冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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思った以上に可愛いロキが人気です。……いや、本当に想像の遥か上を行ってました。


開戦へのカウントダウン

 ダンスを終えた俺とロキ様はヘルメス様の元に向かう。最後までロキ様を先導(リード)し、手を放す。あっ、とロキ様は声を漏らした。

 

「いやー中々見事だったよ、二人とも」

「ありがとうございます、ヘルメス様」

 

 未だにヘスティア様を押さえているヘルメス様の言葉を受けとる。ヘスティア様の様子に、そういえばまだベルとアイズさんは踊っているからロキ様を押さえないと、と思い出し彼女の方を見る。

 ロキ様は何やらぼーっとした表情をして、その場から動いていなかった。

 

「……ロキ様?」

 

 手を顔の前で振ってみる。……反応なし。

 

「おーい、ロキ様ー?」

 

 少し大きな声で呼び掛けてみるがやはり反応がない。

 

「トキ、ロキの耳元で囁くように呼び掛けてごらん?」

 

 ……何やらニヤニヤとした顔でヘルメス様がアドバイスをくれたので実践してみる。

 

「ロキ様?」

「わひゃあ!?」

 

 飛び退かれた。……地味にショックだ。

 

「い、いきなり何するんや!?」

「いえ、先程から呼び掛けていたのですが応答がなく、ヘルメス様のアドバイスを実践してみたのですが……」

「ヘルメスの?」

 

 ロキ様がヘルメス様の方を見る。ヘルメス様は未だにニヤニヤしていた。それを見たロキ様はヘルメス様の顔面に拳を叩き込む。

 数歩後ろに下がったヘルメス様はその際にヘスティア様の拘束を解いてしまった。

 

「おい、ドチビ、手ぇ貸せや」

 

 明らかに怒っているロキ様。

 

「いいだろう。今回ばかりは君に協力しよう」

 

 ツインテールが荒ぶっているヘスティア様。

 

 女神達はヘルメス様の肩を掴むと、会場の隅の方へ引きずっていく。間もなくヘルメス様の絶叫が響き渡った。

 

 続けてヘスティア様がベル達に突撃しようとするが、さすがにそれは阻止する。

 

「何をするんだ、トキ君!? 離したまえ!」

「すいません、親友の恋路くらい手伝ってやりたいですから」

 

 今度は俺がヘスティア様を押さえる役になってしまった。これではロキ様を押さえられない、と考えているとロキ様は大人しく俺の方に寄っていた。

 

「な、なあトキ?」

「何ですか?」

「な、何か欲しいもん、あるか?」

「……いきなりどうしたんですか?」

 

 突然の申し出に頭に疑問が浮かぶ。

 

「せ、せやから、その……あれやっ。いつも世話になっとるし、今日もええ経験させてもろうたから、お礼したろうかなーて」

「いや、別に見返りは求めてないのですが……」

「ええから言うてみ!」

 

 何やら顔を赤くして迫ってくるロキ様に圧され、考えてみる。………………あ、そうだ。

 

「それなら、【シャドー・デビル】以外の二つ名が欲しいです」

「ん? 何やその名気に入らんの?」

「いえ、確かに【シャドー・デビル】は俺のもう1つの名前と言っても過言ではないのですが、その、悪名みたいなものですから……」

 

 この名前が付けられたのは、俺が闇討ちで【ファミリア】を潰してしまったことに由来する。中々いい名前ではあると思うが……どうしても物騒なイメージが湧いてくる。

 

「【ランクアップ】もしましたし、できれば冒険者としての二つ名が欲しいなー、って思いまして」

「……ええやろ。そんならうちが次の神会(デナトゥス)までに考えておくわ」

「あ、我が儘を言ってもいいのでしたらなるべく短めでお願いします。あんまり長いと名乗り辛いので」

 

『【シャドー・デビル】の二つ名か……』

『こいつはちょっと本腰入れて考えてみるか……』

『長いのは禁止か……こういう縛りを入れるのも案外面白いな……』

 

 話を盗み聞きしていた神々がウンウンと唸り始める。……いや、そこまで真剣に考えてもらわなくても……。

 

「か、神様!? 何やってるんですか!?」

 

 広間の中央からベルとアイズさんが戻ってきた。アイズさんを先導(リード)し終えたベルがこちらに近づいてくる。

 

「お前とアイズさんが踊り終わるまで、ヘスティア様を押さえてたんだ」

「え、えーっと、ありがとう?」

「じゃ、後頑張れよ」

 

 そう言ってヘスティア様の拘束を解く。自由になった彼女は俺を睨んだ後、ベルに飛びついた。

 

「ベル君っっ、今度はボクと踊ろうぜ!!」

 

 その言葉にはっ、としたロキ様もアイズさんに飛びついた。

 

「アイズたんもうちと踊ろー!! 拒否権はなしやァ! 何ならアイズたんが男役でもええでェ!」

 

 鬼気迫る様子で己の眷族に迫る2柱の女神。ベルは苦笑しながら、アイズさんは戸惑いながら応じようと手を動かす。

 

「──諸君、宴は楽しんでいるかな?」

 

 しかし、その行動は突如響いた声に遮られた。

 

 声の主、アポロン様は従者を連れて、ベル達と相対するように立ち止まる。いつの間にか流麗な音楽は止まっていた。

 

「盛り上がっているようならば何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」

 

 主催者の言葉に人が集まる。瞬く間にアポロン様を中心とした円が出来上がった。

 

「遅くなったが……ヘスティア。先日は私の子が世話になった」

「? 何の事だい?」

 

 笑みを浮かべるアポロン様に、ヘスティア様は首を傾げる。その様子にアポロン様は目を見開く。

 

「惚けるつもりかい?」

「惚けるも何も……先日の件でベル君はいっさい手を出していない、と聞いたよ?」

 

 追求するアポロン様にさらに首を傾げるヘスティア様。アポロン様はそんなヘスティア様を無視し、再び笑みを浮かべる。

 

「私の子は君の子に重傷を負わされた。代償をもらい受けたい」

 

 その言葉にヘスティア様は驚愕した。

 

「言いがかりだ!? さっきも言ったけど、ベル君は君の子には指1本触れていない! これはベル君本人から聞いたことだ!」

「だが私の愛しいルアンは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰って来た……私の心は悲しみで砕け散ってしまいそうだった!」

 

 アポロン様は演劇のように胸を押さえ、次いで両手を広げ嘆く。従者達も泣く素振りを見せる。

 そこによろよろと近づく小さな影があった。

 

「ああ、ルアン!」

 

 アポロン様はそれに駆け寄る。それはミイラのように全身を包帯で巻かれた小人族(パルゥム)であった。

 

「痛えぇ、痛えよぉ~」

 

 その様子にさすがに心配になった俺はベルに駆け寄る。

 

「なあ、俺はあそこまで相手をボコボコにしたのか!?」

「してない、してないよ!? 大体、トキが本気になったらあんな程度で済むわけないでしょ!?」

 

 そのベルの発言にざわめいていた会場が静まりかえる。

 

「おい、それどういう意味だ?」

「だってトキが本気で喧嘩なんてしたら、まず自分で歩くなんてできるわけないでしょ!?」

 

 ……否定できない。

 

「しかもあの時、トキはまともな反撃はしてないよ? あの小人族(パルゥム)だって、トキに捕まって盾にされたくらいだったよ」

「いや、それ十分危ないから」

 

 子供たちのやり取りにその場にいた神々がベルが言っていることは嘘ではない、と感じとる。そして白い目で見られたアポロン様は、咳払いをした後、再びヘスティア様に向き直る。

 

「とにかく、私の子はヘスティアの子がけしかけたその子に、ボコボコにされた。証人も多くいる、言い逃れはできない」

 

 パチン、と指を弾くと、周囲を囲む円から複数の神々と団員が歩み出てくる。彼等は口々にアポロン様の言葉を肯定する。その顔は、一様にゲスな笑みを浮かべていた。

 

「待て、アポロン」

 

 そう言って近づいてきたのはヘルメス様だった。どうやら復活していたらしい。

 

「手を出し始めたのはそちらから、とオレはベル君から聞いている。さらにトキは一人じゃ帰ってこられないほどフラフラになって帰って来た。ヘスティアだけを責めるのはお門違いじゃないのかい?」

「……ヘルメス、まさか君がヘスティアを庇うとはね。しかし無意味だ、此方には多くの証人がいる。そんな事が嘘だとすぐに分かるぞ?」

 

 ヘルメス様の訴えをアポロン様は一蹴りした。今この状況においては、数で勝るアポロン様の方が断然有利だ。

 

「団員を傷つけられた以上、大人しく引き下がるわけにはいかない。【ファミリア】の面子にも関わる……ヘスティア、どうあっても罪を認めないつもりか?」

「くどい! そんなもの認めるものか!」

「ならば仕方がない。ヘスティア──君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」

 

 その言葉に、ベルとヘスティア様、そして俺も固まった。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)』とは言わば神の代理戦争。対立した【ファミリア】同士で行われる決闘。眷族を駒に例え、【ファミリア】全てのものを賭けて行われる総力戦。

 勝利した【ファミリア】の主神は敗北した【ファミリア】の主神から何でも、それこそ命さえも奪うことができる、遊戯という名の戦争。

 

『アポロンがやらかしたぁー!!』

『すっっげーイジメ』

『逆に見てみたい』

 

 面白いことが大好きな神々は進んでアポロン様を支持する。

 

「我々が勝ったら……君の眷族、ベル・クラネルをもらう」

 

 その言葉に、全てを理解した。つまりあの酒場での一件もこの『神の宴』も全てベルを引き込むための策略か。

 そう考えた瞬間、殺気が溢れだした。

 

『!』

 

 直ぐ様団員達が己の主神を庇う。だがそれでも大半の団員は震えていた。

 

 俺はというと、アポロン様を睨み付け、その手に短刀を呼び出し──

 

「トキ」

 

 ポン、と肩を叩かれた。振り返るとヘルメス様が笑って俺を見ていた。

 

「急用を思い出した。帰るよ」

「……わかりました」

 

 渋々殺気を押さえ、短刀を消す。

 

「先に行って帰る支度をしておいてくれ。オレはアポロンとちょっと話していく」

 

 黙って頷き、出入り口に向かう。

 

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「さて、アポロン。盛り上がっているところ悪いけど、オレは帰らせてもらうよ」

「……あ、ああ、いいだろう」

「それと、1つ忠告しておこう」

「忠告?」

 

  笑みを引き釣らせながらアポロンはヘルメスに問う。

 

「……君は悪魔(あの子)の怒りを買った。それ相応の譲歩を期待しているよ」

 

 そう言ってヘルメスは身を翻した。

 

「あ、そうそう」

 

 くるりと振り向き、アポロンの近くにいるルアンに目を向ける。彼はトキの殺気に腰を抜かしていた。

 

「君、重傷なようだけど、転んだりして大丈夫かい?」

 

 そう言って今度こそヘルメスは会場を後にした。

 

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 夜も更けた高級住宅街で、二人用の馬車を漆黒の馬が引いていた。御者を務めているのは礼装を纏ったトキである。

 

「トキ」

「……何ですか?」

「悪いが【アポロン・ファミリア】には手を出さないでくれ」

 

 トキは馬車の中にいるヘルメスの言っていることが最初わからなかった。次第に頭が理解し、怒りの声を出そうと口を開く。

 

「その代わり、ヘスティアとアポロンの『戦争遊戯(ウォーゲーム)』に君を出場させる」

 

 しかしそれは、ヘルメスのさらなる言葉に遮られた。

 

「……できるんですか?」

「アポロンは天界からの付き合いだ。何だかんだで丸め込める」

 トキには馬車の中にいるヘルメスの様子はわからなかった。だがいつもと雰囲気が違うとは感じていた。

 

「……アポロン、君はオレの子をコケにした」

 

 ヘルメスは馬車の中でトキに聞こえない程度の声で呟く。

 

 今回の件、トキはまんまとベルを貶めるダシに使われた。その事にヘルメスは珍しく怒っていた。

 

「この代償は支払ってもらうぞ」

 

 カタカタと馬車を引く音が聞こえる。トキとヘルメス。二人の目には怒りの感情が宿っていた。




……やっぱりアポロンがヘスティアに『戦争遊戯』を仕掛けるところは無理矢理感がハンパない。でもこれ以上上手くできませんでした。すいません。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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