【完結】桜吹雪の季節に   作:瑞穂国

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いつもありがとうございます。

新婚旅行(リランカ)が未だに終わりません。ごめんね・・・。

書いててニヤニヤが止まらない自分キモイなと思いながら、今回も暴走している気がします。

どうぞ、よろしくお願いします。


航跡Ⅱ

二、

 

「失礼しマース!」

 

全くの唐突に、執務室の扉が開かれました。

 

独特な語尾。それだけで、声の主が誰だかわかります。

 

「おう、金剛。せめてノックしてから開けてくれ」

 

あいさつがてらの司令官の小言には、諦めの響きが混じります。それもそのはず、最初期から鎮守府に所属する彼女は、ずーっとこんな感じでした。

 

「細かいことは気にしないネー。吹雪も、おはようございマース」

 

「おはようございます!」

 

金剛さんは、鎮守府のみんな―――特に駆逐艦のみんなにとって、頼れるお姉さん的存在です。それは戦闘だけに限りません。金剛さんの明るく、フレンドリーな雰囲気は、間違いなく、鎮守府の柱の一つです。

 

「・・・あー、ところで吹雪?どうして、こたつが出てるデース?」

 

うう、出来れば突っ込んで欲しくなかったところに・・・。でも、やっぱり気になりますよね・・・。

 

「俺が出した」

 

「ドヤ顔で答えないでください!」

 

最近、司令官の奇行に対するツッコミが、どんどん磨かれてる気がするんですけど。

 

「・・・吹雪も大変ネー。ところで二人は、何してるデース?」

 

「アルバムの整理。結構撮り溜めてたから、この機会に。吹雪にはコメントを書いてもらってる」

 

「コメント?」

 

「これです」

 

わたしは、丁寧に切られた小さな紙片を見せました。司令官お手製のそれは、雲やウサギといった、非常に凝った作りをしています。

 

「ふむふむ、アルバムの写真に添える奴デスネー」

 

「それのあるなしで、大分出来が違うからな」

 

あれ、そんなに重要なんですかこれ。なんか、今までのものは、当時の状況を思い出して簡潔にまとめるだけで精一杯だったんですけど。

 

「私もこたつに入っていいデスカー?」

 

「いいけど・・・手は出すなよ。お前の英語、難解すぎて誰も読めないから」

 

「吹雪ぃー・・・テートクがつれないデース・・・」

 

わずかに頬を膨らませながらも、金剛さんは畳に腰掛けて、こたつの中へ足を入れました。

 

「はあー・・・癒されマース。掘りごたつは、足が延ばせるところがいいデスネー」

 

「金剛たちは、やっぱり椅子文化なのか?」

 

お茶の追加を沸かしながら、司令官は金剛さんに尋ねます。そういえば司令官は、みんなの部屋って入ったことがなかったんでしたね。

 

「そんなことありませんヨー?私と比叡の部屋は、確かに机と椅子デスガ、榛名と霧島は畳の部屋にしてマシタ」

 

「あー・・・なんとなくわかる気がする」

 

写真を仕分ける手を休めず、司令官は金剛さんに相槌を打っています。

 

「お互いの部屋で交互にティーパーティーを開きますから、私は椅子も畳もバッチ来い、デース」

 

豊かな胸をそらし気味に、金剛さんはどこか誇らしげです。

 

「金剛さんのお茶会、スコーンがとってもおいしかったです」

 

あ、どうしよう、思い出したらよだれが。

 

「ホントデスカー?それは嬉しいデース!腕によりをかけたかいがありマシタ」

 

「・・・俺、お呼ばれしたことがないんですが」

 

「ノンノン、テートクゥ。艦娘のお茶会は、男子禁制のいわば禁断の花園デース。それに、お茶会は出なくても、飲み会には出てるじゃないデスカ」

 

司令官は不満げに口を尖らせました。

 

「あっちは戦艦、空母とか、たまに重巡だろ。軽巡や駆逐がいなくて寂しい」

 

「テートク、ヤッパリそっちの趣味が・・・」

 

「し、司令官・・・?」

 

「ちょっ、お前ら・・・吹雪いいいいっ!!」

 

今度は司令官一人が、絶叫を残してこたつの上で撃沈されました。

 

 

 

「はあ~、日本茶もなかなか乙ですネー」

 

出されたお茶で一息をついて、金剛さんは心底おいしそうに呟きました。

 

「お茶請けは、どうする?煎餅ぐらいしかないが・・・」

 

「んー、遠慮しておきマース。ご飯食べたばっかりですからネー」

 

「そうか」

 

それから金剛さんは、天板の上にあごを乗せて、グデーっとしていました。普段はあまり見せない、リラックスしきった姿です。それだけ、この空間に心安らぐのでしょう。

 

「駆逐艦が見たら、がっかりするぞ」

 

司令官は苦笑して咎めますが、語尾はあまり強くありません。

 

「テートクが何もさせてくれないのが悪いデース」

 

うー、と恨めしげな目で見つめる金剛さんは、よいしょと体を起こして、わたしに尋ねました。

 

「吹雪、アルバム見てもいいデスカ?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

わたしは整理の終わった分のアルバムの山を薦めます。といっても、まだ四ヵ月半分ほどしか終わってませんけどね。写真を見ていると、どうしても思い出話に花が咲いてしまいます。

 

四月からめくり始めた金剛さんは、一ページごとに笑い声を上げたり、大げさに頷いたりと、楽しそうにアルバムを見ていました。なんとなく、司令官も嬉しそうです。

 

「おおー、これは沖ノ島の時の写真デスネー?」

 

四月分の最後のページに目を留めた金剛さんは、一際懐かしそうに目を細めました。

 

写っているのは、所々破けた衣装と傷ついた艤装を背負った六人の艦娘。それでもその表情は明るく、そして誇らしげです。

 

沖ノ島攻略戦。鎮守府開設から約一ヶ月、わたしたちにとって最初の激戦となった海戦の、主力艦隊です。

 

「あん時は、金剛が旗艦だったな」

 

「そうですヨー。懐かしいデスネー」

 

金剛さん、伊勢さん、扶桑さん、山城さん、赤城さん、翔鶴さん。当時の最強艦隊の皆さんを率いていたのは、紛れもない金剛さんでした。

 

「あの時は、色々と無理をさせてすまなかった。もう少し錬度を上げてから、万全の状態で挑むべきだった」

 

「問題ナッシング、デース。むしろ最近の提督は、危なっかしさがなくなってつまらないくらいデスヨ」

 

「・・・それって、普通は褒められるべきことだと思うんだけどなあ」

 

若干不服そうな司令官でしたが、それでも認めてマスとの金剛さんの言葉に、そうかいと顔がにやけていました。

 

―――こういう単純なところが、テートクのかわいいところデース。

 

そう目で告げる金剛さんにおおむね同意して、わたしは小さく笑いました。

 

 

そうそう、そういえばその頃、こんなことがありました。沖ノ島攻略が終わって、しばらくした頃です。

 

 

 

二三五○。真夜中で人気のない鎮守府。わたしは、真っ暗な廊下の、ある一室のドアの前に立っていました。

 

セーラー服ではありません。普段寝る際に着ている、寝巻き姿で、です。ついでに枕も。

 

ちょっとした―――いえ、結構深刻かもしれませんね、ともかくある理由で寝付けなかったわたしは、無意識のうちに件の部屋の前までやって来ていました。

 

部屋の前でためらっていたのは、どうしてここへ来てしまったのか、わかりかねてたからです。どうしてかわかりませんが、ここへ来れば安心できる、そんな気がしていました。

 

意を決してノックすると、間もなくして部屋の主が返事をしました。そしてゆっくりと、目の前のドアが開かれました。

 

「あれ・・・吹雪・・・?」

 

わたしはその声に、力なく頷いていました。

 

部屋からヒョッコリと顔を出したのは、司令官です。普段の第一種軍装とは打って変わった、ラフな部屋着に着替えていました。

 

一瞬戸惑う表情を見せましたが、すぐにいつもの調子を思い出したのか、軽い口調で司令官は切り出しました。

 

「どうした?怖い夢でも見て、眠れなくなったか」

 

大当たりでした。

 

再び頷くと、司令官は「マジで・・・?」と驚いて、頭を掻きました。

 

わたしは枕を抱きしめます。何を、期待しているのでしょう。わたしは司令官に、どうして欲しいのでしょう。そんな疑問が、ぐるぐると回っていました。

 

「あー・・・少し、入っていくか?」

 

「・・・え?」

 

「紅茶ぐらい、淹れるぞ」

 

司令官は、ドアを人一人が通れる分開けました。

 

「あの・・・失礼します」

 

わたしが入った後で、優しくドアが閉められました。

 

少し待ってろ、と言って司令官はお湯を沸かし始めました。畳に置かれたちゃぶ台の前、クッションの上にわたしは腰を降ろします。

 

しばらくして、湯気を立てる琥珀色の液体が入ったカップが二つ、運ばれてきました。

 

「ちょっと熱めだけど、火傷しないように。少し落ち着くぞ」

 

そう言って、自分から口をつけますが、アチッと悲鳴を上げてすぐにカップを置きました。司令官は、超の付く猫舌です。

 

わたしは紅茶を冷ましながら、口をつけます。鼻をくすぐる香りはほんのりと暖かく、ゆっくりとわたしの中へ染み入ってきました。

 

それを、向かいに座る司令官は微笑して見守っていました。

 

「暖かい、です」

 

「そっか。どうだ、少し落ち着いたか」

 

「はい・・・すみません、司令官」

 

「気にするな。俺も寝れない時は、よくこうしてる」

 

手をひらひらと振った司令官は、ちゃぶ台の上に広げられていた機械類を弄り始めました。

 

「なんですか、それ?」

 

「カメラ。折角良いの買ったし、大事にしないと」

 

置かれていたのは分解されたカメラでした。みんなの写真を撮っている司令官が、デジカメより、と自費で購入したものです。それを、丹念に拭いていました。

 

「うまい撮り方とか、まだよくわからないけど。俺はこのカメラで、みんなの素顔を記録したいんだ」

 

「素顔?」

 

「広報用の笑顔だけじゃない。泣いたり、怒ったり、その時々のみんなの表情を写したいんだ」

 

司令官はそう言って、カメラを弄り続けます。

 

「あの、隣で見ててもいいですか?」

 

「?いいけど・・・」

 

わたしは、司令官の隣に腰掛けました。ここからなら、手元がよく見えます。

 

「なんだ、緊張するな、誰かに見られると」

 

「いつも通りで、お願いします」

 

「・・・ま、いっか」

 

気にしないようにしたのか、司令官は少しぎこちないながらも作業を続けていきました。

 

静かな時間がしばらく流れます。据えられた時計の秒針だけが、規則正しく鳴っていました。

 

「全くもって唐突なんだけどさ」

 

「はい?」

 

「俺は信頼してる。吹雪たちを」

 

「・・・どうしたんですか、藪から棒に」

 

「いや、あんまり気にしないでくれ。吹雪たちのことは、信じてるし、頼りにしてる。それは、みんなが艦娘だからじゃなくて、なんていうか―――今はうまく言えないけど、深海棲艦と戦えるとか、人類の希望とか、あの戦争を戦った船たちの魂を持ってるからとかっていうのは、全然関係ない。けど、だからこそさ。たま~にでいいから、みんなに頼ってもらえる、そんな司令官になりたいんだ」

 

なんて言ってみたり。大真面目な顔で司令官は語った後、似合わないなあ、と頬を掻きました。

 

―――もしかしたら、なんとなくわたしの夢を察してくれたのかも。

 

「・・・司令官も、まだまだですねえ」

 

「・・・悪かったな、頼りなくて。ど~せ俺はフッツーの男ですよーだ」

 

いじけてしまったようです。その横顔を見て、微かな笑いと眠気が浮かびました。

 

―――わたしも、信頼してますよ。

 

未だに、その言葉が言えたのかはわかりません。襲ってきた眠気に従って、わたしの体が傾きました。ですが今度は、暗く冷たいあの悪夢を、見なくてすみそうです。

 

 

 

「おう、起きたか」

 

朝、目を覚ますと、目の前に司令官の顔がありました。

 

「・・・ひゃわわっ!?」

 

驚いて飛び跳ねたわたしは、おもいっきり司令官に正面衝突しました。

 

十秒間、お互いにぶつけたおでこを押さえるので精一杯でした。

 

「お、おはようございます、司令官」

 

「吹雪ぃ・・・おはよう」

 

周りを見回すと、そこは司令官の部屋でした。寝てしまったわたしは、どうやらそのまま布団に寝かされているようです。

 

「すまん、さすがに部屋まで運べなかったから、そのまま布団に寝かせた」

 

そういう司令官は、明らかに寝不足といった顔でした。

 

「・・・変なことしてないですよね」

 

「してねえよ!!どんだけ信頼ないんだよ、」

 

「失礼するわよ」

 

司令官が、俺と言いかけたところで、突然部屋のドアが開かれました。

 

「司令官、吹雪が見当たらないんだけど、知らないかし・・・ら?」

 

「・・・ふえ?」

 

入ってきたのは、叢雲ちゃんと磯波ちゃん。部屋を開けるなり、二人とも目を点にして、

 

「・・・お邪魔したわね」

 

そっとドアを閉じました。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

司令官との間に妙な沈黙が流れます。次の瞬間、

 

「みんなーーー!!司令官と吹雪が一夜を共にーーー!!」

 

叢雲ちゃんの声が、鎮守府中に響きました。続いて、何かが倒れるような音も。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

「叢雲ちゃーーーーーーーーんっ!?」

 

それに呼応して、素晴らしくシンクロした悲鳴を、わたしたちは上げる羽目になりました。

 

後日、青葉さんが号外を出したのは言うまでもありません。




連載書きます。書き・・・ます。

一日中吹雪ちゃんを眺めているのは、プレイしてることになるんでしょうか・・・?

ともあれ、皆さんに楽しんでいただけたらと。一番楽しんでるのは自分な気がしなくもないですが。

お付き合いいただいた方、本当にありがとうございます。

こんな感じで、たまに昔を振り返りながら書けたらなと思います。
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