【完結】桜吹雪の季節に   作:瑞穂国

1 / 7
先日(一ヶ月前)、吹雪とケッコンいたしました。

完全に妄想垂れ流し状態で行きますので、なにとぞよろしくお願いします。

なお、本作に登場する提督は、作者の鎮守府をモデルとした別人設定であります。俺には女子オンリーのハーレム生活なんて無理じゃ・・・。

吹雪ちゃんみたいな妹か、せめて幼馴染が欲しかったです。


航跡Ⅰ

「んっ・・・ふうんっ・・・ふああ」

 

春に染まり始めた朝陽が、埠頭を静かに照らしています。

 

吹き抜ける風。海鳥の鳴き声。打ち寄せる白波の音。

 

大きく伸びをしたわたしは、胸いっぱいに涼しい空気を吸い込みます。体の隅々まで、朝が染み渡っていきました。

 

気持ちいい・・・。

 

微かに感じられる風が、セーラー服ごしにわたしの体を撫でます。一通り朝を堪能したわたしは、額に手をかざして、水平線を見つめました。

 

まだ低い太陽が、揺らめくさざ波を澄んだ青色に輝かせています。蒼い静寂と生命の躍動が、朝陽の下まで満ち満ちていました。この時間、この景色が、わたしのお気に入りです。

 

「吹雪ちゃーん、ごはーん」

 

後ろの鎮守府から、わたしの名前を呼ぶ声がします。

 

「はーい」

 

振り向いて答えます。

 

もう、そんな時間。今朝のご飯は何かなあ。

 

そんなことを考えながら、わたしはもう一度海を見つめました。

 

この一年、毎日のように見てきた海です。

 

翔けていく風も。舞い飛ぶ鳥たちも。白浜に打ち上げる、柔らかな波も。

 

いつもと同じ、何も変わらない蒼の群れたち。なのに不思議と、昨日までとはまた違った風景のように見えました。

 

まるで、わたしたちの未来を祝福しているように、きらめく波間の輝きが、母港をおおらかに包み込んでいきます。

 

―――ううん、ちょっと。ほんの少し、自惚れてもいいかな。そう見えるのはきっと、わたしのこの気持ちのせいだから。

 

その輝きは、わたしの幸福と、司令官との未来を寿いでくれているようでした。

 

わたしは埠頭からはなれ、鎮守府へと歩き始めます。ふっと、一際大きな風が、潮の香りと共に駆け抜けていきました。はためく髪を押さえて、今来た道を振り返ります。

 

いってらっしゃい。

 

そんな声が聞こえたのは、気のせいでしょうか。

 

「吹雪ちゃん早くー。提督が、ものすっごいニヤニヤして待ってるっぽいー」

 

それは見たいような、見たくないような・・・。

 

もう一度、風が吹いていきました。丁度わたしの背中を押し出すように。

 

わたしは海を背にして走り出します。セーラー服がひらめき、心地のよい鎮守府の朝が、頬を撫でました。目指す食堂には、大切な仲間たちと、大好きな司令官が待っています。

 

ここから、鎮守府の一日が始まります。

 

 

 

「あ、なんか提督が突然悶えだしたっぽい」

 

・・・えっ?

 

「机に頭を打ち付けて、プルプル震えてるっぽい?」

 

・・・。

 

今行くと、もれなく質問地獄が待っている気がするんですが・・・気のせいですか?

 

一、

 

純和食の朝食を取り終えたわたしは、いつも通りに、司令官の控える執務室へと足を運びました。秘書艦として、司令官の日常業務を手伝うためです。

 

曲がりなりにも、軍隊ですからね。提出するべき書類、申請書、目を通さなければならない資料や命令書、それらが毎日のように、司令部から送られてきます。そうした書類を午前中のうちに片付けて、午後からは演習や工廠の見学に費やすのが、司令官のスタイルでした。

 

そうした一連の執務を、そば近くで補佐するのが、秘書艦の役割です。

 

つまり、秘書艦になると、一日の半分以上を司令官と一緒に過ごせるんです!!

 

―――なんて、そんなに甘いはずもなく。

 

秘書艦にも、多くの仕事が待っています。司令官の前に積まれる書類よりは少ないですが、それでも結構な量です。特に、演習の申請や装備開発の具申、完成した装備品の管理とリスト作成については、秘書艦に任されている部分が大きいので、責任重大です。比叡さんではありませんが、本日も気合い!入れて!頑張らなくては。

 

「吹雪です。失礼します」

 

辿り着いた執務室のドアを、軽く叩きます。返事は待つ必要がないのですが、今日はなんとなく、待ってみたい気分でした。

 

「おーう」

 

しばらくして、食堂で「今世紀最大の責め苦を味わった」という人物の声が返ってきました。

 

簡素なつくりのドアを開いて、室内へと入ります。そこにはもちろん、声の主である司令官が待っていました。

 

なぜか、こたつに入っていますが。

 

「お疲れ様です、司令官。一つ質問してもいいですか?」

 

「お?なんだ?」

 

司令官は、畳の上に置かれたこたつに足を突っ込んで、執務をこなしています。この状況に、特に疑問を感じていないようでした。

 

「なんで、こたつが出てるんですか?」

 

昨日まではありませんでしたよね。

 

わたしの質問に対して、司令官はきょとんとした顔で答えました。

 

「妖精さんに模様替えしてもらったからだけど?」

 

まあ、そう。そうですね、その通りなんですけれども。

 

「もう四月ですよ?」

 

「まあ、そう堅いこと言わずに。吹雪も入りなよ」

 

わたしの疑問など意にも介さず、司令官は天板の向かい側を軽く叩いて、着席を促してきました。

 

もう、仕方がないですね。

 

抵抗するだけ無駄ですし、仕事はちゃんとやってるみたいなので、よしとしますか。小さく溜息をついたわたしは、誘われるままに腰を下ろして、ほのかな熱を発するふとんの中へ、足を差し入れました。

 

執務室のこたつは、司令官のリクエストで掘りごたつになっています。去年の十一月辺りに、いつの間にやら執務室に穴が掘られていたようですが、まあそこは、矢や式神を艦載機に変えてしまう妖精さんの技術を持ってすれば容易なのかもしれません。

 

足元の熱源から、じんわりと暖かさが伝わってきます。上からではなく、下から暖められるので、冷えた足に確かな温もりが感じられました。これは、霜焼けに気をつけないと。

 

「暖かくて、気持ちいいです」

 

「だろ?この時期でも、朝晩は冷えるからなあ」

 

たまにこいつが恋しくなる。そう言って司令官は、こたつの横に置かれた電気ポットのスイッチを入れました。

 

「お茶でいいか?」

 

「あ、わたしが淹れますよ」

 

「いいって、いいって。たまには秘書艦を労わせろ」

 

司令官はわたしを押しとどめて、急須に茶葉を取り、湯飲みを二つ用意して天板に乗せました。しばらくして、電気ポットがお湯を沸かす音が鳴り始めました。後二、三分もすれば、自動でポットのスイッチが落ちるはずです。

 

「司令官、完全にこたつに籠もるつもりなんですね」

 

こたつ周りにコンパクトにまとめられた、お茶やコーヒーを飲むための道具一式とお茶請けを見て、なかば悟り気味に指摘しました。みかんがあったら完璧ですよ、どこから見ても正月ボケの家庭です。

 

「まあこれを片付けるなら、やっぱりこたつが一番だからな」

 

こたつに籠もってやる執務ってなんですか。ツッコミを入れようと、司令官が手を添えている書類へ目をやりました。

 

・・・ん?

 

おかしいですね、あれって・・・。

 

「司令官、これ、写真・・・ですよね?」

 

「そうだけど?」

 

やっぱりですか。じゃあ、こっちの資料っぽく積まれている分厚い本は・・・。

 

「こっちは・・・アルバム?」

 

「その通りだ」

 

それがどうした、みたいな顔しないでください。

 

「大分撮り溜めてたからな。いい加減整理しないとって・・・いい機会だしな」

 

「いやいや、仕事してくださいよ!?」

 

天板に手をついて、身を乗り出して訴えかけたわたしですが、司令官はやはり、きょとんとした顔で間近からわたしを見つめています。やがてわざとらしく、一度手を打って、話し始めました。

 

「そういえば、まだ言ってなかったな。今日から司令部のお偉方が、慰安で温泉旅行に行ってて、数日間はうちも実質的に休暇なんだよ。よって執務もなし」

 

なんですかそれ!?

 

はあ・・・なるほど、道理でみんな食堂に来るのが遅かったわけですね。

 

というか、仮にも戦争中に温泉旅行って・・・。司令官が司令官なら、上司も上司なんですね。溜息が出そうですよ。

 

「もう、そういうことは早めに教えてくださいよね」

 

「ん、すまなかったな。そういうわけで、折角の休日だし、ゆっくりしてくれ」

 

・・・もしかして。もしかして、ですけど。

 

休日を知らせなければ、わたしが執務室へ出向するから。折角の休日を、二人でのんびりと過ごしたかったから。わざと何も言わなかった―――なんてことはないですよね。それはさすがに自惚れすぎでしょうか。

 

コポコポと音を立てて、ポットのお湯が沸き立ちました。とても優しい音。春の日差しと相まって、執務室に安らかな一時をもたらします。

 

「アルバム、見てもいいですか?」

 

「おう、いいぞ」

 

司令官はお茶を淹れながら答えます。白い湯気が立ち上りました。

 

「そっちの三冊は整理が終わったやつだ。四、五、六月分のはずだ」

 

「えっ、これ一冊で一か月分なんですか?」

 

「うむ、我ながら撮り過ぎてしまった」

 

少し自慢げな司令官ですが、きっとこの中には相当な数の写真が入っているはずです。

 

そ、それだけわたしたちへの愛が詰まってるってことですよね?

 

暖色系で統一された、小さな花柄の表紙を、おそるおそるめくります。

 

『珍守府騒動記』と書かれた最初のページ、そこにはわずかにブレた一枚の写真が貼ってありました。

 

わたしは、小さく目を見開きました。

 

「この写真・・・」

 

「どうした?」

 

お茶を出してくれた司令官が、向かいからこちらの手元を覗き込みました。

 

「おー、その写真か。懐かしいな」

 

「そう、ですね」

 

その写真に、そっと手をかざします。ふいに、今まで感じたことのない、懐かしく愛おしい感情が、わたしの中に広がっていきました。

 

写真は、この鎮守府が開設された日、わたしが司令官と出会った日に撮られたものでした。

 

わたしを真ん中に、大淀さんと明石さん。後ろに立つ司令官は、帽子に手を添えてどこか緊張した面持ちです。鎮守府の正面、赤レンガで固められた背景に、それぞれの真新しい制服が際立っていました。

 

可笑しさがこみ上げてきました。

 

「なんだ、突然笑って」

 

「いえ、司令官ガッチガチだなあ、と」

 

今の司令官からは考えられない姿です。確かに執務は効率よく淡々とこなしていますが、普段はまあ、こんな感じですので。

 

「あ、それを吹雪が言うのか」

 

言われた司令官は、わずかに不満げです。

 

「初出撃でガッチガチになって、俺に泣きついてきたのはどこの誰だったかなあ」

 

「それは言わないでください!」

 

思い出したくない思い出をつつかれたわたしは、こたつの中でむこうずねを連撃します。

 

「痛っ、ちょっ!痛い、痛い!」

 

みっともなく涙を浮かべる司令官を見て、どうしようもなく笑みがこぼれてきました。

 

 

開設されたばかりの鎮守府は、当然所属する艦娘も少なく、初の大型艦娘となった赤城さんが着任されるまで、重巡の青葉さん、軽巡の神通さんを中心とした水雷戦隊で深海棲艦と戦っていました。ですが、わたしの姉妹艦で構成された第十一駆逐隊のメンバーだけは全員揃っていたというのは、非常に幸運なことなのかもしれません。

 

当時の秘書艦をわたしが務めていたのには、いくつか理由があります。

 

ひとつに、艦隊がまだまだ練成途中だったこと。神通さんは連日のように駆逐隊の練成に当たっていましたし、それは青葉さんにしても同じです。しばらくして配属された赤城さんも、初の正規空母ということで、航空隊運用の試行錯誤中でした。そこで、ある程度練成の完了していたわたしが、秘書艦を務めることになったんです。

 

ふたつめに、当面の目標に近海防衛―――具体的には対潜哨戒任務が上がっていたこと。そしてそのために、対潜装備が必要だったことです。装備は開発で入手しますが、なぜか秘書艦の艦種によって開発できるものに偏りがありました。

 

そしてみっつめ、司令官が艦娘との距離感を掴みかねていたこと。わたしや大淀さん、明石さんには大分慣れてきたみたいでしたが、着任したばかりの子にはどう接したらいいのか、わからない様子でした。

 

そんなこんなで、その日もわたしが秘書艦を担当していました。といっても、午後は演習に参加予定でしたので、午前だけでしたが。

 

執務が一段落したところで、わたしは部屋の掃除を、司令官はダンボールに押し込められていた私物の整理を始めました。

 

箒を片手に、隅のほこりやごみをかき集めていると、背後で司令官が振り返るのがわかりました。

 

「白、か・・・」

 

「・・・え?」

 

白。なんのことでしょうか。司令官はあごに手を当てて、わたしの方を見ています。

 

「なにかありましたか?」

 

「白い下着っていいよな、清楚な感じで」

 

突発的にわたしは、自分のスカートを押さえました。顔の熱さが、後から遅れてやって来ます。

 

「みみみ、見たんですか!?」

 

「違う。見たんじゃない、見えたんだ」

 

何が違うんですか!そんなツッコミと一緒に、

 

―――あ、この間合いなら。

 

わたしはそう思い、ハッハッと笑う司令官に駆け寄りました。

 

「もう!司令官のバカバカバカ!」

 

言いながらわたしは、軽く握ったこぶしで司令官の胸を叩きます。今と違って火力も雷装も低いわたしの連撃では、特にダメージもありません。

 

「はは、そんなんじゃ効かんぞ?」

 

ノッてきた司令官に、わかりやすくプクーっと頬を膨らませたわたしは、

 

「そんな司令官には・・・こうです!」

 

必殺のくすぐり攻撃をお見舞いしました。

 

「やっちょ・・・ははっ、くすぐったいって!―――そっちがそのつもりなら!」

 

「あっ、あっ、そんなあ、だめですうっ!」

 

司令官も反撃を開始しました。たちまち執務室で、ドタバタコメディーが始まります。

 

「っ!」

 

と、逃げ回るうちに足を絡ませたわたしは、大きく後ろにつんのめりました。もはやお約束、一種の様式美ですよね、これ。

 

「きゃっ・・・!!」

 

「吹雪っ!!」

 

わたしの悲鳴と、呼びかける司令官の声。目をつむった次の瞬間、床へと倒れこむのがわかりました。

 

でも、衝撃はそれほど大きくなくて。

 

目を開けると、目の前には司令官の顔が。わたしの頭の下に手を入れて抱きかかえる形で、司令官は覆いかぶさっていました。

 

「大丈夫か、吹雪?」

 

・・・は、はわ。

 

あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっ!?

 

電ちゃんみたいな声を、心の中で上げてしまいました。

 

ど、どどど、どうしよう・・・!?今までそういう目で見たことなかったけど、こうして間近に見ると・・・

 

司令官、かっこいい・・・。

 

・・・って、何考えてるのわたし!?

 

「だ、大丈夫です。すみません・・・」

 

再び表面体温が上がるのを感じながら、わたしは辛うじて答えました。

 

「いや、こっちこそすまん。調子に乗りすぎた」

 

「い、いえ、気にしないでください。・・・その、楽しかったですから」

 

多分この時、わたしは当時持ち合わせていなかった勇気を、目一杯まで振り絞っていたと思います。状況が状況なので。

 

「あの、司令官」

 

「なんだ?」

 

「みんなにも、今みたいに接してもらえませんか?正直、わたしたちも戸惑ってるんです。まわりとの―――司令官との距離感に。でも司令官が砕けて接してくれれば、みんなもっと自分を出せると思うんです」

 

司令官は、黙ってわたしを見つめていました。

 

「だめ、でしょうか・・・?」

 

「・・・俺はバカだな」

 

「え?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

司令官は苦笑いを浮かべていました。年相応に若々しく、少々いたずらっぽい表情。

 

「ありがとう。吹雪に言われたとおりやってみよう。みんながいつでも全力を発揮できるようにするのが、俺の仕事だ」

 

そう言って、今まで見せたことのない不敵な笑みをしていました。

 

「・・・はい!改めて、よろしくお願いします、司令官!」

 

「ああ、よろしく、吹雪」

 

そうして、わたしも司令官も笑顔になりました。

 

「それでその・・・司令官、どいていただいても・・・?」

 

「おっと、すまん。今すぐどくから、」

 

「失礼しまーす!」

 

元気な声と共に開かれたドアの音にぎょっとして、わたしは首をひねりました。

 

「遠征の報告書を持ってきたぜ、司令か・・・ん?」

 

入ってきたのはわたしの同型艦、深雪ちゃん。わたしを見た後、目をしばたいてから、

 

「あー・・・お邪魔しましたー」

 

彼女はもとのように、ドアを閉めました。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

司令官との間に妙な沈黙が流れます。次の瞬間。

 

「みんなーーー!!司令官が、吹雪を押し倒してるーーーっ!!」

 

深雪ちゃんの声が、鎮守府中に響きました。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

「深雪ちゃーーーーーーーーんっ!?」

 

それに呼応して、素晴らしくシンクロした悲鳴を、わたしたちは上げる羽目になりました。

 

後日、青葉さんが号外を出したのは言うまでもありません。




読んでいただいた方、ありがとうございます。

本当にありがとうございます。

お見苦しい点多々ありましたと思いますが、よろしければ今後もお付き合いいただけると幸いです。

暇なときに書いていきますので、またいつか、お会いしましょう。それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。