冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
原作のイメージを壊さないようにしつつ、頑張ります!
ダンジョンからの遠征から帰ってきた翌日の晩。私達【ロキ・ファミリア】は恒例の遠征の打ち上げをやっていた。今回は到達階層こそ更新できなかったものの新種のモンスターとの戦闘などでとても大変な遠征だった。
打ち上げ会場は西のメインストリートにある『豊穣の女主人』。料理もおいしく、楽しい雰囲気のお店だ。
みるみるなくなっていくお酒や料理。忙しそうに働くウエイトレス達。とても楽しい時間が過ぎていった。
「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」
ロキに遠征の話を聞かせていた時、
遠征帰りに襲ってきたミノタウロス達を返り討ちにした時の話だった。
ベートさんの話によると、あのミノタウロス達の最後の1匹はなんと5階層まで逃げていったとか。
そのミノタウロスを倒した時に駆け出しの冒険者の2人組を助けたのだとか。しかも今度はその2人に逃げられたと。
とても堪えきれず笑ってしまった。
そのあとベートさんはその冒険者達を悪く言い始めた。ベートは根っからの実力主義者で、悪い人ではないけど、お酒が入っていたこともあり、とてもひどい言い種だった。
そして……
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
ベートさんがこう言った直後だった。店内の1人が勢いよく店を飛び出していった。
「ベルさん!?」
その後をウエイトレスの1人が追いかけていき、さらにアイズさんもその人を追いかけていこうとした。私を含め店中が何が起きたかわからなかった。
「あぁん? 食い逃げか?」
「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」
ロキはそういうと外に出ていったアイズさんを連れ戻そうと外に出ていった。
何気なくその人がいたであろう席に目を向けた。
「あっ」
そこには知っている人の背中が見えた。いや、ただ知っているだけじゃない。3年前からいろいろ、それこそ冒険者の心得を一緒に考えてくれてた人だ。彼のお陰で私は
声をかけようかな? って思ったけど、今は【ファミリア】の打ち上げの最中だし、明日は確か彼のお店の日だからその時でいいかなと、思い目を逸らそうとした時だった。
彼の表情が見えたのは。まだ見たことない、怒りという負の感情を隠そうともしない顔、それでいてどこか泣きそうな顔。
なんで? と思った。そして1つの心当たりが見つかった。それは遠征に行く前日のことだった。
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「へー、明日遠征に出発するんだ」
「うん、だからまたしばらく来れないから」
「わかった。っていうかいいのかよ、遠征前日にこんなところに来て」
「うん。準備も終わったし、許可も取ってきたから」
「そっか。しかし明日かー」
「? 明日何かあるの?」
「ああ。俺、明日誕生日なんだ」
「え、嘘!」
「本当だよ。待ちに待った14才の誕生日だ」
「あっ、じゃあ……」
「ああ、ヘルメス様も帰って来てるし、念願の冒険者デビューだ!」
「よかったね!」
「おう! まあ冒険者になってもこの店は続けるつもりだけどな」
「なくなったらいろんな人が困るからね。というかそういうことはもっと早く言ってくれないと」
「え、何が?」
「誕生日! 言ってくれないとお祝いできないよ」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞・い・て・ま・せ・ん! まったく、妙なところで抜けてるというか子供っぽいというか……」
「失敬な、俺はまだ子供だぞ」
「あなたみたいな子供が普通にいてたまるものですか!」
「いくらなんでもそれはひどいぞ……」
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確証はない。そもそも多くの人が集まるこのオラリオで5階層でミノタウロスに会い、私達が打ち上げをするこのお店に同じ時間にいて、ベートさんがその話をする、なんて確率、それこそ0に等しい。
でも、それでも。私は席を立っていた。お店を出ていこうとする彼の袖を掴む。
「待って!!」
彼は止まって振り向いてくれた。
「……レフィーヤ」
振り向いた彼の表情はさっきと変わらなかった。
「何か用か?」
店中が再びざわめき出す。彼は辺りを見渡し……
「ここじゃなんだから外で話そうか」
と無理に笑ってお店を出ていった。
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日はすっかり沈んでいた。お店を出る時、ロキが何か言ってた気がするけど相手をしている余裕はなかった。
「トキ、あのさっきのベートさんの話……」
「ベート? ああ、彼が【
トキは笑っていた。誰が見ても明らかに無理をしているってわかる笑顔だった。
「彼が話していた冒険者ってのは俺とさっき出ていったやつのことだよ」
心臓が握り潰されるような思いだった。
「あの、ごめんなさいっ!!」
謝った。知らなかったとはいえ、その場に本人がいてそれを楽しく話して、笑ってしまったことに。
「別に謝ることじゃない」
「でも!」
「それにさ、俺は別にお前や【ロキ・ファミリア】の人達に怒ってるんじゃない。もちろん、話していた【
彼の笑顔が消える。その顔はバベルの最上部を見つめていた。
「俺が怒っているのは、自分自身にだ」
「えっ?」
「俺さ、浮かれてたんだよ」
その顔は懺悔するかのように寂しい色をしていた。
「念願の冒険者になって。ようやく目標に明快に1歩近づけたって浮かれてたんだ」
ぐっ、とトキは拳を握り締めていた。
「トキ、その手……」
彼の両手は拳の握りすぎで血に染まっていた。
「あの人の話を聞いて、否定したくて、でも出来なくて……。だからさ、それをわからせてくれたあの人に感謝こそすれ、憎むようなことはないよ」
「トキ……」
トキの瞳が私を射ぬく。力強い、戦士の目だった。
「だから謝ることないよ、レフィーヤ」
「……うん、わかった」
踵を返し、去っていく彼。その方向にあるのは……バベル。
「えっ」
「そうそう、明日は普通に店やるからよかったら来てくれよー!」
そういうと、彼は走り去っていった。
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「おー、遅かったなレフィーヤ。あの少年と何話してたん?」
お店に戻るとロキが話かけてきた。
「何でもいいじゃないですか」
「なんやつれないなー。あ、ひょっとしてさっきの少年、レフィーヤの男か?」
「だったらなんですか?」
「…………え、まじで?」
固まるロキをしり目に視線をベートさんに移す。ベートさんはティオナさん達に縄で縛りあげられていた。あのリヴェリア様も彼の頭を踏んづけている。どうしてそんな状況になったかはわからないが、今、私はかつてないほど彼に怒りを感じていた。
抑えきれない怒りをとにかくぶつけたかった。
「あ、レフィーヤ!」
「どうした? 先程誰かと話していたようだが?」
「はい、もう大丈夫です」
ティオナさんとリヴェリア様に笑顔でそう返す。そして……
ベートさんのお腹をおもいっきり踏みつけた。
「ぐほっ!?」
リヴェリア様に頭を踏みつけられているにもかかわらずくの字に曲がるベートさんの体。
「レ、レフィーヤ……?」
リヴェリア様の戸惑った声。
「てめぇっ!? なにす……」
「な・に・か・も・ん・く・で・も?」
--その時のレフィーヤを見た【ロキ・ファミリア】の面々はこう思った。今のレフィーヤは自分たちが見てきたどのモンスターよりも怖い、と。
「な、なんでもないです……」
急にしりごむベートさんを無視しつつ席に戻る。
私が怒っているのは、怖かったからだ。もしあのとき、トキに拒絶の言葉を口にされていたら……
そこまで考えて私は首を振った。
「ティオネさん」
「な、何?」
「私にもお酒ください」
さっきまで団長のフィンさんにお酒を注いでいたティオネさんにそうお願いする。いつもなら渋るであろうティオネさんだが今回はなぜか素直に注いでくれた。
ジョッキに注がれたそれを一気に飲み干す。
「もう一杯お願いします」
「レ、レフィーヤ? そんなに一気に飲まん方が……」
「ロキは黙っててください」
「…………はい」
注がれたお酒をまたすぐに飲み干す。そしてまた注いでもらう。
…………私はその後すぐに潰れた。
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「あーさっきのレフィーヤ、すごく怖かった」
「ああ、私もあんな彼女を見たのは初めてだ」
「そう言えばさ、ティオネ?」
「何?」
「なんでレフィーヤにお酒注いであげたの? てっきり私のお酒は団長のものよ! って言い返すと思ったのに」
「ああ、あれ? まあ、ね」
「なんで?」
「だってさっきのレフィーヤ……恋する乙女の顔をしてたもの」
いかがだったでしょうか? 自分ではまあまあのできだと思ってます。……思いたいなー。
この作品のレフィーヤはすでにLv.4です。誤字や勘違いではなくそういう設定です。
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