問題児たちと裁き司が異世界からくるそうですよ 作:ルドルフロートリゲン
―――――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房。
そこでウサ耳の少女と体躯に合わないダボダボの服を着た少年が緊張した面持ちで話をし
ていた。少年のほうがウサ耳の少女に尋ねる。
「………うまく呼び出せた?黒ウサギ」
「みたいですねえ、ジン坊ちゃん」
黒ウサギと呼ばれた少女はその後表情をころころ変えながら演説を始める。全く忙しいこ
とこの上ない。見ているこちらが疲れてきそうだ。
最後に少年が黒ウサギに尋ねる。
「彼らの来訪は………ぼくらのコミュニティを救ってくれるだろうか」
「………。さあ?けど〝主催者〟曰く、これだけは保証してくれました」
クルリとスカートをなびかせて振り返る。
おどけるように悪戯っぽく笑った黒ウサギは、
「彼ら四人は………人類最高クラスのギフト保持者だ、と」
*
四人と一匹が上空4000mから落下するなか、ヨナタン1人だけが落ち着いていた。えびらから杖を取りだし強く念じる。
次の瞬間彼らは湖の上スレスレで宙に浮いていた。比喩にあらず。訂正はない。
四人と一匹はそのまま横に平行移動し、湖の岸に無事着地した。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙げ句、空に放り出すなんて!しかも最悪の場合湖にドボンよ!さっきの様子からすると助けてくれたのはあなたよね?本当にありがとう。危ないところを助けていただいて」
「こっちからも礼をいうぜ。ゲーム開始前にゲームオーバーなんてのはシャレになんねえからな。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「「石の中に呼び出されてはさすがにうごけないでしょう」」
「いいや俺は全然OKだが?」
「そう、身勝手ね」
二人の男女はフンと顔をそむける。
「まあまあ、心強いじゃないですか」
そのやり取りの隣でもう一人のショートヘアーの少女が不思議そうに声をあげた。
「ここ、何処だろう?」
「さあな。まあ世界の果てっぽいものが見えたしどこぞの大亀の背中じゃねえか」
「………天動説って何年前の話ですか?」
呆れたように問い返すヨナタンも、なんとなく彼の言うとおりな気がしてしまう。
気を取り直してヨナタンは全員に尋ねる。
「まず間違いないと思いますがあなたたちにもあのへんな手紙が?」
「ええそうよ。わたしは久遠飛鳥。あなたは?」
「ぼくの名前はヨ………ジョナサン=ジェイボック。で、そこの猫を抱き抱えた君は?」
「春日部耀、以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。最後にそこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」
飛鳥が引き継ぎ金髪の少年に尋ねる。
「ハイ。見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻十六夜です。粗野で凶暴で快楽主義と三拍子
そろったダメ人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれ」
「自分でダメ人間って………」
「取扱説明書をくれたら考えといてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
心からケラケラと笑う逆廻十六夜
傲慢そうに顔をそむける久遠飛鳥
呆れたように天を仰ぎみるジョナサン=ジェイボック
我関せず無関心を装う春日部耀
そんな四人を遠くから見つめていた黒ウサギは思う。
(うわあ、問題児っぽい方々ばっかり……でもないですね)
注意するべきはあの3人だけだろう。そうたかをくくって黒ウサギは場に目を戻した。
*
ああ、と思い立ったようにジョナサンがつぶやく。
「そういえば、説明役は出てこないのかな」
ん?と首をかしげる飛鳥と耀。
「ああ。こういう場合はふつう箱庭って場所を説明する奴がでてくるはずだ。というか出てきてしかるべきだ」
いらいらとした様子で返す十六夜。
「確かにそうね」
「まあこの状況で落ち継ぎすぎているのもどうかと思うけど」
藪の中の黒ウサギも心の中で突っ込む。
(本当に全くなのです。でもこれ以上待つ意味もないしそろそろ―――――)
「それじゃあそこに隠れている奴にでも話を聞くか」
黒ウサギは心臓をつかまれたように飛び跳ねた
「あら、あなたも気づいていたの?」
「当然だ、かくれんぼじゃ負けなしだぜ。お前ら二人も気づいてたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「一応ここに着いたときに周辺の様子はざっと探ってたからね」
「へえ、おもしろいなお前ら」
そして四人は黒ウサギを冷やかな視線で見つめる。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
ヨナタンだけが無言である。
「あっは、取り付くシマもないですね♪」
万歳をし、降参のポーズをとる黒ウサギだったがその眼だけは四人を値踏みするように鋭く光っていた。
そんな黒ウサギに耀が近づき、不思議そうに眺めた後、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、
「えい」
「フギャ!」
力いっぱい引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るだけなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心のなせる技」
「自由にもほどがあります!」
「へえ、このウサ耳って本物なのか?」
今度は十六夜が右からつかんで引っ張る。
「………。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待―――――!」
今度は飛鳥が左から。ジョナサンが苦笑いをしながら見つめる中、左右から力一杯に引っ張られた黒ウサギの絶叫が近隣にこだまする。
ようやく解放された黒ウサギが疲れ切った様子でつぶやき始める。
「―――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス、て言うかあなたも笑ってみてないで助けてください!」
「いいからさっさと進めろ」
何とか話を聞いてもらうことに成功した黒ウサギは箱庭の説明をし始めた。
*
「ここからは我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが………よろしいデス?」
大かたの説明を終えたところで黒ウサギが話をまとめようとすると
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
成長していた十六夜が威圧的な声をあげて立つ。ずっと刻まれていた軽薄な笑顔がなくなっ
ていることに気付いた黒ウサギは構えるように聞き返した。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなことはどうでもいい。はあの底からどうでもいぜ、黒ウサギ。ここでお前に向かって
ルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとす
るのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一
つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は面白いか?」
「――――――――」
ほかの二人も無言で返事を待つ。本来は違う目的で来たはずのジョンさんも息を殺して返事
を待った。
かれらを読んだ手紙にはこう書かれていた。
『家族を、友人を、財産を、世界のすべてを捨てて箱庭に来い』と。
それに値するほどの世界なのかどうかこそ、四人にとって一番重要なことだった。
「―――――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
感想まってます。