ラウラとの日々   作:ふろうもの

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ラウラとプール掃除

 真夏の炎天下、このうだるような暑さの中での楽しみとは一体何か。

 冷房がガンガンに効いた部屋でラウラとダラダラする。やることがないのでとりあえずラウラや一夏らと手分けして宿題に手を付ける。ラウラとお祭りに行く。ラウラと一緒に早寝早起きし、一緒に部屋を出たところを織斑先生に見つかって説教をくらう。

 他にも多々あるが、やはりこれだろう。そう、プールだ。

 服を脱ぎ捨てサーフパンツに履き替えて、パーカーを羽織れば準備完了。あとはプールサイドに荷物を置けば、冷たい水の中に飛び込めばいい。

 

 ――デッキブラシとホースが手に握られていなければ、の話であるが。

 

 サンダルを履いて水が抜かれたプールの底に立つ。降り注ぐ日差しが眩しすぎる。こういう時くらい曇天になればいいものを、突き抜けるような青天が恨めしい。

 ホースを放り投げ、デッキブラシを杖代わり。やれやれとデッキブラシの軸先に顎を乗せる。どうしてこんなことになったのか、それはもちろん、ラウラと健康的な生活を送っていたところを織斑先生に見つかったからである。

 もちろん、俺とラウラはプラトニックな関係である。キスはしているが、俗に言う男女の深い仲、というやつにはなっていない。お互いまだ学生の身分であり、またラウラが優秀な副官よりちょっと偏り過ぎている性知識を得ている為、しっかりとした再教育が必要なのが判明しているからだ。

 というわけで、俺とラウラは本当に何事もなくごくごく自然に、一緒の部屋で過ごして居たのだが。

 それを織斑先生が許してくれる筈もなく。曰く、

 

『不純異性交遊がなかろうと、他の生徒の情操教育によくない』

 

 とのことで俺とラウラは二人仲良く、IS学園の校外プール掃除を罰として言い渡されたのである。

 それにしてもラウラは来るのが遅いな、とプールの底から更衣室の方を眺めてみる。女の子は着替えに時間がかかることは承知しているが、そもそもラウラはドイツ軍人だ。早着替えなど慣れていると豪語し実際に早い。

 さて、ということはまた優秀な副官であるクラリッサさんに何か吹き込まれて、妙なことになっているのではないか。そんなことを思いながら、デッキブラシをバット代わりにスイングする。

 ぶんぶんとなんとなしに振っていたら、ガチャリと扉が開く様な音がした。ああ、ようやくラウラが着替え終わったのかと思いスイングを止めてラウラを待つ。

 

 ――しばし、静寂の時間が訪れた。

 

 まさか先程の音は織斑先生が見回りに来て、スイングして遊んでいた俺を見つけてお冠なのではないか。といった最悪の想像が頭をよぎる。しかし、いつになっても織斑先生の雷は落ちてこない。

 どうしたものか、と思うとラウラがひょっこりと姿を現した。どうやら半袖の白いTシャツを着ているようだ。が、なかなかこちらに来ようとしない。

 

「な、なぁ嫁よ。あっちを向いていてくれないか?」

 

 ラウラは恥ずかしがっている。顔を薄桃色に染めて、視線はとにかく忙しない。

 俺は湧き上ってくる悪戯心を抑えきれず、どうしてラウラを見てはいけないんだと問い掛ける。するとラウラはいっそう視線を動かしてから、意を決した様に全身像をこちらに見せた。

 細く見えるが筋肉のついた引き締まった足から上へと視線をずらすと、ラウラは両手を使ってTシャツの裾を握り込んでいる。ついでにいえば、裾を伸ばして股間の辺りを隠すようにしている。

 ピンときたが、それは不味いのではないのかクラリッサさん。

 

 ――ラウラは今、はいてない。

 

「何故そうなるんだ!」

 

 俺の直感は、ラウラの羞恥のこもった叫び声で全否定された。

 

「もちろん、水着を着用しているに決まっている!」

 

 ばっと、勢いよく自分からTシャツを捲り上げるラウラ。勢いのままに、水着の胸に縫い付けられたゼッケンの『らうら』という丸っこい文字が目に入る。

 水着のタイプは、こだわりの旧型スクール水着というやつである。

 これはまさか、クラリッサさんからのアドバイスだろうか。

 

「そうだ。こ、こいび……と……ううん、嫁と二人っきりでプールの時は、スクール水着を着用の上、白いTシャツを上から着るものなのだとな!」

 

 どうだといわんばかりに腰に手を当てて胸を張るラウラ。恋人の辺りはよく聞こえなかったが、ラウラが可愛いので深くは尋ねまい。

 ところで今現在ドイツに居るクラリッサさん、今頃朝三時で眠っている真っ最中でしょうが、この日本から感謝の念を送らせてもらいます。本当にありがとう。

 けれどもラウラは何故、恥ずかしがっていたのだろうか。普段着ているISスーツも、今ラウラが着ている旧型スクール水着と布面積はほとんど変わらない筈である。むしろTシャツの分、露出している肌面積は少ない筈なのだが。

 

「それは……だな、やっぱり、嫁が喜んでくれるか不安で……」

 

 ああ、本当にラウラはいじらしい。第一に俺の為を想ってくれている。だから俺も、ラウラの想いに応えるべく口に出す。最高に可愛いよ、と。シンプルだけれども最大限の賛辞でもって。

 

「そ、そうか! 良かったぁ……」

 

 頬をなでたくなる様な可愛い笑みを浮かべるラウラ。が、それもすぐにしゃきっとした顔になり、くっと髪を可愛らしい黒猫柄のシュシュでポニーテールに結ぶと、手にはデッキブラシを剣の様に勇ましく持つ。

 あのシュシュは多分、シャルから贈られたと俺は睨んでいる。

 

「それはともかく嫁よ、織斑先生からプール掃除を命じられた以上、全力を尽くすぞ!」

 

 気合を入れて「まずは水だな」と言ったラウラは視界から消え、ほどなくしてホースから水が勢いよく流れだす。

 俺は暴れるホースを掴んで適当にプール内へ水を撒いていく。

 その間ラウラはプールに降りようとするのだが、プールにそのままジャンプインしたら足を挫くか、あるいは転倒の可能性も十分あるので、プール側壁の梯子を使っている。

 梯子を使うということは、ラウラは自然とこちらに背を向けることになる。つまり、ラウラのお尻が俺の方に向いているということだ。ラウラが梯子を一段降りる度に、小振りなお尻が誘う様に左右に揺られ、あまつさえ白いTシャツが紺の生地を時折隠すように上下するのである。

 なんということだ、クラリッサさんはここまで予見してこの恰好をラウラに推奨したのか。これではラウラのお尻が気になって仕方ないではないか。例え着ているのは水着であったとしても、この相乗効果は計り知れない。

 ラウラが梯子を降りきる前に、視線を別の場所に向けて水を撒く。後ろからゴッシゴッシとデッキブラシがプールの底を擦る音が聞こえてきたので、視線だけをラウラの方へと向ける。

 ラウラがデッキブラシで擦る。白いTシャツがふわりと浮かんで、締まったヒップラインが露わになる。

 ラウラがデッキブラシで擦る。白いTシャツがだらんと降りて、見えていた曲線美を覆い隠す。

 破壊力が高過ぎる、目を離すことが出来ない。

 じっと見つめていたのはどれくらいだろうか、俺の視線に気付いたラウラがデッキブラシを動かす手を止めた。

 

「どうかしたのか、嫁?」

 

 なんでもない、と言ったのだがそれにはジェスチャーがくっついていた。言わずもがな俺の手にはホースが握られている。あらぬところへと水を飛ばすホースは最後にはラウラへと向いて。

 

「うわっ!」

 

 短い悲鳴が聞こえ、慌ててホースの先をラウラから逸らす。

 

「うー……まさかここまで濡れるとは思わなかった……」

 

 いつの間にか俺はホースを、取り落していた。

 ラウラの白いTシャツが、水に濡れて透けている。Tシャツは紺色の水着が現れる程にぴったりと張り付き、身体のラインを余すところなく視覚情報として伝えてくる。ふるふると振った手から、水滴が飛沫となってきらきらと輝く。髪の先から垂れる雫が、ラウラの頬を一筋、流れて行った。

 たまらない。俺はラウラに詰め寄るほどに近付いていた。俺の雰囲気の変化を察したか、ラウラは頬を染めて俺の事を見上げている。

 鎖骨のくぼみにたまった水が、ラウラが俺から視線を逸らしたことで流れ落ちて行った。普段は長い髪の毛に隠れている白いうなじが、陽の光を受けて白く輝く。

 

「……仕方ないな」

 

 ラウラはそう言って、俺を受け入れるように手を広げた。俺は腰を落としてラウラと同じ視線に立つ。

 二人で、何も言わず抱きしめあった。

 ラウラの身体は、芯から発せられる熱でとても温かい。

 俺はラウラのうなじに何度も優しくキスをする。その度にラウラは甘い吐息を漏らしながら、身体を震わせる。

 

「……な、なぁ嫁よ」

 

 俺は動きを止めてラウラと見つめ合う。

 ラウラの瞳が、物欲しげに潤んで揺れている。

 

「その、首筋にキスしてくれるのはいいのだが、その、だな……。こっちが寂しいんだ」

 

 ラウラは少し躊躇って。

 

「唇も、な?」

 

 と言って、瞳を閉じた。

 

 

「なーにやってんのよ、バカップル」

 

 蝉のコーラスをバッグにラウラと見つめ合っていると、聞き慣れた声が降ってきた。お互い飛び上がって離れる。

 凰が、水着を着てデッキブラシ片手にプールサイドに立っていた。

 

「あ、本当は邪魔するつもりはなかったんだけどさ、あたしだけじゃなくてもうすぐ一夏たちと千冬さんも来るから……」

 

 凰の苦笑いから察するに、一夏たちと織斑先生が来るというのは本当のことなのだろう。それはわかったが、一体なにがどうなって、一夏たちがこのプールへやってくるというのか。

 

「一夏がさー、千冬さんの宿題抜き打ちチェックであたしたちの解答を丸写ししてたのがバレちゃって。それで連帯責任でプール掃除、ってワケ」

 

 一夏め、ちゃんとあれだけ適度に間違えたりして偽装工作をしておけと言っておいたのに。これでは俺とラウラがお互いに答えを写していたことが織斑先生にバレるじゃないか。

 凰は苦笑を浮かべる。

 

「ま、一夏もその辺は口が堅いから、アンタらのことは大丈夫よ。それより」

 

 と、凰は俺にピッと指差して。

 

「女の子はね、肩とか冷やしちゃいけないのよ? わかる?」

 

 俺は咄嗟にパーカーを脱いで、ラウラの肩にそっとかける。

 凰は俺の行動に満足そうに頷いた。

 

「それでいいの。濡れTシャツは一夏には刺激が強すぎるしね。そうそう、千冬さんが差し入れにスイカを切って持ってきてくれるっていうから、頑張りましょ!」

 

 そう言うと凰はくるりと背を向けた。見ないからその間の内に、ラウラとの不完全燃焼をなんとかしなさい、ということだろう。

 パーカーを着込んでいたラウラも、同じことを凰の行動から読み取っていた。

 

「な、なぁ……その、だな……」

 

 凰に聞こえないように、耳打ちするような距離で囁き合う。

 

「この恰好、嫁には……刺激的だったか?」

 

 もちろん、と頷くとお互い示し合せた訳でもなく、唇を合わせていた。

 




ラウラ+ポニテ+濡れ透け白Tシャツ+旧型スクール水着=最強。
久しぶりにラウラとの日々を書いたので束さんの方の文章に引っ張られている気がする。
束さんとひたすらイチャイチャする『天災兎の愛は重い』もよろしくお願いします!(宣伝)

この作品は、シート様の「IS学園のプール掃除」というネタから着想を得、了承を得た上で書き上げました。
シート様は同じくハーメルンにて更識簪をメインヒロインに据えた「簪とのありふれた日常とその周辺」を執筆されています。

最後になりましたが、誤字脱字報告、いつもありがとうございます。
本当に感謝しています。

hisashi様、誤字脱字報告誠にありがとうございます。
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