冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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ソード・オラトリア5巻、読みました。いろいろと書きたい衝動にかられましたが、途中で追加すると話がごちゃごちゃになると思ったので書かないことにしました。

タグ:レフィーヤ微改造を追加しました。


動物の猛威

 トキを中心に暴風が生じる。彼の周りにいた冒険者達は反射的に腕で顔をかばった。しかし予想していた衝撃は来ない。

 

 暴風が実際に発生したわけではない。冒険者達が錯覚した原因は、トキから溢れる圧倒的な魔力だ。

 

 それはアイズやベート達、若き冒険者だけでなく、フィンやリヴェリア、ガレスなどの古参冒険者達も目を見張るものだった。

 

「【永遠の、静寂、を過ごす力、よ】」

 

 その量は本人(トキ)ですら想定外のものであった。額に汗を浮かべ、途切れ途切れに詠唱を続ける。

 

「【、めよ】」

 

 詠唱の中断はできない。それをした瞬間、待っているのは今までにないほどの魔力暴発(イグニス・ファトゥス)だ。

 

「トキを止めよ!」

「彼を守れ!」

 

 両陣の指揮官の指示が飛ぶ。冒険者とモンスター・動物がぶつかった。

 

 ティオネ、ティオナは群がる『キラー・アント』を切り伏せ、指揮官であるマアル目掛けて猛進する。そうはさせまい、と動物達から魔法が飛ぶ。その所為か全く距離が縮まらない。

 

 一方後方では、通路から『キラー・アント』が迫り、それをラウルを中心とした中堅陣が迎撃する。こちらは魔法が飛ばない分、『キラー・アント』の数が多い。

 

「【我、に眠り、し偉大な、力よ。祖より、受け継、がれし力、よ】」

 

 トキが詠唱する横でリヴェリア、レフィーヤの詠唱が響く。リヴェリアは広域殲滅魔法(レア・ラーヴァテイン)、レフィーヤは短文詠唱(アルクス・レイ)だ。

 

 だがそれは動物達も同じだった。マアルの横で一匹の鼠が、長文詠唱と思われる魔法を展開している。その詠唱速度はリヴェリア達には及ばないが、『キラー・アント』や動物達が守っており、近づくことができない。

 

「【覚醒(めざ)め、よ】」

 

 上空では、アイズとベートが飛行動物と『クイーン・キラー・アント』を相手取っている。自由に飛び回る動物達に対し、ベートがメタルブーツに風を纏わせ蹴りを放つ。

『クイーン・キラー・アント』が多量の酸を腹部から吐き出し、アイズが風で身を守る。

 

「【迫りくる、災厄を、襲いくる、災害を、巻き起こる、崩壊を】」

 

 そしてトキの眼前ではフィンとガレスが無数の動物と1頭の馬と相対していた。

 馬の額には1本の角が生えており、その姿はまるで『深層』に出現する一角獣(ユニコーン)のようだ。もちろん、肉体能力(ポテンシャル)を比べればこの場にいる馬は一角獣(ユニコーン)には劣っている。だが、この馬は全身に雷を纏う付与魔法(エンチャント)が使えた。(ほとばし)る雷が馬の能力を上昇させ、その『力』と『敏捷』を底上げしていた。

 

 当然、フィンとガレスはその突進を回避することができる。けれどそれをした瞬間、それはトキを貫き、大爆発を起こす。避けられる状況ではなかった。

 

「判断を誤ったかな……」

「誰も予想出来んじゃろ、あれは」

 

 自嘲を口にするフィンをガレスが慰める。無数の動物の攻撃や魔法を己の武器で弾きながら二人は、いや、ここにいる全ての冒険者が、トキの詠唱が終わるのを待つ。

 

「【打ち払い、薙ぎ払い、はね除けよ】」

 

 だがトキの顔は晴れない。あまりにも長い詠唱に彼自身が焦りを感じ始める。

 

 冒険者達はそんな彼を責めることはしない。なぜなら、あの膨大な魔力をコントロールするトキに驚嘆しているのだから。

 それにこの状況を打開するには彼の魔法に賭けるしかなかった。能力(ポテンシャル)では圧倒的に敵を上回っている。だが暴力的なまでの数にいまいち攻めきれていなかった。負けることはないが、勝つのにはあまりに時間がかかる。

 その時が来るのを、冒険者達は今か今かと待ちわびていた。

 

 

 

「あーもう鬱陶しいわね!?」

 

 アマゾネスの本性を曝しながらティオネが『キラー・アント』を吹き飛ばす。その穴を塞ぐように別の『キラー・アント』が迫る。

 

「本当に切りがないよ~!」

 

 ティオナが大双刀(ウルガ)を振り回し『キラー・アント』を一掃する。できた空間に魔法が放たれ、慌てて回避した。

 

「埒があかない!」

 

 焦れてきたティオネが強引にモンスターを弾き飛ばす。その横合いから一匹の犬が飛び出した。ティオネは反射的にその攻撃を避け──

 

 瞬間、突撃した犬が爆発を起こした。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するティオネにさらに猫や兎が突進し、爆発を起こす。

 

「『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』!?」

 

 ティオナも目を見張った。突撃、否、特攻する動物達はわざと詠唱を中断し、全身の魔力を暴走させ、爆発を引き起こす。

 

「ここまで来る冒険者さん達ですからね」

 

 そんな様子をマアルは何かに耐えるように声を抑制させながら、言葉を紡ぐ。

 

「何としてでも足止めさせてもらいますよ。文字通り命懸けでね」

 

 

 

 

「ぐっ!?」

「大丈夫っすか!?」

「問題ない!」

 

 団員の呻く声にラウルが反応する。声をかけられた団員は大丈夫だ、と声を張り上げ武器を振る。

 

(けど不味いのは変わらないっす)

 

 団員達の体力はまだ大丈夫だ。問題なのは武器の方だった。硬い甲殻を持つ『キラー・アント』を倒し続けたことで、武器の劣化速度が予想以上に早いのだ。さらに、この『キラー・アント』は体内に酸を持っていた。今のところその酸での攻撃はないが、切り裂いた瞬間に酸が付着し、劣化を加速させている。

 

(予備(スペア)はまだあるっすけど、それもいつまで持つかわからないっす……)

 

 そして彼の脳裏にはある可能性が(よぎ)っていた。即ち、()()()()女王の存在。

 

(だとしたらヤバイっす。このままじゃあっ!?)

 

「【アルクス・レイ】!」

 

 思考するラウルの横を光線が焼く。光線は『キラー・アント』を殲滅し、通路の奥へと消える。振り向くとそこには、杖をかざすレフィーヤの姿があった。

 

「次で『結界』を張ります!」

 

 宣言するレフィーヤに中堅陣は頷く。

 

『高速詠唱』で紡がれる彼女の(レアマジック)。その応援歌を聞きながらラウルは覚悟を決め、仲間を鼓舞する。

 

 

 

 

 上空での戦闘も、互いに譲らない戦況になっていた。鷲の翼がはためくと風刃が巻き起こり、それをベートがメタルブーツで吸収する。お返しとばかりに蹴りを放つが、間合いを見切られ上空に逃げられてしまう。

『クイーン・キラー・アント』と戦っているアイズも、状況を打開する方法を見つけられていなかった。女王(クイーン)のその甲殻は、産み出される『キラー・アント』と比較にならないほど頑丈だった。

 

(推定レベルは6)

 

 近づこうにも大量の酸が邪魔をし、接近できたとしてもその甲殻で攻撃が弾かれる。完全にジリ貧だった。

 

(こうなったら……!)

 

 チラリとベートの方を向く。狼人(ウェアウルフ)の青年はそれだけで意図を察してくれた。

 アイズが風をベートのメタルブーツに送る。

 

「落ちろ!」

 

 飛行動物の隙をつき、ベートの風を纏った蹴りが女王(クイーン)に炸裂する。その衝撃で女王(クイーン)の甲殻に罅が入った。そこへ──

 

「リル・ラファーガ」

 

 神風となったアイズが貫いた。断末魔の悲鳴を上げ、地上に落ちる女王(クイーン)。その事にアイズは一息つく。

 

「アイズ、上だっ!」

 

 そこへベートの警告。ハッとして見上げるとそこには、もう1体の女王(クイーン)がアイズ目掛け落下してきた。

 

「っ!?」

 

 その(あご)がアイズを捕らえる。咄嗟に風の鎧で防ぐが、予想以上の力に身動きが取れない。完全に捕まった。

 

(一体どこから!?)

 

 今まで影も形も見えなかった女王(クイーン)。その秘密は、指揮を取るマアルにあった。

 彼女の《スキル》、『妖術:隠遁』で女王(クイーン)を隠していたのだ。しかもベートのような獣人に気づかれないように、臭いや音まで対象にする徹底ぶりで。しかしアイズがそんなことを知るよしもない。

 

「アイズ!?」

 

 ベートがアイズを助けようと地面を蹴る。

 

『キェェェェ!!』

『カァァァァ!!』

 

 だがそうはさせまいと飛行動物の攻撃が激しさを増す。

 

「邪魔だ、鳥どもォオ!!」

 

 状況は変わらず、むしろ悪化していた。

 

 

 

「ガレス、本命が来るぞ!」

「わかっとる!」

 

 一角馬が地を蹴り、その突進をガレスが待ち構える。両者の間隔は瞬く間に縮まり、激突する。

 

『ブルルルッ!!』

「フンッ!」

 

 通常、馬の突進を人間が受け止めることはできない。けれど、Lv.6まで強化されたガレスの【力】なら可能だった。対する一角馬は『恩恵』を受けたとはいえそのレベルは1。種族を考えてもガレスの方が有利だ。

 

『ブルルルルルルルッ!!』

「ぐううううっ!?」

 

 しかし僅かに一角馬が(まさ)っていた。一角馬の雷がガレスにダメージを与え、『恩恵』の差を埋めていた。ガレスの体が押され地面を抉る。

 

「舐めるで、ないわぁあああああ!!」

 

 ガレスが吼える。全身の筋肉が盛り上がり、いっそう力を込める。後退が止まった。

 

『ブルルル!?』

 

 一角馬が驚きの鳴き声を上げる。ガレスはそのまま一角馬を投げ飛ばそうとした。

 だがそれは飛来した火球によって妨害された。火球は腕に当たるとそのまま燃え続ける。

 

「な、何じゃこれは!?」

 

 ガレスの顔が驚愕に染まる。その炎は熱かった。しかし、ただ熱いのではない。腕の外でなく中が熱いのだ。

 通常の炎であればガレスにダメージを与えることはできない。冒険者として長く生きている彼にとってはLv.1程度の魔法、耐えられるものだからだ。

 しかし飛来した火球はただの火ではない。司令塔であるマアルが飛ばした『妖術:幻炎』である。これは物を燃やす炎ではない。生物に熱いと錯覚させる炎だ。『耐久』でも、『サラマンダー・ウール』でも防ぐことができないそれは、確かにガレスを怯ませた。

 

 その隙に一角馬が反転し、ガレスから逃れた。

 

 

 

 

 

「全員下がれ!」

『チュー!』

 

 一人と一匹の号令が下る。地上で戦っていた冒険者達が後退し、女王(クイーン)が引いたことでその牙から逃れたアイズと彼女の身を案じたベートが着地する。そして──

 

「【レア・ラーヴァテイン】!」

『【チューチュチュ・チュチュ】!』

 

 両者の魔法が発動する。立ち上る火柱に対抗するのは……出現した魔法円(マジックサークル)から出現した鼠。その数、数億。

 

「キャァアアアアアアア!?」

「ィヤアァアアアアアアア!?」

 

 女性団員から悲鳴が上がる。モンスターであればともかく通常の鼠が大量にいれば悲鳴の1つは上がるだろう。

 

 鼠は恐れることなく火柱に飛び込み、その勢いを弱める。

 

「どういうこと!?」

「恐らくだけど、あの鼠達には相当の火耐性があるんだろう。一匹一匹は弱くてもあの数だ、リヴェリアの魔法の威力がどんどん削がれている」

 

 ティオネの叫びにフィンが推測を述べる。

 

 魔導鼠が唱えた魔法は人間の言葉に直すと【ハーメルン・ピフ】。その効果は、大量の自らの分身を召喚すること。さらに魔導鼠は『火鼠の衣』という耐火のスキルを持っていた。それによりリヴェリアの魔法を抑えているのだ。

 

 だめ押しとばかりに『キラー・アント』の群れが炎に飛び込み、リヴェリアの魔法を完全に防いだ。その跡には大量の魔石が散らばり、すかさず生き残った鼠達がそれを回収し、女王(クイーン)の元へ運ぶ。

 

『チュ………………チュゥゥー!』

 

 魔導鼠が叫ぶ。そして、魔法円(マジックサークル)から千の鼠の分身が飛び出した。全ての魔力を魔法に注ぎ込んだ魔導鼠は精神疲弊(マインドダウン)を起こしパタリと倒れる。現れた分身は真っ直ぐに冒険者達に向かう。冒険者達は──一部、腰が引けていたが──武器を構える。

 

「【ヴィア・シルヘイム】!」

 

 激突する前にレフィーヤの魔法が発動する。それはリヴェリアの『結界魔法』。あらゆる物理、魔法攻撃を弾く結界。

 

 一歩遅く、鼠達が結界に取りつく。一部の団員がほっと息をつく中──

 

 

 

 ガジガジと、鼠が結界をかじり始めた。

 

 

 

「…………え?」

 

 レフィーヤが思わず声を漏らした。そうしている間にも、ガジガジガジガジと鼠が少しずつ結界を削る。その速度はあまり早くない。しかし、確実に削られていることが術者の彼女にはわかった。

 

 鼠は一生伸びる前歯を削るため、あらゆるものをかじる。そのため、その前歯はかなり頑丈だ。魔力でできた彼らは、同じく魔力でできた結界をかじることができた。

 

 タラリとレフィーヤの額に汗が流れた。

 

 

 

 

 

「【脆弱なる、この身に、宿りし、代行者の、血よ】」

 

 目の前の戦闘を見ながら少年は詠唱を紡ぐ。

 

「【我に、彼方の力を、振るうことを、許したまえ】っ!」

 

 暴れまわる魔力を制御しながら、その歌を歌い上げる。

 

「【その名はウンディーネ! 水を司りし神の代行者なり】!」

 

 その魔力が集束する。

 

「【スピリット・リグレッション】!」




……すいません。書いていて結構強引だということはわかっています。特にリヴェリアと魔導鼠の辺りとかは。でも思いつかなかったんです。本当にすいません。

ご意見ご感想お待ちしております。

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