やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。   作:AIthe

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一応はチェックを入れているつもりなのですが、誤字脱字等ありましたら指摘をお願いします。


それでも、比企谷八幡は立ち上がる

結局俺は早退し、寮の自室で一人反省会を開く羽目になった。苛立ちと後悔の念が俺を襲い、それから逃げるように布団に潜り込む。

確かに俺は自分でもわかるほどにイライラしていた。あまりの環境の変化に耐えきれなかったのかもしれない。そういう意味では、あの金髪クロワッサンには悪い事をした。

だが、それと家族を馬鹿にした事は別だ。多分、俺がイライラしてなかったとしても、家族を馬鹿にされれば怒っていただろう。

だから、俺は俺自身に失望していた。自分の心の強さには自身があったのだが、所詮はそれも俺の大嫌いな“上っ面”でしかなかった。自分がどれほど薄っぺらい人間かが、嫌という程わかってしまう。

早く家に帰って、カマクラでも抱いて小町と話をしたい。あの俺の唯一の居場所を、俺から奪わないで欲しい。

 

「‥‥‥ん?」

 

ボストンバッグの中から、ケータイの振動音が聞こえてきた。ゴロゴロと転がり、のそーっとした動きで携帯を取り出す。着信はスパム‥‥じゃなくて由比ヶ浜だった。電話番号なんて教えたっけ?

 

「はい、もしもし。」

「も、もももしもしヒッキー!?」

「声でけえよ、どうした?」

「ヒッキー元気かなーって。」

 

こんな時でも、由比ヶ浜結衣は素直だ。素直な女の子ってのは素敵で、魅力的だ。こいつも、俺にはないものを持っている。

 

「ああ、ぼちぼちってトコだな。」

「そ、そっか。ほ、他の女の子に手出したりしてないよね!?」

 

なにこの子無自覚に彼氏に言う台詞見たいなの口走ってるの女の子ってこわい。

 

「ふっ。初日から机で寝ているエリートぼっちの俺には関係のない話だな。寧ろこっちが話しかけてもクラスメイトが後ずさりするまでである。」

「ヒッキーマジキモい‥‥‥」

 

罵倒された。うわぁ、グサっときたわー(棒)。

 

「俺がキモいのなんて常だろ。」

「つ、つね?」

「いつもって意味だ。やっぱり由比ヶ浜はアホの子だな。」

「アホの子じゃないし!ヒッキーキモい!」

 

自然と笑い声が出る。俺が求めていたのはこれだったのかもしれない。俺は、奉仕部が、あの二人の事が───

 

「ねえ、ヒッキー。」

「‥‥‥どうした?」

 

由比ヶ浜の声色が、突然真面目なものになる。そして、彼女の口から衝撃的な告白を聞く事になる。

 

「い、一年生の時、ヒッキー車に轢かれちゃったじゃん?あの時の犬、私の犬なの。」

「‥‥‥‥‥‥」

 

高揚していた俺の思考が一瞬にして冷める。

視界がぐるぐると回る。ズキズキと胸が痛み、ケータイを握る手に力がこもる。

 

「その、今まで言い出せなくて‥‥‥ごめんね?」

 

冷え切った俺の思考は、俺にとって最善の───最悪の判断を下す。

 

「由比ヶ浜。」

 

俺は、あの奉仕部の関係が好きだった。葉山のグループのような、仮初めの何かで固められた、ハリボテではないと信じていた。

 

「もう、俺に優しくしなくていい。」

 

だが、現実はそうじゃなかった。優しい由比ヶ浜も、負い目を感じているから、こんな俺に優しくしてくれたんだ。

 

「負い目を感じているなら、もう気にしなくていい。」

 

あの関係は全部、全部───偽物だったんだ。

 

「もう、俺に話しかけなくてもいいんだ。」

 

俺の手が、力なくだらりと垂れ下がる。ケータイから響き続ける騒音を電源ごと切断し、その辺に放り投げた。

 

脳裏に、一年前の光景が映る。

飛び出す犬。それに反応しきれない黒光りする高級車。追いかける飼い主。ブレーキをかける車。走り出す俺。

 

もう、何も考えたくない。俺はそのまま、朝方まで眠りについた。

 

───2───

 

「お兄ちゃん‥‥‥どうしたんだろう‥‥‥‥‥」

 

突然ですが、小町はお兄ちゃんが心配です。あの一人じゃダメダメなお兄ちゃんが、IS学園でやっていけるわけがないのです。

気が気じゃなくなってしまったので、小町は電話をかける事にしました。

でも、何回かけてもお兄ちゃんは電話に出ませんでした。何時もなら、小町がドン引きする位に早く出てくれる筈なのに‥‥‥

結局、小町が待っていても電話はきませんでした。

 

もう諦めて寝よう。そう思い布団を被ると、居間から電話の音が鳴りました。小町は急いで下に降りて、電話に出ました。

 

「もしもし、こちら比企谷です。」

「夜分に失礼します。八幡君の担任の織斑と申します。こちらは「お、お兄ちゃんになんかあったんですか!?」

「お、落ち着いて下さい。妹さんですか?」

「は、はい。小町は妹です。」

 

織斑と名乗る担任の先生からの連絡でした。心配と動揺が入り混じって、小町の心臓はバクバクです。

 

「ご両親はいらっしゃいますか?」

「いえ、もう寝ちゃいました。」

「そうですか‥‥‥では、ご両親に伝えて欲しいことがあるのですが、よろしいですか?」

「あ、メモとるんで待ってください‥‥おっけーです。」

「はい。実は───」

 

話を聞くところによると、ゴミ‥‥‥お兄ちゃんは早速クラスの子と喧嘩してしまったそうなのです。担任の先生は、お兄ちゃんが入学試験を受けていないのでどれ程上手くISが使えるのかを見るいい機会だと思い、ISの模擬戦で決着をつける事に決めたそうです。

でも、平塚先生からお兄ちゃんは頑張らない人間だと聞いているから、どうすれば努力するの?みたいな内容でした。

 

「お兄ちゃんが努力‥‥‥ありえませんね。」

「そうですか‥‥教師が一方的に問題を押し付け、やれと言うだけでは何も身に付きませんし、私も教師として責務を果たしているとは言えません。生徒にやる気を出させるのも教師の務めなのは重々承知をしていますが、八幡君の置かれている状況は世界に二人だけの男性IS適性者という、世間から注目を浴びざるおえない状況です。それに、IS学園は実質女子校なので気苦労も多いと思います。できればご家族の方から助言をいただき、可能な限り八幡君に望ましい形で環境を整えてあげたいと考えていたところなのですが‥‥‥」

 

お兄ちゃんが頑張れる方法。小町のちょっとだけ足りない頭をフル回転し、考えてみました。お兄ちゃんがどんな人間かという事は、小町が一番良く知っているのです。

そして、一つの案が思いつきました。

 

「そうですか‥‥あ。明日、お兄ちゃんと連絡を取る事はできますか?」

「はい、学園内の携帯電話の使用は許可されていますので、登校前の朝や放課後なら問題ありません。」

 

お兄ちゃんやっばり無視してたんだ。ポイント低いなぁ‥‥

 

「ですが、こういう話はご両親に「いえいえ、小町はお兄ちゃんの事を一番分かっているのです。お兄ちゃんの問題は小町におまかせください!そうだ、説得してダメだったら小町に電話して下さい。あ、学校行かなきゃいけないんで、朝八時くらいまでにお願いします。電話番号は───」

「え?あ、はい、はい。確認ですが───ですね。分かりました‥‥‥もしお願いするときは、よろしくお願いします。」

「いえいえ。うちの兄が迷惑かけてすいません。」

「いえ、八幡君も急な環境の変化に戸惑っているだけだと思います。勿論、IS学園教師一同は八幡君の事をできる限りバックアップするつもりではありますが、本人も高校生という多感な時期でありますので‥‥‥ご家族の方も色々とご苦労がおありとは思いますが、できる範囲でよろしいので気にかけてあげてください。ご両親にもよろしくお伝えください。」

「はい、分かりました。じゃあ、よろしくお願いします。失礼しまーす。」

 

社交辞令を済ませて、受話器を元の場所に置きます。

小町はケータイの音量を最大まで引き上げ、不機嫌モード全開でドテドテと部屋に戻りました。

 

───3───

 

由比ヶ浜結衣は焦ってしまった。話すべきタイミングと、その内容。比企谷八幡という人間への理解が足りず、間違えを重ねてしまったのだ。

翌日、彼女は奉仕部に向かい、雪ノ下雪乃に相談した。

 

「ゆきのん。私はどうすればいいのかな‥‥‥‥」

「由比ヶ浜さんは悪くないわ。悪いのはその車であって、貴女ではないもの‥‥‥」

 

何故か、雪ノ下の声が暗く沈む。

 

「比企谷君も色々あって疲れているのでしょう。今度、私から連絡を取ってみるわ。」

「ごめんねゆきのん‥‥‥‥」

「いえ、比企谷君の矯正は奉仕部の活動の一環なのよ。だから、貴女が謝る必要はないの。」

 

二人しかいない部室に静寂が訪れる。ぽっかりと空いたその椅子は、どこか寂しさを漂わせる。

 

「そ、そういえばゆきのん。ヒッキーなにやってるんだろうね?」

「エロ谷君はきっと女の子に鼻を伸ばしてるに違いないわ。」

 

由比ヶ浜結衣は、その沈黙を破ろうと懸命に話を続ける。

それに呼応するように、雪ノ下雪乃は二人の関係の修繕について思考する。

 

きっと、彼らにはこれからも間違い続ける。それは悲しくて、痛くて、辛いものなのだろう。それでも、彼らはそれに手を伸ばそうとする。例えそれが最善とはいえず、この関係を壊してしまう危機に陥ったとしても。

 

「ヒッキーはへんたいだからなぁ‥‥今なにやってるんだろ‥‥」

「そうね。気にならないといえば嘘になるわ。あの男が女子校もどきに送り込まれた絵なんて想像できないでしょう?それに、あの友達いない歴=年齢の眼をした彼が上手くやっていけるとは思えないわ。」

「ヒッキー本当はいい人なんだけどな‥‥‥‥‥ちょっとキモいけど。」

「ちょっとどころじゃないわよ。世界‥‥‥いや、宇宙規模ね。」

 

だから、由比ヶ浜結衣は彼がいない奉仕部を辞めることはない。いつか、想いを彼に伝えられると信じて。

 

───4───

 

現在朝の五時。

眼が覚めると、隣のベットに寝間着姿の女生徒が寝ていた。一人部屋じゃない事に絶望した!確かにベットは二つあったけどほら、男子だし?間違いが起きないように一人部屋でもいいじゃん?

それにしても、本当にホテルのような部屋だ。なんというか落ち着かない。壁掛け時計もなんかオシャレ(笑)だし、ベットもふわふわだ。目の前には織斑先生が立っているし───は?

 

「どうしておりむぐっ!?」

「静かにしろ、ちょっとこい。」

 

先手を取られた。圧倒的‥‥敗北感っ‥‥‥!

織斑先生に睨まれコクコクと頷くと、首根っこを掴まれて外まで連れ出された。首痛い死ぬ痛いマジ痛い。戸塚助けて!

 

「ここまでくれば大丈夫だな。」

 

俺の首は大丈夫じゃありません。眼だけじゃなく首も濁ります。でも俺のソウルジェムは濁らない!ダイヤモンドも砕けない!

 

「おい、聞いているのか。」

「すいません全然聞いていませんでした。」

「‥‥もう一度言うぞ?昨日の事だ。」

「ああ‥‥それがどうかしたんすか?」

 

せっかく忘れていた事を思い出し、気分が悪くなる。前言撤回。ソウルジェム濁るわ。魔女化待った無しですわ。

 

「ほら、比企谷。お前って入学試験受けてないだろ?だから無理矢理模擬戦という形で解決させてもらった。」

「あ、まあ、はい。」

 

やだこの先生最低。なにその無理ゲー。人生っていうリセットできないゲームくらい無理ゲー。あれ初期ステにばらつきがありすぎだろ。俺の眼のステータスどうにかしろよ。修正はよ。あと詫び石はよ。

 

「だから、オルコットを倒してくれ。」

「なんか話飛んでません?」

「いやぁ、あいつ入学早々日本を敵に回すような発言をしてな。あれでも少しは丸くなったんだが、もう少し落ち着かせたいのでな。」

 

あれより気性が荒いとか最早ヒステリックの域だろ。おんなのここわい。

 

「はぁ、それを俺に?」

「ああ。個人的にも弟を馬鹿にした事が気に食わんのでな。」

 

うわぁ、この人ただのブラコン教師じゃないですかやだー!!!

 

「そうですか。ですが、お断りさせて頂きます。」

「‥‥‥‥そう言うと思ったよ。」

 

俺はやらねばならない仕事は迅速に終わらせて全力で休むが、やらなくてもいい仕事は絶対にやりたくない。あれ?俺にしては凄いまともな考えだ!

 

すると、織斑先生はおもむろにポケットを弄り、ケータイを取り出した。そして、ぽちぽちと画面に触れて電話をかける。

 

「もしもし。はい、担任の織斑です。朝早くすいません。」

 

不覚にも、この先生敬語使えるんだと感心してしまった。くやしいでも感じ(ry

 

「はい、よろしくお願いします‥‥‥ほら、比企谷。」

 

渋々電話を替わる。さて、どんな人と電話する羽目になるのか。考えるだけで胃がキリキリする。

 

「もしもし!ゴミいちゃん!?」

「ファッ!?ここここ小町!?」

 

電話の相手はマイスゥィートシスター小町だった。あ、ちなみにマイスウィートエンジェルは戸塚な。これだけは絶対に譲れない。

てか織斑先生なんで小町の電話番号知ってるんだ怖えよ。先生!プライバシーが息してないです!

 

「昨日なんで無視したの?」

「無視?なんの事だ?」

 

ウーン、ハチマンワカンナイ。

 

「電話でなかったでしょ!小町は激おこぷんぷん丸なのです!」

「ああすまん、電源切ってたわ。」

「もう、ゴミいちゃんは‥‥‥」

 

小町の大きなため息。ため息つくと幸せが逃げるんだぜ!でも俺がため息をつくと女の子も逃げるんだぜ‥‥‥

 

「そういえばお兄ちゃん。今度模擬戦やるんだって?」

「一応な、まあ勝てるわけなんてないけどな。」

「ふーん‥‥‥努力しようとも思わないの?」

「ああ、働いたら負けだからな。」

 

働きたくないでござる!働きたくないでござるぅ!

 

「どうせお兄ちゃんの事だから、負けてもいいと思ってるんでしょ?」

「もち、さすが我が愛しの妹だ。」

「でも、負けたら小町は悲しいな‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

そう言われるとぐうの音も出ない。ぼっちとしての俺の信条は、「押してダメなら諦めろ」だ。だから、基本的には諦める方針で行きたい。

だが、ぼっちは誰にも迷惑をかけず、誰も傷つけず、全ての責任を自分で背負う。それこそ、比企谷八幡が比企谷八幡である所以であるのだ。

だから、小町が傷ついてしまうと言うならば、俺は諦める事ができなくなる。諦めるとなれば、俺は自分自身に嘘をつく事になる。

 

小町は俺の事をよくわかっている。口八丁で言いくるめようとしても、それは無意味なのだ。

 

「だから‥‥‥小町の為に、世界でいーちばん強くなってくれない?」

「おいちょっとまて。」

 

シリアスになるかと思ったら全部ぶっ壊しにきたよこの子。世界一とかナチスの科学力かよ。

 

「えー!小町の言う事が聞けないの?」

「そう言われてもな‥‥‥」

 

昨日の事を思い出す。あの金髪クロワッサンが小町を馬鹿にした事を。

俺は、俺自身が馬鹿にされても構わない。だが、俺の家族を馬鹿にする事だけは絶対に許さない。

それに、俺は内心努力は必要だと分かっていた筈だ。世界で二人だけの男性IS適性者。そうなれば、いつどんな危険が自分に迫ってもおかしくない。

だが、俺はその問題から目を背け、逃げようとしていた。いつも通り、いつも通りと自分に言い聞かせ、努力をしない理由にしようとしていた。

そんな俺に、小町は行動する理由を与えてくれた。だから、俺は───

 

「‥‥可愛い妹のお願いなら仕方ないな。」

「うんうん。可愛い妹のお願いだもんね。」

 

す、少しだけなんだからね!べ、別に小町のために努力するとか、全然そんな訳じゃないんだからね!




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