冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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ダンまちのアニメが、終わってしまった……! 今期の一番の楽しみでした……。

まあ、この小説はまだまだ終わりませんが。とりあえず原作に追い付くまで。そこからはまたどうするかその時考えます。


階層主

「【ウィル・オ・ウィスプ】」

 

 ヴェルフの魔法により、ヘルハウンドが魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こす。複数の爆発が俺達の髪や服を揺らす。

 全員が肩で息をしていた。『強臭袋(モルブル)』がなくなってから更に空気が重くなったように感じる。まともに休息も取っていないため、頭の回転もいくらか遅くなってきている。

 

「ヴェルフ、精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲んでおけ。そろそろ倒れるぞ」

「あ、ああ」

 

 それでも考えることをやめない。仲間の状態に注意しつつ、辺りを警戒する。余裕があるという態度を取り続ける。

 これで俺も限界という態度を取るとパーティの空気がさらに重くなる。一人でも余裕があるように見えればまだ大丈夫だと思える。そういう心理で俺はこの態度を演じ続ける。

 

 ヴェルフが精神力回復薬(マジック・ポーション)を煽る。これで精神力回復薬(マジック・ポーション)は品切れ。俺の影にまだ高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)が残っているが万が一またモンスターの大軍に襲われた場合、ベルや俺のスキルが必要になってくる。できるだけ使用は避けたかった。

 

 後方のリリを見てみるとこっちもそろそろヤバかった。

 

「リリ、これを飲んでくれ」

 

 取り出したのは俺が作った回復薬(ポーション)もどき。もうこれしか残っていなかった。

 

「リリは、大丈夫、です……」

「なら俺達はもっと大丈夫だ。それにここで倒れられるとそっちの方が負担になる。きつい言い方をして悪いがそれだけ必死なんだ。それにこれは数だけはあるから」

 

 俺の言い分にリリは僅かに躊躇した後、回復薬(ポーション)もどきを受けとり一気に飲んだ。

 

「進むぞ」

「うん」

 

 こうして会話がないとそれだけで見えないプレッシャーに押し潰されそうになる。言葉を紡ぎ、少しでも気を紛らわせる。

 隣のベルを見る。一応回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)を1本ずつ飲ませたがそれでも疲労の色が濃い。それでも歯を食い縛り、前を向く。

 

 ──負けてられないな。

 

 痛む足を前に出し歩き続ける。痛みが逆に意識の覚醒を促し、沈みそうな意志を奮い立たせる。

 

「……あっ」

 

 ベルが声を漏らした。見ると、そこに待ち望んでいたもの、縦穴があった。

 

 覗き込むとちゃんと下の階層まで続いているようだった。全員で顔を見合せ、頷き合い、飛び降りる。

 16階層に降りてきた時と同じように影をクッションのようにし、着地の衝撃を和らげた。

 

 辺りを見回してふと気がつく。

 

「運がいい。18階層に向かう正規ルートに降りられた」

「それじゃあ──」

「ああ、近いぞ」

 

 皆の顔がほころぶ。前を見つめて歩き出す。

 

 ここに来てダンジョンのプレッシャーは最大に達した。見えない重圧に押し潰されそうになる。

 

「ふざ、けろっ……!!」

 

 ヴェルフが声を漏らす。自分の体が楽になりたがっている。それを意思の力で抗う。

 

「全員で、生きて帰るんだ……!!」

 

 ベルの力強い呟きに全員が頷く。そうだ、ここまで来たんだ。生きて、帰るんだっ。

 

 静かなダンジョンに複数の足音が響く。そして、気づいてしまった。

 

「……なんで」

「静か、過ぎる……」

 

 ベルと俺の呟きが虚空へ消えていく。あまりにも静か過ぎだ。

 

 先程からモンスターの気配はそこかしこからする。だがこちらに向かって来ない。まるでこの先の何かに怯えるように。

 

 次第に歩調が早くなる。息が乱れ、汗が止めどなく流れる。恐怖を意志の力で抑え込む。

 

 そして、辿り着いた。

 幅100M、奥行き200M、高さ20M。綺麗な長方形をした広大なルーム。そしてその左側の壁は他の壁と違った雰囲気を醸し出している。

 まるで板を紙やすりで磨いたのかというほど美しい壁面。そこからはある種の芸術すら感じるほどだ。

 

「『嘆きの大壁』……!」

「こいつが、あの……」

 

 思わず圧倒されるそれに数瞬足が止まる。無理もなかった。俺だって時間があるならずっと眺めていたかった。

 視線を正面に戻す。長方形型のルームの先、そこにぽっかりと穴が空いていた。18階層に続く連絡路。今なら、まだ間に合う。

 

「行くぞ」

 

 足早にその穴を目指す。心臓が早鐘のようにうるさい。もう取り繕っている余裕もない。ルームの3分の1を通り過ぎた頃だった。

 

 バキリ、と。

 

 鳴った。

 

 ばっと横を向いたその先、先程の大壁に巨大な亀裂が走っていた。

 

「……!!」

 

 全身の鳥肌が立った。

 

「走れっ!!」

 

 ヴェルフが全力で走り始め、ベルに肩を貸されながら俺も懸命に走る。足の痛みなど気にしている余裕もなかった。

 

 バキッ、バキッ、と壁が、そして心の中の何かがひび割れていく。

 

 そして、壁が崩壊した。巨大な岩石がゴロゴロとルームに散らばる中、それは降り立った。

 

 それは人の形をしていた。しかし、その大きさは7Mを超えていた。そこに存在しているだけで圧倒的な威圧を放っていた。

 

 17階層、その最後のルームにだけ現れる唯一(ユニーク)モンスター。迷宮の孤王(モンスターレックス)、『ゴライアス』。

 

 その怪物が確かにこちらに目を向けた。そして、

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 吼えた。

 

 ただひたすら走る。もうルームの半分は過ぎた。このまま行けばゴライアスの攻撃が来る前に18階層に続く洞窟に飛び込める。そう思った時だった。

 

 

 

 どしゃ、と後ろから何が倒れる音がした。

 

 

 

 弾かれたように振り向くとそこにはリリが倒れていた。

 

 正確には転んだのであろう。必死に立ち上がろうとしている。

 だがパーティの中で一番種族的にも【ステイタス】的にも体力がないリリは既に限界だった。

 

 そこにゴライアスの左腕が迫っていた。

 

 駄目だ、間に合わない。その結論は一瞬で出ていた。

 にも関わらず、俺は何の躊躇いもなくリリに向かって走り出していた。

 

 ベルが叫ぶ声が聞こえた。足の痛みがここに来て再び疼き始める。だがそれらを無視し、18階層に続く洞窟とは反対方向に走った。

 

 リリのところに到着し、その首筋を猫のように持つ。ゴライアスの腕はもうそこまで迫っていた。その恐怖を振り払い、ありったけの声で叫んだ。

 

「ベルッ、受け取れぇえええええええええええええええええッッ!!」

 

 リリを全力で前方、ベルに向かって投げる。【ステイタス】によって強化された投擲はまるで矢のようにリリを投げ飛ばし……それとすれ違うように巨大な腕が現れた。

 

「ッッ!?」

 

 咄嗟の影による防御。

 

 その上から吹き飛ばされた。

 

「────────────ッ」

 

 もはや悲鳴にすらならない声を上げていた。高速で吹き飛び、ルームの壁に激突。

 

 そこで俺は意識を失った。

 

  ------------------

 

 鋭い巨大な殺気が体の意識を覚醒させた。

 

「はっ!!」

 

 目の前には巨大な拳。反射的に右へかわし、その拳圧に吹き飛ばされた。

 

 次いで来る足の痛み。状況を把握しようと周りを見渡す。

 

 先程の拳圧で10Mは吹き飛ばされていた。だがそんなことはどうでも良かった。問題なのは目の前にゴライアスがいて、その奥に18階層に続く穴があることだ。

 

 つまり俺はゴライアスを抜いてあの穴に飛び込まなければならない。

 

 さらに、背後から複数の殺気を感じた。振り返るとそこには多数のモンスターが。

 

 まだ数は少ないがそれでも俺と同じLv.2に分類されるモンスター達だ。

 

 前門のゴライアス。後門のモンスター。疑似的な怪物の宴(モンスター・パーティー)にから笑いが出る。

 

 立ち上がろうとし、体に力が入らないことに気がついた。

 

 ここまでの強行軍、そして先程のゴライアスの一撃によって体力が底をついた。

 

「……ここまで、か」

 

 不思議と恐怖はなかった。冒険者になる前から、暗殺者だったころからこういう日が来ることはわかっていた。

 

 見たところベル達の姿はない。どうやら上手く18階層に辿り着いたようだ。それだけで満足だ。

 

  全部出しきった。未練はあるけど後悔はなかった。静かに目を閉じる。

 

 

 

『全員で、生きて帰るんだ……!!』

 

 

 

 カッと目を見開いた。迫る拳を全力の跳躍でかわす。

 

 そして右の拳で自分の頬を殴った。

 

 全部出しきった? ふざけろっ! まだ動けるじゃねーか!

 

 こんなデカブツ、乗り越えてやるさっ!!

 

 背中が熱を帯びる。スキル【挑戦者(フラルクス)】の発動。

 

 ゴライアスの公式推定Lv.4。格上の怪物と正真正銘対峙したことによりスキルが発動した。

 

挑戦者(フラルクス)】には発動条件がある。それは強者に挑戦するという蛮勇な覚悟。無謀で愚かな冒険者としての覚悟。

 

 スキルにより体力が回復する。体に力が戻る。

 

 依然として状況は変わらない。単独で上層まで行くことはできないし、ゴライアスを掻い潜ろうものなら逃げるという意志によりスキルが解除される。

 

 残された選択は1つ。ゴライアスの討伐。

 

 体力は少ない。武器もおそらく通じない。だが、あの男によりもたらされた膨大な精神力(マインド)はまだ有り余っているっ!!

 

 体が嘘のように軽くなる。頭も今まで以上にスッキリする。未知への挑戦という高揚感が体を支配する。

 

 ──ベル、お前もこんな感じだったか? ……んな訳ないよな。さすがに高揚感はない。

 

 笑みを消し、目標を、ゴライアスを睨む。

 

「……行くぞッ!!」

 

 己を鼓舞するように叫び、モンスターの群れに突っ込んだ。




番外編を挟んでゴライアス戦やりまーす。だいぶ前に予告した通り新魔法も出ますよー。……何人の人が引っ掛かったかな?

またこの投稿を持って現在行われているアンケートの方は終了とします。結果を集計して作者の好みで子供の性格を決めます。……ここだけの話、作者は子供の設定を0~3才くらいと考えていました。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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