冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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感想にて主人公の名前に作者名が入っているのはおかしいと指摘されましたのでファミリーネームを変更しました。……まあ二文字消しただけなのですが。

というか作者は名前を考えるのが非常に苦手です。ですからなにか良い名前があったら教えて下さい。お願いしますm(._.)m

そしてUAが50000を突破しました。\(^-^)/それもこれも日々見てくださる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。これからも頑張っていきます。


狂信者

「そうですね。倒せる見込みができた以上、次はこの食料庫(パントリー)の謎を解明しましょうか」

 

 落ち着きを取り戻したアスフィが本来の目的を思い出す。先程の精神状態から言っても尋ねればいろいろと答えてくれそうだ。

 

「貴方は一体、何なんですか?」

 

 自分に酔っているであろうオリヴァスは落ち着きを取り戻した冒険者達の様子に気がつくことなく、笑みを浮かべ答える。

 

「人と、モンスターの力を兼ね備えた至上の存在だ!」

 

 オリヴァスは冒険者達を見下すように……否、見下しながら高言を吐く。その言葉を裏付けるかのように、こうしている今も傷が徐々に癒えていき、魔石がある胸部も塞がっていく。

 

「神々の『恩恵』にすがるのみの貴様らが……どうしてこの私に勝てる?」

 

 いや、勝てる。現に先程腕を吹き飛ばしたし、弱点もわかった。勝機は充分にある。それに未知に挑むのが冒険者の本業だ。

 

 化け物でも、勝てなくないとわかっていれば立ち上がれる。そう思いながらアスフィは次の言葉を口にする。

 

「貴方は闇派閥(イヴィルス)の残党なのですか?」

 

 その言葉にオリヴァスはくだらなそうに笑い返した。

 

「私はあのような過去の残り滓とは違う。神に踊らされる人形ではない」

 

 この言葉にトキは疑問を持った。果たしてそうなのか? と。

 

 オリヴァスの様子を見る限り誰かしら──先程言っていた『彼女』というもの──のために動いているのは本当なのだろう。しかし彼は酷く『彼女』なるものを崇拝している。その存在に利用されているとは思わないのだろうか?

 

「ここは何ですか? ここで貴方達は何をするつもりだったのですか?」

 

 質問を重ねるアスフィにオリヴァスはあっさりと答えた。

 

「ここは苗花(プラント)だ」

苗花(プラント)……?」

「そうだ。食料庫(パントリー)巨大花(モンスター)を寄生させ、食人花(ヴィオラス)を生産させる……『深層』のモンスターを浅い階層で増殖させ、地上へ運び出すための中継点」

 

 その言葉に再び驚く冒険者達。食人花が『深層』のモンスターであったこと、そしてなにより、

 

「モンスターが、モンスターを産むなんて……聞いたことがない」

「いや、前例がない訳じゃない。地上に侵出したモンスターは種の繁栄のため群れをなし子を作る。だけどそれはそれ以外に増殖する手立てがないからだ。当然生まれてくる子には魔石が必要となるから地上のモンスターは魔石が小さく、その分弱いんだが……そんな感じはしないな」

 

 再び混乱しないようになんとか男の言葉に他の事例を上げるもあまり効果がない。

 

「つまり、調教師(テイマー)である貴方がモンスターを使役し、この空間を作り出したと?」

「違う、違うぞ。私は調教師(テイマー)などではない」

 

 語気を強め、本格的にオリヴァスは語り始めた。

 

食人花(ヴィオラス)も、私も、全て『彼女』という起源を同じくする同胞(モノ)。『彼女』の代行者として、私の意思にモンスターどもは従う」

 

 理解できないものを前にするような嫌悪の表情でアスフィは核心をつく。

 

「貴方の目的は、何ですか?」

 

 その質問にやはりオリヴァスは笑いながら簡単に答えた。

 

 

 

迷宮都市(オラリオ)を、滅ぼす」

 

 

 

 大それた言葉に冒険者が愕然とする。

 

「じっ、自分が何を言ってるのか……わかってるのかよ?」

 

 無意識なのか震える尻尾を片手で無理矢理握り込んだルルネが尋ねる。

 

 オラリオはその昔、まだ神々が下界に来ていなかった頃、ダンジョンのモンスターを外へ出さないための防波堤としてダンジョンの上に建てられた。オラリオを囲う防壁はその名残である。

 

 もし、オラリオが滅ぼされモンスターが溢れだしたらそれこそ戦乱の世の幕開けである。

 

「理解しているとも!!」

 

 しかしオリヴァスは高々と返答した。

 

「私は、自らの意思でこの都市を滅ぼす!! 『彼女』の願いを叶えるために!」

 

 そう言って彼は背後を指し示す。

 

「お前達には聞こえないか、『彼女』の声が!?」

 

 その先にあるのは、宝玉の胎児。

 

「『彼女』は空を見たいと言っている! 『彼女』は空に焦がれている!! 『彼女』が望んでいるのだ、ならば私はその願いに殉じてみせよう!!」

 

 病的なまでに白い顔に高揚した笑みを浮かべる。要領を得ない言葉を連ねるその姿からはっきりとわかるのは、オリヴァスの『彼女』に対する忠義と妄執だ。

 

「地中深くで眠る『彼女』が空を見るためには、この都市は邪魔だ! 大穴(あな)を塞ぐこの都市は滅ぼさねばならない!」

 

「愚かな人類と無能な神々に代わって、『彼女』こそが、地上に君臨するべきなのだ!!」

 

「娯楽だと笑い、生を尊ぶなどと抜かし何もしない神々とは違う! 『彼女』は私に二つ目の命を、慈悲を与えてくださった!」

 

「私は選ばれたのだ、他ならない『彼女』に!! 私だけが、私達だけが『彼女』の願いを叶えられる! 『彼女』の望みは必ずや私が成就させてみせる!!」

 

「『彼女』こそが、私の全てだ!」

 

 狂信者(ファナティック)。そんな言葉が冒険者一同の頭をよぎる。

 

 そんな中トキは別の感想を抱いていた。それは……なんて弱い人なのだろう、という憐れみだった。男が指し示た胎児。あれは言語を話すものではない。男には本当に聞こえるのかもしれない。

 だがそのために都市(オラリオ)を破壊して何になる? 『彼女』なるもの願いを叶え、一体どうなる? 願いが叶ったその先は?

 

 そんなちょっと考えれば思い付くようなことをオリヴァスは考えてもみないだろう。結局、彼の忠誠は己の存在を示すものでしかなく、彼の妄執は『彼女』に対する依存でしかない。そうトキは思った。

 

「それで、結局『彼女』とは何者なのですか?」

 

 刺激しないよう、細心の注意を払いつつ一番気になっていたことを口に出す。

 

「ふん、小僧、お前には理解できまい」

 

 そんなトキの疑問を男は鼻で笑った。

 

「『彼女』は人智を超えたもの! それを理解することなどできはしない! だが私には『彼女』の声が聞こえる!! これこそが、私が『彼女』に選ばれたという証なのだ!!」

 

 その言葉にオリヴァスの言葉で混乱していた空気が一気に冷めた。

 

「え、なんだよ。どういうことだよ!?」

 

 理解していないルルネをはじめとする極一部が詰めよってくる。トキは頭を抑えながら、影から頭痛薬を口に入れ飲み込んでから答えた。

 

「えーっと、要約すると……よくわかってない、だそうです」

「……はあ?」

 

 先程までの混乱が嘘のようにさらに空気がシラケる。つまりオリヴァスは、自分でもよくわかっていないもののためにここまでのことをして、こんなに熱く語っているのだ。

 

「……あいつ頭おかしいんじゃねぇの?」

「……狂信者(ファナティック)なんてみんなそんなもんですよ」

 

 さすがのベートも呆れ、トキが溜め息混じりに呟く。しかし、ふたりはもう聞きたいことは全て聞いたと言わんばかりに表情を引き締めた。

 

「御託はいい。とにかくてめえは大人しくくたばれ。……どうせ、もうろくに動けやしねえんだろ」

 

 その言葉にレフィーヤ達が驚いて彼の横顔を見た。

 

「トキ、貴方は──」

「はい、気づいていました。あいつが時間を稼いでいることは。まあ、あのダメージを回復しきるのは無理だろうとわかっていましたし、聞きたいこともあったのでしゃべらせていましたが」

 

 その洞察力にレフィーヤ達は再び驚愕する。つまりこのふたりは最初から気づいていたのだ。オリヴァスの回復には彼の魔力と生命力を利用し、先程までの動きはできないと。

 

「ふん。【凶狼(ヴァナルガンド)】はともかくやはり貴様も気づいていたか小僧」

 

 二人の読みを認めるオリヴァス。しかし、彼は不敵な笑みを作った。

 

「私を生かそうとしてくださる『彼女』の加護は、未だこの身には過ぎた代物……貴様らの言う通り、今の私はろくに動けん。──私はな」

 

 その瞬間、アスフィとベートの瞳が何かに気づいたように見開かれる。オリヴァスは彼等が行動する前に片腕を高々と上げた。

 

「やれ──巨大花(ヴィスクム)

 

 直後、大主注(はしら)に寄生していたモンスターの内、一体が蠢き、その花弁を開く。ベリベリと大主注(はしら)から身を剥がす。

 

「──散れっ!!」

 

 ベートの激声に皆が一目散に散開する中、トキはその場を動かなかった。そして、

 

「舐めるな」

 

 オリヴァスを睨みながら12の大蛇を出現させる。

 

「なっ!?」

「馬鹿野郎!?」

 

 アスフィとベートが悲鳴に近い声を上げる。しかし、それも巨大花が動く音に掻き消されてしまう。

 

 トキの黒い大蛇は確かに大きい。しかし、巨大花と比べるとその大きさは歴然だ。このままでは大蛇はすぐに潰され、トキは押し潰されてしまうだろう。……そう、このままでは。

 

 黒い大蛇が巨大花に向かいながら身を寄せる。その姿が混ざり合い……一匹の巨蛇が姿を現した。

 

「なに!?」

 

 巨蛇は巨大花に正面から噛みつき、その落下を止める。その力に、重力によって落下していた巨体が止まった。

 

「しゃべりながら時間を稼いでいたのはお前だけじゃなかったってことだ」

 

 挑発するような笑みを浮かべオリヴァスに言う。

 

 トキの【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】の魔法の解除は通常の魔法と違い、トキの任意で行われる。トキはオリヴァスを吹っ飛ばした後も魔法を解除せずにいた。

 

 さらに【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】には、隠された能力としてチャージ能力がある。えらく時間がかかるため普段あまり使用しないが、それもしゃべっている間になんとか最低限のチャージが完了したのだ。本音を言うともう少ししていたかったのだが。

 

「おい、蛇野郎っ!」

「こいつは俺が抑えます! その間に魔石の位置を調べてください!」

「お、のれ小僧っ、またしてもおぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 オリヴァスの激昂に反応するかのように巨大花が動き出し、巨蛇の束縛から逃れようとする。そうはさせるかと巨蛇は長い体を巨大花に巻き付け地面に叩きつけないよう右へ左へとその巨体を振り回す。

 

 さらに巨大花から分岐する触手がトキを襲おうとするが、

 

「はあっ!」

「おらっ!」

 

 他の者達がそうはさせなかった。

 

「助かります」

「こんな手があるなら最初から言ってください」

「あははは、すいません」

 

 から笑いをするトキだが、その表情は芳しくない。

 

 確かに巨大花の動きは抑えている。しかし、圧倒的なチャージ不足によりパワー負けしているのだ。今はなんとか抑えている状態だが時間が経つにつれその動きがどんどん大きくなる。

 

「あのー、できれば早めにお願いします。あとできれば高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を二個ほど飲ませてくれるとありがたいです」

「自分では飲めないのですか?」

「操作に集中していて手が離せないです」

「わかりました。ネリー、高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を二つください!」

 

 遠くにいたネリーを呼び戻し、彼女から高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を受けとるアスフィ。そして……トキの口に思いっきり突っ込んだ。

 

「ふん!」

「ふごっ!?」

 

 巨蛇の制御が一瞬乱れる。慌てて持ち直し、アスフィに抗議の目を向ける。

 

「あにふるんでふか?」

「こんな無茶をして。帰ったら説教です」

「おい、コントしてないで手伝ってくれよアスフィ~!」

「では私はこれで」

 

 去っていくアスフィを見つつ巨蛇の制御に集中する。

 

 今トキが最も恐れているのはオリヴァスが二体目の巨大花を動かすことだ。それをされたらさすがに止めきれない。全滅は必至だ。

 

「ぐっ、ならばっ!」

 

 予感が的中したのかオリヴァスが片腕を上げる。その瞬間、

 

 

 大空洞の壁面の一角が爆発した。




今回の大蛇が巨蛇になる能力はストライク・ザ・ブラッドのディミトリエ・ヴァトラーをモチーフとしています。……しかし自分で考えておいてなんですがトキって本当に万能ですね。怪獣戦までできるなんて。ここまで来たら言われなくてもチートだということを認めてたかも。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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