冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
酔い
オラリオの南のメインストリートは
『
『乾杯!』
俺達はそんな酒場にてジョッキとグラスをぶつけ合う。ガチン! という音と共にジョッキの中の酒がこぼれた。
グイッと一飲みし、ぷはーと息を吐く。ちなみに今日は少し挑戦して、店の名物の真っ赤な蜂蜜酒だ。
「【ランクアップ】おめでとう、ヴェルフ!」
「これで晴れて
「ああ……ありがとうな」
ベルとリリの言葉に、対面に座るヴェルフは顔を弛め笑顔で答える。
先日の中層での出来事でヴェルフは見事【ランクアップ】を果たした。それにともない彼の念願だった『鍛冶』のアビリティも発現したとのこと。
「これでヴェルフ様は、【ファミリア】のブランド名を自由に使うことができるのですか?」
「自由に、とはいかない。少なくとも
「いや、ヴェルフの作品は間違いなく売れるぞ。元から良いものばかりだったからな」
「僕もそう思うよ」
「お前ら……」
ヘファイストス様の名が出たからか謙遜するヴェルフに
更に【ランクアップ】したことがギルドによって発表されればその名前も広く広がるだろう。
「でもこれで……パーティ解消、だよね?」
ふとベルが残念そうな声で呟いた。
ヴェルフのパーティ加入の理由は『鍛冶』アビリティの入手だ。それが叶ったのならもうパーティにいる理由がない。
ショボくれた顔をするベルと困った顔をするリリに、ヴェルフは手で頭をかく。
「そんな捨てられた兎みたいな顔するな。お前達は恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」
「えっ……」
「呼びかけてくれればいつでも飛んで行って、これからもダンジョンにもぐってやる。だから心配するな」
そうヴェルフが言うとベルは嬉しそうに笑った。景気にもう一度乾杯する。
「それにしても、ヴェルフ様がパーティに加わって二週間……【ランクアップ】するのもあっという間でしたね。リリはもっと時間がかかると思ってました」
「お前達と組むまで、それなりに修羅場はくぐってきたつもりだからな。確かにここまでくるとは俺も思ってなかったが……『中層』で5回は死にかけたし、な」
「ならこれからも覚悟しておいた方がいいぞ。なんてたってベルはトラブルメーカーだからな」
「もう、まだ言うの!?」
「冒険者になってミノタウロスに追いかけられ、
「なんでトキが
「おいおい、俺の家は東のメインストリートの近く。ダイダロス通りは近所だぞ? 一時期お前は有名だったんだからな。『街角の英雄』として」
「街角の、英雄……!」
「トキ様、その話を是非聞かせてください!」
「俺も興味あるな」
「ああ、いいぜ」
次々と運ばれてくる料理を口に運びつつ、俺達は様々な話をした。酒にあまり強くない俺だが今日ばかりは無礼講だ。
「ベルは【ランクアップ】しなかったのか?」
「うん、僕はまだ」
「ヴェルフ、さすがに半月はないだろ。……ないと、いいな」
「Lv.1とLv.2では獲得する【
「そうそうトキ、お前はどうだったんだ?」
「俺はその前に【ランクアップ】してたから」
ああ、と全員がなんとも言えない顔をする。
確かにあの戦闘で俺はあのゴライアスに執拗に『的』にされた。しかしその前に【ランクアップ】し、Lv.3となった俺は基礎アビリティこそ膨大に上がったもののそれ以外に特に変わった点はなかった。……いや、Lv.3にもなって熟練度上昇トータル600オーバーとかふざけてるとしか言い様がないんだけど。
「結局、何だったんだ、あのゴライアスは?」
「
「
「ダンジョンの生態が変わった……とも言えなくもないがそれだったら他のモンスターが
う~んと頭を捻るがこれだ、という意見が思いつかない。しかしチラリと頭を過ったのは……『
「ヘスティア様は何か知っていたようでしたが……」
「いや、ヘルメス様がヘスティア様の所為じゃないって言ってたぞ?」
「え、そうなの?」
「ああ」
しかし神達がダンジョンについて何か知っているのは間違いないようだ。まあ、口出ししたら絶対厄介な事に巻き込まれるのだろうけど。
「ま、これ以上は話してもしょうがないか……世間の方は今どうなっているんだ?」
「ギルドが真っ先に箝口令を敷きましたから、都市や冒険者の間で目立った混乱はないみたいですね。詳細を知っているのは、当事者であるリリ達だけでしょう」
「絶対口外するな、って徹底されたし……」
「
「18階層の『リヴィラの街』は既に機能を取り戻してるって。ダンジョンもあれから変わったこもないそうだ」
ちなみにこの情報、昨日夜に訪ねてきたボールスさんの使いという人から聞いた。何でもゴライアス戦における俺の采配に目をつけたらしく、これからの階層主討伐の際に指揮をとって欲しいとかなんとか。気が向いたら行きます、とだけ言っておいたけど。
それよりも……さっきからこちらを見ている視線、もとい殺気が非常に気になる。ちらりとその殺気を辿ってみて……見ないことにした。うん、せっかくの祝いの席なんだ。余計なゴタゴタは避けるに限る。
「そういえば、ベル様達は大丈夫なのですか? ギルドに言いがかりをつけられて、
「あー、うん……」
「まあ、な……」
リリの言葉にベルの顔が曇った。俺の顔もそんな感じだろう。
「罰金の額はおいくらだったんですか?」
「えっと……【ファミリア】の資産の、半分」
「……キツイな」
「むしろ、僕達の方はまだマシだったよ。それよりトキ達の方は……」
「……額は言えないがベル達の数千倍とだけ言っておく」
「うわぁ」
リリとヴェルフの同情の眼差しに心が痛む。
それからしばらく料理に舌鼓を打ちながら会話を楽しんでいると、リリが何やら暗い表情をしていた。
「リリ……大丈夫?」
「あ、すいません、ぼーっとしてました」
誤魔化すように笑うリリに思わず半目になる。
「ベル様も、先日の事件で随分株が上がったことだと思います。少なくともあの戦いに参加した冒険者達には、認めてもらったのではないでしょうか?」
「う、うん」
リリの様子にベルとヴェルフと目を合わせる。今は探っても無駄だろう、という二人の意見にとりあえず追求しないことにした。
ふとジョッキの中を見てみると酒がなくなっていることに気がついた。ジョッキをテーブルに置き店員を呼ぼうとした時だった。
「──何だ何だ、どこぞの『兎』が一丁前に有名になったなんて聞こえるぞ!」
そんな大声が店中に響いたのは。
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