冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今回から原作3巻スタート。とは言ってもこの章はぶっちゃけトキはあんまり活躍しません。なぜならベル君が活躍するから!

はい、では始めます。


譲れない思い
一件落着?


「じゃが丸くん小豆クリーム味、20個」

「はい!」

「それとそれ以外の味を10個ずつ」

「……え?」

 

 ヘスティア様の動きが止まる。客として現れた金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタインを2度見する。

 

「君、本気かい?」

「……はい」

 

 彼女はいつも表情の変化が乏しい。しかしこの時だけは誰がどう見てもやる気に満ち溢れていた。

 

「お、お代は?」

「あ、それは自分が」

 

 アイズさんに気をとられていたのであろう。ヘスティア様は隣にいた俺に今気づいたようだ。

 

「あれ? 君は確かベル君とパーティを組んでいる……」

「トキ・オーティクスです」

「そうそう、トキ君だ。なんだい、君達付き合っていたのかい?」

 

 にやにやと嬉しそうにヘスティア様は俺とアイズさんを見比べる。

 

「ははははは、ヘスティア様は冗談が上手ですねー。そんなことになったら俺、殺されちゃいますよー」

 

 レフィーヤとかベルとかに。

 

「ちっ、そうかい。注文の方はちょっと時間がかかるけどいいかい?」

「……構いません」

「なら、ちょっと待っていてくれ。おばちゃん! じゃが丸くん小豆クリーム味20個とそれ以外の味を10個ずつ!」

「はいよ!」

 

 むんっ、と気合いを入れてじゃが丸くんを揚げ始めるおばちゃん。その様子を熱心に見ているアイズさん。

 

 それじゃあ今のうちにお代を数えておこう。えーっとじゃが丸くん1つがこの値段で、種類がひい、ふう、みい……。

 

 

 

 現在俺は24階層で大移動していたモンスターを一人で倒してくれたアイズさんに約束の報酬としてじゃが丸くんを奢っていた。あとついでにベルをどうやって逃がさないかの打ち合わせも。

 

 それにしてもアイズさん、少食だという噂だったが案外食べるようだ。いくらじゃが丸くんが食べやすいと言ってもこれだけの量は普通一度では食べきれないだろう。いや、それとも【ファミリア】に持ち帰ってみんなに分けるのかな? うん、そうに違いない。

 

 

 

「はぐはぐはぐ」

「……」

 

 そんなことを考えてた時が俺にもありました。

 目の前には大量のじゃが丸くんを横に置き、リスを思わせるような可愛らしい動作でじゃが丸くんを食べるアイズさんの姿が。そして、俺の横には食べられたじゃが丸くんを包んでいた包装紙の山が。

 

 アイズさんは少食という噂は間違いだったようだ。いや、じゃが丸くんだからこそこんなにも食べるのであろうか? ともかく食べた端から消化し、エネルギーとしているようだった。

 

 あれだけあったじゃが丸くんは30分ほどで食べきられてしまった。

 

「……ごちそうさま」

「あ、はい。あのおいしかったですか?」

「うん」

 

 とてもご満悦の様子だった。

 

 話を変え、どうやってベルにプロテクターを渡すか、という話になった。いろいろ話した結果、あらかじめアイズさんがギルドのエイナさんに話をし、その間に俺がベルを連れていく、ということになった。

 先ほどヘスティア様に話を聞いたら今日の正午に近くのカフェでサポーターについて話があるらしいからそれに付き添う形になっている。

 

「じゃあアイズさんは先にギルドに向かってください。俺はこの包装紙を片付けてから行きますから」

「……わかった」

 

 別の意味で気合いが入ったのか、アイズさんの目はいつもよりギラついて見えた。

 

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「おーい、ベル君!」

「あっ、神様! ……と、あれ? トキ?」

「よっ」

 

 手を上げてベルに挨拶する。ヘスティア様だけが来ると思っていたベルはキョトンとした顔をしている。

 

「お待たせ。すまない、待ったかい?」

「そんなことないです。それよりも神様、なんでトキと一緒にいるんですか?」

「ああ、君に個人的な用事があるらしいんだ。詳しい話は後で彼に聞いてくれ」

「と言うわけだ。それよりもベル、そこにリリがいるってことは……」

「うん、解決したよ」

「そうか」

 

 実は本当に解決するとは思っていなかったが、案外こいつもやる時はやるもんだな。

 

「おいおい、君達だけで勝手に話を進めないでくれたまえ」

「あ、はい。神様、この子が前に話した……」

「リ、リリルカ・アーデです。は、初めましてっ」

 

リリが緊張した面持ちで椅子から立ち上がり、一礼する。その様子からは遠征前に感じた邪気は感じなかった。

 

「あっいけない。神様とトキの椅子を用意してもらってないや……」

「……! なぁにっ、気にすることはないさ! この客の数だ、代わりの椅子もないだろう! よし、ベル君座るんだっ、ボクは君の膝の上に座らせてもらうよ!」

「あはは、神様もそんな冗談を言うんですね。ちょっと待っていてください、店の人に頼んできますから」

「あ、俺の分は自分で調達するから俺も一緒に行くよ」

 

 そう言ってベルの隣に並ぶ。なんかこの配置も久し振りな気がする。

 

 店の人にふたり分の椅子を用意してもらう間、少しベルと話す。

 

「ねぇ、トキはいつダンジョンから戻って来たの?」

「3日前だな。けっこうしんどかったんだぞ」

「3日前って……あ、リリがモンスターに襲われそうになった日だ」

「どういうことだ?」

「えっとね-」

 

 そこから話を聞いて……頭が痛くなった。

 

 なんでも、その日ベルとリリは10階層まで行ったらしい。初めて大型のモンスターと戦ったベルだが難なく倒せたそうだ。

 

 問題が起こったのはここから。なんとリリに血肉(トラップアイテム)で殺されそうになったらしい。リリを追いかけるために群がるモンスターから逃れようと必死に戦い、途中で他の冒険者が助けてくれたそうだ。これがアイズさんだろう。

 

 で、7階層まで急いで戻り、間一髪キラー・アントに襲われそうになったリリを助けたのだとか。

 

「で、そんなことをしたリリをお前は許したと」

「うん」

 

 思わず額に片手をあて、天を仰ぐ。なんというか、言葉が見つからない。

 

 普通そんなことをすればやられた側はまずやった人を許さない。だがこいつはそれを許した。本当に根っからのお人好しなのか、それとも器が大きいのか。……多分どっちもだな。

 

「それで今日はリリをヘスティア様に会わせて正式にパーティに加入の許可をもらう、と」

「そうなんだ」

 

 ……まあ、こいつがこれでいいならいいか。

 

 椅子をもらい、リリとヘスティア様が待つテーブルへ戻る。

 

「ごめんなさーいっ、遅くなりましたぁー!」

 

 ベルを見つけたヘスティア様はリリに一言二言話した後こちらに近づいてくる。

 

「すみません、神様。遅くなりました」

「ああ、いいんだ気にしないでくれ」

 

 そう言ってヘスティア様は、ベルの腕を取って自分のもとに引き寄せた。

 

「──なっ」

「神様……?」

 

 リリが驚愕し、ベルが戸惑う。そんな中ヘスティア様はまるで縄張りを守る虎のごとくリリを威嚇する。

 

「さてあらためて……初めまして、サポーター君。()()()ベル君が世話になっていたようだね」

 

『ボクの』のところがやたらと強調されていたのはおそらく聞き間違いではないだろう。そんなヘスティアを見たリリは驚愕した表情から一転、女の顔となりヘスティア様に威嚇し返す。

 

「いえいえこちらこそ。()()()()()()()()ベル様には、いつも良くしてもらっていますから」

 

 こちらも負けじと『リリにはお優しい』を強調する。二人の女性に挟まれ、ベルはパニック寸前だ。

 

「ト、トキっ」

 

 助けを求めるような目でこちらを見るベル。そんなベルから目を逸らしつつテーブルに椅子を置き、座る。

 

「すいませーん。紅茶1つお願いしまーす」

「そ、そんなっ」

 

 すまないベル。いくら親友と言えども助けられることと助けられないことがあるんだ。

 

 

 

「あの、トキ様……」

「ん?」

 

 運ばれて来た紅茶を飲んでいるとリリが話しかけてきた。どうやらヘスティア様との悶着は一先ず終わったらしい。その顔はなにやら沈んだものになっている。

 

「その……」

「ああ、俺に謝罪とかは必要ないから」

 

 そう言うと驚きの表情を浮かべるリリ。

 

「で、でも──」

「もともとリリのことはベルに一任してたんだ。ベルが許したなら俺もそれに従うさ」

「そ、そうですか……」

 

 しかしやはり納得いかないのか浮かない表情をしている。はぁ、とため息をつく。

 

「そんなに罰が欲しいなら俺からは与えてやるよ」

「ちょ、ちょっとトキっ」

「いいんです、ベル様。トキ様、お願いします」

 

 焦るベルを押さえ、俺に向き直るリリ。その顔は覚悟をした顔だ。

 

「一生涯、ベルの側にいてやれ」

「えっ?」

「命を救われたんだろ? だったら残りの人生全部をベルのために使え。俺もずっとこいつと一緒にいられるわけじゃないし、抜けてるところあるからな。世界中がこいつの敵になってもお前だけはこいつの味方でいてやれ」

「ト、トキ。いくらなんでもそれは……」

「わかりました」

「リ、リリ」

「いいんです、ベル様。トキ様が言われた通りリリはベル様に命を救われました。そのご恩をこれからのリリの人生をかけて返したいと思います」

「だ、そうだ。よかったなベル。こんな可愛い子がずっと一緒にいてくれるてよ」

「き、君が言わせたんじゃないかっ!」

 

 顔を真っ赤にして怒るベル。その隣でむむむむむ、と唸るヘスティア様。気合いに満ちるリリ。うん混沌としてるな。

 

「あ、そういえばリリ」

「なんですか?」

「いいのか? こいつの好みのタイプは歳上だぞ?」

「なっ!?」

「何言ってんの!?」

「違うのか?」

「違うよ!?」

「ベ、ベル様。ベル様は今おいくつですか?」

「じ、14才だけど」

 

 その言葉を聞き笑顔になるリリ。

 

「なら大丈夫です! リリは15才ですから!」

「え、ええええええええ!? リリ歳上だったの!?」

「え、て言うかリリって犬人(シアンスロープ)の子供じゃ-」

「あ、これは変身魔法で変身しているだけで本当の種族は小人族(パルゥム)です」

「なるほど。魔法だったのか。なら仕方ないな」

 

 

 

 あの後、リリのこれからのことについて話があったが根本的な解決にはならず、とにかくお金を稼いでリリの【ファミリア】の脱退金を稼ぐことになった。【ファミリア】の脱退は本人だけでなく脱退する【ファミリア】の情報漏洩の可能性などにもリスクが発生する。リリは【ファミリア】を脱退するにはお金が必要だと言っていたから脱退を禁止されているわけではないのだろう。

 

 そんなことを考えながらベルと二人で並んでギルドを目指す。途中でベルがパーティでアイテムを買っている冒険者達を見つけた。

 

「ああいうのいいなぁ」

「なら今度一緒に行くか?」

「いいの!?」

「ああ。なんならついでにアイテムの善し悪しの見分け方を教えてやるよ。覚えておいて損はないからな」

 

 そんなことを笑いながら話し、ギルドに到着した。

 

「そう言えばトキ。僕に用事って?」

「ああ、お前に会いたいって人がいてな。ギルドで待ち合わせしてるからお前がギルドに行くって言ったときはまさに一石二鳥だったね」

「そうなんだ」

「えーっと、待ち合わせの人は……あ、いたいた。ちょうどエイナさんと話している人だ」

「どれどれ……」

 

 俺が指を指し、ベルがそちらの方を向いて、固まった。あちらも気がついたのかこっちを見て固まっている。どうやら予想より早く来てしまったらしい。

 

 そのまま固まり……ベルが回れ右をしたところでその肩を掴む。Lv.2の力を使い、絶対に離さない。

 

「ちょ、なんであの人が!?」

「いやー、実はさ。遠征の時、偶然アイズさんと一緒にパーティ組むことになってな。その時にモンスターに囲まれている冒険者を助けてその冒険者の装備と思われる防具を拾ったらしいんだ。で、どうしても直接渡したいから俺が仲介をしたわけ。というかお前が逃げるからこんなことになってんだぞ?」

「いろいろとツッコミたいところはあるけど、トキあの人とパーティ組んだの!?」

 

 羨ましいっ! という顔をするベル。そんな彼の正面に回り込み、再び回れ右。その正面にはアイズさん。

 

「いっ!?」

「えっと……」

「じゃあアイズさん、俺はこれで」

「ちょ、ちょっと、待ってよ!」

「いや、今日は本当は仕事があるんだ。昼まで留守にしたから午後から再開しないと。そうでなくとも最近休みがちだったからな」

 

 助けを求めてくるベルを見捨て、ギルドを去る。がんばれよ、ベル。




リリの公式設定の年齢を見て某革命軍の殺し屋の少年を思い浮かべたのは作者だけではないはず。

そんなわけでいろいろはしょりましたが、いかがだったでしょうか? 作者的にはちょっといまいちでしたからちょくちょく付け足していくかもしれません。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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