冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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しみじみ思うことがあるんです。この話をしてから番外編のトキの先祖を出せばよかった、と。

という訳で暖めていたトキの設定についてです。


先生

 同じ背丈、同じ顔。男の後ろに控えていた人達は、気味の悪いほどトキに似ていた。その数、13人。いや先程アスフィさんと戦闘していた人を含めて14人だ。

 

 アスフィさんが戦っている人物がトキではない、と言った時、私は双子かな? と密かに思っていた。だがこれはあまりに()()()()()()……!

 

 双子であるティオナさんとティオネさんだってよく見れば顔のパーツの位置や大きさが若干違っている。

 

 だけど目の前の14人はそんなレベルではない。髪の色、目の大きさ、鼻の位置、他の要素もまったく同一なのだ。

 

 双子とか、他人のそら似なんてものじゃない。

 

「……っ」

 

 同じことを思っていたのか、アスフィさんも目を見開いている。他の皆も驚愕のあまり、誰一人として声を出さない。

 

「……人工生命体(ホムンクルス)

 

 静寂を破ったのは、リヴェリア様だった。

 

「知っているのですか!?」

「……様々な物質と魔力によって人工的に作り出された人間だ。まだ私が里にいた頃に何度か見たことがある」

 

 説明するリヴェリア様の顔は優れない。目の前の光景を信じたくない、という風に。

 

「そしてそれはとあるエルフが起こした事件によって禁忌とされた」

「その事件とは?」

「……王族殺しだ」

「っ!?」

 

 王族殺し。エルフであればそんなことはまず考えない。高貴な御方には敬意の心を忘れてはならない、と教わるからだ。そうでなくとも、王族は纏うオーラからして敬うべき存在だと感じ取る。

 

「幸いその事件は未遂で終わり、首謀者は処刑前に自害した、はずだ!」

「あの程度の偽装で簡単に騙されてくれましたか。それとも里を出たくないために、わかっていて見逃してくれたんですかね?」

 

 リヴェリア様の語りに相槌を打ったのは、偽トキ達の中心にいる、未だローブを被った人物だった。

 

人工生命体(ホムンクルス)というのは半分正解です。この子達はその技術を応用した作品。私はクローンと呼んでいます」

 

 クローン。それがあのトキ達の正体。本物ではないとわかり少しほっとする。

 

「その声、どこかで聞いたことがあると思っていたが……生きていたのか──スヴェイル・デック・アールヴ!!」

 

 えっ、と声が漏れた。

 

 男がローブに手をかけ、ゆっくりと顔をさらす。

 

 黄金色の髪、整った顔立ち、何よりエルフの本能が訴えかける。あの方は王族(ハイエルフ)だと。

 

「お久しぶりですね、リヴィ」

「貴様が私をその名で呼ぶなっ!!」

 

 親しそうに話かけるスヴェイル様をリヴェリア様は睨み付ける。普段からは想像もできないそのご様子に私は戸惑いを覚える。

 

「つれないですね~、一時期は婚約までしていた仲だというのに」

「黙れっっっ!! それは貴様が私を殺すために取り決めさせたものだろう!?」

「それじゃあ殺されかけた王族って--」

「リヴェリアの、こと?」

 

 ティオナさんとアイズさんの呟きに、リヴェリア様は押し黙ってしまう。

 

「ふふふ、その話はまた後日にゆっくりしましょう。今回はそちらのお嬢さん方に用があるので」

 

 スヴェイル様がリヴェリア様からアスフィさんと私に目線を移す。思わず身構えた。

 

「そう怖がらなくていいですよ。今日は話をしに来ただけですので」

「話?」

「あの子、トキがどういった存在か、ということについてです」

 

 トキがどういう存在か?

 

「あなた方は『反逆の精霊』という存在を知っていますか?」

「?」

 

 精霊、というのは恐らく()()『精霊』のことだろう。神の分身であり、エルフ以上の魔法種族(マジックユーザー)。『魔法』と『奇跡』を司る神聖な種族。

 

「『反逆の精霊』とは、『古代』より以前に神を殺した『精霊』のことです」

 

 スヴェイル様は愉快そうに顔を歪ませる。

 

「どういった経緯かは未だに論争されていますが、『精霊』が自身の主人である神を殺した、というのは本当の事のようです」

 

『古代』より以前というのは神々が地上に降りてこられるより前、ということになる。つまりその『精霊』は何らかの方法で天界までたどり着き、神の一柱(ひとり)を殺した?

 

「その『反逆の精霊』がトキだとでも?」

「いえいえあの子は歴としたヒューマンですよ。……その『精霊』の力を受け継いだ、ね」

 

 ……驚きはなかった。

 

「『反逆の精霊』は神を殺した後、自らの力をとあるヒューマンに授けた、という説があります。あの子はその力を濃く受け継いだ子なのでしょう」

 

 スヴェイル様が笑みを深くする。

 

「あの子を見つけた時は本当に嬉しかった! ずっとおとぎ話だと思っていた存在が目の前にいたのですから!」

 

 それは狂喜に染まっていた。

 

「私はあの子を暗殺者として育てました。実に優秀な子に育ってくれましたよ。5才の頃から始めさせたのですが、私の元を離れるまでの3年間で73人も殺してくれました」

 

 ふふふ、と彼は面白そうに笑う。

 

「以上で私の話は終わりです。いかがでしたか? なんならあの子がどのような人物を殺したのか教えて差し上げましょうか?」

 

「いいえ、けっこうです」

 

 ようやく話が終わった。

 

「なるほど私達と出会う前のあの子はそのような事をしていたのですね。彼はかたくなにその事を話してくれませんでしたから、知ることができてよかったです」

 

 アスフィさんはスヴェイル様を睨みながら言葉を続ける。

 

「それで? 結局貴方は何が言いたかったのですか? まさかその話をして私達がトキを追い出すとでも?」

「なっ!?」

 

 スヴェイル様が驚きの声を漏らす。……どうやら本当にそう思っていたらしい。

 

「だとしたらとんだ笑い種ですね。『反逆の精霊』? 元暗殺者? ここをどこだと思っているのですか? 『世界の中心(オラリオ)』ですよ? 外と一緒にしないでください」

 

 このオラリオには様々な人物がいる。『精霊』の力を受け継いだ元暗殺者なんて珍しいかもしれないけれど、拒む理由にはならない。

 

「ですがあなた方の主神は?」

「それこそ愚問ですね。あの主神(ヘルメス)様がそんな理由で彼を追い出す訳がありません。むしろ嬉々として自分好みに育てるでしょう」

 

 焦りの表情を浮かべるスヴェイル様にアスフィさんは淡々と応じる。彼はこの話をしてトキを【ファミリア】から追い出そうとしたらしいけど……どうやら神々の性格を理解していなかったようだ。

 

「それでは、貴女はどうですか?」

 

 スヴェイル様が私の方を向く。

 

「アスフィさんと同意見です。確かに彼は暗殺者だったかもしれませんが、今は違います。()()()()()()()、私は彼を嫌いになんかなりません」

 

 嫌みを込めて笑顔で言ってやった。確かに彼は王族(ハイエルフ)なのだろう。だけどトキを、リヴェリア様を陥れるような人に敬意を持つほど私は謙虚ではない。

 

 スヴェイル様はさらに顔を歪めた後、深く息を吐き、再び笑顔を作った。

 

「どうやら失敗のようですね。………………ならば予定変更です」

 

 パチン、とスヴェイル様が指を鳴らす。それに反応して偽トキ達が一斉に短剣を構え、影の触手を展開する。

 

「クローンは製作工程で人の血を使います。生まれながらにして力を持つトキの血を用いたこの子達は彼の能力を使うことができるのです」

 

 触手は精々1本か2本。多いもので4本。だけどそれが14人となると厄介だ。

 さらにここは屋内。攻撃魔法が使えない。

 

「【九魔姫(ナイン・ヘル)】、何人押さえられますか?」

「4人が限度だろう。アイズ、ティオナお前達は?」

「……剣があれば5人はいける」

「あたしは何人でもいいよ」

「いえ、彼が言っていることが本当であれば、【大切断(アマゾン)】が一番相性最悪です。精々2、3人と仮定します」

 

 先程の戦闘で相手はアスフィさんと同レベルの戦闘能力であることがわかっている。それを踏まえると──

 

「他の者達を含めても数が足りんな」

「それに【ロキ・ファミリア(あなたたち)】は武器がありません。現状、あれらを迎撃するとなるとかなり不利です」

 

『【万能者(ペルセウス)】ってレベルいくつだっけ?』

『Lv.2じゃなかった?』

 

「いえ、Lv.4です」

 

 後ろの話し声にアスフィさんが割り込む。ここで隠していると後で取り返しのつかない事になりかねない、と考えて答えたのだろう。

 

『Lv.4!?』

『でも公式では……』

『馬鹿、隠蔽していたに決まっているだろ。今の流れから察しろ』

 

「もうそろそろいいかな?」

 

 黙ってこちらを見ていたスヴェイル様が作戦を練る時間の終了を告げる。

 

「ルルネ、戦闘が始まったら急いで人と武器を集めて来なさい」

「で、でもよ~」

「あなたではあれらの一人も押さえることができないのです。それよりもその足を使いなさい」

 

 張り詰めた弓のように緊張が高まる。そして──

 

 

 

 パリン、と窓が割られ、部屋の外から何かが投げ込まれた。

 

 

 

 全員の視線がそちらを向く。それは…………トキだった。着ている服はボロボロに切り裂かれ、至るところから出血をしている。

 

「っ!?」

 

 目の前の敵の事を忘れ、彼に駆け寄る。途中、何かとすれ違った。それも4回。

 

「え?」

 

 誰かが声を漏らした。自分だったのか、他の人だったかはわからなかった。なぜなら──

 

 

 

 偽トキ達の内、数人が一斉に吹き飛んだから。

 

 

 

「なっ!?」

 

 スヴェイル様が驚きの声を上げる。振り返ると、4人の冒険者が偽トキ達に襲いかかっていた。

 

 偽トキ達は連携して、冒険者を倒そうと短刀を振るうが、相手取る彼らはそれのさらに上を行く。そしてよく見ると全員が小人族(パルゥム)であった。

 

「【炎金の四戦士(ブリンガル)】……!? 何故!?」

 

 突然の襲撃者にアスフィさんが叫ぶ。

 

炎金の四戦士(ブリンガル)】。【フレイヤ・ファミリア】所属の第一級冒険者。4人で一つの二つ名を持つ、珍しい冒険者達だ。

 

 彼らは次々と偽トキ達を倒していく。それを見たスヴェイル様は懐に手を伸ばすと、何かを床に叩きつけた。

 

 瞬間、大量の煙が部屋を包む。

 

 窓から煙が出ていく頃には既にスヴェイル様達の姿はなかった。【炎金の四戦士(ブリンガル)】はそれを確認すると無言で窓から出ていこうとする。

 

「待ってください!」

 

 その背中をアスフィさんが呼び止めた。彼女が何かを言う前に、彼らは口を開いた。

 

「こいつを連れてきたのはあの方の神意に従ったまでだ」

「だがもう付き合う義理はない」

「確かに届けた」

「我々は奴を追う」

 

 そう言うと彼らは今度こそ出ていった。

 

「……とりあえずトキを部屋に運びましょう。ルドガー、運んでください」

 

 再起動したアスフィさんは次々に指示を出していく。

 

「ルルネ、念のため『開錠薬(ステイタス・シーフ)』を。……あ、あとミスリルの鎖も用意してください」

 

開錠薬(ステイタス・シーフ)』は【ステイタス】を暴くアイテムだ。恐らく彼が本物か確認するために使うのだろう。

 

「いいけど……『開錠薬(ステイタス・シーフ)』はともかくミスリルの鎖なんて何に使うんだ?」

「決まっているでしょう、勝手な行動をした悪い子を縛っておくんですよ」

 

Sideout




北欧神話においてスヴェイルアールヴは黒いエルフ、デックアールヴは闇のエルフを意味します。しかしダンまちのダークエルフがどういった種族かわからないので、リヴェリアに絡めるべく、やむを得ず先生を普通のエルフの容姿にしました。

番外編が流れを断ち切ってしまう、というご意見が複数寄せられたので、それらを纏めて新しい小説を投稿しました。今後番外編はそちらに投稿していきます。またリクエストの方もそちらへお願いします。

ご意見、ご意見よろしくお願いします。

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