冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
仕方ないよね、トキが勝手に動くんだもの! ……冗談はさておきそれではどうぞ。
ぶつかり合う得物。鳴り響く金属音。人間同士の争いが巻き起こる。
【ヘルメス・ファミリア】16人に対し、謎のローブ集団の数は倍以上。しかし【ヘルメス・ファミリア】は中衛が前衛に上がることで人数の不利を補っていた。
確かにローブ集団の数は【ヘルメス・ファミリア】を上回っているかもしれない。しかし、高度な連携と
そんな中トキは連携よりやや外れたところで同時に3人を相手どっていた。
「はあっ!」
「やあっ!」
「うおおっ!」
迫りくる剣を槍を棍をかわし、剣を持った者に近づき……そのまま素通りする。驚く男が振り向いた瞬間、ドスッと心臓が黒い触手により貫かれた。
仲間が殺られたのを見てふたり同時に襲いかかる。しかもわずかな時間差攻撃、未だトキはローブの者達に背中を見せていた。前のローブの者が棍を繰り出そうとした瞬間、後ろから衝撃が走る。後ろにいた仲間がぶつかってきたのだ。
「なっ」
体勢が崩れ、地面に転倒する。起き上がろうとしたところで……黒い触手がふたりをまとめて貫いた。こと切れるふたりを見つつ、息を吐く。
(この調子なら大丈夫そうだな)
次なる標的を探そうと顔を上げ、視界の隅が爆発した。
「……は?」
続いて体に吹き付ける熱風。それは戦っている【ヘルメス・ファミリア】のところからだった。
「-愚かなるこの身に祝福をぉ!!」
今度ははっきりと見えた。ローブの者達が上半身に真っ赤な紅玉を巻き付け、腰の小箱の紐を引き、爆発。
「アスフィ、こいつら死兵だ!?」
ルルネの叫び声がトキの耳に入る。
死兵。それは使命のために己の命さえもなげうつ者達。何より、高度な連携を取る集団にとっての最悪の敵。
「セイルがやられた!?」
「誰か治療を!」
「おいっ止めろおおおおおお!!」
次々と仲間が爆炎に呑み込まれていく。
「同志よ、死を怖れるな!」
ふと、色違いのローブを着た者が声を張り上げた。声を聞く限り男だ。
「死を迎えたその先が我々の悲願だ!」
しかし、トキの脳内には別の、はるか昔に聞いた男の声が聞こえていた。
『いいかいトキ。死兵の対処法はとっても簡単だ。それはね-』
「
判断は一瞬だった。仲間目掛けて腕を伸ばす者を触手により突き飛ばす。触手により【ステイタス】を無効化され、不意打ちで突き飛ばされた者達は後ろによろけ、爆発。後方から続けて自爆しようとしていた仲間もろとも弾け飛ぶ。
手から黒いナイフを出現させる。トキが唯一足以外から出現させられる暗器。小箱の紐を引こうとする者目掛けて駆け出し、すれ違いざまに一閃。喉元を切り裂く。
触手を伸ばし、死兵の集団に突っ込む。小箱の紐を引き抜いた者を突き飛ばし、小箱の紐に手をかけた者の腕を切り飛ばし、小箱に手をかけようとする者を刺し貫く。
触手を振り回し、手に持つナイフで切り裂く。
しかし、そんなことをすれば目立つのは当然。ローブの者達は一斉にトキの方に注目し、そちらに向かう。
(狙い通り!)
だが、それはトキの思惑通りだった。仲間から注意を逸らした、その間に体勢を立て直させる。それに一対多はトキが最も得意とする戦闘。敵の行動を誘導し、不意打ち、同士打ち、複数撃破を狙う。
ズルズル。
ふいに、何かが蛇行するような音が聞こえてきた。
「トキ、避けなさい!!」
アスフィの声に反射的に上へ跳ぶ。そして、すぐ下を食人花が通りすぎた。さらに前から横から後ろから食人花が迫りくる。
「ちっ!」
トキはさらに
トキの影は彼の魔力が足から出ているものだ。そして攻撃の際それは具現化する。それの応用でトキは足から出る影を一瞬具現化させ、足場とした。
さらに影で出来たナイフを消し、腰のナイフとハルペーを抜刀。食人花の首を刈る。
さらに襲いかかって来る食人花を上空に跳び、回避。その勢いが最高点に達する前に体を180°転回。影を踏み締め、地面に向かって跳ぶ。
すれ違いざまに食人花を2体切り裂き、着地する前に体全体を使って前転、落下の衝撃を逃がす。そこへ襲いかかってくる死兵と食人花を同時に相手取り始めた。
その光景に【ヘルメス・ファミリア】の面々は絶句していた。彼がLv.1ながら強いことは知っていた。しかし目の前で起こっている戦闘は自分達の想像をはるかに越えたものだった。
「何をしているのですか!!」
そんな中、団長のアスフィが声を張り上げた。彼女には見えていた。モンスターと死兵に囲まれ、それに応戦する彼の顔が苦渋に歪んでいるのを。
いくらトキが多才であるからと言っても死兵を自爆させる前に倒し、全方向から襲いかかってくる食人花の体当たりを回避し、葬るのは彼の処理能力の限界まで達していた。その証拠に彼はこの情況下でまだ詠唱をしていない。
「死兵はトキに任せますっ。私達はモンスターを!!」
団長の声に【ヘルメス・ファミリア】の団員は慌てて得物を構え、モンスターに突撃する。後衛が詠唱を始めると食人花がいくらかそちらを向く。
仲間が食人花を討伐し始めたおかげで少し余裕ができたトキはここに来て詠唱を始めた。
「【この身は深淵に満ちている】」
その声を聞いた【ヘルメス・ファミリア】の団員が声を張り上げた。
「よせ、トキっ!!」
「【触れるものは漆黒に染まり。写るものは宵闇へ堕ちる】」
しかし、トキは止めない。再びトキへ向かう食人花。
「魔石をばらまきなさい!」
「来る途中で全部ばらまいちまったよ!」
「くっ!」
「【常夜の都、新月の月。我はさ迷う殺戮者】」
全ては仲間を傷つける敵を葬るために。
「【顕現せよ、断罪の力】」
彼は唄う。
「【インフィニット・アビス】」
8匹の漆黒の大蛇が食人花達を抑え、残りの4匹が死兵を喰らい尽くす。
「な、な、な-」
全滅。自爆できたのは極一部。それ以外は全て一人の少年に倒され……否殺されてしまった。自分達は死を怖れない。しかし、あまりに圧倒な光景に色違いのローブを着た男は声が出なかった。
するとトキは色違いのローブを着た男に視線を送り、そのままその男目掛け、走り出す。
咄嗟に片手剣を構えるが、横合いから出現した漆黒の刃に両腕を切り裂かれる。
「があああああああっ!!」
血を流し、倒れる男の横をすり抜け、トキは白ずくめの男へ向かう。
「
口端に皺を寄せる白ずくめの男は雌の胎児が取りつく
あっという間に埋まる距離。しかし、その速度は明らかに白ずくめの男の方が速い。トキはその場で急ブレーキをかけ、影を目の前に展開。白ずくめの男の視界を奪う。
「ふっ」
白ずくめの男はそんな壁ごと突き破ろうと拳を振り上げ……瞬間影から何かが飛び出してきた。
それは今回の依頼で使う予定だった
「なっ」
「くっ、小賢しい真似をっ」
急ぎ布を取り、辺りを見渡す。しかし、トキの姿はどこにもなかった。
「どこへ行った!?
しかし、食人花はあっちを見たりこっちを見たりとキョロキョロするだけだ。
「どうした、
食人花には視覚というものがない。代わりに魔力を探知してものを判別している。そして、この辺り一帯にはトキがばらまいた魔力の濃霧がたちこめていた。これにより食人花はどこにトキがいるのか、またどちらが前なのかわからなかった。
「ええい、役立たずどもめ!」
いらだちを隠せない白ずくめの男。ふいに、後ろから殺気を感じとった。
振り返りそのままバックステップ。1秒前に首があったところを何かが通りすぎた。
トキは魔力の濃霧を展開し、
しかし『
この影にはあまり
(もらった!)
トキの必殺の一撃。
キンッ。
しかしそれは男の体に当たった瞬間、弾かれた。
「なっ!?」
「そこか!」
白ずくめの男の拳が唸る。咄嗟に影を二重に展開しガード。さらに腕を交差し、後ろに跳ぶ。
【
しかし、敵の拳は影をやすやすと貫き、腕に当り……その衝撃で吹き飛ばされた。
「がっ!」
地面を転がり、停止した瞬間に立て直す。
(くそっ)
不安定な体勢で『
正確には交差した時に前になっていた左腕に当り、それだけで肘から下の腕の骨を折られた。
相手の
アスフィと白ずくめの男だと白ずくめの男の方が
(俺が殺らなきゃ)
魔法が効かない。ならばそれ以外の方法で殺す。幸いまだ『
トキは再び白ずくめの男に向かって駆け出した。
食人花の感覚については独自解釈です。違うんじゃないか、という人はご感想の方へ書いてください。参考にさせていただきます。
ご意見、ご感想お待ちしております。