スーパーストリートファイターCROSS:StrikerS EDITION   作:拳を極めし者

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前回のスバルsideの後書き通り、今回はスバルとナッシュがありったけの思いを拳に乗せてぶつけ合います。


第六話「決着 -約束と結束-」A

【スバルside】

 ………

 ………

 ………

 

「(…あれ?あたし…なんで空を…)」

 

 気付いたら空を見上げていた自分。記憶を辿ってみるとナッシュ中尉にやられて気絶してた事を思い出す。

 目を覚まして見回すと見える範囲には誰もいなかった。でも別の場所で戦闘は続いているらしく、激しい音が聞こえる。

 

「(…そうだ!みんなは!?)」

 

 音の鳴る方向に行くべく立ち上がろうとしたら…

 

「う…痛…」

 

 身体が痛くて直ぐに立つ事が出来なかった。でも同時に違和感も感じた。痛みを感じる時間も無く気絶する程の攻撃を受けたのに、目を覚ましたら「痛い」程度で済んでいた事が不思議でならなかった。

 

 立ち上がるのに苦労しているといつの間にか音が聞こえなくなっていた。まさか…!

 

「(ティア…みんな…!こ、こんな所で…もたついてられない!)」

 

 自分を奮い立たせて何とか身体を起こし、音の鳴っていた方向へ向かった。

 

「(ティア!エリオ!キャロ!無事でいて!)」

 

 現場に辿り着くとエリオが地面に倒れていた。ティアとキャロの姿は見えない。

 

「エリオ!起きてる!?」

 

 …ダメだ。返事が無い。

 

〈ティア!キャロ!大丈夫なの!?返事して!!〉

 

 二人も返事が無い。多分…みんなやられてしまったんだろう。そして視線を向けた道路に立っていた人物が口を開く。

 

「…来たか。思ったよりも遅かったな」

「まるで…あたしが来るのが分かってたような言い方ですね…」

 

 ナッシュ中尉は倒れたエリオからだいぶ離れた位置に立っていた。あたしとナッシュ中尉の間の距離は数十mはある。

 

「当然の事だ。『戦闘能力』とは即ち『如何に多くの先読みが出来るか』、だ。この程度は読んだ内にも入らない」

「他のみんなにも…さっきの質問はしたんですか?」

「そんな事はお前には関係無い。…最後にもう一度問おう。お前に『覚悟』はあるか?」

 

 さっきと同じ質問…。さっきと同じ質問って事はさっきと同じ答えじゃダメなんだ。あたしには…何の「覚悟」が足りないっていうの?分からない…分からないよ…。でも今のあたしに出来るのは…素直な気持ちを伝える事だけだ。

 

「…あたしは…恐怖に足が竦むし、戦いの中で死ぬ覚悟も無い弱い人間です。でもあたしは…助けを求める人を一人でも多く救いたい。その為なら人生だって…命だって賭けます!誰が何と言おうとこれだけは絶対に譲れません!

 それじゃダメなんですか!?どうして認めてくれないんですか!?あたしに…何の覚悟が足りないっていうんですか…」

「……命、か。ならばその言葉が嘘偽りでない事を証明して貰おう。そして質問の答えは自分で見つけろ。無論…今この場で、だ」

 

 そう言うとナッシュ中尉は静かに構えた。それに呼応するようにあたしも構える。

 此処からは真剣勝負。もう決着が付くまで止まらないだろう。

 

「(やってやる…。あたしは前に進むんだ…!何が何でも絶対勝つ!)」

 

 でも…今のままじゃ勝てない。飛び道具なら離れて防御を固めてれば何とかなるけど反撃がほぼ不可能でそのうち押し切られてしまう。

 接近戦は接近戦であの音速のパンチがある限り、殴り合いになった瞬間に終わる。だったら方法は一つしか無い。

 

「(まだ全然訓練が足りないし実戦で使った事も無いけど…『気』を使うしかない!)」

 

☆☆☆☆

[一週間前 早朝 リュウと一対一の訓練中]

「よし、体内で「気』を効率的に循環させるのには慣れてきたようだな」

「はい!」

「これは基礎中の基礎だが身に付ければ身体能力をある程度向上させる事ができ、活用すれば自然治癒力を高める事も可能だ。更には日頃無意識に自然体でこれが出来るようになれば体力を消耗を抑えて疲れにくい身体を作れるようになる」

「へぇー。色々と便利なんですねー」

 

 この日はリュウと一対一の訓練の日。スバルはこの日まではひたすら気功の基礎…『気』を体内で操作する術を習っていた。

 

「今日からはその応用の修行だ。そしてそれをこなしたら次は君の中に眠る『力』…『殺意の波動』の事も少しずつ教えていく。これは本来ならば君にはまだ早いと思ってはいるが…その若さで既に一度目覚めてしまったからにはそうも言っていられなくなった。

 君は『気』を操る素質はあっても経験が圧倒的に足りないので急ぎそれを補う必要がある。任務を挟みながらの修行は辛いものになるかもしれない。だが君はやらなくてはならない。分かってくれるか?」

「はい、もちろんです。あたしが機動六課に入った目的の一つはその…なんとかって力を克服する為でもありますから!弱音は吐きません!ビシビシ鍛えてください!」

「よし、その意気だ。では先ずは『気』を身体の一部に集中して身体能力を強化する方法だ。これは『気』を操る格闘家にとっては基礎の範疇だが、闘いにおいてあらゆる応用が利き、練度次第では技を使う必要が無い程に強力な戦闘手段にもなる。まあ、世の中にはそれを奥義とするものもあるがな」

「そっかぁ…。それってそんなに応用が利くんですね。すごいなぁ」

「応用が利くのは基礎であるからこそだ。格闘術で言う基礎とはそれぞれの流派に於ける根本。どんな技術よりも欠かせない…最も必要な要素の源泉だ。『気』の循環もそうだが一点集中もその基礎。

これは師匠が授けて下さった言葉だが…『奥義は基礎にあり』…この言葉を覚えておくんだ」

「はい!」

☆☆☆☆

 

「(あたしは射撃魔法が得意じゃないから接近戦で勝負を決めたいけど…殴り合いになったら一瞬であたしの負けだ。でも…いつだってあたしにやれる事、やってきた事は…走って、拳を叩き込む事だけ。

 あたしに勝機があるとすれば…『先手必勝』…!『一撃必倒』!これしか無い!だけどディバインバスターを使う隙は無い。だったら…『これ』で!)」

 

 呼吸を整えながら作戦を練り…

 

「(あの飛び道具は痛いけど当たり所が悪くなきゃやられることは無い。恐れず突進!)」

 

 同時にローラーブーツに最大限の魔力を送り込む。

 

「(行くぞぉ!)はぁぁぁぁ!!」

 

 ローラーブーツが火花を散らして回転。あたしは前傾姿勢になって走り出した。

 

「(何も考えずに突っ込むフリをすればあの飛び道具で動きを止めに来るはず!)」

 

 その予想は見事に当たり、ナッシュ中尉が右腕を引いた。

 

「(来る…!チャンスはこの一瞬!)」

 

☆☆☆☆

「君の魔法…ベルカ式と言ったか、その類の魔法は『気』の運用と似通った部分がある。確かベルカ式は肉体や武k…デバイスに魔力を込めてその能力を高める魔法が基本だったな。それと大体同じようなものだ」

「はい、あたしは接近戦の時は基本的に魔力を纏って攻撃力や防御力を上げてます。その応用で拳に纏った魔力をショートレンジの射撃魔法として撃ち出すことも出来ます!」

 

「そうか…既に土台は出来ているようだな。それならこれを覚えるのは早いだろう。では早速魔力と同じように『気』を一部に集中してみてくれ」

 

「はい!はぁぁぁぁ…!!」

 

[夕暮れ 訓練終了時]

「な…なんで上手く出来ないのー!?」

 

「気」を手足に集めるのは出来るのに集めた途端に弾け散っちゃうよー!魔力ならこんな風にならないのにー!

 

「……ま、まあ落ち着け。まだ始めたばかりだ。体内で循環させるのと一点に集めるのでは難易度が違う。これから自分の苦手な部分や癖を見つけて克服・昇華させていくから慌てずに、そして着実にこなして行こう。…今日はここまでだ。復習は忘れるなよ」

「うー…。ありがとうございました…」

 

 

 

[四日後 組手の最中]

「はぁっ!」

「……!!」

「で…できたーーーー!やったーーーー!!」

「こいつは驚いた…。今の速さには少し肝を冷やしたぞ」

「えへへ、褒められたー♪あたし、欠点だらけだからこういう事を考えるのけっこう得意なんです!」

 

「………。(気功の基礎の呑み込みの早さもそうだが…。この発想力…それを短期間で実現する実行力…。最早この子の才能である事は疑いの余地が無い。試験の時に気功波を放てたのも、ディバインバスターに殺意の波動を組み込んで制御出来たのも、偶然ではないという事か…)」

「…あれ?あたし変な事言っちゃいました?」

「いや、少し考え事をしていただけだ。気にしないでくれ。それより…今のはいい動きだったぞ。どうやってそれを編み出したんだ?」

「えーと、それはですね…」

☆☆☆☆

 

「リボルバァァァァ…!」

 

 右腕を振りかぶって拳をグッ、と握り込む。ナックルスピナーが火花を散らし、回転しながら風を帯びる。

 同時に更に前傾を深めて膝を深く曲げる。そしてローラーブーツへ送っていた魔力を絶って、同時に魔力ではなく「気」を一気に送り込んだ。

 

☆☆☆☆

「あたしって集めた『気』が直ぐに散っちゃうじゃないですか。散らないようにするのが一番だって分かってはいるけど、不器用なあたしがそんな簡単に出来る訳がない。だから『どうせ散るならもっと派手に散らしちゃえ!』って思ったんですよ。イメージとしては噴出させる感じかな。

 最初はそれで攻撃しようと思ったけど今のあたしの『気』じゃそれで攻撃しても大したダメージにならないから別の事に活かす事にしたんです」

「ほう…」

「で、あたしのローラーブーツの話になるんですけど…これは加速力はあるけど最高速があんまり速くないから最高速が必要な時は魔力のロスが大きいのを承知で無理矢理魔力を大量に注いで補ってたんですよ。そこで『一瞬でいいからもっと効率良く加速力と最高速を伸ばせる方法は無いかなー』って前から考えていたところに今回の訓練です!

 飛び出すのと同時に『気』を推進力にして加速すればすっごく速くなるんじゃないかって。我ながら突飛な発想だとは思ったんですけどね。

 色々試した結果、ローラーブーツに魔力を送る要領でブーツから『気』を放出して、後はジャンプの要領で前に飛び出せばいいって結論に達しました。…で、やってみたらあたしに合ってると思ったんで密かに練習してたんですよ」

「なるほど…逆転の発想という奴か。初見なら俺達格闘家にも通用しそうだな。…そうだ!それを磨けば君の『技』として昇華出来るかもしれん!よし!今日は徹底的にその一連の流れを身体に叩き込むんだ!」

「はい!よろしくお願いします!」

 ☆☆☆☆

 

 次の瞬間、あたしの身体は弾かれるように飛び出した。ナッシュ中尉は技の硬直中なのか一瞬動きが止まっていてあたしの動きに反応できていないようだった。

 

 飛び出した勢いで衝撃波を掻い潜るともう互いに手が届く距離。全てはこの瞬間、この一撃に懸かってる。この後やる事はただ一つ。この拳を叩き込む!

 

「キャノン!!!」

 

 これが今のあたしに打てる…最大の一撃!!

 

 

 

 

 あたしの渾身の一撃はナッシュ中尉の鳩尾を捉えて回避・防御行動を取られる事も無く直撃し、拳から直線状に放出されたエネルギーによってくの字に曲がりながら吹き飛んで激しい衝突音と共にビルの壁に激突した。

 あたしは殴り抜けても勢いが止まらず、足を踏ん張って路面を削りながらブレーキをかける。

 

「(手応えは完璧…!もしこれでダメだったら…)」

 

 止まってから直ぐに視線を戻すと目の前のビルを突き抜けて向こうのビルの壁に減り込んでいるナッシュ中尉を発見した。

 

「や…やった…。あたし…勝っ…」

 

 勝利を確信したところで大事な事を思い出して言葉が止まる。思い出したのはナッシュ中尉が生身だという事。

 

「(そうだ…生身であれを喰らって無事な訳がない!早く手当しなきゃ!)」

 

 急いで駆け寄りながら声を掛ける。すると…

 

「ナッシュ中尉!大丈…」

「何を…しようとしている…」

 

 ゆっくりと上体を起こしながらナッシュ中尉はあたしに話し掛けて、そのまま立ち上がって崩れた壁に手を掛ける。その姿を見るとチョッキは吹き飛んで上半身が裸になっていた。

 あちこちに出血があり、腹部にはリボルバーキャノンを喰らって付いた痣があった。そして口からは血が流れ落ちている。

 

「な、何って…早く手あ…」

「自分を狙う敵を助ける愚か者が何処にいる……」

 

 ナッシュ中尉はあたしの言葉を遮って口から出た血を拭いながら再び喋り出した。

 

「手を差し伸べようとした瞬間にお前の命を狙って来たらどうする気だ…!勝ちを確信する暇があるなら生死の確認をするか…!止めを…刺せ…」

「……でもあなたはそうしなかった。その気があったなら声なんて掛けずに誘き寄せて倒せば良かったのに」

「………」

「あたし…さっき目を覚ました時に分かった事があるんですよ。あなたは悩んでる…というか迷ってるんじゃないですか?」

「!?…どうして…そう思った…」

 

 ナッシュ中尉がとても驚いた顔で質問してきた。あたしは少し沈黙して考えを纏めると質問に答えた。

 

「…気絶する前に見たあなたの顔がとても悲しそうだったこと。それに目を覚ました時に思ったより受けたダメージが軽かった…って言っても全身が痛くて立つのもやっとの状態でしたけどね。何ヶ所かの骨折くらいは覚悟してたから不思議に思ったんです。目は本気だったのにダメージが軽いってことは無意識に手加減したんじゃないかって思ったんですよ。

 そして確信したのはさっきの会話です。気絶したフリをして奇襲を仕掛けずにわざわざあたしに警告してくれましたよね。これで『本当はあたし達を傷付けたくないんだ』って分かりました。

 だからもう…やめましょうよ…。あたしもこれ以上戦いたくない。これ以上は…お互いが悲しくなるだけです…」

「ふざけるな!!」

 

 するとナッシュ中尉は凄い剣幕で声を張り上げた。

 

「まだ分からんのか!お前には『覚悟』が足りんと!戦場に於いて必要なのは『目的を達成する覚悟』でも『死ぬ覚悟』でもない!『生きる覚悟』と『殺す覚悟』だ!

 生きる覚悟が無ければ自分を殺す事になり、守りたいものも守れなくなる!殺せなかった相手が無用な悲しみを広げる事だってある!そして殺す覚悟が無いまま殺せば!…心は傷付き…最悪の場合…壊れてしまう…」

 

 この時あたしは思った。今ナッシュ中尉が喋っていた事は…

 

「(まるで…自分に言い聞かせてるみたいだ…。もしかしてこの人、自分が…)」

「いいか!この世には命より大切なものは存在しない!それが未来有る若者なら尚更だ!お前のような子供が戦場に出る必要は無い!戦場は大人に子供は子供らしく引っ込んでいろ!」

 

 

 

 ああ、そうか。この人はあたし達の為に…。この人は怖い人なんかじゃない。とっても…とっても…

 

「…優しいんですね。そんなにあたし達の事を思ってくれていたなんて…感激しました。でも…その話を聞いたら尚更引く訳にはいかなくなりました」

「な…」

「あたしは…あたしだって誰かの未来を守りたい。誰も死なせたくない。だからあたしはあたしの目標に向かって突き進みます。そしてあなたに心配をさせないくらい強くなってみせます。身も心も。

 覚悟だって決めました。『殺す覚悟』じゃない…『殺さない覚悟』を。あたしが今まで頑張ってきたのは人の命を奪う為じゃない…助けたいから、守りたいからです。

 欲張りかもしれないけど…。無茶で無謀かもしれないけど…。諦めなければ可能性は消えません。でも…諦めたらその可能性もゼロになる!あたしはそんなの嫌なんです!

 …それがあたしの全てなんです。だからあたしは絶対に諦めません。諦めたらあたしは一生後悔しちゃう。あたしがあたしでなくなっちゃう。何が何でも命懸けで生き抜いて、命懸けで人を助けてみせます。だから…こんな事はもうやめましょうよ!」

 

 もう言いたい事は全部言った。後はナッシュ中尉の答えを待つだけだ。

 

 

 

 すると一呼吸置いてナッシュ中尉が口を開いた。

 

「な…何を勘違いしている…。私は…戦場で邪魔になる役立たずを排除したいだけだ…。そう、これは私情…。ただ…それだけだ…!」

 

 ナッシュ中尉は震えながら拳を構えた。

 

「なんで…。どうしてそんなこと言うんだよ…。言ってることがさっきと違うじゃんか…」

 

 身体が怒りで震えてきた。もう自分でも衝動が抑え切れそうにない。

 

「どっちが子供だよ…。この……!バカヤローーーー!!」

 

 あたしはとうとうキレて飛び掛かってしまった。

 

「…それは私の…!台詞だぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 防御も回避も無視の殴り合い。互いに無言で拳を交わす。顔に拳が減り込んで口や鼻から血が垂れて、腹に拳が突き刺さって胃液が喉奥から迫り上がって来て、肋骨が拳で軋む。

あまりにも痛くて転げ回ってのたうち回りたいくらい痛い。でも今はそんなの全部どうでもいい。今はただ…この人を殴って頭を冷まさせる!

 

 

 

「ギッ…!」

 

 殴り合ってから一分くらいだろうか。ナッシュ中尉の顔面に何発目かの右拳が打ち込まれた時だった。

 

「グゥッ…」

 

 小さな呻きと共にナッシュ中尉の膝が崩れ落ちる。それはこの戦いが終わった事を示していた。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 無呼吸で殴り合っていたので肺に貯めていた空気を深く吐き出す。

 

「……あれ?」

 

 すると突然膝に力が入らなくなってあたしもガクッと崩れ落ち、尻餅を突いた。

 

「はは…。もう…立てない…や…」

 

 気が抜けて溜まっていたダメージが噴き出したみたいだ。あたしは倒れるとそのまま眠るように気を失った。

 

 

 

[翌日 機動六課隊舎 医務室]

「……ここは…」

 

 気付いたらあたしは医務室のベッドに横たわっていた。何だか寝すぎた後のように身体がだるい。身体を起こしてボーッとした頭で状況を整理する。

 

「(えーと…ナッシュ中尉と話をして…キレて殴り合いになって…その後…どうなったんだっけ…)」

「あら、ようやく目を覚ましたのねお寝坊さん。でも元気そうで良かったわ」

 

 記憶がハッキリしなくて悩んでいると向こうの部屋から医務室の先生が声を掛けてきた。

 

 

 

「シャマル先生…。あたしはなんでここに…」

「あなたは意識を失った状態でここへ運び込まれたのよ。一生懸命なのはいい事だけど、無理をし過ぎるのは医者としてお勧め出来ないわね」

「(そっか…あたし…あの後気絶したんだ…)」

 

 ここでようやく自分の置かれた状況を把握し、落ち着いたところで忘れていた心配事を思い出した。

 

「…そうだ!みんなは…ナッシュ中尉はどうなったんですか!?みんなの怪我は大丈夫なんですか!?」

「落ち着いて。順を追って話すわ。先ずはあなたの事からね」

「は、はい…」

 

「あなたはあの後気絶したまま運ばれて来た。怪我は治癒魔法と一日の療養で治る程度で済んだけど、疲労とダメージが大きかったせいであなたは丸一日ずーっと眠ってたのよ」

「丸一日!?あたしそんなに寝てたんですか!?…丸一日怠けちゃうなんて…。なのはさんになんて言えば…」

「高町隊長もそこまで鬼じゃないわよ。『ゆっくり休ませてあげて下さい』って言われたから心配しないで。…続けるけど、いい?」

「は、はい」

「他のフォワードのみんなは怪我はしたけどあなた程じゃなかったから治療も直ぐに終わって今日から訓練を再開してるわよ」

「そうですか…。よかったぁ…」

 

「最後はナッシュ中尉ね。あなたの後に中尉も運ばれて来たわ」

「!?…け…怪我は…怪我の状態はどうなんですか!?」

「……思ったより大した事は無かったわ。今は別室で寝てるけどね」

「…本当ですか?だったら一目会わせて下さい」

「か、彼もかなり疲れてるから後日改めて…」

「…ウソですよね?それくらいあたしでも分かりますよ。そんなに…酷いんですか?」

「………」

 

 シャマル先生は「しまった」って感じの顔をしながら少し悩んだ末に本当の事を話してくれた。

 

「本当は口止めされてるんだけど…。いずれ分かっちゃう事だし仕方ないわね。聞いたらショックを受けるかもしれないけど…気をしっかり持ってね」

「………はい」

 

 

 

「……腹部への強烈な圧迫による消化器官損傷及びそれに伴った吐血、上半身各部に裂傷・外出血・内出血、出血多量による血圧低下、左側頭部骨膜下骨折、左上腕骨は複合骨折…しかも無理して殴り合いに使ったせいで完全骨折寸前。閉鎖骨折した左肋骨は肺に刺さっていたわ」

「そ…」

「さすがに治癒魔法だけじゃどうにもならない重症だったから手術室に直行よ」

「そんな………」

「でも術後の容体は安定しているわ。後遺症の心配も無いから深刻にならないでね」

 

 違う…そういう問題じゃないんだ…。そんなつもりじゃなかった…。ただ、分かって欲しくて…無我夢中で…。

 

「あたしの…せいだ…」

 

 自分のした事にショックを受け、しばし呆然とする。そして時間が経つと堰を切ったように目から涙が溢れ出す。あたしは顔を両手で覆って人目も憚らず咽び泣いた。

 

 あれ以上傷付けたくなかったのに…あの人の心の負担を少しでも軽くしてあげたかったのに…。

 無意味に人を傷付けてしまった…。感情に任せて酷い怪我を負わせてしまった…。

 後悔してももう遅い。事実は消える事は無い。それは罪の記憶としてずっと心に残り続けるだろう。

 

「あたしは…最低だ…。最低の人間だ…。あたしに…人を救う資格なんか…」

 

 あたしが消え入りそうな声でそう呟くと、シャマル先生があたしの隣に腰を掛けて静かに話し始めた。

 

「これも口止めされてたんだけど…。ナッシュさんはとてもあなたのことを心配してたのよ。自分の怪我もそっちのけでね」

「…ナッシュ中尉…が?」

 

 ナッシュ中尉の名前を聞いて思わずシャマル先生の顔を見る。

 

「『もし彼女が私の怪我の事を知ってしまったら自分の行為を後悔して悲しむだろうから目標を諦めないよう説いてやってほしい』ってね。気絶するまでずっとあなたの事しか考えてなかったみたいよ」

「(そんな酷い怪我なのに…あたしの事を気遣って…)」

「こうも言ってたわ。『スバルに合わせる顔が無い。だから自分の事は伏せておいてくれ』って。そこまで心配してるなら男らしくビシッと自分で言えばいいのにね。

 …彼はもうあなたの事を認めてるのよ。そしてあなたを応援したいと思ってる。なのにあなたが諦めてしまったら彼も悲しむわ」

 

「でもあたし…自分を抑え切れなくてあの人を…」

「彼の事を思うなら前を向きなさい。それが彼の為になるしあなた自身の為にもなるのよ」

「…でも…」

「…疲れてるから後ろ向きになっちゃうのよ。今日もゆっくり休みなさい。疲れが取れたら前向きな考えも浮かぶわよ」

「…はい、そうします…」

 

 その日、食事以外の時間はずっとベッドで横になりっぱなしだった。

 寝て、目が覚めて、ナッシュ中尉の事を考えて、自分の道の歩み方を考える。それを何度も繰り返した。

 

 次の日、あたしは病室を出ていつもの日々に戻った。訓練メニューはちゃんとこなしてるんだけどいまいち集中できてなくて、なのはさんにそれを何度も指摘されてしまった。

 やっぱりナッシュ中尉の事が気になって仕方ない。そして自分の道に迷ってしまっている。だから気持ちの整理をする為にナッシュ中尉ときちんと話をしたいから面会を申し込んだ。けど今は本人が静養を理由に面会を拒否しててそれも叶わない。

 

 心のもやもやが晴れずに一週間が経過。訓練終了後に突然なのはさんから告げられた。

 

「ナッシュ中尉があなた達と話がしたいそうだよ」

 

 

 

 思いもしなかった本人からの誘い。呼ばれたのはあたしだけじゃないけど、これは願ってもないチャンスだ。その為になのはさんは訓練を早めに切り上げてくれた。

 集合場所はミッドチルダ市街の食堂。いざ行ってみると店の中にはナッシュ中尉が座っていた。ナッシュ中尉をよく見ると、包帯や腫れがとても痛々しい。特に左腕はギプスで固定されていて見てられなかった。

 それを見た途端にあたしは罪の意識から思わず目を逸らした。だけど「これは自分のけじめだ」と言い聞かせて視線を戻した。

 

 

 

「本当に…済まなかった」

 

 ナッシュ中尉は先ず謝罪から始めた。謝られているこっちが罪悪感を感じるくらいに申し訳なさそうな顔をしてたなぁ。

 そしていざ話を始めようという時に何から話したらいいか迷っているようだったのであたしから質問をすると、ナッシュ中尉は質問に丁寧に答えてくれた。するとみんなもそれに乗って質問を切り出す。

 

 最後にナッシュ中尉は最後に自分の体験した悲劇を聞かせてくれた。それを聞いているとあたし達全員はいつの間にか目に涙を浮かべていた。

 

 そしてあたしはこの時決意したんだ。「ナッシュさんの体験した悲劇は二度と起こしちゃいけない。これは他人事じゃないんだ」って。

 その話が終わると最後にナッシュ中尉は自分の今の気持ちと決意を述べてくれた。

 

 ………

 ………

 ………

 

「………そしてそのような事態を起こさない為にも私が必ず君達を守る。この命に変えてもな」

 

 その気持ちは嬉しいけど…守ってもらうだけなんて絶対にやだ。それは丁重に断ろう。

 

 

 

 全ての話が終わるとナッシュ中尉が食事を勧めてきた。

 話が思ったよりも長くていつもより食べる時間が遅くなってるし、遠慮無く食べていいって言ってくれたのでその言葉に甘えよう!

 

 

 

 食事を摂りながらふと考える。

 

「(…戦ってる時とはまるで別人だ。優しくて、誠実で、正義感の強さが感じられる。そして…ちょっと過保護かな。これが本来の性格って事かな?)」

 

 それからちょっとした談話も交えながら楽しく食事をし、あたし達はすっかり和解した。

 

 

 

[翌日 早朝 機動六課隊舎 隊員寮前]

この日は…っていうか毎日だけど今から早朝訓練の時間だ!

 

「おはよう、フォワードの諸君」

 

「おはようございます!……ってナッシュさん!?なんでこんな場所に!?」

「隊員寮には私の部屋もあるんだ。私がいてもおかしくないだろう」

「そうじゃなくてまだ治ってないんでしょ!?ムリしちゃダメですよ!」

「外出許可はシャマル先生から取ってある。問題無い」

「(あー、何言ってもダメだねこりゃ)」

「?」

 

「……ところでこんな朝から何処へ行くんですか?」

「これから朝の訓練だろう?私はそれを見学に来たんだ」

「見学に…ですか」

「見学の許可は高町隊長から取ってある。それも問題無い」

「…それならいいんですけどね…」

 

 

 

[機動六課敷地 陸戦用空間シミュレーター]

〈ねえスバル…〉

〈…言いたいことは分かるよティア…〉

〈僕も同じことを思ったかも…〉

〈わたしも…〉

 

「「「「(やりづらい…)」」」」

 

でもみんな口にしないけど、もう一つ思っている事があった。

 

「「「「(この人に見守られてると思うと安心しちゃうな…)」」」」

 

あたしがこんなこと思っちゃダメだって分かってるんだけど、ナッシュさんってやっぱりすごい人だと思う。なのはさんとはまた違った安心感があるよ。

あたしもいるだけで安心できるような人になれるかな?ううん、やるからには絶対なってやる!

 

心の中でそう誓ってからチラリと視線をやると、微笑みを湛えながらこっちを見守るナッシュさんの姿が見えたんだ。

 

【スバルside…END】




以上、女と男の殴り合いでした。
女の子にガチの殴り合いをさせるのには少しためらいましたが、格闘家である以上は拳での決着にこだわるべきだと思ってこうした次第です。

ちなみにナッシュが左側ばかり激しく損傷した理由は、スバルのリボルバーナックル(右腕)のダメージが左腕より遥かに大きいからです。
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