冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
次こそは必ず紹介します!
結局、追い付けなかった。【ステイタス】には結構自信があったのだがいかんせん、あいつが周りを見ずに走るものだから終始つかず離れずだった。やはり人間、何かに集中すると実力以上の力を発揮するんだな。
で、結局血まみれの赤い物体ことベルはダンジョンからギルドまで全力で走ってしまった。ああ、こうなることを防ぎたかったんだけどなー。
まあ、理由は単純で血まみれで街を走るような知人を持ちたくなかっただけだ。
明日から他人のフリでもしようかなー、とか思ったけど、そうすると明日からパーティになってくれる人がいなくなってしまうため、明日も彼とダンジョンだ。
「て、訳なんですよ、ミィシャさん」
「へー、大変だねー」
と、俺の担当アドバイザーのミィシャ・フロットさんは相槌をうった。
ちなみに今俺が何をしているかというと、ベルを待っているのである。ベルの所属している【ヘスティア・ファミリア】は構成メンバーがベル1人という始まったばかりの【ファミリア】だ。そのため、ダンジョンの知識や心構えは全て担当アドバイザーのエイナ・チュールさんに教わっている。さらにエイナさんはとても冒険者思いの人で新人のベルに懇切丁寧にアドバイスしてくれるそうだ。そのため、何かと時間が掛かる。
俺は【ファミリア】に先達がたくさんいるし、アドバイスもそこそこなのであまり時間がかからない。
ミィシャさん曰く、トキ君は全く手がかからない、らしい。
ちなみにのちなみに、ベルを待っているのは今日のダンジョンでの分け前を渡すためだ。俺とベルは別々の【ファミリア】に所属しているため、きちんと換金したお金をわけないといけないんだ。
「……お待たせ」
「ああ、ようやくきた……なんか元気ないな?」
「……ああ、うん、ちょっとね」
エイナさんと共に戻ってきたベルはあからさまに元気がなかった。まあ、ベルは単純だし、何かいいことがあればすぐに元気になるだろう。
「とりあえず、はい今日の分け前」
「……うん、ありがと」
のろのろとした動作でお金を受け取るベル。
「1200ヴァリスか……」
「まあ、今日はあまりダンジョンに潜ってられなかったしな。ちなみに俺も1200ヴァリス」
そう言って今日の稼ぎを見せる。この行動の意味はベルに俺は分け前を偽ってないよ、というアピールである。本来なら換金する場をベルに見てもらうのが一番なのだが今日は話が長そうだったのと、俺が魔石の欠片を持っていたのが理由で先に換金してしまったのだ。
「それじゃあ解散するか」
「うん、明日も同じ時間でいい?」
「ああ、またよろしくな」
「……ベル君」
「あ、はい。何ですか?」
帰り際、見送りにきたエイナさんにベルが引き止められていた。ちなみに俺はない。しかし、美人の見送りって………………べ、別に羨ましくなんかないんだからね!
まあ、それはさておき。こっそり聞き耳を立ててみる。
「あのね、女性はやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから……」
驚いた、エイナさんはむしろ頼りがいのないまさにベルみたいな人が好みだと思っていた。
「えっと、めげずに頑張っていれば、その、ね?」
ベルは真剣にエイナさんの話に耳を傾けている。こんな真面目なベルは初めて見たかもしれな。
「……ヴァレンシュタイン氏も、強くなったベル君に振り向いてくれるかもよ?」
ああ、なるほど。さっきの話はベルの恋愛相談だったんだ。でアドバイザーとして現実を見ろとアドバイスしたんだ。それでさっきのベルは落ち込んでいたのか。で、今はアドバイザーとしてではなく1人の知人としてのアドバイスと。
……本当にいい人だなエイナさん。
その言葉を聞いたベルは顔をみるみるに笑顔にさせる。勢いよく駆け出した後、すぐに振り返り、叫んだ。
「エイナさん、大好きー!」
「……えうっ!?」
「ありがとぉー!!」
エイナさんの顔が真っ赤に染まる。ベルは笑いながらその場をあとにした。しばらくぼーっとしているエイナさん。これは声をかけないと再起動しなさそうだ。
顔がニヤニヤと笑顔になるのを抑えられないままエイナさんに近づく。
「しかし、今のって」
バッ! とエイナさんが俺の方をむく。そんな彼女に対し満面の笑みを浮かべてこう言った。
「聞きようによっては告白ですよね」
「な、な、な、な」
素早く身をひるがえし帰路に付く。
「と、年上をからかうんじゃなーい!!」
エイナさんの怒号を無視しながら。
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