冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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13日ぶりの更新。待たせてしまって本当に申し訳ありません。

時間軸としてはトキが【ヘルメス・ファミリア】に投げ込まれた翌日です。


目覚める力

 体が動かない。まどろみの中でまず感じたことはそれだった。

 

 あれ……? 昨日何をしたっけ? 確か……ヘルメス様を探して……。いや、違う。それは一昨日だ。

 徐々に意識がはっきりしてくる。

 

 ヘルメス様を探索している途中でサーバ達と戦って……家が燃えて、その後、下水道に逃げ込んで……。

 

『それを知ったお前の【ファミリア】はどう思うかな?』

 

 眠気が吹き飛んだ。

 カッと目を開いて、飛び起きようとする。しかしジャリッという音と共にそれは阻まれた。

 見てみると、鎖で体を拘束されていた。しかも拘束の上からさらに寝ているベッドごと縛ってある。材質は……色からしてミスリルだな。

 

 続いて周囲を見回し……キョトンとなった。なぜならそこは【ヘルメス・ファミリア】ホームにある俺の自室だったから。

 

「お、起きたか」

 

 声がした方を見るとエルフのセインさんがいた。奥にはメリルさんの姿もあった。

 

「アスフィを呼んでくる。トキを頼むぞ」

「はい」

 

 そんなやり取りの後、セインは部屋を出ていった。

 

「大丈夫? どこか痛いところとかはない?」

「えっと……」

 

 いまいち状況が飲み込めていないが、とりあえず聞かれたことに答えよう。再び体に意識を向けて異常がないか確認する。……よし、問題ない。

 

「痛む箇所はありません」

「よかったぁ。けっこうボロボロだったから心配してたんだ」

 

 笑顔になる彼女に事情を聞いてみる。すると、

 

「それはアスフィから説明があるから」

「そうですか……。じゃあこの拘束を……」

「ダメ」

「えっ」

 

 言い切る前に返答された。

 

「あの……」

「ダメ」

「拘束を……」

「できない」

「……」

 

 いつもはオドオドしているメリルさんが強めの口調で即答してくる。こう言っては失礼だろうが、それに対して少し驚いた。

 

 この様子だと説得は無理そうなので、自力での解除を試みる。だが(がん)()(がら)めにされているため顔しか動かせない。影を使おうにも鎖がどのように絡まっているか分からないため、使用できない。

 

 こんなことをしている場合じゃない。早く()を捕まえなければ……。

 

「メリル、ご苦労さまです」

 

 そうこうしている内にアスフィさんが部屋に入ってきた。

 

「具合はどうですか?」

 

 いつもと同じ声音。だがどこか違和感を感じた。

 

「はい、問題ありません」

「そうですか。ではここで起こったことと現状を話しておきましょう」

「っ。はい」

 

 それから俺は()ことスヴェイルがアスフィさん達に話した内容を聞いた。まさかレフィーヤやアイズさんまで一緒とは思わなかったが。

 

 おそるおそるアスフィさんの顔を見てみる。

 

「ん? 何ですかその顔は? まさか、この話を聞いた私達が貴方を追い出すとでも思っていたのですか?」

「え、えっと……はい」

「……ふう、どうやら説教の内容を増やさなければならないようですね」

 

 恐ろしい呟きに震えつつ、話の続きを促す。

 

「では現在の状況についてです。昨晩の戦闘後、【ロキ・ファミリア】がスヴェイル・デック・アールヴの潜伏をギルドに報告。その後ランクC以上の【ファミリア】にスパイ探索の強制任務(ミッション)が発令されました」

「なっ!?」

 

 アスフィさんの言葉に驚きの声が漏れた。

 

「ま、待ってください、これは──」

「俺の問題、とでも言うつもりですか?」

 

 声に怒りの感情が乗るのがわかった。息を吸い込むと目を見開いて怒鳴った。

 

「何を考えているのですか!? 確かに、昔貴方が所属していた組織でしょう。しかし事は個人が判断して処理する規模を越えています! せめて【ファミリア(わたしたち)】に相談しなさい!」

「で、でもっ」

「でもではありません! 大体何ですか、昔の事を聞かれたら追い出されるかもしれない? この【ファミリア】にまともな過去を持つ人間がどれだけいると思いますか!?」

 

 ……納得しました。

 

 その後アスフィさんは休むことなく説教をし続け、解放されたのは正午をだいぶ過ぎた頃だった。

 

「……ひとまずこの辺りにしておきましょう。私も捜索に戻らないといけないので」

「……え、強制任務(ミッション)を発令されたのはランクC以上の【ファミリア】だって……」

「貴方が関わっているとギルドに伝わり、こちらにも声がかかったのです。ええ、いい迷惑です」

「……すみません」

「これに懲りたら次に何かあった時は真っ先に私達に報告しなさい。……どうやら貴方に【ファミリア】を任せるのはまだまだ早いようですね」

 

 ため息混じりに呟かれた言葉には、どうしようもない弟分に対する呆れが混ざっていた。

 

「あの、アスフィさん」

「何ですか?」

「この拘束は……」

「既にクローンについて説明してあります。貴方のクローンが複数いる以上、混乱を招かないように本物をわかるようにしなければなりません。貴方が本人であるという証明は【開錠薬(ステイタス・シーフ)】によってされています」

「はい」

「後はクローンと混ざらないようにここに留めておく必要があったのです」

 

 一応筋は通っている。

 

「まあぶっちゃけた話、勝手な行動をした罰なのですが」

「やっぱりそうでしたか」

「というわけで、もうしばらくそのままでいなさい」

 

 そう言ってアスフィさんは部屋を出ていこうとする。その後ろ姿を見て……ふと思い付いたことがあった。

 

「……あ、アスフィさん」

「まだ何か?」

「市壁の監視はどうなっていますか?」

「市壁?」

「あれくらいの壁なら登りさえすれば門を使わなくてもオラリオから出ることができます」

 

 実際、この前ベルが偶然とはいえ市壁の上から降りている。不可能ではない。

 

「わかりました。ギルドに伝えておきます」

 

 彼女は今度こそ出ていった。続いてルルネさんが入ってくる。恐らく見張りなのだろう。

 

 逃走は無駄と考え、アスフィさんが話していたことを振り返ってみる。

 

 ()はスヴェイルって名前だったんだな。というか王族(ハイエルフ)だったのか。世も末だな。

『反逆の精霊』。それが俺の根源(ごせんぞさま)。正直ピンと来ないが、影が精霊の力であるならば、魔法種族(マジックユーザー)でない自分が魔法を生まれつき使えたことにも一応説明がつく。他にも、妙に勘がいいのも『精霊』の血が混じっているからかな?

 アスフィさんや話を聞く限りではレフィーヤも過去の事を聞いてそれでも変わらずに接してくれるのはすごく嬉しい。本当に幸せ者だ、俺は。

 

 ……感傷に浸るのはここまでにしよう。今、俺にできることをしよう。

 スヴェイルの性格から潜伏場所を考える。ここ数ヵ月の出来事を思い出し、妙な事を洗い出す。

『ダイダロス通り』……いやあそこは迷路みたいだが、人は多い。それに近所だったから何か異変があれば気づいただろう。

『下水道』……スヴェイルはあれでもエルフだ。本能的にそれは避けるだろう。奴のコンディション次第では人形(クローン)の製造に障害を引き起こしかねない。

 他にも様々な場所が思いつくがどれも決め手に、かける。強制任務(ミッション)が出されたことから、近日中に奴らはオラリオを出ていこうとするだろう。その前に……。

 

『何でも最近3階層のモンスターがとっても少ないらしいの』

 

「っ!!」

 

 まさか、まさかっ!

 

「『ダンジョン』?」

 

 ダンジョンの3階層。あそこなら【ステイタス】が育っていなくても攻略は可能だし、広いから人目につかない。ギルドだって、1日中ダンジョンの出入口を監視しているわけじゃないから潜伏は可能だ。実際、ちょっと前にヘルメス様とヘスティア様が入っているし。

 

 だが3階層だけでも広い。人海戦術で隈無くさがしてもいいが、暗いダンジョンの中ではあちらの方が有利だ。

 それにただルームを拠点にしているだけなら、壁からモンスターが出てきた時に困るだろう。モンスターが産まれない場所、もしくは産まれにくい場所は……。

 

「……そうか『食料庫(パントリー)』だ!」

 

食料庫(パントリー)』は他の場所と比べてモンスターが産まれにくい。あそこなら一応の拠点になるし、モンスターも複数人で対処すればどうにかなる。よくよく考えれば3階層は人型のモンスターも多いから対人戦特化の奴らにはうってつけだ。

 

「ルルネさん!」

 

 俺は今思い付いたことをルルネさんに報告した。

 

 

 

 窓から差す光が橙色に染まり始めた頃、その(ひと)は現れた。

 

「やあトキ。随分と窮屈そうな格好だね」

 

 いつもと違う雰囲気のヘルメス様は、苦笑しながら部屋にある椅子に座る。

 

「帰って来てたんですね」

「オラリオ中がバタバタしているし、その原因は君に関係があるっていうじゃないか。飛んで帰って来たよ」

 

 ま、知ったのはちょっと前のことなんだけどね、とヘルメス様は笑う。

 

「……ベルに何かありましたか?」

「っ!?」

「あ、あったんですか」

 

 鎌をかけたけど本当にかかるとは思っていなかった。

 

「まったくこのオレが一本取られるとはね。さすがは、かの『精霊』の子孫って訳か」

「っ、ヘルメス様それはっ」

「ああ、知っていたさ。神の間では有名な話だからね」

 

 いつものように破顔する主神に何も言えなくなる。

 

「さて、それじゃあ…………【ステイタス】を更新しようか!」

「……え?」

「でもそのままじゃできないな。よし、待ってろすぐに解いてやるから」

 

 鎖をほどこうとするヘルメス様。

 

「アスフィめ、どんだけ頑丈に縛ってあるんだ。えーっと、これがこうなって……」

「あのヘルメス様? 俺が聞くのも何ですが、ほどいてしまっていいんですか?」

「大丈夫大丈夫。更新したらまた縛っておくから!」

「……そうですか」

 

 数分後、拘束から解放された。

 

「さてパッパと済ませちゃおうぜ!」

「……はい」

 

 上着を脱ぎ、背中を晒す。その上をヘルメス様の指がなぞっていく。

 

 

 

 

(もっと寝かせておくつもりだったんだけどなぁ~)

 

 トキの【ステイタス】をいじりながらヘルメスはそんな事を思う。

 

(でもこの子が過去と向き合うって決めたんだ)

 

 指に宿る力をトキの奥へと向ける。

 

(最高の状態で送り出してやるのが、親としての勤めだろ?)

 

 そこにあるのは、『恩恵』を()()()()()()()()()()()()もう1つの魔法。

 

 ヘルメス自身が、あえて【ステイタス】に刻まず、ずっと寝かせていたものだった。

 

(さあこのヘルメスに見せてくれ)

 

 それを満を持してトキに刻む。

 

(君の真の力を!)

 

 

 

 

 やけに長い更新が終わり、新しい【ステイタス】が書かれた羊皮紙を受けとる。

 

「えっ」

 

 思わず声が漏れた。

 

 基本アビリティは変わっていない。だが『魔法』の欄に新たな文字が書かれている。

 

「ヘルメス様、これは……」

「いや~ついに3つ目だね。まさかこんなに早く発現するとは思っていなかったよ~」

 

 問い詰めようと口を開くと白々しく感想を言うヘルメス様。完全に嘘であるが……問いただしても無駄だろうと思って大人しく諦めた。

 

「じゃ、オレはこれで──」

「どこへ行こうというのですか、ヘルメス様?」

 

 部屋を出ていこうとしたヘルメス様の動きが止まった。ゆっくりと首を動かすとそこにはアスフィさんの姿が。

 

「こんな大事な時に、いったい、どこへ行っていたのですか!?」

「い、いやちょっと、ね」

「一昨日歓楽街に行っていたことは既に調査済みです!」

「な、なぜそれを!?」

「言いたいことがたくさんあります! ……が、今回は急を要するので文句は後日にします」

 

 その言葉にほっとするヘルメス様。

 

「トキ」

「は、はいっ」

「これからダンジョンへ王国(ラキア)のスパイを捕縛しに行きます。ついて来なさい」

 

 拘束を脱け出していることを怒られると思っていた俺は言われたことがすぐに理解できなかった。

 

「……返事は?」

「っ、はい!」

 

 どうしてかはわからない。だけど許可は出た。

 

 さあ、過去と決着をつけよう。

 

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神々の間にこんな話がある。神が『反逆の精霊』について語るとその神に災いが降りかかる、と。

 

ズルッ。

 

「えっ」

 

 

 

「ギャアァアアアアアアア!!」




『食料庫』にモンスターが産まれにくい、発現しそうな魔法やスキルを寝かせておくというのはこの小説のオリジナル設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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