冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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とあるご指摘があり、番外編の位置を前章の最後に移動しました。


つかの間の安らぎ

「はい、お茶」

「サンキュー」

 

 ベルに手渡されたお茶を一口啜る。

 

「しかし今回は本当に死ぬかと思ったなー」

「もう両手の指じゃ足りないくらいは死にかけたよねー」

 

 ズズズと二人一緒にお茶を啜り、ほっと一息。うん、おいしい。

 

 俺は今、【ヘスティア・ファミリア】のホームである教会の地下室に来ていた。

 

 あのゴライアスを倒してから既に3日が過ぎた。

 ゴライアスを倒した後、俺を待っていたのはアスフィさんのお説教だった。動かない体を治療されながらくどくど言われ続けていた。

 ちなみにヘルメス様も、治療されている俺の隣に正座させられていた。俺を焚き付けたのを怒られていた。

 

 ゴライアスを倒した翌日に地上に帰還。久しぶりに浴びた太陽の光に涙が滲んだ。

 

 その後【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に直行。アミッドさんのありがたーいお説教と言い足りなかったアスフィさんの2度目のお説教をくらった。

 

 体が治った後はオラリオ中を駆けずり回り、何でも屋のお客さん達に謝罪しに行った。遠征の時もそうだったのだが、冒険者になってから店を休むことが多くなった。特に今回は告知もなく休んでしまったので愛想を尽かされてしまったのではないか、と少し不安になった。

 しかし回ってみるとみんな愛想を尽かすどころか俺の心配をしてくれた。そんな心の広い人達に涙腺が崩壊しそうになった。というか誰も見ていないところで崩壊した。

 

 レフィーヤのところに行くと思いっきり抱きつかれた。余程心配させたのか彼女の目には涙がたまっていた。……恋人を泣かせるなんてつくづく俺は彼氏失格であると思う。

 

 あまり時間がなかったのでその日は3分の1ほどを回り、残りを翌日に回した。親方さんやメルクリウス様などたくさんの方々が心配してくれていた。

 

 そして、挨拶回りを終えたその翌日、ベルのところにお茶をしに来たのである。ちなみにヘスティア様はバイトだ。

 

「そう言えばギルドの罰則(ペナルティ)、取り返せる目処は立ってるのか?」

「うん、ドロップアイテムの『ゴライアスの硬皮』を押し付けられたから大丈夫。そっちは?」

「……精一杯働くよ」

「あ……ごめん」

「気にすんな」

 

 今回、ヘルメス様とヘスティア様が無断で、しかも神が立ち入りを禁止されているダンジョンにもぐったとして、ギルドから両【ファミリア】に罰則(ペナルティ)が課せられた。内容は──罰金。ベルによると、【ヘスティア・ファミリア】は【ファミリア】の資産の半分をとられたらしい。

 そして【ヘルメス・ファミリア】だが……派閥の大きさが【ヘスティア・ファミリア】よりも大きい俺達は莫大な額を言い渡された。

 具体的な数字で言うとちょっと怖いので言わないが……あの遠征での稼ぎが全て吹っ飛ぶ+αとだけ言っておく。

 

 俺はその場にいなかったのだが、ベルによると、罰則(ペナルティ)の内容を言い渡されたヘルメス様は真っ白になって空笑いをしていたとのこと。……本当に申し訳ありません。

 

「あ、そう言えばヘルメス様がトキの【ランクアップ】の申請してたよ?」

「……ああ、昨日聞いた」

 

 罰則(ペナルティ)を言い渡されたヘルメス様はその後、気を取り直し嬉々とした様子で俺の【ランクアップ】を言ったらしい。

 とりあえずLv.2の申請だったが、それでも偽っていることには変わりないのでこれからも注意が必要だ。

 

「でもトキは本当はLv.3なんだよね? また先超されちゃったなー」

「……まあ1つ懸念事項があるんだがな」

「懸念事項?」

「……通常のとは言え、階層主(ゴライアス)を単独撃破したからな。つまり次の【ランクアップ】に必要な経験値(エクセリア)がそれ以上になるんだ」

「……それって実質【ランクアップ】不可能じゃない?」

「……俺もそう思う」

 

 微妙な空気が部屋を包む。ゴライアスを単独で撃破以上のことって何かあるのか?

 

「で、でも経験値(エクセリア)は一気に貯めるんじゃなくて少しずつ貯めていくのが本来のやり方らしいよ!」

「ああ、うん。ありがとう」

「って、僕も人の心配をしている場合じゃないか」

「いや、お前の場合そうでもないだろ」

「え、どうして?」

「お前の回りはトラブルがいっぱいだからな。すぐにまた違う事件に巻き込まれて【ランクアップ】しちまうよ」

「な、なにそれっ。人をトラブルメーカーみたいに」

「違うのか?」

 

 無言でベルが拳を振り上げる。振るわれたそれを避ける。振るわれる。避ける。そんなやり取りをしばらくしたあとベルは拳を下ろし、お茶を啜った。

 

「あ、そう言えば今日これからリリと一緒にヴェルフの【ランクアップ】のお祝いに行くんだけどトキも行かない?」

「別に構わないぞ。どこでやるんだ? 『豊穣の女主人』か?」

「ううん、『焔蜂亭(ひばちてい)』ってところ。ヴェルフの行き付けらしいんだ」

「ああ、あそこか。あそこの蜂蜜酒は旨いんだよな~」

「……トキは本当に何でも知ってるね」

「何でもは知らないよ。まあオラリオの要所とダイダロス通りの地図くらいなら頭に入ってるけど」

「それは十分すごいんじゃない?」

 

 ふと時計を見てみるとそろそろ日が落ちる時間だ。

 

「行こうか」

「ああ」

 

 コップを片付け、教会を出る。

 

「そう言えばなんで『豊穣の女主人』で祝賀会やらないんだ? シルさんが真っ先に誘い、もとい強行しそうなのに」

「……ミアさんにリューさんのことでちょっと怒られた」

「……ああ、あの人怒ると怖いもんな」

 

 茜色に染まった街を俺達は二人並んで歩いていった。




それでは章終わりのトキの【ステイタス】をどうぞ。

トキ・オーティクス
所属 ヘルメス・ファミリア
種族 ヒューマン
職業 冒険者 何でも屋
到達階層 24階層
武器 短刀 ハルペー 投げナイフ
所持金 2億7千万ヴァリス
Lv.3
力:I53 耐久:H125 器用:I67 敏捷:H142 魔力:G249
暗殺:G 精癒:I《魔法》
【インフィニット・アビス】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。
・詠唱式【この身は深淵に満ちている 触れたものは漆黒に染まり 映るものは宵闇に堕ちる 常夜の都、新月の月 我はさ迷う殺戮者 顕現せよ 断罪の力】
【ケリュケイオン】
・模倣魔法。
・発動条件はその魔法を見たことがあるかつ詠唱文の把握。
・詠唱式【さあ、舞台の幕を上げよう この手に杖を ありとあらゆる奇跡を産み出す魔法の杖を ああ、我が神よ もし叶うならば かの日見た光景を この身に余る栄光を 二度の奇跡を起こしたまえ】
《スキル》
【果て無き深淵】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。
【挑戦者】
・格上の存在と対峙時における全アビリティ能力高補整。
・潜在能力ポテンシャルに差があるほど効果上昇。

またこれに伴い33話【ランクアップ】のところのステイタスを少しいじりました。上昇数値がおかしかったら言ってください。ぶっちゃけベルやトキがはちゃめちゃした所為で感覚がおかしくなっているので。

それで番外編なのですが……作者的には日曜日の夜に書いているのですが、それだと本編の流れを切ってしまう、というご意見を受けました。
そこでご相談なのですが……どういったタイミングで番外編を読みたいでしょうか? 感想の下にでもご意見を書いていただけるととても嬉しいです。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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