やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。   作:AIthe

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奉仕部を設立したのに全然出てこないとか言わないで下さい。作者のライフはもう0です。



やはり、シャルル・デュノアは男の娘である

自室のベッドの上。頭に手を当て、俺はグダグダとしてしていた。

今日は早退という形で逃げる事ができたが、実習のたびにこうではさすがに問題だろう。それに、ISに拒否反応が出てしまう生徒をいつまでもこの学園に置いておいてもらえるものなのだろうか?

事は早急に解決せねばならない。

だが、俺はあの恐怖を乗り越えられる気がしない。俺を蝕む、真っ黒で冷たい“何か”。あの温度に触れるだけで吐きそうになる。ダメだ。考えるだけで気分が悪くなる。

 

溜息を吐き、顔でも洗うかと立ち上がると、タイミングよく扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

扉を開く。

 

「やっはろー、覚え」バタン

 

扉の隙間から青い髪が見えた瞬間、まるでなかった事のように扉を閉める。え?誰か来てた?いやいやいや、青い髪の人なんて三次元に存在するわけないじゃないですか。しかも学生ですよ?

確か、あの顔は自称生徒会長だ。アリーナに槍を持って待ってた不良。あんな槍もってる人が生徒会長なわけないじゃん。風紀委員が風紀乱してるくらいの矛盾なんだけど。

 

「ちょっとなんで閉めるのよー!」

「いえ、人違いです」

「ちょっと、開けてよー!」

 

ダンダンダンと扉が叩かれる。管理人にドアを開けてみろって聞いてみ?不審者扱いで帰れ、帰れって言われるレベル。ちなみに管理人は織斑先生な。ミスチルわかんないか、そうですか‥‥‥‥

うるさいので扉を開けてやると、するりと隙間から室内へと侵入してくる。CMのクレンジングオイル並にするりとしてるわ。あれ本当に化粧落ちるの?

 

「ここが比企谷くんの部屋かぁ」

「あの、何の用ですか?」

 

なんで同級生に敬語使ってんだろ俺‥‥‥そういえば留年してるんだよな。死にたい。

自称生徒会長は部屋をキョロキョロと見回し、ベッドの下や本棚を勝手に漁り始める。

 

「‥‥マジで帰ってくれませんか?」

「比企谷くーん、エロ本は?」

「いや持ってませんよ」

 

時代は電子化だよな。エロ“本”は持ってない。嘘は言ってない。だから小町、俺のパソコンをいじっちゃダメだ。ダメ、絶対。

 

「あ、老人と海だ。私ヘミングウェイ好きなんだよねー」

「マジっすか。何読んだ事ありますか?」

「日はまた昇るとか?」

「‥‥ふ、ふーん」

 

本棚を漁った自称生徒会長は、薄い本(意味深)を引っ張り出す。

俺が住んでいるこの部屋の本棚だが、相川の分も占領させてもらっている。ここに置いてあるのは俺の厳選したベストコレクションを更に厳選したもので、家に帰ればこれの数倍はある。

ちょっとだけ自称生徒会長を見直した。ヘミングウェイの凄さがわかるなんてな。あの薄い一冊の中にあれ程の内容を詰め込めるとか凄いよな。

小町に読ませてみたら途中で寝た挙句、「結局魚取るだけじゃん」とか言われてお兄ちゃんショック。そういう事じゃねえよ。

 

「あ、砂漠だ。比企谷くん伊坂さんの本も読むんだ?」

「それ読むと大学に行きたくなりますよ」

「そうなんだー、借りていい?」

「まあ、汚さないのなら」

「ふふっ、ありがと」

 

平和を築こうとするのをみんな邪魔するんだよな。あの言葉には衝撃を受けましたよ、ええ。

はっ!?これはまたこの部屋に来る口実にする気だな!?汚いさすが生徒会長きたない。

自称生徒k(ryは本を机に置くと、トランポリンを見つけた子供のように俺のベットに飛び込んだ。布団にぐるぐると巻かれ、シーツをくしゃくしゃにする。

 

「ねえねえ比企谷くん、ベット座っていい?」

「いや、もう使ってますよね?」

「ふかふかー!比企谷くんの匂いがするー!」

 

うわぁ、これはわざとらしいっすわ。ハニトラ?ハニトラなの?織斑弟ならあっちなんだけど。帰れ。

 

「あの、そっちは相川のベットですよ」

「‥‥‥は?」

 

いきなり素に戻る。はっ、自称生徒会長に一泡吹かせてやったぜ!実際は俺のなんだけどな。

 

「嘘は良くないよー、比企谷くーん。ね?」

 

訳:「嘘ついてんじゃねえぶっ殺すぞ。ああん?」

こうですね、わかります。

ってかIS学園の人間ってマトモなやついないの?出席簿(物理を超えた何か)に金髪クロワッサン、突然喧嘩を吹っかけるちっこいのに朴念仁‥‥‥うん、ダメだこれ。

 

「ねえねえ比企谷くん」

「用があるなら早くしてもらっていいですか?今すぐ寝たいです」

「お姉ちゃんの膝でも使う?」

「結構です」

 

こういう押し売りはキッパリ断れって親から教えてもらっているんでね。自称生徒会長ってクーリングオフできるのかな?

 

「本題に入るんだけど‥‥‥‥シャルル・デュノアについてどう思う?」

 

声色がふざけたものではなく、真面目な重いものへと急変する。

突然シリアス挟んでくるのやめてもらっていいですかね。

 

「‥‥‥‥‥」

 

適当に流そうと思っていたのだが、この質問。試されている気がする。だからなんだという話なのだが。

 

それにしてもこの人の纏う空気。どこかで見た事がある。

 

「‥‥‥‥強化外骨格」

「ん?」

「いや、なんでもないです」

 

そう、この人は雪ノ下陽乃の強化外骨格に似たものを持っている。自分を隠す為の“完璧”な外骨格を持ち合わせている系の人間だ。そうなれば、単純な“意味”は聞かれているはずもない。

 

「そうですね‥‥‥女に見えます」

 

となれば、こう答えておけば堅実な答えだろう。こう答えておけばツマラナイと判断されて、もう関わないで済むかもしれない。実際見た目は女みたいだったし、これほどありきたりな解答もないだろう。でも戸塚といいデュノアといい俺の周り可愛い男の子多いよな。幸せ。

 

「ふーん、陽乃ちゃんが言った通りね‥‥‥‥」

「え?」

「なんでもないわ。比企谷くんもそう思ってるのよね‥‥‥」

 

ブツブツと呟き始める。今ルート分岐間違えた気がする。おかしい。今まで戸塚ルート直行だったはずなのに‥‥‥‥いや、デュノアもありか?あんな可愛いのに男とか神様お前ってホモなの?

 

「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな───」

 

 

───2───

 

「は?デュノアが女か探れと?俺に?」

「そう、やってくれない?」

「お断りします」

 

比企谷八幡。陽乃ちゃんの言っていた通り、彼は面白い逸材だ。最初はただの目の腐った男の子だと思ったけど、その本質は全然違う。

黒い無人IS二機のIS学園強襲。一体はアリーナ、もう一体は学舎近くに強襲した。私や教員を含め、全員アリーナ隔壁のロックを解除するのに手一杯で、もう一機には気付かなかった。

情報が出回った時にはすでに無人機は沈黙しており、来賓として招待されていた雪ノ下雪乃、生徒である相川清香、布仏本音の三人が教師に助けを求めたことにより発覚した。

 

「えー、ダメ?」

「ダメです」

 

その後、学園内の監視カメラをチェックした時、私は戦慄した。

彼はISに触れて数週間のニュービーの筈だ。だが、無人機相手に三人を守りながら一人で奮闘し、完全に沈黙させたのだ。

だが、彼の本質はそこには隠れていない。問題はその、無人機の破損状態だ。アリーナの方の無人機は三対一でボロボロになっているのは納得できるのだが、彼が相手をした無人機の状態には狂気さえ感じさせた。

右腕は肩からバラバラに弾け飛び、装甲はボコボコに凹んでおり、人が乗っているはずの場所の装甲が引き剥がされ───それは人間の仕業とは思えない、本当に「殺す」つもりの人間にしかできない残酷さが混在している。

 

だが、私も人の事は言えないのだ。国の、家の為と銘打って、沢山の人間の命を奪ってきた。この血で真っ赤に染まった手で、何人の人を殺してきたのか。もう覚えていない。

 

だが、初めて人を殺した時の事は未だに覚えている。

 

胸奥深くに刺さったナイフ。迸る血飛沫。ビクビクと痙攣する標的の身体。帰り血で染まる手。鼓動を打ち続ける私の心臓。鼓動を止めた標的の心臓。

 

私は怖くなり、その場から逃げ出した。今は慣れているとはいえど、最初はトラウマになるほどの恐怖だった。今でも、殺す事に抵抗はある。

 

しかし、この目の前の男は違う。あの殺し方は、初めて人間を殺した時のそれではない。人間を殺す事を許容する、人間の理から外れてしまった人間。“壊れて”しまった人間の、混沌のかけらが見て取れてしまった。

 

「じゃあさ、成功したら比企谷くんの欲しがってた偽の戸籍、作ってあげちゃおっかな?」

「‥‥‥そんな事言った覚えはないですよ」

「嘘だよ、この前は神宮寺なんて名乗った癖に」

「‥‥‥‥雪ノ下さんと関わりがあるんですね」

 

この男の子の濁り腐った目には、一体何が混ざりこんでしまったのか。それは、本人しか、いや、本人すらわからないかもしれない。ただ、あの目は他人の本質を見抜く。本質を見抜くと言うよりは、本質しか見えていないのだろう。

だから、陽乃ちゃんとか私は警戒され、距離を取られるのだ。全くもって恐ろしい。あの世界最強がバックについた弟とは別の意味でやりにくい。それに、先生方には真面目だって気に入られているし。

 

「ね?お願いー!」

「‥‥‥無理だったらすぐに報告するんで」

 

でも、困った事が一つ。

ここまでガードが固いと、ちょっと陽乃ちゃんの『親離れ』には使えなさそうだ。

ま、取り敢えずは目先の問題を解決しなきゃね。

 

比企谷くん。あなたのやり方、楽しみにしているわよ。

 

───3───

 

なんだったんだあの人。怖えよ‥‥怖えよ‥‥‥通りで「やっはろー」とか言ってると思ったぜ‥‥‥‥

 

だが、偽の戸籍が手に入る可能性があるならやるしかない。外で「比企谷八幡」って名乗ってみろ。嘘を吐いているとか言われて警察のご厄介になるか、どこかの女性権利団体に拉致られるぞ。女尊男卑とか男尊女卑とかどうでもいいわ‥‥‥‥

 

パタンという音を鳴らし、本が閉じられる。

IS学園に入って、久しぶりに本を読んだ。本は心の栄養という言葉があるが、まさにその通りだ。人生を豊かにしてくれる。物事の価値観とかが変わったりするし。

こんなに面白いのに読まないなんて絶対人生損しているよな。

 

仕方なくパソコンの前に腰掛け、「シャルル・デュノア」で検索する。予想はしていたが、全く検索に引っかからない。情報操作で完全に消されているのだ。多分、俺や織斑の名前で検索してもまともな情報は出てこないだろう。

仕方がないので、「デュノア社」で検s‥‥‥ググる。すると、様々な検索結果が引っかかる。その中に、気になる記事を見つけた。

「ドミニク・デュノアの輝かしき歴史」とかいうクール(暗黒微笑)な記事の中に、「娘を亡くした」という文字が目につく。現地のニュースを訳したぎこちない日本語を斜め読みし、大体の内容を理解する。

要約すると、デュノア社社長のドミニク・デュノアの娘(名前不明)は病死してしまった。だが、そのショックにも負けずにラファール・リヴァイヴを開発した。と言うらしい。あまりの感動に涙出るわ。素晴らしいサクセスストーリーだな。

冷蔵庫からマッカンを取り出し、人差し指を器用に使って片手で栓を開く。

マッカン樽とかで売ってくんねえかな。ビールみたいに。マッカンのサーバーとか発売されたら即買いするよ。

 

それにしても、この死んだ娘。タイミングに違和感を感じる。いや、死ぬ事にタイミングも何もないのだが、その数ヶ月後にラファール・リヴァイヴが出来上がるなど出来過ぎやしないだろうか。

 

「娘が死ぬ必要があった‥‥‥?考え過ぎか‥‥‥‥」

 

もし仮に、もし仮にだ。このラファール・リヴァイヴの開発の為にデュノアの娘が世間から消されるというのなら、それはどういった理由だろうか?

いや、考え過ぎだ。最近疲れているからな、裏の裏とか疑っちゃう。節子、それ裏やない、表や。

 

まあその辺はどうでもいいだろう。娘がいたという事実だけで十分だ。シャルル・デュノアを疑う材料としては少し弱いが、数が出揃えば立派な武器となる。

 

もう少し調べないと全体像が掴めて来ない。次はデュノア社のラファール・リヴァイヴの事について調べようと入力を始めると、再び扉がコンコンと叩かれる。

 

「‥‥‥‥‥」

 

居留守を決め込んだ。こういう時は面倒なのが来ると決まっているのだ。ソースは自称生徒会長。

 

「あの、比企谷くん?」

「ああ、デュノアか。どうした?」

 

噂のデュノアがやってきた。

扉を開けると、少し困り顔のデュノアがそこに立っていた。スーツケースが重かったのか、少し手が赤い。

肩をモジモジとさせ、上目遣いでこちらを見つめてくる。マジ可愛い。いや、絶対デュノアに負けたりなんかしない!

 

「あ、あのね‥‥‥‥」

 

上目遣いには勝てなかったよ‥‥‥

 

「あの、部屋ここって言われたんだけど‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥は?」

 

いや、あの、えっと‥‥‥は?

 

───4───

 

とあるラボ内。

紫髪を揺らし、アリスチックなドレスをパンパンと払い、頭に機械仕掛けのウサ耳をピョコピョコと動かす女性は、その視線を一点に注いでいた。

画面の向こう、そこにいるのは一人の少年。IS学園の制服を着用した、目の腐った少年。

 

「うーん、この子がNo.52に選ばれたのかー、へぇ‥‥‥‥」

 

No.52と書かれたファイルが開かれる。

様々なデータと、それを纏めたレーダーチャートが表示される。チャートの「自我」と書かれた数値が理論値を突破している事に気付き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あのゴーレムを一人で倒すなんてね‥‥こんなに面白い子は初めてだよ」

 

その声色を例えるなら、全てを飲み込む大蛇。どれだけこちらが抵抗しようが丸呑みにする、“絶対”を感じさせる、背筋をそおっと撫でられたかのような恐怖と安心感。

瞳は爛々と輝き、舌舐めずりをするその姿は、もはや“兎”とは言えないだろう。

 

「ここまで興味をそそられたのは本当に久しぶりだよ。退屈な下らない世界だと思ったけど、案外捨てたもんじゃないねー」

 

彼女の思い描く未来に、四人以外の人間はいらない。だが、ここまで面白い、遊び甲斐のありそうな人間がいるのなら、少しは考えを改めてもいいかもしれないと思ってしまう。

 

電子キーボードにカタカタと何かを入力すると、ガレージに眠るようにして佇むISが、目覚めたように立ち上がる。

 

「この子は一機しか作ってないけどいいよね?どうせオリジナルじゃないし」

 

鷹の爪ように鋭い、二つの白眼が光を放つ。錆び付いたようにみえる身体をギシギシ、ミシミシと鳴らし、ゆっくりと浮遊してゆく。

 

「くれぐれも、私を失望させないでよ、はーちゃん?」

 

ラボの天井が開き、青銅色のISが、巣から飛び立つ雛のようにして飛び出して行った。

そこには、天災と呼ばれた兎だけが残された。

 




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