冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
【ヘスティア・ファミリア】VS【アポロン・ファミリア】の
早朝から全ての酒場が開店し、街の至るところには無数のポスターが貼られている。ポスターには【アポロン・ファミリア】の太陽のエンブレム、対して【ヘスティア・ファミリア】はまだ【ファミリア】のエンブレムがないため、代わりに悪魔の翼が生えた1匹の兎が描かれている。
この絵は
ほとんどの冒険者は
『あー、あー! えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の
ギルド本部の前庭では無駄に派手なステージが無断で置かれ、褐色の肌の青年が魔石製の拡声器を片手にその声を響かせていた。
『解説は我らが主神、ガネーシャ様です! ガネーシャ様、それでは一言!』
『俺が、ガネーシャだ!!』
『はいっありがとうございましたー!』
青年の横には象の仮面を被った男神、ガネーシャがいつものごとく声を上げていた。【群衆の主】とも呼ばれるこの神に、前庭に集まっていた人々から喝采が送られる。
「おー、盛り上がっとる盛り上がっとる」
そんな様子を
この日を誰よりも楽しみにしていた神々の多くはこの『バベル』に赴いていた。対決する【ファミリア】の主神である、ヘスティアとアポロンもこの場にいる。
それ以外には、酒場に赴き冒険者達に混じってギャンブルをするもの、ホームで眷族達と戦いを見ようとするものなど、様々な神がいた。
そんな中、【ヘスティア・ファミリア】側の助っ人の主神、ヘルメスは何故かブスーっとした顔をしていた。
「どうしたんだヘルメス、そんな顔をして?」
気になった近くの神の
「聞いてくれよ!? この前ギルドの
天を仰ぐヘルメスを、何故かこの場にいる唯一の眷族であるアスフィが半目で睨む。
「止めますよ、あんな馬鹿げた金額をつぎ込もうとすれば」
「アスフィ、君はトキ達が勝てないとでも言うのかい!?」
「そんな事はありません。……ですが、【ファミリア】の資産の3分の1を賭けに出そうとすれば、誰だって止めますよ!?」
アスフィの発言にギョッとする神々。
「大丈夫だって、それだけつぎ込んでもトキ達のオッズの方が高いから!」
「そういう問題ではありません!」
不毛な言い合いをするヘルメスとアスフィに、周囲の神が口を挟む。
「あー、ヘルメス。そろそろ……」
「ん? ああ」
ヘルメスは懐から懐中時計を取り出すと時刻を確認する。時計を閉まった彼は顔を上げ、そこに誰かいるかのように話しかける。
「それじゃあ、ウラノス、『力』の行使の許可を」
ヘルメスの言葉が空気中に溶ける。その数秒後。
【──許可する】
ギルド本部の方角から重々しい老神の声が響き渡る。その言葉を聞いたオラリオ中の神々が一斉に指を鳴らす。
するとオラリオ中に無数の『鏡』が現れた。その『鏡』には
下界で特別に行使が許されている『
『では映像が置かれましたので、あらためて説明させて頂きます! 今回の
『鏡』が置かれたことにより一気に盛り上がる人々に、実況が
「もういいかァー!? 賭けを締め切るぞ!」
一方街の酒場では
「アポロン派とヘスティア派、15対1って……」
「【ヘスティア・ファミリア】のオッズが10倍超え程度、っていくら何でも低すぎやしねえか?」
胴元の冒険者達が賭けの状況を整理する。それは当初予想していたものとは全く違うものだった。
「神連中が大穴狙ってるとしても、10倍は低すぎだろ……」
「どうやら【シャドー・デビル】参戦でヘスティア派に賭けるやつらがいるらしい」
「でもやつは今回の勝利条件には関係ないだろ? そんなやつに何を期待してんだか」
『それでは、間もなく正午となります!』
実況の声に全ての者の視線が『鏡』に集まる。そして。
『
戦いの火蓋が切られた。
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開始の銅鑼が遠方の丘から響く。盛り上がるオラリオとは打って変わって、戦場である古城の士気は低めであった。
今回の
しかしそんな予想は開始直後に裏切られた。
「て、敵襲ー!?」
北の城壁の上の見張りからそんな声が上がった。
北の見張りは二人いて、一人が叫ぶ中、もう一人が
その視線の先にいるのは漆黒の
トキの左腕が横へと伸び、虚空から白く透き通った杖が現れる。徐々に加速していくトキへ見張りの
「馬鹿め!」
もう一人の見張りも矢をつがえ、トキへ放つ。しかしこれも外れた。
だが、見張りの二人は焦らなかった。トキとの距離は徐々に詰まってきている。このまま近づいてくれば矢の雨の餌食となる、二人はそう考えていた。
ある程度距離が詰まってきたところで、矢を乱れ撃つ。無数の矢が文字どおり雨のように降り注ぐ。
しかし……矢は1発も当たらない。
「う、嘘だろ!?」
次第に距離が詰まっていくなか、それでもまったく減速することなく、トキは城を目指す。その口は歌を口ずさんでいた。
「あ、あいつ詠唱してやがる!?」
「『並行詠唱』……!? 嘘だろ、Lv.2だろ!?」
半ば狂乱する見張り。次第に縮まっていくトキと城壁との距離。
そしてトキが杖を前に突きだし。
「【──────】!」
轟音と共に城壁が破られた。
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