかった。

 

 あろうことか、トキはベートの拳をかわし、いつの間にか持っていた黒いナイフをベートの首筋に当てていたのだ。

 

 Lv.5の拳をLv.1がかわしさらには反撃までしたのだ。当然ベートの拳はトキにとって当たれば大怪我では済まない。ましてやこの至近距離だ。Lv.1のトキがかわせるはずがなかった。

 

「腕、下ろしてもらえませんか?」

 

 とトキは先程とは打って変わって凍えような低い声で言った。

 

 その声にベートは恐怖した。相手はLv.1。【ステイタス】は圧倒的にこちらが上だ。にも関わらず、ベートはこの彼から蛇のようなまとわりつく殺気を感じた。

 

 獣の本能に従い、後方に跳ぶ。トキは笑顔に戻っていた。

 

「それではロキ様。俺はこのまま帰らせてもらいます」

 

 とトキは床に転がった杖を拾い、外へと出る扉へ向かう。

 

「あ、私送るよ」

「いや、行きはいいけど帰りは一人になるだろ?」

「外出てすぐのところまでだから」

 

 とレフィーヤは何事もなかったかのようにトキに近づく。

 

「なあ」

 

 帰ろうとする彼をロキが止めた。

 

「なんですか? 今の件でしたら殴られそうになったのでかわしてナイフで脅しただけですが?」

「そうやなくて……君、ウチの【ファミリア】に入らん?」

 

 とロキは笑顔で言った。

 

「「「「なっ」」」」

 

 幹部の面々は再び息を飲んだ。他の【ファミリア】の団員の引き抜き。別に珍しい訳ではない。しかしオラリオを代表する二大派閥の主神の引き抜きは古参のフィン達にとっても記憶になかった。

 

「お気持ちはありがたいですが、断らせていただきます」

 

 そんな勧誘をトキは断った。

 

「この身はヘルメス様に救われたもの。その恩に報いるため、俺は【ヘルメス・ファミリア】を脱退するつもりはありません」

 

 それに、とトキはベートを一瞥し、子供のような純真な笑顔で、

 

下級冒険者(ざこ)では上級冒険者(あなたたち)とは釣り合いませんから 」

 

 と言った。

 

 その言葉に固まる【ロキ・ファミリア】の面々。そんな中失礼しました、とトキは去ってった。

 

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 レフィーヤがトキを門まで送って戻ってくると幹部の面々はまだその場に佇んでいた。

 

「レフィーヤ」

 

 と沈黙を破ったのはリヴェリアだった。

 

「なんですか?」

「あの少年は、我々が宴の時にそしった一人なのか?」

「はい」

 

 レフィーヤが答えた瞬間、幹部の面々、特にアイズは顔を歪ませていた。

 

「でももう気にしてないと思いますよ?」

「何?」

「だってさっき、しゃあ!! ってガッツポーズしてましたから」

 

 とレフィーヤは弾けるような笑顔で言った。その言葉に笑いだすロキ。

 

「で、でもすごかったね。あんな至近距離で殴ったベートの攻撃をかわすなんて」

 

 微妙な空気の中、ティオナが話を逸らそうと先程のトキの様子を挙げる。

 

「いや、ベートは殴ったんやない。殴らされたんや」

 

 と今まで笑っていたロキが解説しだした。

 

「どういうことじゃ?」

「そのままの意味や。ベートを挑発するような言葉でキレさせ、無意識に右の拳を出すように近づき、動きはじめてから手に隠してたナイフを抜く。あんな顔してとんだペテン師や」

 

 と、ロキは楽しそうに言った。

 

「しかし、レフィーヤ。えらい男を好きになったなぁ」

 

 そのロキの言葉にレフィーヤは

 

「はい。けれどそれが彼の魅力の1つですから」

 

 と嬉しそうに言って自室に戻っていった。

 




今回何気にオリキャラ登場(名前だけ)。ちなみに本編登場予定はありません。

やべえ、完全にやりすぎた。俺TUEEEE!! にはしないはずだったのにどんどん暴走してしまった……。タグ増やした方がいいかな?

と言うわけでタグアンケートします。詳しくは活動報告にて。ぜひコメントしてください。

以下、原作一巻終了時のトキの【ステイタス】です。

トキ・オーティクス
Lv.1
力:H105 耐久:I16 器用:H130 敏捷:H154 魔力:G225
《魔法》
【インフィニット・アビス】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。
・詠唱式【この身は深淵に満ちている 触れたものは漆黒に染まり 映るものは宵闇に堕ちる 常夜の都、新月の月 我はさ迷う殺戮者 顕現せよ 断罪の力】
《スキル》
【果て無き深淵】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。

まあ、ヘルメスが帰ってきてないので変わってません。

また、今回トキがベートに一本とれたのはベートの油断かつ不意打ちだったからです。タイマン張ったら速攻でボコボコにされます。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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