冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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長かったオリジナル編も今回で最後です。


スイートピーの花言葉

 ぼんやりする意識の中、辺りを見回す。霞がかかる頭で認識したのは、ここが【ファミリア】のホームにある自分の部屋だったということ。

 何だか同じようなことがあったなー。しかもつい最近。

 

 体に力を入れようとしてみるが、まったくと言っていいほど入らない。別段縛られている訳ではないので、単純に意識がはっきりしていないだけだろう。

 

 この部屋に入って寝た記憶はないので、眠る前の記憶を思い出してみる。確か……誰かとダンジョンに行った。…………で、誰かと戦って…………あ、レフィーヤ。

 レフィーヤが出てくるってことは、誰かっていうのはレフィーヤのこと? いや、だけど他にもいたな……誰だったっけ?

 

 コンコンコン。

 

「トキ、入りますよ?」

 

 どうにも思い出せないでいると、部屋にアスフィさんが入ってきた。珍しいな、彼女が部屋の主に断りもなく入ってくるのは。

 

「おや、ようやく目が覚めましたか」

「アスフィさん、俺は……?」

「その様子ですと意識がはっきりしていないようですね。無理もありません、()()()()()()()()()()()()()

 

 今、ちょっと聞き捨てならないことを言われた。7日?

 詰め寄ろうと上体を起こす。

 

「ちょ、それどういう──」

 

 そしてベッドから落ちた。しかも顔から。しかし痛みはまったくない。

 

「大丈夫ですか!?」

「……別の意味で大丈夫じゃなさそうです」

 

 なんとか起きようとしたが、まったく動けない。仕方ない、とため息を吐いたアスフィさんに肩を貸してもらいそのまま椅子に運ばれた。

 

「とりあえず状況を確認しましょう。どこまで覚えていますか?」

「えっと、レフィーヤとダンジョンに行ったような……それで誰かと戦って……」

「……なるほど、ほとんど覚えていませんか。1つずつ説明する必要がありそうですね」

 

 再びため息を吐いたアスフィさんに、来客用の椅子を取り出す。

 

「まず貴方の状態ですが、『魔法』の反動でしょう」

「『魔法』の……反動……?」

 

 そう言われてもピンとこない。俺が使えるのは【インフィニット・アビス】と【ケリュケイオン】だけだ。でもこれほどの反動なんて──

 

「いや……違う」

 

 もう1つ、新しい『魔法』を覚えた。名前は…………そう、【スピリット・リグレッション】。

 

「どうやら思い出したようですね」

「はい」

「『九魔姫(ナイン・ヘル)』の見解では、『精霊』に変身し、その後元の姿に戻ったことによって、その反動で倒れたのではないか、とのことです」

 

 なるほど。言われてみれば、『神の分身』と呼ばれる種族だ。ノーリスクである筈がない。……あれ?

 

「アスフィさん、それって……」

「ええ、この反動はどんなに強くなろうとも、例え【ランクアップ】したとしても軽減されることはないでしょう」

「なん……だと……!」

 

 そ、そんな……。それじゃあ普段のダンジョン探索で使うことができない……。じゃあずっと変身していればいいじゃないかと思うが、あれは『魔法』なので、変身している間精神力(マインド)を消費し続ける。そのためずっと使用し続けることは不可能だ。

 今までずっと火力に欠けると思っていたところに強力な『魔法』が発現して、それが解消されたと思ったのに……! そして何よりも──

 

「「『ウンディーネ・ドレス』を【ファミリア】で取引できると思ったのに……!!」」

 

『ウンディーネ・ドレス』は水精霊(ウンディーネ)の加護が宿った特殊な装備。その値段は最低でも0が5個。それを自作して他の派閥に売れれば……なんてずっと思っていたのに!!

 

「仕方ありません。この計画はお蔵入りにしましょう」

「……すみません」

「いいのです。利益よりも貴方の体の方が大事ですから」

 

 なお、俺が水没させた3階層は、いつの間にか水が引いていたらしい。恐らくダンジョンの自動修復機能によるものではないか、とのこと。

 この話はそれで終わりのようで、アスフィさんは次の話題に移る。

 

「次に捕縛されたスパイ達についてです」

「っ!?」

 

 そうだ……。思い……出した……! 俺は、王国(ラキア)のスパイとして潜り込んでいたかつての同胞と戦ったんだ。そして……あいつと、スヴェイルと決着を着けたんだ。

 

「まずサーバと名乗る小人族(パルゥム)が司法取引を申し出ました。これにより、彼女達が王国(ラキア)側に流した情報、さらに王国(ラキア)の細かい編成の情報を入手。それを元に現在戦争が行われています」

「そう、ですか……」

 

 流した情報がわかれば、王国(ラキア)が何を狙って攻めてくるか、大まかにだが検討がつく。というか失礼だが脳筋神(アレス)であればそれを鵜呑みにして正直に突っ込んで来そうだ。

 

「というか司法取引なんて制度、オラリオにあったんですね」

「利用される機会がないですがね。『学区』に通ったことのある者でも数名しか知らないようです」

 

 司法取引とは、簡単に言えば何らかの罪を犯した者が、仲間を売る(この場合は情報)ことで罪を軽くする取引のことだ。

 

「それで、対価は?」

「戦争終結後に他の子達を『学区』あるいは【ファミリア】に入れる権利、だそうです」

 

 オラリオが勝った場合、通常であればサーバ達は『恩恵』を『封印』される。そうなるとサーバ達は昔に逆戻りだ。ならば『学区』なり、【ファミリア】なりに入って保護してもらおうということだろう。

 

「でもそれって承認されたんですか?」

「……ヘルメス様がうっかり貴方の昔を話したことにより大盛況ですよ」

「……」

 

 ……これは俺の名誉のために言っておこう。本当に何も知らなかったんだ!

 というのも、スヴェイル(正確にはそう吹き込んだレゴス)は俺達を従順な駒にするために、暗殺や戦闘に関することしか教育しなかった。つまり、それ以外は何も、常識すらも教わっていない。だから初めてお使いを頼まれた時に店の主人に襲いかかったのもお金の使い方を知らなかったのも全部スヴェイルの所為なんだ!!

 

「神々いわく『むちしちゅ』キタアァアアアアアア!? とか言ってそのまま争奪戦が勃発。神々の護衛をしていた冒険者達が抑えこみました」

 

 恐らくアスフィさんはそのうちの一人だったのだろう。隠しきれない疲労が顔に浮かんでいる。

 

「それで結局どうなったんですか?」

「貴方に一任されました」

「……………………は?」

「どの人物がどの【ファミリア】に所属するのか選定するのを、貴方がすることになりました」

「……………………はあ!?」

 

 なにその大役!? ちょっといくらなんでも責任重大過ぎるだろ!?

 

「どうしてそうなったんですか!?」

「『彼はいろいろな【ファミリア】に繋がりを持っているから適任じゃない?』とヘルメス様が提案し、『【シャドー・デビル】ならいっか』と神々も納得。『トキなら任せられるわ』とマクール氏も承諾しました」

「信頼が重い!?」

 

 この場合の【ファミリア】に入る、は正確には【アレス・ファミリア】から他の【ファミリア】に『改宗(コンバージョン)』する、となる。そして1度『改宗(コンバージョン)』すると、再び行うのに1年間置かなければならない。つまり適当に決めてしまうとそいつの人生を台無しにしてしまう可能性もある、ということだ。

 

「これは貴方の人脈と腕の見せ所です。期待していますよ」

「しないでください!?」

 

 ちょっと楽しんでますよね!?

 

「というかレゴス達エルフ組はちょっと……」

「そちらは心配ありません。彼らは既に【フレイヤ・ファミリア】への入団が決まっています」

「……え?」

 

【フレイヤ・ファミリア】に? いったい何故?

 

「何でも『猛者(おうじゃ)』がやり過ぎたとかで精神面に大きな(トラウマ)を与えたらしく、その責任をとるとか」

 

 ……なんでだろう。何か納得した。同時にちょっとだけ嫉妬した。

 

「それから主犯のスヴェイル・デック・アールヴですが──」

 

 -----------------------

 

 アスフィさんの話を聞き終え外に出ると、既に日は西に傾いていた。久しぶりに太陽にあったからか眩しくて目を細める。

 

 未だ完全に動ける訳ではないが、杖をついて移動できるくらいには回復した。アスフィさんや、ホームですれ違ったネリーさんに、同伴しようかと尋ねられたが、首を横に振った。

 反動の影響が残る体を、ゆっくりとほぐすように動かし歩いていく。

 

 やることは多い。ギルドへ司法取引の条件の受諾。店の顧客への挨拶回り。【ロキ・ファミリア】や今回の件に関わった人達への謝罪とお礼参り。各【ファミリア】への視察などなど。

 

 店は散々悩んだが継続することにした。冒険者となり、3日に1回という頻度を守れなくなってきたが、様々な出来事が起こる今日(こんにち)、独自の情報網は必要だと思ったから。それに俺に話をしに来てくれる人達もいると信じているから。

 

 でも……だけど、まず最初にやっておきたいことがあった。どうしても、これだけは後回しにしたくなかった。忙しくなる前に、自由に一人で歩ける時に。

 

 目的地に向かう途中で花屋を見つけた。折角なので入って店員にある注文をしてみる。店員は怪訝そうな顔をしたが、俺のリクエストに応えてくれた。

 

 手に花束を持って向かったのは都市外に存在する『第3墓地』。戦争中ではあるがさすがにここでは戦闘は行われていなかった。小高い丘に存在するそこにはたくさんの『墓』があった。

 ここはオラリオの南東区画にある『第1墓地』に入りきらなくなった者達を埋葬する場所。……と言っても大半は冒険者の墓であり、その下に死体が埋まっていることは少ない。

 

「てことは五体満足で埋まっているあんたは幸せなのか?」

 

 目の前の墓に冗談っぽく話しかけてみる。

 その墓には既に花束が1つ、供えられていた。こんなやつに花束を送るなんて、あの人はやっぱり律儀だと思う。

 

「ま、それは俺も同じか?」

 

 目の前の墓石に刻まれた名は『スヴェイル・デック・アールヴ』。そう、スヴェイルは、死んだ。

 

 2階層で氷付けになったスヴェイルは救出された後、ギルドの牢に入れられ、レゴス達が失敗したと知るとそのまま舌を噛み千切って自殺したらしい。神に裁かれるくらいなら自決する、とか言っていたと。

 どこまで神達が嫌いなのか、と逆に呆れた。

 

 本当はもっとやりたいこと、言いたいことがいろいろあった。レフィーヤに手を出そうとしたから言った通り、全部の爪を剥がしてー、とか、あんたと違って俺は今とても幸せだぞー、とか。

 

「けど、死んだら何にもできねぇじゃねーか」

 

 ……死んだ者の魂は『天界』にいる神によって浄化され、次の器に転生する。そんな話をヘルメス様から聞いたことがある。

 だからこれはただの自己満足。俺の、俺だけのけじめ。

 

「あんたはどうしようもないクズだったと思ってる。あんたの所為で俺はいっぱい人を殺したし、その罪を背負って生きていかなきゃならない。だからこの重荷を背負わせたあんたのことは憎い。自殺してなかったら俺が殺したいとも思ってる」

 

 だけど──

 

「今の俺があるのも、あんたのお蔭なんだよな」

 

 風が吹く。その風が言葉を消してくれることを願って。この言葉を遠くへ飛ばしてくれる事を祈って。

 

「『─────、──』」

 

 手に持つ花束を供える。彩るのはピンクっぽい色の花。その名はスイートピー。

 

 

 花言葉は、『別離』。




マンガ『ソード・オラトリア』で24階層へ向かった【ヘルメス・ファミリア】のメンバーの名前がわかったので、修正しました。

さてこれからなのですが、しばらく本編はお休みしようと思います。というのも自分でリクエストを募集しておきながらまったく応えていない、という状況を改善するべく、そちらを消化していこうと思います。……長編も途中ですし。
なお、リクエストの順番が前後したりするかもしれませんがご了承ください。

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