冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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最近暑くて創作意欲が沸きません。その所為か更新が滞ってます。本当に申し訳ありません。

また番外編ですが、戦争遊戯編が終わった後に更新します。楽しみにしてくれている方(いてくだされば)、誠に申し訳ありません。


白兎の炎牙

 ベルside

 

 視線の先にいる青年(ヒュアキントス)を見据える。あちらはまだ僕に気づいていないのか、波状剣(フランベルジュ)を手に持ち、周囲を警戒している。

 

 さっき僕が放った、【英雄願望(アルゴノゥト)】で強化された【ファイアボルト】によって彼がいた玉座の塔は上半分が消しとんでいた。なぜ彼が無事なのかはわからない。僕や彼の周りには彼を警護していたであろう人達が倒れている。直撃を受けた人はいないと思うから死んではいない……と思う。

 

 さっきの一撃で彼を倒せるとは思っていなかった。けど無傷とは思っていなかったから、正直ちょっと落ち込んでいる。

 

 気を取り直して、レッグホルスターからナァーザさんから譲ってもらった2属性回復薬(デュアル・ポーション)をありったけ飲む。それでも【英雄願望(アルゴノゥト)】の反動で体が重い。今の僕に長期戦をする体力は残っていない。

 

 普通ならここで撤退するのが賢い選択だろう。相手はこちらを見つけていない。今なら気づかれずに撤退し、ヴェルフや命さんを連れてあの人と戦えるだろう。

 

 だけど、それじゃ意味がない。協力してくれたみんなも、オラリオでこの戦いを観ている人達も、僕だって、彼との決着は僕自身がつけたいと思ってる。

 何より、約束したんだ。

 

『ヒュアキントス以外の団員は俺が片付けておく』

 

「だから僕はトキ(きみ)の分まで彼と戦って来るよ」

 

 2本の紅緋色のナイフ、牛若丸(うしわかまる)と、ヴェルフが上級鍛冶士になった後に作ってくれたナイフ、牛若丸弐式(うしわかまるにしき)を抜刀する。

 呼吸を整え、ヒュアキントスさん目掛けて駆け出す。

 

「──」

 

 彼はバッとこちらに振り向くとその勢いで波状剣(フランベルジュ)を振る。短刀と長剣が切り結び、火花が散る。

 

 ──今の一撃、トキなら決めていた。

 

 その場に留まることなく、彼の回りを駆け回り、2本のナイフで斬撃をくり出す。『敏捷(あし)』に物を言わせた一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)。力はあちらの方が上。だけど、速さなら僕の方が速い。

 

「誰だっ、お前はっ!?」

 

 彼が何を尋ねているかはわからない。こっちはさっきの反動で疲れている。いちいち問答に付き合っている暇はない。

 

「私は、Lv.3だぞ!?」

 

 言葉と同時に強引な切り筋。それを見逃すことなく牛若丸弐式をくり出す。相手の波状剣(フランベルジュ)を叩き切る。

 

 相手は直ぐ様予備の短剣に手を伸ばす。けれどその隙を逃すことなく2本のナイフによる連撃を叩き込む。

 

 9つ目の斬撃をくり出した時、ようやく相手は短剣を抜き、斬撃を防いだ。

 

 ──遅い。

 

 体のギアを一つ上げる。それだけで相手は僕に対処しきれなくなる。

 

 ──やっぱりこの人、下手だ。トキよりも。アイズさんよりも。

 

 アイズさんやティオナさんに訓練してもらって、強くなって、わかったことは親友(ライバル)との差。トキは既に、あの二人(第一級冒険者)よりも、上手かった。

 もしトキとアイズさんとの間に【ステイタス】の差がなければ。戦って勝つのはトキだろう。そう思えるほど親友は上手かった。

 

 ──それでも、諦めない。

 

 今はまだトキの方が強い。それは認めよう。だけど、強くなって、もっと強くなって、いつか胸を張って彼の親友と名乗れるくらいに強くなるんだ! だから!

 

「こんなところで、立ち止まるわけには、いかないんだッ‼」

 

 さらにギアを一つ上げる。体が悲鳴を上げる。だけどそんなこと関係ない!

 

「う、おおおおおおおおおおッ!?」

 

 ギアを上げた所為か、さっきの僕の言葉が気に触ったのか、彼は雄叫びを上げると足元に短剣を振り下ろした。

 

 第二級冒険者の一撃に衝撃と風圧が発生し、瓦礫が砕け土煙が舞い上がった。その中へ僕は飛び込む。抉れた地面の破片が体を叩くけど、それを気にせず土煙の向こう後退するヒュアキントスさんに突っ込む。焦燥で歪んでいた彼の顔に驚愕の表情が表れる。

 

 恐らく今の一撃は衝撃や風圧、土煙で僕を引かせ、その間に魔法を詠唱するつもりだったのだろう。確かに僕には魔法を受けきるような体力は残っていない。距離を離されたら負ける。

 

 幸い僕の方が速い。彼は何故か短剣を仕舞っている。今なら、勝てる。

 

「やぁー!?」

 

 勝利を確信して油断したその時、横から奇襲を受けた。見ると僕に『神の宴』の招待状を届けにきた女性の一人、カサンドラさんが僕に体当たりをして来ていた。

 

 体勢を崩し、走っていた体がよろける。

 

「ベル様!」

 

 そこに背後から飛び出してきた小さな影が、カサンドラさんをはね飛ばした。その支援が誰かなんて見なくても分かった。

 

 ──ありがとう、リリ。

 

 カサンドラさんの体当たりにより足が止まった僕を見て、詠唱を始めたヒュアキントスさんに再び接近する。彼は慌てて短剣を抜こうとするが、詠唱を途中で止めたことにより魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こす。

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)によって動きが止まった彼にナイフを仕舞い、拳を握る。

 

 それはトキとの約束の1つ。

 

『あ、出来ればさ』

 

 走りの勢いを殺さず足を踏み締める。

 

「【ファイア──】」

 

敵の大将(ヒュアキントス)を全力で殴っといて』

 

「【──ボルト】!」

 

 拳を突き出すのと同時に魔法を発動。拳の勢いとゼロ距離で発動した速攻魔法が彼の顔面に突き刺さった。白兎の炎牙(ヴォーパル・フレイムファング)。ダンジョンに出現する殺人兎の一撃に炎を乗せた僕の全力。

 

 ヒュアキントスさんは攻撃によって吹き飛び、何回か地面を跳ねた後、ゴロゴロと転がり、50M(メドル)ほど転がったところでようやく止まった。

 

 会心の一撃だった。肩で息をしながら仰向けに倒れている青年を睨む。その体が起き上がる──────ことはなかった。

 

 銅鑼の音が古城跡地に鳴り響く。

 

「勝っ、た?」

 

 けっこう、あっさりだった。10日前まで敵うはずがなかった相手に、今僕は勝った。実感が湧かなかった。

 

「ベル様!」

 

 名前を呼ばれた。振り向くとリリが感極まったような顔で立っていた。

 

「リリ、僕は、勝ったの?」

 

「はい!」

 

 リリの言葉にようやく感情が込み上げてきた。顔が自然と笑顔になった。

 

「リリ!」

 

「はい、何で──」

 

 ガバッ!

 

「ひゃあ!? ベ、ベル様!?」

 

 感極まって僕は屈んでリリに抱きついた。

 

「勝った、僕達勝ったんだ!」

 

「ベル様、く、苦しいです!?」

 

「ありがとう、ありがとうリリ!」

 

 胸に湧き起こる感情をそのまま吐き出す。

 

「リリのお陰で勝てた! 本当にありがとう!」

 

 Sideout




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