冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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それではオリジナル章に突入します。と言っても色街編をちょくちょく入れていくので完全にオリジナルという訳ではありませんが。


暗躍する影達
デート


 光あるところに影があり、人の営みの裏に闇が広がる。幼少のころから世界を渡り歩いてきて学んだことの1つである。

 人が集まれば様々な思惑が生まれ、他者を騙すもの、虐げるもの、利用するものなど、所謂人間のクズのような存在も現れてしまう。

 

 ましてここ迷宮都市(オラリオ)は1000年以上の歴史を持つ街だ。そこに広がる闇は、14年しか生きていない俺には想像もつかないようなものだろう。

 

 そう思って、それでも戦争遊戯(ウォーゲーム)後に決意した意思は揺るがず、オラリオの闇に片足を突っ込んでみたのだが……拍子抜けした。

 

 確かに俺が『闇』と呼ぶような業界はあった。けれど正直ショボい。俺が思っていたよりもショボかった。

 

『闇』に突っ込むぞ、と意気込んでいて気づかなかったが、よくよく考えてみると人間の闇が広がるわけがないのだ。なぜなら今この都市を支配しているのは超越存在(デウスデア)である神達なのだ。

 

 彼ら彼女らは人間(こども)達を見てはしゃぐ、個人的に、こちらからすれば迷惑な存在だと思うことが多いが、人間を超越した存在には変わらない。

 彼らの前で嘘はつけず、言葉の駆け引きもこちらには想像もできないほど長く存在している神々の方が上手だ。とてもではないが人間が勝てるような相手ではない。

 

 というか、1000年も街が存在していたら普通とっくに衰退、もしくは腐敗しているだろう。

 

 そんな訳でこの街の『闇』に飛び込んでみて出鼻を挫かれた俺は、安全階層(セーフティポイント)でヘルメス様とベルの覗きを止めなかった罰である『ウィーシェ』の裏メニューである、1つ3000ヴァリスもするパフェをレフィーヤに奢っていた。

 

 このパフェ、大きさは普通のものと変わらないのだが、材料に18階層で取れるハニークラウドという果物を小量ながら使っており、その材料費や加工費でこの値段なのだとか。

 本当はもっとハニークラウドの使用量を増やしたいが、これ以上使用量を増やすとパフェ全体の味が損なわれてしまう、と前にエルフの店主に聞いたことがある。

 

 そして肝心の味なのだが……甘い。ハニークラウドはそれ単体だけでかなりの糖度を誇る。多分甘過ぎるものが駄目な人は食べられない。ちなみに俺は連続2個までなら食べられる。

 そのハニークラウドの甘味を出しつつ、他の果物やアイスの味も損なわないこのパフェはもはや芸術なの!とレフィーヤは言う。

 

 そんな事を力説する彼女はパフェをパクパク食べながら幸せそうな顔をしている。ちなみに俺にはあんなにハイペースであのパフェを食べることはできない。絶対に胸焼けするから。

 

「あ~、おいしかった~」

 

 パフェの余韻に浸るレフィーヤ。その様子を紅茶を啜りながら眺める。

 

「そう言えば戦争遊戯(ウォーゲーム)の所為か、トキの知名度もさらに上がったね~」

 

「……まあな」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)が終了して数日。その熱は未だ完全に冷めることはなく、オラリオを沸かしている。

 

 あの遊戯(ゲーム)で派手に立ち回った俺は、元々の知名度に加えてさらに有名となってしまった。……正直【シャドー・デビル】は悪名みたいなものだから広まって欲しくないのだが。

 

 現にこの店に来るまでにもこちらを見てヒソヒソと話す人達を何人か目撃した。

 

「そういうレフィーヤの方はどうなんだ? 遠征では大活躍だったらしいじゃないか」

 

「ま、まあね」

 

 この前【ロキ・ファミリア】を訪れた際に前回の遠征の話をティオナさんから聞いた。詳しい内容は聞けなかった(というか説明が抽象的でかわからなかった)が『高速詠唱』で『深層』の竜型のモンスターや新種のモンスターを一掃したり、59階層の巨大モンスターへとどめを刺すアイズさんの援護を勤めるなど、大活躍だったらしい。

 

「でもあれは『並行詠唱』ができるようになったからで、その『並行詠唱』はリヴェリア様やアイズさんやフィルヴィスさん、後トキのお蔭だし……」

 

「それでもそれはレフィーヤが成したことなんだ。自信を持っていいよ」

 

 微笑みながら言葉をかけると彼女は照れながらはにかんだ。

 

 その様子を見ながらチラリと店の他の客を見てみる。

『ウィーシェ』は、訪れるには複雑な道を辿る必要がある、知る人ぞ知る小洒落た喫茶店で、主にカップル客をメインターゲットにしている。

 

 そんな中、店の一角にこちらを見ている集団があった。数は3人、否3柱。ニヤニヤしながら様子を窺うそれは、面白いものを見つけた様子の神達だった。どうやらここに来る時につけられていたようだ。それにしても俺に気づかれない尾行術とは……やはり神は侮れない存在である。

 

 そんなことを考えていると、店主が少し大きめのケーキを運んできた。そのケーキは所謂カップルケーキと呼ばれるもので、カップルが互いに食べさせ合うケーキだ。それを見た俺とレフィーヤはうろたえる。

 

「あの、これ頼んでないんですが……」

 

「あちらの方々からサービスだそうです」

 

 店主が指し示す方向にはニヤニヤと笑う神達の姿が。やはり迷惑な存在だ。

 

 どうせ彼らは俺とレフィーヤをからかい、その様子を楽しむつもりなのだろう。パッと見、俺と直接の関係がない神達のようだし、俺とレフィーヤの付き合いがそこそこあるのを知らないのだろう。

 

 確かに数週間前の俺ならばきっと取り乱していただろう。しかし、正式に付き合い始めた今、躊躇する必要はない!

 

 ケーキにフォークを入れ、それをレフィーヤに差し出す。

 

「ほらレフィーヤ、あーん」

 

「え?」

 

 キョトンとするレフィーヤは、次第に顔を赤く染め、目を瞑ってゆっくりと口を開く。その様子にドキッとしながらもケーキを彼女の口へ運ぶ。

 

「美味いか?」

 

「う、うん……」

 

「そうか、じゃ次は俺の番だな」

 

 そう言って口を開く。レフィーヤはさらに顔を真っ赤にしながらもフォークでケーキを切り、こちらに差し出す。

 

「あ、あーん」

 

 ケーキを口に入れながら、咀嚼(そしゃく)する。正直に言おう、恥ずかしくて味なんてわかりません! 確かに躊躇する必要はない。けどそれと羞恥心は別である。

 だがここで今更恥ずかしくなってやめてしまう、という選択肢はない。そんなことをすれば神達はさらに調子付くだろう。それは何か負けたような気がする。

 

 再びケーキにフォークを入れ、レフィーヤにあーんをする。しばらく食べさせ合っていると。

 

『店主、珈琲をくれ! 砂糖やミルクはいらない!』

『くそっ、このデザート甘すぎるぜ!』

『早く、早く珈琲を!』

 

 どうやら勝ったようだ。テーブルの下で拳を握る。

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

 半分も食べれば慣れたもので、神達の視線も気にせずケーキを食べていった。ちなみに味もわかるようになり、とても美味しかった。

 

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 その後、どうせならこちらから神達をからかってやろう、ということで『ウィーシェ』のカップルメニューの半分を制覇し、会計。店を出る時、神達にドヤ顔も忘れずにした。

 

「いやー楽しかったなー」

 

「ちょっと恥ずかしかったけどね」

 

 そうは言いながら満更でもなさそうなレフィーヤの様子に笑みがこぼれる。

 

 複雑な道を抜けて『黄昏の館』に向かっていると。

 

『おい、聞いたか』

『何のことだ?』

『【ヘスティア・ファミリア】のことだよ』

『ああ、あの話か』

『何でも莫大な借金があるらしいぞ』

『2億ヴァリスだとさ。いったいどっからそんな借金したんだか』

 

「「……」」

 

 聞こえてきた冒険者達の話に思わず無言になる。

 

「……今の話、本当?」

 

「……いや、聞いたことはないな」

 

「じゃあ心当たりは」

 

「……ベルの黒い短刀。あれ【ヘファイストス・ファミリア】製なんだ。ロゴ入りの」

 

「……それだね」

 

「……それしか思い当たらないな」

 

 とりあえずレフィーヤを送った後、【ヘスティア・ファミリア】を訪れることにした。




久しぶりに本編を書いたせいか、すごく変な文になってしまった……。相変わらずのクオリティですいません。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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