冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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最近、更新時間がどんどん遅くなってきている……。1日1回はやっぱりきつい……。でも頑張ります!


食料庫

「また分かれ道か……」

 

 今度はT字の分かれ道。やはり先は見えず、気味の悪い通路が続いている。

 

「アスフィ、今度はどっちに--」

 

 その時、ルルネさんの声を遮り、ズルズルと左右の道から再び食人花達が現れた。

 

「両方からかよ……」

「違う……後ろからも」

「げっ」

 

 三方向からの挟み撃ち。完全に囲まれていた。

 

「……【剣姫】、片方の通路を受け持ってくれませんか?」

「わかりました」

「トキ、貴方は全体のサポートを」

「はい」

 

 T字の中央に立ち、触手を出現させる。三方向からだから一方向4本の計算だ。

 

「かかりなさい!」

 

 アスフィさんの号令により他のみんなが一斉に飛び出す。後ろに8人、右に7人、そして左にアイズさん。アイズさんは一人だが他のところが殲滅し終わるまで時間を稼いでくれればそれでいい。そのためにもフォローを重点的に行おう。

 

 そう思った時だった。アイズさんが食人花に斬りかかった瞬間、天井から巨大な柱が落下した。

 

「なっ!?」

 

 さらに柱は次々と射出され、あっという間に左の通路を塞いでしまった。

 

「分断!?」

「アイズさん!」

 

  触手で柱を攻撃するがびくともしない。

 

「アイズさん、大丈夫ですか!?」

 

【ステイタス】で強化された聴覚で柱の壁の向こうの音を聞こうとする。かすかに聞こえる戦闘音。

 

 しかし、その音はだんだん遠ざかっていった。

 

「アイズさん!?」

「どうしたっ」

「アイズさんが通路の奧にっ」

「なっ、おい【剣姫】、どうした!?」

 

 モンスターが迫りくるなか、ルルネさんが必死に声を張り上げる。

 

「ルルネっ、彼女のことを心配するくらいなら、自分達の身を案じなさい。道を確保でき次第この場から移動します!」

「おい、アスフィっ、薄情だな!」

「彼女は【剣姫】です!!」

 

 恐らくもう声が届かないところまで離れたのであろう。俺の【ステイタス】では既に戦闘音は聞こえない。

 

 だが、あの人は【剣姫】なんだ。ベルが憧れる第一級冒険者なんだ。こんなところでくたばるはずがない!

 

「後方からモンスター! 数、5!」

「前からも来るぞ!」

 

 咄嗟に触手で迎撃しようとする。しかし。

 

「トキ、やめなさい! 各員、魔石をばらまきなさい!」

 

 アスフィさんの指示に慌ててスキルを解除。腰のポーチに少しだけ入っている魔石を壁際にばらまく。

 

 すると食人花はこちらを無視し、ばらまかれた魔石に向かって突撃する。

 

「全員、前へ!」

 

 アイズさんの情報にあった魔石を優先的に狙うという習性は正しかったようだ。食人花が魔石に夢中の間にすかさず前進する。

 

 最後尾のアスフィさんは止めを刺すように3つの爆炸薬(バースト・オイル)を投げ込んだ。

 

「ネリー、魔剣を」

 

 同時にネリーさんが魔剣を取り出し、振り抜く。すると魔剣から火炎の刃が飛び出し、アスフィさんが投げた爆炸薬(バースト・オイル)に着火、大爆発を起こした。

 

 それにしても、やはり他のみんなの動きは俺と違ってかなりいい。いや、高度に統一されている。緊急時における対応、素早く指示を実行する能力。まるでパーティが1つの生き物ように連携する。

 

 それに比べ俺は……

 

「アスフィ、前からめちゃくちゃ来るぞ!?」

 

 思考に嵌まろうとした頭にルルネさんの報告(叫び)が聞こえる。見ると、おびただしい数の食人花が押し寄せて来た。

 

 ルルネさんは言いながらモンスターの間を縫い、すれ違いざまに斬りつける。それを機に前衛が武器を取り出し、応戦を始めた。

 

「よっぽど我々をこの先に行かせたくないようですね……!」

 

 アスフィさんが唇に笑みを浮かばせる。そう、モンスターの迎撃が激しくなるほどこの先に何かある、と言われているようなものだ。

 

「トキ、中衛に上がって援護しなさい」

「はい」

 

 アスフィさんが最前に移動し、俺も中衛でサポートに撤する。パーティの進行速度は先程となんら変わっていない。

 

  何度モンスターを迎撃しただろうか、ふと前方に赤い光が漏れ出していた。

 

「……あれは」

「もしかして、石英(クォーツ)の光? 食料庫(パントリー)が近いのか?」

 

 ルルネさんの決して大声ではないつぶやきが耳に入ってくる。確かに、あれは肉壁に入る前に道を照していた赤い光に似ていた。

 

「アスフィ」

「このまま、突っ込みます」

 

 アスフィさんの言葉に力を振り絞る。最後の食人花を仕留め、みんなに置いていかれないよう、全力で駆け抜ける。

 

 そして、ついに食料庫(パントリー)の大空洞に足を踏み入れた。

 

 視界が開ける。まず目に飛び込んで来たのはこれまでの通路と同じ緑壁。そして、石英(クォーツ)大主柱(はしら)に寄生する巨大なモンスター。

 

「宿り木……?」

 

 食人花に似たモンスターが計3体。30Mほどの大主柱(はしら) に絡み付いていた。それはこれまで見てきたどの食人花よりも長く、太く、そして毒々しかった。その体から出ている蔦のような触手を大主柱(はしら)に絡ませている。

 

「まさか……大主柱(はしら)から出る養分を、吸っている?」

 

 一定の間隔で脈動するそれらは大主柱(はしら)から出る液体を逃さないように吸収していた。

 

 つまり、こういうことだ。あの巨大な食人花が食料庫(パントリー)の養分を吸い上げる。そのために迷宮を侵食し、他の個体には肉壁を越えてきたモンスターの魔石を食わせる。

 

 確かに効率的だ。つまり、あれが今回の元凶。

 

「あ、あれはっ」

 

 ふと、誰かが声を上げた。視線を落とすと俺達の他に謎の集団がいた。上半身を覆うローブ、口元まで隠す頭巾、共通の額当て。

 

 集団はこちらを指さし、大声で警戒を呼び掛けあっている。

 

 だが、俺はなぜか、吸い込まれるかのように、その奥を、見ていた。

 

 緑色の宝玉。その中の雌の胎児。脈を打つそれに同調するかのように、心臓が暴れだす。

 

 なんだ、あれは……?

 

 ふいに胎児の目と視線が合わさった。

 

「うっ……」

「トキっ!?」

 

  耳鳴りがする。体中をミミズが走り回るような感覚に襲われる。強烈な吐き気が込み上げてくる。

 

 立っていられない。口元を抑え、片膝をつく。

 

「トキ、大丈夫ですか!?」

「これって、【剣姫】と同じ……」

「どういうことですか、ルルネ!?」

「わ、わかんないよっ!?」

 

 駄目だ。俺が理由で、俺の所為でパーティの和が乱れるのは駄目だ。

 

 吐き気を強引に飲み込む。ふーっと深く息を吐く。なるべくあの宝玉を見ない。……よし。

 

「アスフィさん、ルルネさん。もう大丈夫です」

「本当ですかっ?」

「はい。それよりもこの状況の整理を……」

 

 再び視線を謎の集団に向けると全身白ずくめの男に他の者と違う色のローブを纏う者が詰めよっていた。

 

 そして、向こうの全員が抜刀。得物を掲げ、こちらに押し寄せてくる。

 

「おい、なんかあいつ等やる気満々だぞ!」

「応戦します。こちらとしても彼等がここで何をしているのか、聞き出さなくてはいけませんから……ね」

 

 それに奴等の殺気、こちらを本当に殺そうという殺気だ。

 

「トキ、貴方は……」

「戦います」

「けどよ……」

「俺なら大丈夫です。それに俺は対人戦のために呼ばれてきたんですから」

「……わかりました。そうですね……あの色の違うローブの者と奥の白ずくめの男は生かしておいて下さい」

 

 つまりそれ以外は殺してもかまわない、と。

 

 意識を切り換える。もう、言われて殺すだけの人形じゃない。

 

 仲間を守るために、みんなの役に立つために、人を、

 

「殺す」

「殺せ!」

「かかりなさい!」

 

 そして、開戦。




さて、前座はここまで。これからトキの大活躍が始まります。

……あのトキってチートですか? 作者的には多才なだけでチートというつもりはないんですか、その辺どうでしょうか? ご意見をおうかがいしたいです。まあ、聞いたところでトキのこの路線を変えるつもりはありませんが。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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