冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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VS黒ゴライアス。頑張りたいと思います。


異常事態

 天井の罅から黒い物体が落下してくるのを視界の隅に留めながら、アスフィさんへの対抗心で無理矢理【挑戦者(スキル)】を発動させる。正直自己暗示の類いだが、それでも【ステイタス】はきちんと応えてくれた。

 

 かくいうアスフィさんだが、彼女は今空を飛んでいる。比喩とかではなく実際に空を飛んでいるのだ。

 アスフィさんの二つ名は【万能者(ペルセウス)】。オラリオに片手で数える程しかいない『神秘』のアビリティの保持者。

 その最高傑作の1つ、飛翔靴(タラリア)。アスフィさんの靴から生える七色の翼が羽ばたき空を飛ぶ。

 

 いつ見ても美しい姿だが、今回は見惚れている場合ではない。その速度は地を走るよりも圧倒的に速く、今にも置いていかれそうだ。

 それでも足に無駄な力を入れずに這うように走る。リヴィラの街に着いた時、息も切れ切れだったが、なんとか置いていかれずに済んだ。

 

「ボールス! ボールスッ、いますか!?」

「ア、アンドロメダ!? 一体どこから現れやがった!? ていうか、今、空から……?」

「んなこたぁどうでもいいんです!」

 

 いや、普通は気になります。

 

「ボールス、街の冒険者とありったけの武器を集めなさい、あの階層主を討伐します!」

 

 そう、現れたのは階層主、ゴライアス。それも通常とは違い色が黒い。そして数多の生物を狩ってきた経験からわかる。あのゴライアスは俺が倒したものとは比較にならないほど強いと。

 

「と、討伐ぅ!? 馬鹿言ってんじゃねえよアンドロメダ、オレ等の財産はたいてまであのデカブツを相手にする必要がどこにある!? こんなもん、逃げるが吉だ!」

「南の洞窟は崩落が起きて通れません。崩落の規模から掘り返すのに最低2日はかかります。さらに掘り返している間に二次崩落が起きたら目も当てられません」

 

 ボールスさんの発言にあらかじめ用意しておいた反論をぶつける。南の洞窟の方を見て、俺の言葉が正しいことを認識する。

 

「……オ、オレ等が全員出しゃばらなくても、ゴライアスの一匹くらい、精鋭を連れていけば……」

「あのゴライアスは明らかに『変異種』です。その証拠に通常種が使わない『咆哮(ハウル)』を使っています」

 

咆哮(ハウル)』とは通常のモンスターが行う威嚇行為ではなく、魔力を使って放つ衝撃波。その威力と射程は見たところヘルハウンドの火炎放射が可愛く見えるほどだ。

 

「……ちくしょうめ。おいアンドロメダ」

「なんですかっ?」

「後輩に口の効き方くらいちゃんと指導しとけ」

「余計なお世話ですっ」

「話は聞いてたな、てめら等ァ!? あの化物と一戦やるぞぉ! 今から逃げ出しやがった奴は二度とこの街の立ち入りを許さねえ!」

 

 ボールスさんの号令に一斉に散らばっていく冒険者達。

 

「トキ、貴方は武器を集めなさい!」

「わかりました!」

 

 街へ入り、複数の武器を抱える冒険者にことわってその武器を影で運ぶ。こうすることによって援軍に向かえる冒険者が少しは増えるだろう。

 

 アスフィさんは既に行った。俺も早く追いつかなくては。

 

 

 

 街で武器を集め、ゴライアスの方に向かっているとヘスティア様と千草さんに鉢合わせた。さらにそこから移動し、ゴライアスから距離を置いた小高い丘に持っていた武器を下ろす。

 

『よおおしっ、てめー等! アンドロメダが囮になるから心置きなく詠唱を始めろぉ!』

 

 遠くからボールスさんの 叫び声がする。……アスフィさん、御愁傷様です。

 

『トキィッ! 何油を売っているのです!? さっさとこっちに来なさい!!』

 

 さらに遠くからアスフィさんの悲鳴に近い叫び声がする。恐らく声を拡声する魔法具(マジックアイテム)を使ったのだろう。ちゃんと聞こえた。

 

 溜め息を吐き、ヘスティアに声をかける。

 

「ヘスティア様、呼ばれたので行ってきます」

「ああ、気を付けて!」

 

 直ぐ様走り出し、同時に【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】を並行詠唱する。詠唱し終わったと同時に2本の大きな腕を出現させる。

 

 今回のゴライアスは俺が倒したものよりも強い。対峙したお陰で【挑戦者(スキル)】が発動したが、魔法も物理も有効打は与えられそうにない。

 そこで、アスフィさんと囮をやることになった俺は、いつもの大蛇で縛るのではなく、大きな腕で殴り、その攻撃を捌くという役割を思い付いたのである。

 

 ゴライアスの口が開き、そこから魔力が収束する。すかさず腕を操り、ゴライアスの顎に向けてアッパーを繰り出す。その勢いによりゴライアスの顔が上を向き、『咆哮(ハウル)』は天井の水晶を砕いただけだった。

 

 周りからおおーっ!? という声が上がる。

 

「逸らせるだけです! 過度な期待はしないでください!」

「十分だ! 野郎ども、『咆哮(ハウル)』は気にせずどんどん叩きまくれぇ!」

 

 ……どうやら『咆哮(ハウル)』は全部俺が処理することになったようだ。

 

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 元々リヴィラの街にいた冒険者は同じ【ファミリア】に所属もしていないし、パーティを組んでいるわけでもない寄せ集めの集団だ。連携はできない。故に互いに干渉しないように動いていた。

 

 魔導士達の多種多様な歌が響き、命知らずの前衛攻役(アタッカー)達がゴライアスに突撃していく。

 

 ゴライアスは2本の巨腕を振るい冒険者達を蹴散らそうとするが、動き始めると同時に漆黒の腕に叩かれる。『咆哮(ハウル)』を撃とうにもモーションに入った瞬間に殴られ狙いがずれる。

 

 その漆黒の腕を操作しているトキはアスフィの後ろにくっついていた。

 

「左腕、叩きます!」

 

 言うやいなや漆黒の腕を操りゴライアスの左腕を叩く。その隙に冒険者達がゴライアスに迫り、各々の武器を叩きつける。

 

「トキ、『咆哮(ハウル)』ですっ!」

「ぐっ!?」

 

 もう一方の腕を操り、ゴライアスの頬を殴る。『咆哮(ハウル)』は狙った90°右にずれる。

 

「きつい、なっ!」

 

 アスフィの短剣が切りつけたところを寸分違わずに短刀で切りつける。トキはこの戦闘において2つの腕を別々に操る、己自身で攻撃するという3つのことを同時に行っていた。

 

「こうなったら仕方ありません。後先考えずに全力でやりなさいっ」

「わかってます、よ!」

 

 腕を操るその視界に白兎(ベル)の姿が写った。あちらもこっちに気付いたのかチラリとこちらを見てくる。

 

 ──負けないよ。

 

 ──それはこっちの台詞だ。

 

 その一瞬のやりとりで、二人の闘志にさらなる火が点いた。

 

  二人の少年は先達の後を追いつつ、武器を握る手にさらなる力を込めた。

 

 

 

「前衛、引けえぇっ! でかいのぶち込むぞ!」

 

 ボールスのかけ声により、前衛で奮闘するリュー、ベル、アスフィ、トキを含む前衛攻役(アタッカー)達が直ぐ様離脱する。

 

 その直後、轟音と共に魔法が放たれた。

 

 炎が、雷が、風が、氷が一斉に放たれ、黒い巨人が膝をついた。

 

「ケリをつけろてめえ等ぁ!! たたみかけろおおおおっ!」

 

 今度は前衛攻役(アタッカー)達が一斉に巨人に殺到する。そんな中、トキは不意にとてつもなく嫌な予感を覚えた。

 

「……駄目だ」

「え?」

 

 呟いた直後、ゴライアスから膨大な魔力が膨れ上がった。損傷した箇所に赤い光が灯り、みるみると傷を治していく。あっと言う間にゴライアスについていた無数の傷は全てなくなっていた。

 

「自己再生!?」

「しかも、速度が早すぎる!!」

 

 立ち上がったゴライアスはその巨腕を頭上高くあげてから振り下ろした。慌ててトキが迎撃しようとするが、間に合わなかった。

 

「──────────────────」

 

 振り下ろされた巨腕により、大地が割れ、衝撃波が起こる。前衛攻役(アタッカー)だけでなく後衛の魔導士達まで届くそれは、一瞬にしてゴライアスの周囲に展開されていた包囲網を崩壊させた。

 

 更にゴライアスはそこから『咆哮(ハウル)』の体勢に入る。

 

「させるかっ!!」

 

 間一髪、アスフィとともに衝撃波から逃れていたトキが、今度はさせまいと漆黒の腕を振るう。

 

 だが、その腕をゴライアスは来ることがわかっていたかのごとくその巨腕で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 さらにトキに向けて連続で『咆哮(ハウル)』が放たれる。アスフィと別々の方向へ逃げるが、ゴライアスは執拗にトキを狙う。

 

 対するトキは全力で走りつつ、影の腕で必死に応戦する。

 

 その光景にただ呆然となる冒険者達。

 

「撤退する人! 倒れている人を最低一人担いで撤退してっ!」

 

 そんな中、件のトキから指示が飛んだ。

 

「魔導士! いつまでぼさっとしてるんですか! 詠唱するのは後っ、まずは寝ている人を叩き起こしてっ!」

 

咆哮(ハウル)』と2本の巨腕に狙われているにも関わらず、周りの様子を見て細かい指示を送るトキ。

 そのトキの指示に半ば思考が停止していた冒険者達は素直に従っていた。

 

「トキッ、3分頼む!」

 

 そんな様子に感化されたのはやはり親友のベルだった。その手に光の粒子を集め、ゴライアスを睨む。

 

「アスフィさん、リューさん、もう一度囮をお願いします!」

「「わかりました!」」

 

 それを見たトキはすかさず二人の上級冒険者に指示を送る。

 

 冒険者達はまだ諦めていなかった。




……上手く書けませんでした。すいません。…………あ、いつものことか。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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