リリカル・W・ボーイ   作:アドゥラ

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無印ラスボス、プレシアさん登場。


デビル・A・クレイジー

「や、やっちまった…………」

 

 アクアは時の庭園に侵入し、開口一番のあとで手を地面につき、落ち込んでいた。

 何故こうなったかを語らなければいけないだろう。

 三行で。

 

「プレト置いて来ちまった……」

 

 一行ですむほどに単純だった。

 

 ◇◇◇

 

 その後、気を取り直して再び潜入ミッションの準備に取り掛かる。

 ダンボールは無いが、とりえずハンドウは持って来ていたのでアクティブモードで起動する。入り口を捜すのもいいが、見つかったらマズイ、だが……壁を壊しても見つかるだろうし、だったら壁を壊して一直線に進もう。

 

「実戦で使うのは初めてだけど……ブレイク・シンセサイズ!」

 

 対象となる物質(この場合は壁)の情報をもとに、大気中の物質を取り込む。

 取り込んだ物質を内部で対象の物質を溶かす成分へ合成。

 

「Gセット!」

 

 合成したものを弾丸として装填。

 ロックオンからのぉ……

 

「シナプス弾撃!!」

 

 発射!!

 

 

 ◇◇◇

 

 

「フェイト、母さんを悲しませないで頂戴……」

「――」

 

 プレシア・テスタロッサは目の前の少女――フェイトに向かってムチを打ち付ける。フェイトの使い魔であるアルフはプレシアの魔法によりその身を焼かれ、横たわっていた。

 幸い、アルフの息はあるが、フェイトにはこの状況が理解できなかった。

 母に喜んでもらいたいだけだった。

 笑って欲しかった。

 ケーキを一緒に食べたかった。

 頑張って、ジュエルシードを集めた。

 

「たった、4つ。4つよ。いくらミッシングリンクや、他の探索者がいたといえど少なすぎるわ。ジュエルシードの総数は21個。時空管理局もきたようだし……これでは、未回収のものは無いでしょうね」

 

 そう、母の望むものを、願いをかなえられなかったのだ。

 だったらこれは自分が受けるべき罰なのだろう。

 

 

 そして、またムチを打ち付けられる。

 痛い。でも、体より心が痛い。

 分からない。自分がわから無くなる。

 自分が死にそうになっても母は助けてくれないのだろうか?

 自分はあの時死ぬはずだったのだろうか?

 

 ――だが、生きている。

 そうだ、助けられたのだ。

 

 最初はただ怖い生き物だと思った。

 次はよく分からない人だとも思った。

 さっき会った時は、何で助けてくれたのか不思議だった。

 

 自分でもなぜ彼のことを思い出しているのかわからなかった。

 

 ただ、不思議と『同じ匂い』がしたのだけは覚えている。

 

 

 

 そうして、ムチが何度もフェイトの体に打ち付けられた。

 フェイト自身、何十、何百と数える気力も無い。

 どのくらい時間が経ったか分からない……だが、望んでいないはずの助けが来た時、フェイトには自分の感情が分からなかった。

 

 

「で、アンタを倒せばとりあえず、終わりってことだなプレシア・テスタロッサ」

「……子供が何の用かしら?」

 

 

 ――ああ、やっぱり来ると思った。

 フェイトは何故かそう思った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 時はアクアが時の庭園内部に侵入したところまでさかのぼる。

 アクアはシナプス弾撃で壁を壊しつつ中に入るも、内心ビクビクしていた。

 

「っていうか、内装趣味悪いな……完全に魔王の城じゃないか」

 

 いや、本当に魔王的な何かが出てきたらどうしようと思っているだけだが。

 

「ん……こっちからなんかお宝のにおいがする」

 

 そう言って、壁を壊して進む。弁償しろとか言われたらどうしようか、話し合いに持ち込めなくなるかもしれないけど、向こうもやっていることは泥棒だし、まあ何とかなるかの精神で突き進む。

 

「さてと、なんか資料室っぽい部屋に出たな」

 

 めぼしいのは無いかなぁ……そう思ったが、ミッド語で書かれているので読めない。

 いや、前にハンドウに翻訳魔法を入れてもらったのを思い出した。

 ユーノにはしばらく頭が上がらないかもしれない。

 

「さてと、なんていうか……俺を作った研究所の本に似ている。いや、ミッド語にしただけな気もするな……一部は写真とかも同じだぞ?」

 

 嫌な予感がする。いま思えば、フェイトを最初に一目見たときから他人の気もしなかったし、何故か最初に戦ったときもかなり話しかけていた。

 彼女との、嫌な共通点が出てきそうな気がする。

 アクアはまだ自覚していない。それがリミピッドチャンネルによる「場の記憶」を読み込むことによる、事象察知、つまり獣以上の直感であることを。いや、第六感と言ったほうが正しいだろう。

 

「……なんだよ、これ」

 

 そして、その第六感が指し示すもの……プレシア・テスタロッサの手記だった。

 あけるな。戻れなくなる。これを読むと戻れない。

 だが、アクアは進んだ。

 

「研究記録と、いや……日付はかなり前から続いている。テスタロッサってフェイトの母親なのか?」

 

 読んでいくと、どうやら一人娘のアリシアが死んだところから始まっているようだ。夫とはすでに別れているらしい。

 フェイトは再婚してから生まれた子供か? そう考えているが、なんか違う気がする。

 そこで、アリシアの写真と思わしきアルバムが近くにあるのを発見した。

 

「ウソ、だろ?」

 

 その写真はフェイトにそっくりの少女。アリシアが写っていた。

 

「なんだよ、なんだよこれ!?」

 

 これ以上進むべきではない。心ではそう言っている。だが、もしも自分が考えたとおりのことだったならば、自分自身の存在を持っプレシアに言わなくてはならないかもしれない。

 

「再婚、じゃないよな……いくらなんでもいき生き写しになるわけがない」

 

 プレシアも一緒に写っていることから、アリシアの髪の色は父親からの遺伝だろう。

 そうすると、フェイトは何故アリシアにソックリなのか。

 

「……やっぱり、そうなのか」

 

 一目見たとき、何かが心に引っかかっていた。初めて会ったのにもかかわらず、彼女には多くの言葉をかけていた。

 ユーノとはその場の成り行きで一緒に行動して打ち解けていった。

 高町は天敵と直感的に思ったからあまり会話していないが、それなりに信用はしている。

 だが、フェイトとはいきなり戦闘したのにかかわらず、かなり会話していた。

 非合理的だ。自分の手の内をさらすようなことだ。

 

「だけど……」

 

 フェイト・テスタロッサ、その正体は……

 

「使い魔を超える人造生命と不老不死の研究『プロジェクトF.A.T.E』、その試作体か」

 

 つまり、自分と同類。いや、元々の研究はおなじものだろう。

 

「そういえば、俺がまだ培養液の中にいた頃、主任が研究者達に異世界人には負けるなよって……そうか! フェイトが生み出された研究と根っこが同じならここの資料も、研究所と同じ物があっても不思議じゃない。いや、もとのクローン技術の出発点から考えると、人を超えた人を生み出すってのは同じ。

 なら、前にポンドゥスの重力球を作る音が聞こえたのは……」

 

 俺ほどじゃないにしろ、フェイトは人から少し外れている。いや、十分人間の範疇だが、

 

「手記の通り、プレシアがアリシアの蘇生を目的としているのならフェイトは……プレシアが望んだ命じゃない」

 

 そこまで言って、自分の中に、プレシアに対する怒りが生まれていることに気がついた。

 思い出すのは、自分を生み出した研究者達の顔。

 彼らは、禁忌を犯して生み出した自分を生態兵器ではなく息子としてみていた。

 

「……子供は生まれてくる場所を選べない。親も生み出す子供を選べない。心は育っていくなかで作られるんだよ。だけどだ、子供に生まれた責任はないけど、親は生み出した責任はあるんだよ!!」

 

 そのまま、横の壁を殴る。今はただ、何かにムカツク。

 

「だけど、この研究成果が正しいなら……フェイトのことを失敗作っていうのは間違いだぞプレシア」

 

 使い魔ってのはよく分からないが、もしそういう研究がもとになっているのならフェイトがアリシアの代わりになることなんてありえない。

 いや、死んだ人をそのままの形で生き返らせるなんて無理だ。

 

「……死者、せめて詳しい話を誰かに聞けたらな」

 

 そこで、頭の中で何かのスイッチが入った気がした。

 

「え?」

 

 いつの間にか目の前に、フェイトにソックリだが少し小さい少女と、猫耳と尻尾を生やした女性が立っていた。いや、浮いているほうが正しい。

 だけど、足が無い。

 

「……ああ、そうか」

 

 リミピッドチャンネルに流れ込んでくる声。

 アリシア・テスタロッサとプレシアの使い魔リニスの声。

 そして、あの悪魔が渡したものがなんなのか。

 

 ここで彼女達の言葉を語るのは違う。彼女達の言葉はプレシアに届けなくてはならない。

 何があったのか、彼女達はプレシアがフェイトを生み出すことになった出来事を教えてくれる。だが、それを頭の中で反芻する時間はない。

 自分は届けるのだ。

 

 リミピッドチャンネルにフェイトの声が届いた。

 

「今、いくから」

 

 この部屋はパンドラの匣だったのだろう。あけたことでフェイトにとっての絶望とも言える事実を見つけてしまった。彼女もすぐに知ってしまう。

 だけど、希望だって残っていた。

 プレシアにまた間違えさせるわけにはいかない。

 

 幸い、ジュエルシードは必要個数ではないのですぐには行動しないだろう。

 今ならまだ、止められる。

 

 ◇◇◇

 

 そしてアクアは、彼にしか見えない案内人によって連れられる。目の前には倒れるアルフと、鎖で宙ぶらりんになっているフェイト。

 体はムチで打たれたと思わしき傷がたくさんある。

 そして、プレシアの手の中のムチ、いやあれはデバイスか。

 

「……で、貴方みたいな子供が何のよう?」

「まあ、そこのお姫様を助けに来たってところかな」

「物好きねぇ……こんな子の何処がいいのか」

「んー俺にもよくわかんないけど、とりあえず同じ境遇だから、放っておけないんだよ」

 

 そこで、プレシアの表情が変わる。

 

「ベターマン、って言えば分かる?」

「……そう、完成していたのね」

「やっぱり知っているんだ」

「で、貴方はフェイトに同情したってわけ?」

「生まれ方は似たようなものだけど……親には恵まれていたからね、同情なんて感情を向けるべきじゃない。ただ、お前には文句を言いたいけど」

 

 そこでプレシアは狂ったように笑う。

 フェイトはまだ意識があるのか困惑した表情を浮かべるが、あの目はまだ母を信じている。いや、潜在意識に残っているアリシアの記憶を見ているのだ。

 

「……母さん?」

「貴女が私を母と呼ばないで頂戴」

 

 その言葉は、流石に見逃せなかった。

 ラティオの実を食べ、プレシアに肉薄する。

 

「ッ、随分なご挨拶ね……」

「俺を作った人たちは、少なくとも俺のことを自分の息子と思っていた! お前にはフェイトを生み出した責任があるんだぞ!!」

「――ホント、むかつくわね。こんな子のこと愛してなんかいない!」

 

 プレシアは激情に任せて言葉を続ける。

 フェイトには酷だ。だが、この言葉を引き出さないと彼女達の言葉も届けられないし、フェイトがアリシアのことを知らなければ、彼女は立ち上がれない。

 

「母さん、なんで、ねぇ」

「フェイト、貴女はね――」

 

 ◇◇◇

 

 語られたのはおおむね手記と同じ内容。

 自分がアリシアとして生み出したのがフェイト。

 だが、アリシアとは違う。だからその代わりの人形。

 だけども失敗作。アリシアじゃない。

 

「ホント、最低だな」

 

 プレシアの瞳には正気の色は宿っていない。

 饒舌に話してくれたからフェイトとアルフは助け出せた。

 

「なんで、助けたの? なんでこんなことを知らせたの? なんで、なんで……」

「よく見ておけ、今からプレシアの本音を引き出す」

「――え?」

 

 アリシアとリニスの言ったことが本当なら、プレシアは間違えているだけだ。

 

「アルフだっけか? 起きているんだろ」

「……なんだい、喋れても動けやしないよ」

「いや、意識が有るならそれでいいんだ。いいか、よく見ておけよ……もう二度と会えないだろうから」

 

 魔力を放出していく。あの悪魔が俺に渡したのは……悪魔を呼び出す力、いや、悪魔の力の一部を引き出すことの出来る何かの術だ。

 

「死者を呼び出し、回答を告げるもの、その御手を今ここに

 魂をここに、名はアリシア・テスタロッサ! 名は使い魔リニス!

 ささやくものムルムル! その力の一端をここに!」

 

 俺の魔力を用いてそこにあった魂が現世に形もって現れる。

 今の俺じゃあリミピッドチャンネルで捉えた霊を力の一端で具現化するぐらいが限界だけど、今はこれで十分だ。

 

「あ、あ……アリシア」

 

 

『そうだよ、ママ……ううん、このバカ親がぁああああ!!』

『フェイト……大きくなりましたね。それはそれとしてプレシアの大馬鹿者』

 

 なんか随分とぶっ飛んだ性格だし、コントロールできるわけじゃないからアリシアがプレシアを殴り飛ばしているが。

 

 




今回の用語
『ムルムル』
ソロモン72柱の1柱。
アクアは今のところ、力の一端を引き出しただけだが、本来なら死者を呼び出して強制的に回答させたり、召喚者に哲学などの知識を与えたりする。

アクアは死者に回答させる力のみを引き出して使用した。
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