冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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援軍

 遠征に出発してから3日が経った。俺達は18階層(セーフティポイント)の『リヴィラの街』の裏道にある酒場『黄金の穴蔵亭』にたむろしていた。ルルネさんの話によるとここに、依頼した人物が援軍をよこすらしい。

 

 正直助かった、と思った。この3日間、俺は持ち前の情報収集能力を発揮し、24階層の情報を集めたのだが、思った以上に酷かった。24階層といえば『中層』の後半であり、稀に『下層』からもモンスターが来ることがあるらしい。その能力値はLv.2の後半くらいはあり、更にそんなモンスターが大量に押し寄せてくるらしい。

 

 いくら俺以外の人達が【ファミリア】の精鋭でも、たかが16人だ。そんな数が押し寄せてきたら、ただでは済まないだろう。

 

 いわゆる怖じけづいてしまった、というわけだ。まあ、他の人達はそんなこと気にしてないようで、俺の中の尊敬度がさらに高まったわけだが。

 

 しかし、その黒衣の人物は一体誰を援軍によこすつもりなのだろうか?

 

「あ、はい。また俺の勝ちです」

「くそっ! またか!」

「強すぎだよ君!」

 

 ちなみに今、俺はセインさんとネリーさんと賭博(カードゲーム)をしていた。現在12連勝中。

 

 とその時店内に人が入って来る気配を感じた。横目で見て……驚愕した。

 

 金色の髪と金色の瞳。その佇まいからは一種の神々しさすら感じる人物。

 

【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 まさか、彼女が援軍? いや、たまたまこの店を知っていてたまたま入ってきたのかも。落ち着け、過度の期待をするな。

 

「んん? あれっ、【剣姫】じゃないか!? こんなところで、奇遇だな!」

「……ルルネ、さん?」

 

 アイズさんが店で唯一空いている隅のカウンター席に近づく。そこに座っているのは今回の依頼(やっかいごと)を持ち込んだ張本人、ルルネさんだ。そういえば以前この街で起きた赤髪の女の襲撃事件で一時的に行動を共にしていたって言ってたっけ。

 

「前は世話になったな。おかげで死なずに済んだよ。あらためて礼を言わせてくれ」

「いえ……体は、大丈夫ですか?」

「あはは、この通りピンピンしてるよ」

 

 一杯おごらせてくれよ、というルルネさんの提案をやんわりと断るアイズさん。やめてくださいルルネさん、噂ではアイズさんは酒を飲むと手がつけられないそうです。

 

「今日は一人で探索かい? この店を知っているなんて、【剣姫】も通じゃないか」

 

 あれ? そういえばアイズさん、酒が弱いという噂なのになんで酒場に一人で来たんだろう?

 

「注文は?」

 

 ドワーフの主人(マスター)の問いかけに、

 

「『ジャガ丸くん抹茶クリーム味』」

 

 とアイズさんは答えた。

 

 瞬間、ガシャーンッ!! とルルネさんが椅子をひっくり返し、尻もちをついた。逆に俺は飛び上がるのを必死に抑えた。この人が、援軍!

 

「……あ、あんたが、援軍?」

 

 店内のみんなが一斉に立ち上がり、アイズさんを見つめる。とりあえず俺も立っておく。……あのセインさん、よし、って何に対して言ったんですか? アイズさんが援軍のこと? それとも俺との勝負がうやむやになったことに対してですか?

 

「彼女で本当に間違いないんですか、ルルネ?」

「ア、アスフィ……」

 

 団長であるアスフィさんが歩み出る。

 

「そうみたい……」

「……貴方達も、依頼を受けたんですか?」

「ええ、この金に目がない駄犬のせいで【ファミリア】全体が迷惑を被っています」

「ア、アスフィ~」

 

 容赦のない言葉に情けない声を上げるルルネさん。

 

「【剣姫】も会ったと思うけど……ほんの何日か前にあの黒ローブのやつが現れてさ、協力してほしいって。最初は『もうご免だ』って突っぱねたんだけど……」

 

 そういえば俺は今回の顛末について詳しく知らなかったな。まあ、知らなくてもいいってアスフィさんが判断したんだろうけど。

 言い淀むルルネさんの言葉をアスフィさんが継いだ。

 

「Lv.を偽っていることをバラす、と脅されたそうです。その挙げ句、私達に皺寄(しわよ)せまで……」

 

 なるほど。確かにこの【ファミリア】はLv.を偽っている団員が大勢いる。その事が明るみに出るといろいろと面倒になる。

 

 まず【ファミリア】の等級(ランク)が一気に上がる。これに伴い、ギルドに払う税も激増する。

 また、これは脱税扱いになるから相当な罰金または罰則(ペナルティ)を受けるだろう。

 

 なにより、ヘルメス様の『台頭を好まず中立を気取る』という姿勢(スタンス)が取りづらくなる。

 

「この馬鹿っ、愚か者っ。脅されようが最後まで白を切れば良かったのですっ。それでも盗賊(シーフ)ですかッ」

「うぅ~、許してくれよぉ~」

 

 アスフィさんの言葉に耳と尻尾をしおらせるルルネさん。他の人達からも半眼で見られている。これは……一応、弁護しておくか。

 

「まあまあ、アスフィさん。その辺にしておきましょうよ」

「うぅ~トキ~」

「……あれ?」

「こんにちは、アイズさん」

 

 突如現れた俺に目を丸くするアイズさん。

 

「トキ、【剣姫】と知り合いなのですか?」

「はい、命の恩人です。それでですねアスフィさん、ルルネさんのことですがその状況では仕方なかったと思います」

「え?」

「相手はこちらがLv.を偽っているという情報を既に掴んでいました。下手に白を切ればそれこそ本当に罰則(ペナルティ)を受けたかもしれません。そうしたら今回のことよりもさらに面倒な事になり、その解決もできない状態になっていたかもしれません」

「ふむ、確かにそうかもしれませんね……」

「ト、トキッ」

 

 納得するアスフィさんと感激したようにこちらを見るルルネさん。いや、まだ終わりじゃないですよ。

 

「それに……ルルネさんは盗賊(シーフ)ですがそういう言葉の駆け引きとか苦手ですし」

「それもそうですね」

「さらに言わせてもらえば、受けるにしても報酬をもっとせしめるとか、せめて相手の名前だけでも聞き出して欲しかったですね」

「だそうですよ、ルルネ。一番下っ端のトキですらこんなことを思いつくのですからもっと精進しなさい」

「うぅ、ぐすっ」

「あ、それとこれ頭痛薬と胃薬です」

「ええ、助かります」

 

 渡した薬の袋を開けて薬を飲むアスフィさん。やはりお疲れのようだ。

 

「あの……これからのこと、なんですけど」

「ああ、すいません。見苦しいところをお見せしました」

 

 いくらか表情がほぐれたアスフィさんが表情を引き締め直し、冒険者依頼(クエスト) についての話に戻す。

 

「依頼内容の確認をしますが、目的地は24階層の食料庫(パントリー)。モンスター大量発生の原因を探り、それを排除する。間違いありませんか?」

「はい」

「では、次にこちらの戦力を伝えておきます。私を合わせて総勢16名、全て【ヘルメス・ファミリア】の人間です。【ステイタス】は大半がLv.3」

 

 依頼内容の照らし合わせと戦力の確認を進めていくアスフィさん達。武器やアイテムのストック、そして役割分担を話していくところで、不躾だと知っていながらある提案をする。

 

「あの、アイズさん」

「……何?」

「24階層で大量のモンスターに出くわした時、そのモンスター達をアイズさんが受け持ってもらえないでしょうか?」

「「なっ」」

 

 アスフィさんやルルネさんが息を飲む。

 

「それまでは俺達がアイズさんを護衛します。ですからどうか引き受けてもらえないでしょうか?」

「トキ、いきなり何を言い出すのですか」

「すみません、アスフィさん。でも24階層の大量発生したモンスターの物量はかなりのものと聞きました。これに対処するとこちらも大きな被害を受けるでしょう。それなら第一級冒険者であるアイズさんに対処してもらえればと考えました」

「何を言い出すかと思えば--」

「いいよ」

 

 アスフィさんが俺を叱ろうとする声をアイズさんが遮った。

 

「その提案、受けてもいいよ」

「しかし【剣姫】」

「昨日【ランクアップ】したばかりだからその調整もしたいし」

 

 この言葉に今度は俺も息を飲んだ。つまりアイズさんは今、Lv.6。

 

「ありがとうございます!」

「いいのですか、本当に?」

「かまわない」

「大丈夫です。相応の報酬は払います」

「どんな?」

「好きな味のジャガ丸君を好きなだけおごります」

 

 俺のその言葉にアイズさんの目の色が変わった。

 

「好きなだけ?」

「はい、俺のへそくりから出しますからかなりの量を保証します」

「わかった、がんばる」

「なあ、アスフィ。【剣姫】、燃えてない?」

「ええ、先程までとはやる気が違いますね」

 

 そんなこんなで打ち合わせと顔合わせが終わる。

 

「こうなっては仕方ありません。各員、全力で依頼に当たりなさい。特にルルネ、貴方は死ぬほど働くんですよ」

「わかったよぉ……」

 

 みんなが頷き、ルルネさんも消沈した声で返事をする。

 

「【剣姫】である貴方がいてくれるなら心強い。しかし先程の提案本当にいいのですか?」

「大丈夫、任せて」

「わかりました。短いパーティになると思いますが、どうかよろしく」

「よろしく、お願いします」

「ですが、くれぐれも私達のことは口外しないように。もししたら……トキに貴方達を潰すように命じます」

「は、はい」

 

 あれ? なんか俺の評価おかしくね? さすがに【ロキ・ファミリア】はちょっと難しいですよ?

 

 こうして、アイズさんがパーティに加わった。街で最後の補給を済ませ、俺達は24階層を目指す。




今回はちょっと年相応のトキを書いて見ました。情報収集が上手くても戦闘がそこそこ出来ても彼はまだ14才。身内が傷つくのは見たくないのです。


ふと、思い付いた一発ネタ。



「あの、大丈夫?」

私は出会った。白い髪と赤い眼を持つ少年と。

「だ、大丈夫……」

僕は出会った。金色の髪と金色の眼を持つ少女と。

「半分持つよ」

その子はやさしく、だけど少し寂しい眼をして。

「だ、大丈夫……」

その子は強く、だけどどこか寂しそうな眼をして。

「どうしてそんなに頑張るの?」

純粋でそれが私には眩しくて。

「強く、ならなくちゃいけないから」

強くてそれが僕には羨ましくて。

「どうしてそんなに無茶するのっ!」

その子はとても真っ直ぐで。

「私の気持ちなんて……君にはわからないよっ!」

その子はとても必死で。

「僕は……君の、君だけの英雄になりたい!」

その出会いは偶然で。

「ベル……」

その出会いは必然だった。

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIF
~ソードアンドラビット・オラトリア~

「行こう、アイズ」

「うん」

少年と少女はそして出会った。



はい、設定としてはアイズとベルが同じ年ということになっています。ヘスティアはこの時【ファミリア】勧誘してねぇよとか、ゼウ……げふんげふん。ベルのお祖父ちゃんはどうなったとか、そもそもベル、どうやって生まれたとか色々と突っ込みどころはありますが、その辺は目をつぶってください。

後、再度言いますが一発ネタです。複数投稿とか自分にはできません。気が向いた人は書いてもいいです。←上から目線ぽくてすいません。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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