冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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ゲリラでAPが……。キャンドル……。カボチャ……。


二人のパルゥム

 サーバside

 

「何の音だったんだろう?」

 

 漆黒のローブを纏った人影がポツリと呟いた。その呟きに、サーバ・マクールは後ろ……3階層への階段の方へ振り返る。

 

 先程まで、尋常ではない音が下の階層から聞こえていた。様子を見に行こうという者もいたが、危険があるかもしれない、と先生が止めた。

 

「先生、音はもう止みましたっ。様子を見に行ってもいいですか!?」

 

 小柄な人影が先頭を歩く人影─先生─に尋ねる。その様子は危機迫ったものであった。

 

 小柄な人影の名前はソロン・シェバ。今年で20になる獅子人(レオーネ)だ。

 

「ダメですよ。今は一刻も早くオラリオから脱出することが最優先です」

 

 しかし先生は平淡な声音でそれを却下する。ソロンはさらに言葉を続けようとしたが、口ごもってしまった。

 

 現在3階層で冒険者達を足止めしているのはソロンを慕って付いてきていた動物達だ。彼にとっては家族とも言えるだろう。

 

『サーバ、どうかソロンをよろしく頼む』

 

 作戦前に猫又に言われた言葉を思い出す。ソロンとマアルはかなり長い時間を共にしていた、と聞いている。サーバが見ている限りはいつも一緒であった。普通の猫の寿命が平均10歳、長生きしても16歳にも関わらず気力だけで20歳まで生き、彼の『恩恵』で猫又になった彼女の信念は、サーバにとって敬意を表するものだった。

 

 そんな彼女は、先生に命じられ、冒険者達を足止めしている。彼女だけではない。ソロンを慕う動物達全てが、彼を逃がすために先生の提案を受けた。

 

 生存は絶望的だ。相手は上級冒険者である可能性が高い。いくら『クイーン・キラー・アント』がいたとしても、正面から戦えばどちらかが死ぬまで戦い続ける。マアル達はその覚悟で囮を引き受けた。

 

「時間がありません。急ぎ──」

 

 ひゅっと何かが飛来する音がした。サーバは反射的に短刀を抜刀し、切り払う。ザバッと飛来物は消滅した。

 

「サーバ、今のは?」

「水で出来た短刀だったわ。追手が放ったものでしょう」

 

 短刀が飛んで来たのは後ろ、サーバ達が来た方向だ。それが意味するのは…………マアル達の敗北。

 

「そんな……」

 

 ソロンが言葉を失う。だが慰めている時間はない。すぐそこまで追手が来ているのだから。

 

 サーバは自らの槍を構える。それを機に13人の同胞と18体のクローンが武器を構えた。

 

 そして現れた冒険者の中には見覚えのある顔がいた。

 

 Sideout

 

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 強化された視覚が黒いローブを捉えた瞬間、右手が動き短刀を放った。いつもの感覚で放ったそれは影ではなく、水で造られていた。

 

【スピリット・リグレッション】の副作用。この魔法を発動している間は、【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】、ひいては神殺しの能力が使用できない。

 元々あの能力は、俺の根源(ご先祖様)である『精霊』が何らかの理由で堕天し、その際に身につけたものだ。それが『浄化』された、今のこの姿では使うことはできない。

 

『恩恵』を受けた者を相手にするならば、神殺しの力は使えたほうがいいだろう。だけどトキは笑みを浮かべた。

 

 ローブの集団に追い付く。向こうはすでに戦闘体勢に入っていた。

 

「……トキ、何ですかその姿は?」

 

 ローブの集団の後方にいる人影が声を震わせながら問う。それに対しトキは得意気に笑った。

 

「『反逆の精霊』本来の姿さ」

 

 普通であれば敵に自分の情報を教えるのは失策だ。だがこの場合は違った。

 

「……本来の姿? ふざけないでくださいっ、漆黒の力こそ貴方の本質。それを──」

「だが事実、俺はこの姿に変身できた。……もうあんたのところにいた時とは違うんだ!」

 

 体を震わせる人影─スヴェイル─に対しフィンが最後通告を下す。

 

「武器を収めてくれ。出来れば手荒な真似はしたくない」

「拒否しましょう。捕まれば何をされるかわかりませんからね」

 

 交渉は決裂。まあ最初からわかっていたことだが。

 

「サーバ、時間を稼ぎなさい。私はその間に逃げます。クローンも何体かは預けましょう」

「……わかったわ」

 

 ()が身を翻す。その後を数人の人影が付いていった。

 

「トキ、マアルは、皆は!?」

 

 ローブの一人が悲鳴にも似た声を上げる。その声だけで主がわかった。

 

「ちゃんとは確認していないが無事だと思う」

「そっか……」

 

 安堵の声が漏れた。……本当に暗殺者が似合わない奴だよ。

 

「トキ、スヴェイルを追ってくれ。ここは僕達が引き受ける。リヴェリア、君もだ」

「……すまない、フィン」

「ありがとうございます」

 

 サーバ達の脇を抜ける。それを阻止しようとしたのは5人。

 

 足元より魔力を練り上げ、水蛇を形成。その喉元に噛みつかせる。ローブの中を曝すと俺と全く同じ顔をしていた。

 眉を潜めたその喉元を噛み千切らせる。何事もなかったかのように俺とリヴェリアさんはスヴェイルを追いかけた。

 

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「随分とすんなり通してくれたね」

 

 槍を構えながら話かけるフィンに同じ槍を構えるローブが答える。

 

「貴方達全員を止めることは不可能よ。だったら何人かは通して残りを足止めすれば問題はないわ」

「なるほど」

 

 互いににらみ合いながらも自然に会話をする二人。

 

「1つ提案があるのだけど」

「何かな?」

「一騎打ちをしない? 【勇者(ブレイバー)】」

 

 その提案に数瞬、息がつまる。

 

「私が勝ったら私達を見逃す。貴方が勝ったら私達は投降するわ。どう、悪くない提案だと思うのだけど?」

 

 確かに悪くない提案だろう。フィンはLv.6、対する相手はLv.1。トキのような特殊な能力を持っていたとしても到底覆せない差だ。

 

「何が目的だい?」

 

 だからこそフィンはその裏を探る。あまりにも都合が良すぎる申し出。疑わない訳にはいかなかった。

 

「私はね、あの男から解放されたいの」

 

 返って来たのは独白だった。

 

()()を填められ、逃げることはできない。だったら戦って、この束縛から逃れたいのよ」

 

 言っている意味はわからない。だけど長年の経験から、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。

 

「私の言った条件は必ず守らせるわ。()()()()()()()()

 

 フィンが目を見張った。そして、その一言で彼は彼女を信じた。

 

「皆、手を出さないでくれ」

 

「団長!?」

「おい!?」

 

「頼む」

 

 抗議の声を上げる団員に真剣な声音で懇願する。渋々と団員達は下がった。

 

「ありがとう」

 

 フィンは数歩前に出る。

 

「貴方達も手を出さないでね」

「でも、サーバ……!?」

「大丈夫」

 

 問答していた人影が前に出てくる。そしてそのローブを取った。

 

 現れたのは亜麻色の髪を持つ小人族(パルゥム)の女性。槍を持つその姿は、フィンの脳裏に敬愛する女神の姿を過らせた。

 

「図々しいようだけどいいかしら?」

「なんだい?」

「私が負けたらあの子達は丁重に扱って欲しいの」

「……できるだけ尽力するよ。フィアナに誓って」

 

 今度はサーバが目を見開いた。フッと笑い……そして表情を引き締め、槍を構える。

 

「ラキア王国仮所属、サーバ・マクール」

 

 対するフィンも槍を構える。

 

「【ロキ・ファミリア】団長、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ」

 

 一瞬の静寂。そして──

 

「「ッッ!!」」

 

 二人の小人族(パルゥム)がぶつかり合う。




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