冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
そして短いデース。
【レア・ラーヴァテイン】を盛大にぶっぱなした後、俺と命さんはリリと合流しようと考えていたが。
「トキ殿、ベル殿達は既に玉座の塔付近にいる模様です」
という命さんの言葉により予定を変更し、玉座の塔に向かっていた。
そもそも、何故命さんがベル達の場所を特定できたのか。それは、彼女が持つスキルが関係している。
彼女のスキル【
「命さん、リリはこの先にいるんですね?」
「はい、このまま進めばちょうどリリ殿とぶつかります」
「なら急ぎましょう」
途中で倒れている(恐らくベルやヴェルフに倒された)【アポロン・ファミリア】の団員達から武器を拝借しつつ、走り続ける。すると、前方からルアンに化けたリリがこちらに向かっていた。
「トキ様と命様?」
「ああリリ、よかった、合流できた」
「どうかされました……じゃなくて、どうかしたか?」
ルアンに化けている彼女は念には念を入れ、口調や仕草まで本物のルアンに似せている。見事な演技力だ。
「ベル達が玉座の塔に入ったんだろ? だったらもう囮の必要はない。後は他の団員を王塔に入れなければ俺達の勝ちだ」
「それは……急ぎすぎじゃないのか? まだ混乱させておいた方が……」
「それよりも、どうせベルの花火を見たら全員が塔に集まるんだから、囮をやっているよりも待ち伏せた方がより多くの人数を倒せるからな」
顔がにやけるのを意識しつつ、王塔を見据える。
「しかしトキ殿、本当にベル殿に加勢しなくてもよいのでしょうか?」
今回の作戦、人数の関係もあるが敵の大将であるヒュアキントスと戦うのはベルだけだ。
「大丈夫だ」
命さんの問いに対し、今度は別の意味で笑みを浮かべる。
「あいつはお人好しで優柔不断でヘタレだけど、意外と強い。それに──」
「それに?」
「あいつも男ですから」
キョトンとする命さんとリリに苦笑しながら王座の塔に向かう。剣撃の音が聞こえてくる。視線の先ではヴェルフが女性冒険者と戦っているのが見えた。
「ヴェルフッ‼」
先程拝借した武器を振りかぶりながら叫ぶ。
「避けろ‼」
ヴェルフがこちらを向いた瞬間に、走りの勢いを利用し武器を投擲。突如飛来してきた投擲物にヴェルフと女性冒険者がのけ反る。
「もう1ぱアァァつッ‼」
今度は左腕で投げる。俺は利き腕が右だから左だとあまり力がでない。案の定、女性冒険者を狙って投げた武器は彼女の剣に弾かれる。だが、崩れた体勢のまま反射的に弾いたため、さらに体勢が崩れる。
「もらったァ‼」
「しま-」
そこにヴェルフの大刀による一撃が直撃する。彼女は吹き飛んだ後、壁に激突して気を失った。
息を吐くヴェルフに駆け寄る。
「ヴェルフ、お疲れ」
「ああ、さっきはサンキューな」
その時、王座の塔から純白の雷が
「いよいよか……」
「はい」
ヴェルフの呟きに命さんが答える。
──ベル、頑張れよ。
パンッと自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。
「んじゃこれからの動きを提案するぞ。俺がここに陣取って、さっきの花火に食いついたやつらを迎撃する。リリ達はこのまま玉座の間に向かってベルの戦闘の邪魔をしようとするやつらを止めてくれ」
「「えっ!?」」
俺の提案にリリと命さんが疑問の声を上げた。
「ん? 何か問題あるのか?」
「疑問も何も、何でお前だけ残るんだよ」
「俺がヒュアキントスと戦うとその時点でこっちの負け。だけど俺以外だったら問題ないだろ? だから皆がベルのところに行ってあいつの戦いに邪魔が入る前に阻止して欲しい。それは多い方がいいに決まっているだろ?」
「……わかった」
「なっ、ヴェルフ様!?」
俺の回答にヴェルフが頷き、リリが驚愕する。
「だが行くのはリリスケと命だけだ。俺もここに残る」
「いや、だから……ってそんな言い合いをしている場合じゃないな。わかった、リリ、命さん、頼んだ」
「……わかりました。行きましょう、リリ殿」
「……お二人とも簡単にやられないで下さいよ?」
リリの呟くような声に手をヒラヒラと振って応える。彼女達はそのまま通路の奥へと向かった。
「さてと」
王座の間に続くものと反対側の通路を見る。そこには10数名の冒険者達が迫ってきていた。その中には
「……何であんなに残ってんだよ」
「ああ、俺が軽い気絶で留めておいたから」
ヴェルフの呟きにあっけらかんな調子で答える。はあ!? とヴェルフが声を上げた。
「だって…………その方が何回もボコせるだろ?」
後にヴェルフはこの時のトキをこう語った。あの時のあいつは本当に悪魔みたいな顔をしていた、と。
「さて、んじゃ始めるか」
倒れている冒険者から剣を拝借し、構える。戦場で落ちている武器は全て己の武器となるのだ。
ヴェルフも大刀を構える。
「途中でへばるなよ?」
「ぬかせ!」
同時に駆け出す。さて、次はどの程度までボコボコにしようかな。
次回はベルの戦闘です。
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