冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
「なるほど、あれがロリ神様か……」
ベルを送り届け、自宅へ戻る最中、ふと先日聞いた噂を思い出した。その名も『ロリ神様の祟り』。なんでもとある神が
ちなみに俺がその噂を知ったのは露店のおばちゃんに修理を手伝ってくれるよう、頼まれたからである。これでもヘルメス様に連れられて大工仕事をやらされた経験がある。
トキ・オーティクス
建造Lv.2
日曜大工レベルなら何でも造ることができる。時間をかければ小屋レベルも造れる。
……今、なんか変なことを言われた気がする。まあ、それはさておき。
先程も言ったが俺は現在、東ストリート近辺にある自宅に向かって杖(影から出した)をつきながら移動中である。
体が重いし、正直かなり疲れているのだが、いかんせん今日は店をやるとレフィーヤに言った手前、近くの【ヘルメス・ファミリア】のホームに泊まることなく自宅に向かっている。
店というのは先程、ベルに話した『
と、言ってもそれほど忙しい訳でもなく(ごくまれにものすごく忙しいときもあるが)、冒険者をしている傍ら、他の冒険者やオラリオに住む人々の話を聞いている。まあ、ヘルメス様が旅が趣味なのと一緒のような感覚である。
太陽が顔を出し始めた。俺は疲れる体に鞭を打った。このくらい、人々から聞く話が聞けなくなるのに比べれば安いものである。
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「あれ?」
家が見え始めた頃、見覚えのある人物が自宅前に立っているのが見えた。体にさらに鞭を打ち、その人物に近づく。
「こんな朝早くから何をやっているんですか、親方さん?」
自宅前に立っていたのは【ゴブニュ・ファミリア】の親方さんだった。親方さんは1年前くらいからうちのお得意様で、あることがあるとうちに来るのだ。
「おう、帰ってきたか……って、おい大丈夫か!?」
「ええ、こんななりですが血は止まってますし、ポーション飲めばすぐに治りますよ」
「いやでもよ……まあいい。それよりもお前さんを待っていたんだ」
「また、ですか」
「すまんな、またなんだ」
「とりあえず中へどうぞ」
家の鍵を開け、親方さんと共に中に入った。
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「くっそおおおおおおっ!! 俺達が不眠不休で打ったウルガをあっさり壊しやがってええええええ!! 【
大音量の叫び声に耳を塞ぎながら、あーまたか、と親方さんに同情の目を向ける。そう、この人がうちに来るのは【
しかし彼女はそんなことはお構い無しと言わんばかりにその一級品の武器を壊してくる。しかも今回はティオナさんのために作られた
ひとしきり叫んだ後、親方さんはふーっと息を吐いた。
「すまんな、愚痴っちまって」
「いえ、大丈夫です。それよりも今回はどのよう壊れたんですか?」
「ああ、なんでも溶けた、らしい」
「なるほど、溶けた、ですか。耐熱加工はしていたから考えられるのは……強力な酸とかですかね?」
「ああ、どうやらそのようだ」
「となると……」
別に親方さんはティオナさんのことを愚痴りに来る訳ではない。むしろ、そのティオナさんが次に作る武器を壊さないようにどんな風に工夫すればいいか俺の意見を聞きにくるのだ。まあ、毎回愚痴っているけど。
これでも俺は世界中を旅し、オラリオにはない知識がそこそこある。この店はそういった知識を活かして困っている人にアドバイスするのが主な仕事だ。
隠しスキル
助言Lv.4
世界中を旅した経験と本業ではない違った角度から物事を捉えながら助言することができる。
それから俺達は小一時間、どんな工夫をするか話し合った。
「悪かったな、こんな朝っぱらから。これからまた不眠不休で仕事だからよ」
「いえ、自分もいい勉強になりました」
「武器で困ったことがあったら言えよ。ちっとは融通してやるから」
「はい、お願いします」
そう言って親方さんは帰っていった。
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その後、いつもより遅めの朝食を取り(いつもは5時ごろ)、さらに貯めておいたポーションを5、6本煽り体力を回復させ、服を着替えて仕舞ってあった看板を家の前に出す。
さて、今日はどんな話が聞けるかな。
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「それでね、家の主人がね……」
「はははっ、それは大変ですね……」
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「その時、後ろからモンスターがバーっと来て……」
「ほう、それからそれから?」
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「ふう、昼食にするか」
午前中は世間話が1人と第二級冒険者のグループが一組だった。世間話も最後のオチがかなり面白かったし、冒険者グループはやはり先輩だけあり、かなり勉強になった。
「そう言えばレフィーヤ、遅いな」
【ロキ・ファミリア】のレフィーヤはこの店の常連だ。遠征の話や【ファミリア】の様子など多くを語り、時には様々な悩みを打ち明けてくれる。うちの一番最初の顧客と言ってもいい。そんな彼女だがいつもなら午前9時ごろには来て、夜までうちにいる。しかし今日はまだ来ていなかった。
コンコン。
「ん? 噂をすればってやつかな?」
玄関に向かい、扉を開ける。そこには予想通り、レフィーヤがいた。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
「いや、ここで働いている訳じゃないんだから。けどいつもより遅かったな。何かあったのか?」
「ううん。……………………ちょっと二日酔いがあったけど」
「? なんか言ったか?」
「なんでもないよ! それより、お昼御飯もう食べちゃった?」
「いや、これからだけど」
「じゃあ急いで作っちゃうね」
そう言って家に上がると彼女は真っ直ぐ台所に向かった。看板を休憩中に変え、彼女の後を追う。彼女は冷蔵庫の中から具材を取りだし、調理をしていた。
「毎回言うが別に作らなくてもいいんだぞ?」
「いいの。私が好きでやっているんだから」
お決まりのやり取り。最初の頃は無理やりやめさせようとしたが、意外に頑固で今ではとっくに諦めている。……まあ、俺が作るより何十倍も美味しいんだけどさ。
料理が完成するまでリビングで待つ。次第に漂ってくる美味しそうなにおい。
「はい、できたよー」
「ああ」
せめて料理を運ぼうと台所に向かう。その時……
「きゃあ!」
「レフィーヤ!」
レフィーヤが転びそうになった。慌てて駆け寄りその体を抱き止める。ついでに料理もキャッチする。
「あ、ありがとう」
「まったく、お前はどじっ娘なんだから無理しちゃだめだぞ」
「なっ。ドジじゃないもん!」
顔を赤くしながら怒る彼女を可愛いな……って思いながら料理をリビングのテーブルに運んでいく。
今日も美味しそうである。
「じゃあ、食べるか」
「うん」
二人向き合いながら一緒に食べる。食事の話題はやはりレフィーヤの遠征の話だった。今回は到達階層を更新できなかったらしい。なんでも新種のモンスターが現れて撤退を余儀なくされたらしい。
「そう言えば親方さんが朝来てたよ」
「……本当に申し訳ないです」
彼の愚痴を知っている彼女はとても申し訳なさそうに頭を下げていた。
それから、俺の冒険話になった。レフィーヤの話と比べればあまり盛り上がりにかける、と思ったのだが……
「半月で6階層!? すごい!」
「まあ、いろいろあったけどな」
やはりハイペースの攻略だったのか、かなり驚かれた。その後ミノタウロスと昨日の件について改めて謝罪された。まあ、ミノタウロスは仕方なかったし、昨日の件は本当に勉強になったから大丈夫だと言った。……思うところがまったくなかった訳じゃないけど。
とにかく、楽しい昼食だった。
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その後、午後の仕事が始まった。と言っても午前とやることは変わりなく、強いて言うならレフィーヤが増えたくらいだ。
2、3組の客が訪れ、様々な話を聞いた。
そして、夕方の5時ごろ。ひそかに待っていた客が来た。
「やあ、邪魔するよ」
「いらしゃい、スミスさん」
スミス・アームストロングさん。【ヘファイストス・ファミリア】所属の鍛治師でうちにも頻繁に来る常連客の1人だ。
レフィーヤがお茶を出す。こういう気配りができる女性ってすごくモテるとひそかに思う。ありがとう、とレフィーヤにお礼を言うスミスさんは心なしかいつもよりテンションが高い。
「何かいいことでもあったんですか?」
「そうなんだよ!」
興奮気味に声を張り上げるスミスさん。彼はあまり大きな声を出さない性格だから俺もレフィーヤもとても驚いた。
「実はついにLv.2になれたんだ!」
「おお!」
「ええ!?」
まさかの発言に俺達はさらに驚いた。
彼が【ヘファイストス・ファミリア】に入団したのは4年前。地道に努力していたが、それがようやく実を結んだのだ。
「それはおめでとうございます!」
「ありがとう。これも二人のお陰でだよ」
スミスさんは大抵、どういう武器を作るか、スランプに陥ったり、この武器や防具はどうすれば売れるのかと相談に来ていた。
しかし……
「ちょっと残念です」
「ん? なんでだい?」
「いえ、実はスミスさんに防具を造ってもらおうかと思ってまして……」
そう、俺は彼に防具の製作依頼をしようとしていた。ベルが異様なスピードで成長している。このまま行けば1ヶ月経たないうちに7階層に行けそうだ。あいつとパーティを組んでいる以上、俺も追い付かないといけない。
しかしそれでは今の防具では心もとなくなってくる。そこで知り合いであるスミスさんに防具を製作してもらおうと思っていたが……
「さすがにLv.2になったスミスさんにLv.1の自分の装備を造ってもらう訳には……」
「いや、その依頼受けるよ」
とスミスさんはあっさりと引き受けてくれた。
「いや、でも……」
「むしろ受けさせてくれ。さっきも言ったが君達のお陰で僕はLv.2になれたんだ。その恩を返させてくれ」
そういうスミスさんの顔は既に職人の目になっていた。
「わかりました。お願いします」
「了解した。早速だけど体のサイズを測らせてくれるかい?」
「あ、私メジャーを持って来ます」
それから体のサイズを測られ、防具の見積りを行った。
「そういえば材料は? なんならこっちで用意するけど?」
「いえ、こちらで準備してあります。ちょっと待っててください」
そう言って寝室に入り、影の中から金庫を取り出す。こういう貴重品をしまう時このスキルはとても役に立つ。金庫を開け、中から1つの金属を取り出す。
応接室に向かい、金属をスミスに見せる。
「
「前に知り合いの鍛治師さんに頂きました。防具を作るならまずこれを使おうって決めてましたから」
「そうか……。何か他にリクエストはあるかい?」
「そうですね……我が儘を言ってしまうと切りがないのでとりあえず動きを妨げないものにしてください。あ、色は黒でお願いします」
「また黒? 本当に黒が好きだよね、トキは」
「いいだろ。黒はいわば俺のイメージカラーなんだから」
「ははは、わかった。となるとやっぱりライトアーマーかな?」
「その辺はお任せします」
「わかった。できるだけ早く仕上げてくるよ」
「はい、お願いします」
金属を受け取り、スミスさんは帰っていった。
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「いつもありがとね」
「いいよ。さすがにこんな時間に女の子1人を帰らせるとかしたくないし」
「私、これでもLv.4の冒険者なんだけど」
「レフィーヤは接近戦、苦手だろ?」
夜10時。店を閉め、夕食を食べてレフィーヤをホームまで送る。これも店がある日の日課となっていた。
明かりがまばらな街を二人同じペースで歩いていく。……できれば、この時間がずっと続けばいいのに、と何度願っただろうか。
しかし、それは許されないことだった。レフィーヤは【ロキ・ファミリア】の第二級冒険者。俺は【ヘルメス・ファミリア】の下級冒険者。立場が違い過ぎる。
以前、彼女から【ロキ・ファミリア】に入らないか、と言われたことがある。しかし、俺はそれを断った。やはりヘルメス様に拾われた恩は大きいし、何よりレフィーヤが好きなのとは別に【ヘルメス・ファミリア】の皆が好きだからだ。
そう返事してからレフィーヤは一度も勧誘してこない。しかし、一緒にいる時間が長くなった気がする。
案外、この関係が一番かもしれない。結婚しても彼女はエルフで俺はヒューマンだ。種族や寿命など様々な問題がある。友達以上恋人未満。この関係がずっと続けばいいな……。
「お、着いたな」
「あ……」
【ロキ・ファミリア】のホームに着く。見張りの二人も慣れたものでちゃんとレフィーヤを待っていてくれた。
「じゃあ、またな」
「うん、またね」
そう言って彼女は館に入っていった。
「さて、俺も帰るかな」
来た道のりを引き返す。明日も朝からダンジョンである。
結局、昨日より長かった……。そしてグダグダだった……。
一応、トキの家はリビング、台所、寝室、シャワー室、応接室、庭付となっております。ローンは組んでません。それくらいトキは稼いでました。ぶっちゃけ、今よりも稼いでました。
そしてなにげにオリキャラ初登場。いや、出すつもりはなかったのですが、話の展開的に出さないとキツかったので。ちなみに名前の由来は鍛治師=スミス、ファミリーネームは鋼の錬金術師のアームストロング少佐から。イメージは優男なんですけどね。
ご意見、ご感想お待ちしております。