なんだかんだで遅くなってしまいました。
そして今回から、前回の予告より早めにTOVキャラ登場です。
そしてオリジナルキャラも登場です。
いつもよりちょっと長めになってます。 ご感想や質問を絶賛受付中です!!書いていただけるとめっちゃ嬉しいです!!
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「…………記憶がない? 本当に?」
そう聞かれて、オレは少々罪悪感を覚えながらもこくりと頷いた。
無論、嘘の嘘の大嘘だ。オレは現実での記憶も、SAOでの記憶もしっかりとある。いや、いいようによっては、なぜここにいるのか自分でも分からないのだから……どうやって来たのか分からないわけだから、嘘ではないかも知れないけれど、それはともかく、今はこう言って追及を逃れる他ない。今は情報を集める事に集中すべきである。
「ああ、なんでここにいるのか分からない。名前とか……数人の知り合いは憶えてるんだけど」
いやそれ以外にも、ソードスキルとかアイテムの価格とか――――と言いそうになる自分をセービングロールし、実際困り果てて頬杖をついた。
目の前に座った少年も、紅い髪を左右に揺らしながら、考え込むように天井を見上げて、オレたちのいる部屋には重苦しい沈黙が広がった。
はぁ、と二人揃って溜息をつくと、オレと少年のものではない、高く清らかなソプラノの声が二人の沈黙を斬り裂いた。
「ねぇヒュウ、なら、この人をユーリさんに紹介しようよ! きっとあの人なら、いいお医者様を知ってると思うんだけど」
そう、目を輝かせて述べたのは、オレがここが≪どこか≫であることを悟り、目の前に広がる冷酷な事実を必死に受け入れようと脳内を整理していたときにこの家を訪れた少女――――≪エリィ≫。
赤い少年、こと≪ヒュウ≫の幼馴染であるという彼女は、いつも通り(彼女が自称するには)ヒュウの昼飯を作りに家を訪れてみると、見知らぬオレがいた――――というわけだ。
不本意なことに、くすんだ金髪に翡翠の瞳、かなり控えめとはいえ一応胸もあり、SAOのときに知り合った≪アスナ≫には何度か、≪クールレディ≫の称号を与えられていたオレ。
それが、年頃の幼馴染のヒュウの家にいると知ったときの、エリィの表情と言ったら見物であったが――――今も痛そうに、真っ赤になった右頬をさすっているヒュウのために、思い出さないことにしておこう。
で、一連の騒動の後、ヒュウとエリィに『記憶喪失』と述べたところで、先ほどのエリィの発言に戻るわけだ。
エリィの言葉に、ヒュウは困ったように頭をかくと、
「えー、だってさぁ、ユーリの兄貴に迷惑はかけたくねぇし。だいたい、今ユーリの兄貴はダングレストって聞いたぜ? 距離がありすぎる」
「ちょっとヒュウ、知らないの? ユーリさん今日の朝帰ってきたわよ。今は多分、お城に」
「はぁあぁぁぁぁぁぁあ!? マジで!? もっと早く言えよ!!」
「言いに来たらこんなことになってたんでしょ!」
≪ユーリさん≫だの≪ダングレスト≫だの知らない単語と、苛立ちのこもった二つの声が眼前で飛び交うのを為す術なく眺めながら、オレは椅子から乗り出さん勢いでまくし立てるエリィを観察した。
茶色、というよりは金色に近しい髪は、アスナもかくやのストレート。背中の中ほどまで伸びたそれにはよく手入れしているのであろう、輝かしい艶が見て取れる。あまり外に出ないのか白めの肌に、やろうと思えばオレでも折れてしまいそうな細い手足、華奢な痩身だ。ヒュウを睨み付ける瞳はアイスブルーで、身に纏った新緑色のチュニックがよく似合っている。全体的には勝気で活発、というイメージだ。
言わせてもらえれば、非常に可愛らしい。クラインなら間違いなく鼻の下が伸びまくっている。そしてもしSAOにいれば、アスナに並ぶアイドルプレイヤーだったに違いない。
……などと観察していると、ふと、彼女の腰に差されたあるものに気がついた。
「……それは……
赤い柄に朱色の鞘で収められた武器に目を奪われ、オレはぽつりとつぶやいた。
その言葉に、ヒュウとエリィが口論を中断し、
「おう、こいつ、こー見えてダガーを使うんだ。
「いいでしょ別にそれは! わたしが好きで使ってるんだから! ……で、それがどうかしました?」
「いや……武器があるのか、と思って」
SAOでもなく現実でもないこの世界に、武器がある。
それはつまり、ここでも何かしらの理由で武器を握る必要がある、ということだ。それがどういう理由なのかは分からないが、モンスター相手なり、人が相手なり、彼らは武器を握らざるを得ない。
そして彼らの反応からして、この世界で武器を握るのは日常茶飯のこと。
これで色濃くなった可能性は二つ。
一つは、ここがSAOではない、どこかの仮想世界であること。
もしくは、――――ありえない、と思うが――――ここが、本当の……。
「…………仕方ない、かぁ。分かった、ユーリの兄貴に相談してみようぜ。箒星で待ってればくるだろ」
「うん、そうだと思う。そうと決まればよし、行こう!!」
満面の笑みでエリィに振り返られ、オレはようやく現実へと引き戻された。
ヒュウは席を立つと、がたがたとせわしく動き始めた。窓を閉めたりしているということは戸締りなのだろうが、しかし、どこに行くのだろうか?
「…………ごめん、話、聞いてなかったんだけど……どこに行くんだ?」
おずおずとオレが尋ねると、ヒュウが、先ほどまでの沈鬱そうな表情とは打って変わって嬉しそうに、
「箒星、って名前の宿屋だよ!! 下町で一番の宿。そして、『下町の希望』が住んでる場所!!」
「…………下町の…………希望?」
オレの疑問符に、自身も身支度を始めたらしいエリィが、誇らしげに答えた。
「ええ。
帝都ザ―フィアスは、思っていた以上に巨大だった。
エリィが言うには、あの剣のモチーフは、世界を総べているたった一つの国≪帝国≫の本拠地である城の、更に上に存在する≪
山一つ分を丸々使って築き上げられたその帝都の威容に、オレは完全に圧倒されていた。アインクラッドぐらいはありそうな巨大さに見える。いや、流石にアインクラッドのほうが大きいのだろうが、何せこの目でアインクラッド全土を俯瞰したことがないから比べられないのだった。
「…………でけぇ」
「帝都に初めて来たやつは、みんな大抵そう言うよ。俺たちも最初に来たときはびっくりしたし。まぁ、ここで生まれ育った奴はそうでもないみたいだけど」
オレと一緒に上層を仰ぎ見たヒュウが呟く。と、家を飛び出すなりオレ達よりも早く歩き出したエリィがこちらを振り返り、
「早くー二人ともーー! 置いていっちゃうよーー!!」
「はいはい、今行くってー!」
ヒュウが言い返し、石畳を軽やかに歩きだした。上層を見た限り、迷路のように入り組んだ造りのようだったので、迷わないように赤毛の少年の背をしっかりと見据えて、オレも歩き出した。
しばらく歩くと、もうオレはどこをどう曲がってきたかとか、どこは直進したとか、坂を上ったか下ったかがほぼ分からなくなっていた。SAOでも憶えのある感覚だ。迷路のようにごちゃごちゃとしたアルゲードでも、確かこんな目に遭ったことがある。今回は先導者がいて幸いだった、と胸を撫で下ろしたのは、ヒュウ達には秘密だ。
もしかしてオレ、方向音痴なのかな?
という、今後のことを考えると致命傷になりそうな己の欠点に気付き、密かに舌打ちする。
もしここが、他の仮想世界なり、あってほしくはないがもう一つの可能性であったとして――――どちらにせよ現実へ戻るためには、何らかの方法が存在し、そしてそのためには旅をする必要がありそうだ、とオレは踏んでいた。エリィによれば、この世界には無数の街と魔物が存在しているらしい。そして街から外に出たいなら、それなりの武術の心得を持つか、傭兵を雇うのだと。
勿論オレには傭兵など雇えそうもないから、旅をするとしたら前者。
となれば、方向音痴はあまりにも大きなマイナス要素だ。
はぁ、と今日二度目の重苦しい溜息をつく。
「どーすっかなぁ……」
オレの心と正反対に澄み切った青空に、抗議するように呟いた、その瞬間。
下町のどこかで、赤色の閃光が輝いた。
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「……で? 突然呼び出してどうしたんだ、騎士団長様よ」
それは、巨大な剣を戴いた世界最大の城、ザ―フィアス城の一室。
執務用の机と、綺麗に整理された資料棚以外に家具らしい家具も見当たらない殺風景な部屋で、黒衣の青年は昔馴染みを茶化すように尋ねた。
男性としては長い背中の中ほどまである黒髪を流し、右手を腰に当てて、執務机を挟んで向こうに立つ人物を観察するように眺める。その鋭い光を帯びた双眸も黒ならば、纏っている服も黒。腰に当てられた右手からは、数少ない白色の紐が伸び、床に接しそうな距離で一本の剣が吊るされている。
皮肉気に唇の片端を釣り上げ、
「まぁたエステルがなんかやったのか? それともヨーデル皇帝閣下のことで、何かお悩みでも?」
「……ユーリ、僕は真面目な話をするために君を呼んだんだ。茶化さないでくれ。君が≪皇帝閣下≫だなんて、似合わないにも程がある」
ユーリ、と呼ばれた精悍な顔つきの青年は、相手のこの言葉に苦笑いをして応じた。
「へいへい、いつもどおりに、ってんだろ? ったく、フレンは本当に冗談が通じねぇ奴だな。あれから半年経っても全然変わらねぇ」
「君もね」
金髪を反射光に煌めかせて微笑んだのは、青色の瞳を持つ鎧姿の青年、フレン。
こちらはユーリとは対極的に、白や青といった爽やかさ溢れる格好だ。長剣を腰にさし、城内だというのに何故か堅苦しい鎧をまとったままである。
フレンの言葉に、ユーリが不満そうに舌打ちするのをまるで聞こえなかったかのように無視して、フレンはさて、と言葉を紡いだ。
「君に一つ、頼みがあってね。僕よりも君の方が、彼女の説得には向いていると思ったんだ」
「はぁ? 説得? ……誰の」
ユーリの聞き返しに、フレンはしばし沈黙し、そののちに資料棚に歩み寄った。黒紐で綴じられた紙束を一冊取り出し、それを無言で、ユーリにつき付ける。
訝しみながらも紙束を受け取り、ぱらぱらと
最後の一ページを見送ったところで、
「…………これは」
「ああ、君が思った通りだ。僕も多分、君と同じ危惧を抱いている。今、そんな現象が各地で起きていてね……僕の知己の中で、この現象について一番詳しそうなのは彼女だ。頼めるかい?」
「頼めるも何も……こりゃあ、請け負わないわけにゃいかんだろ。これが俺たちの責任だからな」
「それでは、頼ませてもらうことにするよ。彼女を――――」
フレンが、真っ直ぐに、黒衣の幼馴染を見詰め返し、そして告げた。
「エアルクレーネの異常活動について調査・報告してもらうために、リタ・モルディオさんを連れてきてくれ。天才と名高い彼女なら、あるいは――――」
その瞬間。
下町のどこかで、赤色の閃光が輝いた。
ということで登場です!!
次回はだいぶ先の投稿かもしれません。遅くなったらごめんなさい(泣)