スーパーストリートファイターCROSS:StrikerS EDITION   作:拳を極めし者

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ストリートファイターもリリカルなのはも大好きです。
なので両作品とも敬意を払って書いていく所存です!
それでははじまりはじまり〜〜


序章
第一話「邂逅 -格闘家と少女-」A


【スバルside】

[新暦75年4月 ミッドチルダ 第8空港近隣 廃棄都市街]

 

 あたしの名前はスバル・ナカジマ。 元気が取り柄、アイス大好きの15歳!

 訓練学校からの相棒・ティアとコンビを組んでます!そして今日は特別な日! 相棒と共に試験を受けるんだ!だからあたしは来たる時に備えて準備運動中!

 ステップを踏んで軽いジャブから始まり、肘打ち、フック、ストレート、アッパー!

 

「ふっ!」

 

 気分が乗ってきた!正拳突き、膝蹴り、上・中・下段の回し蹴り!

 

「はっ!」

 

 ローラーブーツを走らせながらのシャドーファイト!

 

「はあっ!」

 

「スバル、あんまり暴れてると試験中にそのオンボロローラーが逝っちゃうわよ」

 

 彼女はティア。本名はティアナ・ランスター。ツインテールの似合うオレンジ髪の美人で16歳! ティアとの出会いは訓練学校でたまたま寮で同室になったのがきっかけで…それから色々あって意気投合したんだ!

 

「うえー…。ティアー?やな事言わないでー?」

 

 準備運動中、銃のメンテナンスをしているティアとの何気無い会話。そういえばこのローラーブーツも随分くたびれたなぁ。

「あの日」から誓いを立てて、急いでブーツのパーツを買って、基本を習った後は自分から遠ざけていたシューティングアーツをギン姉に叩き込んでもらったんだっけ。

お金が無かったからパーツだけ買って自作して以来、一度も買い替えてないのによく保ってるなぁ。まあ大事に使えば愛着だって湧いてくるし、長持ちはするもんだし、当然かな!

 

 我ながら物持ちの良さにちょっと誇らしさを感じる。そしてブーツの思い出と共に「あの時」の事を思い出す。

 

 小さい頃のあたしは本当に…弱くて、泣き虫で…悲しい事とか、辛い事に…いつもうずくまって…ただ、泣く事しか出来なくて…。

 そんなあたしが「あの時」…生まれて初めて、心から思ったんだ。

 

 

 

【回想】

[新暦71年4月29日 ミッドチルダ 臨海第8空港]

 空港で大火災が発生。空港の至る場所で炎が吹き出て爆発が起こっている。

 あたしは火災の前に家族とはぐれてしまい、迷子になっているうちにどうやら爆風で吹き飛ばされて気絶していたらしい。意識を取り戻した時、辺りにはあたし一人しかいなかった。

 

「おとうさん…おねえちゃん…」

 

 いつ崩れるか分からない壁や天井、そして今にも襲い掛かってきそうな激しい炎に囲まれた空港の中、孤独・不安・恐怖で今にも泣き崩れそうな自分を、涙を流しながらも家族を呼ぶ事で必死に鼓舞しながら足を少しずつ前に進める。

 

「はあ、はあ…」

 

 そうやって歩いていると、急に気持ちが悪く、胸が痛くなってきた。あまりの苦しさに膝を突いて胸を押さえる。

 

「ここは…どこ?」

 

 気付いたらあたしは何も無い場所に、上も下も分からない謎の空間に浮いていた。

 ここが何処なのか、どうしてこんな場所に自分がいるのか、そんな事を考える間を与えず胸の奥から込み上げてくる気持ち悪い「何か」。

 

「ぐっ……」

 

 それは黒い…言葉では言い表せないほどに真っ黒。見ているだけで吸い込まれそうな気がするほどの暗黒だった。

 それは心の奥底から間欠泉の如く噴き出し、何色にも染まっていない空間を、あたしの胸の奥を、紙が水を吸うかの如く黒く染めていった。

 

「やめて…でてこないで…きえて…!」

『闘エ…壊セ…。修羅ノ如ク…悪魔ノ如ク…鬼ノ如ク…』

 その暗黒からあたしを闘いへと誘う声が頭の中で反響して聞こえる。

 声の正体が何なのかは分からなかった。でもこれに染まり切ったらあたしがあたしでなくなる事だけはなんとなく分かった。

やだ…あたしはまだあたしでいたい。だからあたしはただひたすらに強く願った。

 

「きえて…きえろぉぉぉぉ!!」

 

 すると胸の更に奥底から幾つもの光が飛び出した。まるで漆黒の夜空に燦然と輝く星の煌めきのように。

 その光は一気に輝きを増して一体化し、奔流となって黒い「何か」をまるで鉄砲水のように押し流し、飲み込んで消滅させた。

 光の奔流は更に輝きを強め、あたしも飲み込む。あまりの眩さに反射的に目を閉じて腕で顔を覆った。

 

「………?」

 

 光が収まったところで腕を下げながら目を開けると、そこはさっき立ち止まっていた場所だった。夢を見ていたの?でもそれにしてはあまりにも現実味が…。

 何がどうなったのか訳も分からず呆然としていると突如後ろから衝撃が走り、気付いたら巨大な天使の石像の目の前に倒れていた。

あたしはまた爆風で吹き飛ばされて気絶して、地面に叩き付けられた衝撃で目を覚ましたみたい。

 

 体が痛くて立てない。火の勢いも強くなってきた。

もう我慢の限界だった。

 

「いたいよ…あついよ…こんなのやだよ…かえりたいよぉ…」

 

止め処無く涙が溢れ出し、心が張り裂けそうになる。誰か…誰か……

 

「だれか…たすけて!!」

 

 だけどそんなあたしを嘲笑うかのように不幸は折り重なる。立つ気力も失い自失するあたしは「ある音」に気付かなかった。それは先程の爆発で台座が破損した石像のひび割れていく音。爆発で傾いている上に10mくらいはある巨大な石像。台座が崩壊するのは一瞬だ。

 

「!?」

 

あたしに覆い被さる影に気付いて振り向いた時にはもう遅かった。

動けないあたしがこの恐怖から逃れるには石像から顔を背けてうずくまるしか無かった。

 

「(あたし…もうおわりなのかな…。しんじゃうのかな…。おとうさん、おねえちゃん…。ひとりぼっちはさびしいよぉ…)」

 

 石像が迫り来る一瞬でさえあたしは自分で動こうとせず、死の恐怖と孤独に震えるだけだった。そんな情けない自分が終わりの時を迎えようとしていた…と思ったらその瞬間…

 

「ひっ!」

 

変な色の光が頭上を通過したような気がした直後に破砕音が辺りに響き渡った。あたしは音に驚いて思わず甲高い悲鳴が漏れる。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 おかしい、石像が来ない。何が起こったの?恐る恐る石像のあった方向を振り返ると、そこには腰から上が消えて無くなっている石像が複数のピンク色の輪に包まれ、斜めに倒れかかったまま空中で動きを止めている。そして視線は自然とその先のある人物に向かう。

 

「よかった、間に合った…。助けに来たよ!」

 

そこには女性がいた。薄茶色の長いツインテール、その付け根に白いリボン、白を基調としたドレス風のジャケット。そして先端に赤い玉の付いた装飾の施された杖。

 両足から伸びている三対のピンク色の翼。

 その姿にあたしは凛々しさと頼もしさ、安堵を感じ、痛みも恐怖も忘れて見とれていた。

 

「(このひと…テレビでみたことある…。たしか…『エース・オブ・エース』の…)」

 

 これがあたしとなのはさんの初めての出会いだった。

 

「よく頑張ったね、偉いよ」

「…!!」

 

 そう言われた途端、堰を切るように涙が溢れそうになる。でもそこへ間髪入れずに男性の声が聞こえてきた。

 

「やはりなのはか!その様子だと二人とも無事のようだな!」

 

 声に驚いてその主の方向に振り返ると男性が走ってきていた。

 

「(だ、だれ!?)」

 

 黒い短髪に赤い鉢巻、袖が引きちぎられたようになっていて肩が露出する白い道着に見たこともない字の書かれた黒帯、赤いフィンガーレスグローブ、裸足。明らかに異様な出で立ちに思わず身体が強張る。

 それに加えて大きくて逞しい筋骨隆々な体躯は威圧感があってちょっと怖かったけど、その精悍な顔と場慣れしたような雰囲気で直ぐに安心しちゃった。これがあたしとこの人の初めての出会いだったんだ。

そして気のせいだったのかもしれないけど…その男性の身体から「何か」が溢れ出ているように見えた。とても力強く、暖かい「何か」が…。それを見た途端、よく分からないけど直感的に悟った。

 

「(さっきのへんないろのひかり、すごいおと、うえのないせきぞう…。もしかして…このひとがやったの? それになんだろう。このひとをみているとむねがドキドキする)」

 

 興味が尽きない眼差しで男の人を見るあたしを尻目になのはさんが口を開く。

 

「リュウさん!?どうしてこんな場所に!?それにその傷は!?」

 

 男性の名前はリュウと言うらしい。その人の胸には斜めに切れ目の入った大きな切り傷が見える。

 

「大した傷じゃない、気にするな!それよりも…」

「うん、先ずは脱出だね!」

 

 どうやら二人は知り合いみたいだ。でも時間が無いので挨拶も状況説明も無しに二人は動き出す。

 

「もう大丈夫だからね。安全な場所まで…一直線だから!」

 

 なのはさんはそう言いながら杖を上へ向けた。杖の先には天井。何をしようとしているのかあたしには分からなかった。

 

《上方の安全を確認》

 

 そこへ徐になのはさんの杖の赤い玉が点滅して声を出した。 同時にあたしに向けて手がかざされた瞬間、あたしの周囲をドーム状でピンク色の光が包んだ。これから行う行動がそれだけ危険なのか、防御魔法であたしを守るみたいだ。

 

「『あれ』をやるのか。しかし結界を張りながらでは気が分散して十分な威力が出ないんじゃないか?だから天井は俺が…」

「私、昔よりずっと強くなったんだよ?心配しないで任せて!」

 

リュウさんが言いかけたところでなのはさんが割り込む。

 

「…そうか。ならお前は『あれ』と同時に結界を解け。俺は穴が空いた瞬間、この子を連れてそこから地上に飛び出す」

 

 なのはさんの力強く自信に満ち溢れた言葉に、リュウさんは納得して全て任せたみたい。なのはさんもそれを察すると表情を変えて無言で即座に振り返り杖を前に構える。するとなのはさんの足元にピンク色の魔法陣が現れた。

 

《ファイアリングロック、解除します》

 

「一撃で地上まで抜くよ!」

 

「え…?」

 

 天井は決して柔らかくない。しかも天井だけじゃなく、この空港は破壊を防ぐ為に計算上では質量兵器でも全壊しないと言われている特殊な合金を仕込んでいる上に、簡易ながらもAMF(アンチ・マギリンク・フィールド…空間内で発生する魔法を無効化するフィールド系防御魔法)処理を施してあるこの空港の天井を…一撃で?

 

 なのはさんが叫ぶと間髪入れず杖から大きな薬莢が二本飛び出すとその瞬間、杖はまばゆい光を放って先端の形状が変化した。

 装飾は更に大きくなり、装飾の繋ぎ目に三本の色の翼が生えた。 その後再び天井に杖を向ける。

 

 《Buster set.》

 

 杖の周りにピンク色の魔法陣のリングが出現し、装飾の先端に魔力が集まって球状を成してゆく。

 魔力の充填が終わったその時、なのはさんは叫んだ。

 

 

「ディバイーーン…バスターーーー!!!」

 

 

 その魔力の塊はピンク色の閃光となり、空気との摩擦で電気を帯びながら空中を駆けた。

 

 

 

 その閃光は天井に激突した…筈だった。でも閃光は何故か「擦り抜けた」。上手く言えないけどけどそうとし言えなかった。激突したなら衝撃が発生する筈だし破砕物が降ってくる筈。 なのにあの閃光はそこに何も無かったかのように突き進んで虚空の彼方に吸い込まれていったんだ。

 …信じられない。幾つかの空港は避難所としても使えるよう堅固に設計されていて、ここもその一つ。

 少なくとも合金は並の攻撃では破壊どころか歪ませる事すら困難な事が証明されていたし、AMFの有用性は実証されて久しく、それは子供でも知っている事だ。そんな壁をこの人は軽々と撃ち抜いたの?

 凄い…その力は一体どれだけの努力で身に付けたんだろう。その力でどれだけの人を救ってきたんだろう。頑張ればあたしもあんな事が出来るのかな?誰かを救えるのかな?

 

 色々な思いを巡らせている最中に防御魔法が解けた。それと同時にリュウさんは左腕をあたしのお腹に通して脇に抱え上げ、少し身を屈めて右腕を斜め下に引きながら上半身を捻る。全ての動作は流れるように滑らかに、そして一瞬のうちに行われた。

 

 

 

「昇龍拳!!!」

「!?」

 

 

 

 リュウさんが跳び上がりながら右拳を突き上げると、あたしの体は物凄い力で上に引っ張られた。

 手足は指すら畳めず下に伸び切り、リュウさんの腕がお腹に食い込む。凄まじい風圧と食い込んだ腕のせいで殆ど呼吸ができず、声も出ない。酸欠に加え、重力のせいで下半身に血が行き過ぎた事による貧血によって意識が薄れて視界がぼやける。その最中に視界に入ってきたのは、炎に囲まれた空港が瞬く間に小さくなっていく姿だった。

 

「……あ」

 

 ふと体が軽くなり、意識も視界も少しずつ戻ってきた。どうやら上昇の勢いが弱くなってきたみたい。

 

「君、大丈夫か?」

 

 リュウさんの声に気付いて完全に意識を取り戻した。そして落ち着いたところで辺りを見回すと、下にはさっきまであたし達がいた場所も含んだあちこちで爆発が起こっている空港が見えた。

 …ゾッとした。 あと少し脱出が遅れていたら……。

 

「(……したにくうこう?ここはどこ?)」

 

 ここは空の上。視界を遮るものは何も無く、緋色に照らされた夜空が広がっている。足が踏みしめるべき地面も当然無い。しかも上昇の勢いがどんどん弱くなる。

とんでもなくやな予感がした。多分この後あたしは冷静でいられなくなるって予感が……。

 

「おちるぅぅぅぅ!?たすけてぇぇぇぇ!!」

「お、落ち着け!大丈夫だ!」

 

 落ち着ける訳がない。完全に勢いを失って落下が始まるとあたしは更に混乱し、風圧で目が痛くなって直ぐに目を閉じた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 でも直ぐに落下は止まった。止まった理由は…

 

「…ふう。捕まえた!」

 

 なのはさんがリュウさんをキャッチしてくれたからだ。体勢を安定させたなのはさんはリュウさんを抱えたまま飛び、リュウさんがあたしを両腕で抱え直す。

 

「こちら教導隊01。エントランスホール内の要救助者一名を救助しました」

『ありがとうございます。流石は航空魔導師のエース・オブ・エースですね!』

 

 本局に救助成功の報告をするなのはさん。

 

「西側の救護隊に引き渡し次第、救助活動を再開します」

『お願いします!』

 

 通信が終わろうという時にリュウさんが割り込む。

 

「微力ながら俺も協力しよう」

『!?…あなたは誰ですか?要救助者ではないのですか?』

「俺か?うーん…」

 

 リュウさんはどうやら質問される事は想定していなかったようで、難しい顔をして答えあぐねていた。

 

「それは私が説明します。以前に存在が確認された『格闘家』の事は覚えていますか?」

『ええ。魔法も使わずに魔法に匹敵する力を持つ人間の事ですよね』

「……(『かくとうか』…まほうみたいなちから…)」

「そう。そしてこの人が初めて確認された格闘家のリュウさんです」

『なるほど。その人が以前の報告に聞いた…それなら実力は問題無しと。どうしてそんな場所にいたのか理由を聞きたいところだけど…今はそれどころじゃないですね。Mr.リュウ、御協力感謝致します』

「ああ、任せてくれ」

『ではお願いします。あなたには通信機が無いので指示は高町二等空尉より仰いで下さい』

「了解だ」

 

 こうして通信は終了した。

 

 

 炎の中から助け出してもらって、連れ出してもらった広い夜空。跳び上がった時はどうなるかと思ったけど…今は冷たい風が優しくて…抱きしめてくれる腕が、暖かくて…。助けてくれたこの人達は…強くて、優しくて、カッコ良くて…。

 泣いてばかりで何も出来ない自分が、情けなくて…。あたしはこの時、生まれて初めて…心から思ったんだ。

 

 

「ふう…。と・こ・ろ・で!

 リュウさん!あんな勢いで跳び上がったらその子が危ないじゃない!少しは加減してよ!その子グッタリしてるでしょ!?」

 

大事な事を思い出したかのように、なのはさんが急に大声で話し始めた。

 

「あまり大声を出すな。この子に迷惑だろう」

「今そういうことは関係無いの!いいから答えて!」

「うーん。俺はあの程度の火なら平気だったがこの子はそうもいかんだろう?だから穴を空けたら火勢が一気に強くなって穴が通れなくなると思ってこの子の安全を考えた結果、速度重視でやってみたんだが…」

「完全にやり過ぎだよ!一瞬で何百m跳んだと思ってるの!?その子、顔面蒼白じゃない!あとなんで私が来るまで落下したままだったの!」

「おいおい、いっぺんに喋らないでくれ。お前だって昔は逃げる相手に砲撃をぶち当てたのを『やり過ぎちゃった?』とか言って笑ってたそうじゃないか。昔、ヴィータから聞いたぞ? あと本当なら竜巻旋風脚で飛んで行っても良かったんだが、それだとこの子が目を回してしまうからな。だからお前が来るのを信じて待っていたんだ」

「わ、笑ってません!しかもそれとこれとは状況が違うでしょう!…じゃなくて!目を回す事に気を配れるなら最初から身の安全にも配ってよ!もう!はあはあ……。てゆーかヴィータちゃん…後でお仕置きだね…」

「やっと落ち着いたか?なのは」

 

 あはは。この時のなのはさんは声を荒げ過ぎて肩で息をしてたな。

 

 二人の楽しそうな会話を聞いていると、いつの間にか救護隊の西側拠点に到着。救護隊員に引き渡される途中、リュウさんが申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。

 

「君、さっきは済まなかったな。君の体にかかる負担をもっと考慮すべきだった。許してくれ」

「はは…たすかったんだし…もんくは…あり…ま…」

 

 安心して気が抜けたせいで疲れが出たのか、突然眠気が襲ってきて引っ張られるように目蓋が閉じていく。意識が途切れる直前に二人はあたしの話をしてた気がするけど…全然覚えてないや。

 

 

 

 [????年 ?月?日 ??? とある戦場]

 

 …………

 …………

 …………

 

 曇天の空の下、呆然と立ち尽くす自分。気のせいかいつもより視線が高く感じる。腕も脚も、いつもより長い。

 

「(大人に…なってる?)」

 

 自分の体の変化に戸惑いつつ周囲の状況を確認する。

 更地になったビル群、そこかしこから立ち昇る黒煙と火、半円状に抉れて一直線に伸びている地面の窪み、そして隕石でも落ちたかのようにあちこちにクレーターがある。まるで街中で戦争でも起こったみたいだ。

 立っている人は見当たらない…けど、遠くでピクリとも動かず倒れ伏している人が一人。よく見えないけど誰なのかは分かる。それは……

 

「そんな…なのはさん!なのはさん!」

 

 当然返事は無く、生きているのか死んでいるのかさえも分からない。それから数秒程で黒煙が少なくなって少し見渡しやすくなると、なのはさんを見ていたあたしの目にもう一人の人の姿が飛び込んできた。その人はなのはさんの側で背を向けて佇んでいる。

 

「…!!」

 

 その人を見た瞬間、一瞬身体が凍りついたかと思うような寒気がした。今のは一体…っていうより…この人……

 

「(本当に…人…なの?)」

 

その「人らしき生物」の身体中から溢れ出る赤い「何か」があたしの肌を粟立たせ、身体を震えさせる。その「何か」は凡そ人のものとは思えない、とても危険で恐ろしく、「存在してはいけないもの」だと直感した。

 そして破れた道着から見える背中には血のような赤で彩られた『天』の一文字が浮かんでいる。

 

 「(……道着?)」

 

 よく見ると赤い鉢巻きに黒い短髪、赤いグローブ、黒帯に…色は違うけど袖の無い道着、裸足。まさか…こいつは……この人は……。

 

「リュウさん!リュウさんなんでしょ!?どうしてこんな事を!?」

 

「………」

 

 あたしの声に反応したのか、その人はゆっくりと振り返る。目に光は無く、その目はあたしに向いているのにもっと遠くの何かを見つめているように見えた。

 

 リュウさんらしき人が口を開く。

 

「我は『(けん)を極めし者』。我は死合(しあい)を欲する…。(うぬ)は死合うに値せず…。滅びよ、娘…」

「……ぁ……」

 

 その人が言葉を発した瞬間…あたしの頭に、頭を通して背筋に、背筋を通して全身に痺れのような…衝撃のような感覚が走り、力が抜けて倒れそうになった。

 怖い。息苦しい。気を失いそう。何もかも忘れて倒れてしまいたい。でも…ここで倒れたら終わりだ。

 

「はあっ…はあっ…。(気圧されるな…倒れるな…相手から目を逸らすな!)」

 

 呼吸を整えながら必死に自分を奮い立たせる。それでも震えは止まらず、膝が笑い、呼吸も苦しいままだ。

 

「(でも…このままじゃ…!)」

 

 己との戦いに四苦八苦しているとその人は右拳を胸の位置に構えて左脚を上げると目にも止まらない速度で残像を残しながら滑るように移動し、あたしに迫ってきた。

 

「(来た…!)」

 

 ……あれ?体が動かない。心は体を動かそうとしているのに体が言う事を聞いてくれない。視線を動かす事さえ出来ない。

 

「(動け!動いて!)」

 

 祈りは届かない。体が動いてくれない。

 ……違う、ウソだ。言葉を取り繕っても体ではなく心が無意識に死を受け入れてしまった事実は覆しようがない。そういえば…死を目前に感じた生物は恐怖や絶望で体が動かなくなるって聞いた事がある…。

 

「(これが『死』? あたし死ぬの?) 」

 

 時間にして一秒も経っていないのにその時間は何分にも何時間にも感じられた。そんな時間を死の恐怖に晒され続けたせいで気がおかしくなりそうだった。そしてその時は訪れた。

 

「(え…?)」

 

 胸に衝撃が走り、身体が少し浮き上がった。同時に吐血。自分の身に何が起こったのか理解できず、異変のあった胸にゆっくりと視線を下ろす。するとそこには肘までめり込んだリュウさんの太い左腕があった。じゃあ肘から先は…

 

「(そうか…拳が…)」

 

その人の肘先から滴る赤い液体でやっとその人の肘から先の行方が判明した。

 

「(貫通したんだ…。見るまで…気付かなかった…。やっぱり…リュウさんは…凄いなぁ…。こんな凄い事も…出来るんだ…。でも…怖かっ…た…)」

 

 気付いたと同時に身体は糸の切れた操り人形のように重力に逆らう力を失い、頭と四肢がダラリと下を向く。

 

「ゴフッ」

 

 その拳が勢い良く引き抜かれると口からの更なる吐血と同時に穴から血が止め処無く流れ落ち、引き抜かれた腕には肉片や血液が纏わり付いていく。拳の形に空いた穴は向こう側の景色を覗かせ、腕の支えを失った体は重力に従って地に倒れ伏すしかなかった。

 痛みも恐怖も感じない。それどころか永遠とも思えた恐怖から解放された事に安堵と心地良さすら感じる。

 

「(目を開けるのも疲れちゃった…もう…寝ても…いいよね…)」

 

 これが、『死』。

 あたしはそっと目蓋を閉じた。

 

 

 

[新暦71年4月29日 ミッドチルダ 臨海第8空港近隣 メディカルセンター]

 直後、閉じた目蓋に強い光が当たるのを感じた。

「(まぶしいなぁ。せっかくきもちよくねられるとおもっ…………まぶしい?ここはどこ!?)」

 

 異変に気付いて目を見開く。するとそこは集中治療室だった。

 口には呼吸用のマスク、身体に取り付けられた細い管、見慣れない沢山の機械…。この時点では自分が何処にいるのか、どうしてここにいるのかは分からなかった。

 でもそんな事を気にする余裕はある感情が吹き飛ばした。

 

「……!いやぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇ!!」

 

 恐怖が蘇ると顔が急激に青ざめ、絶叫しながら涙を流して暴れ出す。

 暴れるあたしを周りの人が押さえつけようとするけど…

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

 それを全力で振り払うと慌てて胸に手を当てる。それは無意識の行動だったけど…さっきの出来事が現実かどうか確かめたい気持ち、それに加えて穴が空いているかも知れない自分の身体に目を向けるなんて怖くて出来なかったという気持ちからの行動だったのかもしれない。

 

 掌に感じる自分の胸板の感触。半信半疑で視線を胸に下ろす。

 

「あなが……ない」

 

 よかった…あれは夢だったんだ。そうだよ。なのはさんがやられる訳がない。リュウさんがあんな恐ろしい化け物な訳がないじゃない。安心すると思わず顔が綻びる。

 

「ほんとうに…よかった…」

 

 あたしは安堵の涙を流しながら崩れ落ち、再び眠りについた。

 

 

 

[数日後]

 治療がひと段落し、心も落ち着いたので一般病棟に移った。

 目を覚ましたあたしはベッドで上半身を起こしながら、担当の看護士さんに集中治療室に運ばれた経緯を聞いた。

どうやら最初は安定していた容体が搬送中に急変して心臓が停止してしまい、搬送中の蘇生は叶わず緊急の蘇生を要していたかららしい。

 

 心臓が止まったのは…多分、夢の中で胸を貫かれた時かな。その時の事を思い出すと表情が強張り、身体が震え出す。震えを止める為に両腕を交差させて自分を抱き、身を丸めた。

 

「大丈夫?あなたは落ち着いたばかりなんだから、まだ無理しちゃダメよ?」

 

 すると震える身体を看護士さんは優しく抱きしめてくれる。

 

「うん、だいじょうぶ。やなゆめをおもいだしちゃっただけだから。ありがとう、かんごしさん」

 

 心配して声をかけてくれた看護士さんに作り笑顔で答えた。そう、あれは夢。悪い夢なんだ。夢は夢。なのはさんもリュウさんもあんな風になる筈がない。早く忘れてしまおう。

 

 気持ちを切り替えて二人の事を思い返す。

 なのはさんはあたしに夢を与えてくれた、あたしの目標。この人のようになりたい。今のあたしみたいな人を守れる人になりたい。

 リュウさんは…まだよく分からないけどとても気になる人。これってまさか…恋心? …とは違うかな。とにかくもう一度会ってこの気持ちを確かめたい!

 なのはさんとリュウさん。また会えるかな?…ううん、絶対にまた会ってみせる!

【回想終了】

 

 

 

 そんなあたしが「あの時」…生まれて初めて、心から思ったんだ。

「泣いてるだけなのも、何も出来ないのも、もう嫌だ」って。

 

 

【スバルside…END】




プロローグってことで先ずは二人の出会いから始まりました。
ちなみに後々詳しく書きますが、なのはは原作よりもかなり強くなってます。
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