冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
タグ:レフィーヤ微改造を追加しました。
トキを中心に暴風が生じる。彼の周りにいた冒険者達は反射的に腕で顔をかばった。しかし予想していた衝撃は来ない。
暴風が実際に発生したわけではない。冒険者達が錯覚した原因は、トキから溢れる圧倒的な魔力だ。
それはアイズやベート達、若き冒険者だけでなく、フィンやリヴェリア、ガレスなどの古参冒険者達も目を見張るものだった。
「【永遠の、静寂、を過ごす力、よ】」
その量は
「【、めよ】」
詠唱の中断はできない。それをした瞬間、待っているのは今までにないほどの
「トキを止めよ!」
「彼を守れ!」
両陣の指揮官の指示が飛ぶ。冒険者とモンスター・動物がぶつかった。
ティオネ、ティオナは群がる『キラー・アント』を切り伏せ、指揮官であるマアル目掛けて猛進する。そうはさせまい、と動物達から魔法が飛ぶ。その所為か全く距離が縮まらない。
一方後方では、通路から『キラー・アント』が迫り、それをラウルを中心とした中堅陣が迎撃する。こちらは魔法が飛ばない分、『キラー・アント』の数が多い。
「【我、に眠り、し偉大な、力よ。祖より、受け継、がれし力、よ】」
トキが詠唱する横でリヴェリア、レフィーヤの詠唱が響く。リヴェリアは
だがそれは動物達も同じだった。マアルの横で一匹の鼠が、長文詠唱と思われる魔法を展開している。その詠唱速度はリヴェリア達には及ばないが、『キラー・アント』や動物達が守っており、近づくことができない。
「【
上空では、アイズとベートが飛行動物と『クイーン・キラー・アント』を相手取っている。自由に飛び回る動物達に対し、ベートがメタルブーツに風を纏わせ蹴りを放つ。
『クイーン・キラー・アント』が多量の酸を腹部から吐き出し、アイズが風で身を守る。
「【迫りくる、災厄を、襲いくる、災害を、巻き起こる、崩壊を】」
そしてトキの眼前ではフィンとガレスが無数の動物と1頭の馬と相対していた。
馬の額には1本の角が生えており、その姿はまるで『深層』に出現する
当然、フィンとガレスはその突進を回避することができる。けれどそれをした瞬間、それはトキを貫き、大爆発を起こす。避けられる状況ではなかった。
「判断を誤ったかな……」
「誰も予想出来んじゃろ、あれは」
自嘲を口にするフィンをガレスが慰める。無数の動物の攻撃や魔法を己の武器で弾きながら二人は、いや、ここにいる全ての冒険者が、トキの詠唱が終わるのを待つ。
「【打ち払い、薙ぎ払い、はね除けよ】」
だがトキの顔は晴れない。あまりにも長い詠唱に彼自身が焦りを感じ始める。
冒険者達はそんな彼を責めることはしない。なぜなら、あの膨大な魔力をコントロールするトキに驚嘆しているのだから。
それにこの状況を打開するには彼の魔法に賭けるしかなかった。
その時が来るのを、冒険者達は今か今かと待ちわびていた。
「あーもう鬱陶しいわね!?」
アマゾネスの本性を曝しながらティオネが『キラー・アント』を吹き飛ばす。その穴を塞ぐように別の『キラー・アント』が迫る。
「本当に切りがないよ~!」
ティオナが
「埒があかない!」
焦れてきたティオネが強引にモンスターを弾き飛ばす。その横合いから一匹の犬が飛び出した。ティオネは反射的にその攻撃を避け──
瞬間、突撃した犬が爆発を起こした。
「なっ!?」
驚愕するティオネにさらに猫や兎が突進し、爆発を起こす。
「『
ティオナも目を見張った。突撃、否、特攻する動物達はわざと詠唱を中断し、全身の魔力を暴走させ、爆発を引き起こす。
「ここまで来る冒険者さん達ですからね」
そんな様子をマアルは何かに耐えるように声を抑制させながら、言葉を紡ぐ。
「何としてでも足止めさせてもらいますよ。文字通り命懸けでね」
「ぐっ!?」
「大丈夫っすか!?」
「問題ない!」
団員の呻く声にラウルが反応する。声をかけられた団員は大丈夫だ、と声を張り上げ武器を振る。
(けど不味いのは変わらないっす)
団員達の体力はまだ大丈夫だ。問題なのは武器の方だった。硬い甲殻を持つ『キラー・アント』を倒し続けたことで、武器の劣化速度が予想以上に早いのだ。さらに、この『キラー・アント』は体内に酸を持っていた。今のところその酸での攻撃はないが、切り裂いた瞬間に酸が付着し、劣化を加速させている。
(
そして彼の脳裏にはある可能性が
(だとしたらヤバイっす。このままじゃあっ!?)
「【アルクス・レイ】!」
思考するラウルの横を光線が焼く。光線は『キラー・アント』を殲滅し、通路の奥へと消える。振り向くとそこには、杖をかざすレフィーヤの姿があった。
「次で『結界』を張ります!」
宣言するレフィーヤに中堅陣は頷く。
『高速詠唱』で紡がれる彼女の
上空での戦闘も、互いに譲らない戦況になっていた。鷲の翼がはためくと風刃が巻き起こり、それをベートがメタルブーツで吸収する。お返しとばかりに蹴りを放つが、間合いを見切られ上空に逃げられてしまう。
『クイーン・キラー・アント』と戦っているアイズも、状況を打開する方法を見つけられていなかった。
(推定レベルは6)
近づこうにも大量の酸が邪魔をし、接近できたとしてもその甲殻で攻撃が弾かれる。完全にジリ貧だった。
(こうなったら……!)
チラリとベートの方を向く。
アイズが風をベートのメタルブーツに送る。
「落ちろ!」
飛行動物の隙をつき、ベートの風を纏った蹴りが
「リル・ラファーガ」
神風となったアイズが貫いた。断末魔の悲鳴を上げ、地上に落ちる
「アイズ、上だっ!」
そこへベートの警告。ハッとして見上げるとそこには、もう1体の
「っ!?」
その
(一体どこから!?)
今まで影も形も見えなかった
彼女の《スキル》、『妖術:隠遁』で
「アイズ!?」
ベートがアイズを助けようと地面を蹴る。
『キェェェェ!!』
『カァァァァ!!』
だがそうはさせまいと飛行動物の攻撃が激しさを増す。
「邪魔だ、鳥どもォオ!!」
状況は変わらず、むしろ悪化していた。
「ガレス、本命が来るぞ!」
「わかっとる!」
一角馬が地を蹴り、その突進をガレスが待ち構える。両者の間隔は瞬く間に縮まり、激突する。
『ブルルルッ!!』
「フンッ!」
通常、馬の突進を人間が受け止めることはできない。けれど、Lv.6まで強化されたガレスの【力】なら可能だった。対する一角馬は『恩恵』を受けたとはいえそのレベルは1。種族を考えてもガレスの方が有利だ。
『ブルルルルルルルッ!!』
「ぐううううっ!?」
しかし僅かに一角馬が
「舐めるで、ないわぁあああああ!!」
ガレスが吼える。全身の筋肉が盛り上がり、いっそう力を込める。後退が止まった。
『ブルルル!?』
一角馬が驚きの鳴き声を上げる。ガレスはそのまま一角馬を投げ飛ばそうとした。
だがそれは飛来した火球によって妨害された。火球は腕に当たるとそのまま燃え続ける。
「な、何じゃこれは!?」
ガレスの顔が驚愕に染まる。その炎は熱かった。しかし、ただ熱いのではない。腕の外でなく中が熱いのだ。
通常の炎であればガレスにダメージを与えることはできない。冒険者として長く生きている彼にとってはLv.1程度の魔法、耐えられるものだからだ。
しかし飛来した火球はただの火ではない。司令塔であるマアルが飛ばした『妖術:幻炎』である。これは物を燃やす炎ではない。生物に熱いと錯覚させる炎だ。『耐久』でも、『サラマンダー・ウール』でも防ぐことができないそれは、確かにガレスを怯ませた。
その隙に一角馬が反転し、ガレスから逃れた。
「全員下がれ!」
『チュー!』
一人と一匹の号令が下る。地上で戦っていた冒険者達が後退し、
「【レア・ラーヴァテイン】!」
『【チューチュチュ・チュチュ】!』
両者の魔法が発動する。立ち上る火柱に対抗するのは……出現した
「キャァアアアアアアア!?」
「ィヤアァアアアアアアア!?」
女性団員から悲鳴が上がる。モンスターであればともかく通常の鼠が大量にいれば悲鳴の1つは上がるだろう。
鼠は恐れることなく火柱に飛び込み、その勢いを弱める。
「どういうこと!?」
「恐らくだけど、あの鼠達には相当の火耐性があるんだろう。一匹一匹は弱くてもあの数だ、リヴェリアの魔法の威力がどんどん削がれている」
ティオネの叫びにフィンが推測を述べる。
魔導鼠が唱えた魔法は人間の言葉に直すと【ハーメルン・ピフ】。その効果は、大量の自らの分身を召喚すること。さらに魔導鼠は『火鼠の衣』という耐火のスキルを持っていた。それによりリヴェリアの魔法を抑えているのだ。
だめ押しとばかりに『キラー・アント』の群れが炎に飛び込み、リヴェリアの魔法を完全に防いだ。その跡には大量の魔石が散らばり、すかさず生き残った鼠達がそれを回収し、
『チュ………………チュゥゥー!』
魔導鼠が叫ぶ。そして、
「【ヴィア・シルヘイム】!」
激突する前にレフィーヤの魔法が発動する。それはリヴェリアの『結界魔法』。あらゆる物理、魔法攻撃を弾く結界。
一歩遅く、鼠達が結界に取りつく。一部の団員がほっと息をつく中──
ガジガジと、鼠が結界をかじり始めた。
「…………え?」
レフィーヤが思わず声を漏らした。そうしている間にも、ガジガジガジガジと鼠が少しずつ結界を削る。その速度はあまり早くない。しかし、確実に削られていることが術者の彼女にはわかった。
鼠は一生伸びる前歯を削るため、あらゆるものをかじる。そのため、その前歯はかなり頑丈だ。魔力でできた彼らは、同じく魔力でできた結界をかじることができた。
タラリとレフィーヤの額に汗が流れた。
「【脆弱なる、この身に、宿りし、代行者の、血よ】」
目の前の戦闘を見ながら少年は詠唱を紡ぐ。
「【我に、彼方の力を、振るうことを、許したまえ】っ!」
暴れまわる魔力を制御しながら、その歌を歌い上げる。
「【その名はウンディーネ! 水を司りし神の代行者なり】!」
その魔力が集束する。
「【スピリット・リグレッション】!」
……すいません。書いていて結構強引だということはわかっています。特にリヴェリアと魔導鼠の辺りとかは。でも思いつかなかったんです。本当にすいません。
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