スーパーストリートファイターCROSS:StrikerS EDITION 作:拳を極めし者
【アナザーside】
待ってから1分も経たずに現れたスバルは仲間の名を呼ぶが当然返事は無く、視線は自然と遠くで立っている人物へと向かう。
「…来たか。思ったよりも早かったな」
「まるで…あたしが来るのが分かってたような言い方ですね…」
「当然の事だ。『戦闘能力』とは即ち『如何に多くの先読みが出来るか』、だ。この程度は読んだ内にも入らない」
「他のみんなにも…さっきの質問はしたんですか?」
「そんな事はお前に関係無い。…最後にもう一度問おう。お前に『覚悟』はあるか?(もう腹は括った。これで終わりにする!)」
「…あたしは…恐怖に足が竦むし、戦いの中で死ぬ覚悟も無い弱い人間です。でもあたしは…助けを求める人を一人でも多く救いたい。その為なら人生だって…命だって賭けます!誰が何と言おうとこれだけは絶対に譲れません!それじゃダメなんですか!?どうして認めてくれないんですか!?…あたしに…何が足りないっていうんですか…」
「……命、か。ならばその言葉が偽りで無い事を証明して貰おう。そして質問の答えは自分で見つけろ。無論…今この場で、だ。(その覚悟…確かめるのはこれで最後だ。その覚悟が本物なら私を倒して証明してみせろ!)」
スバルは目の色を変えてナッシュを敵だと…倒さなければならない宿敵だと言わんばかりに敵意を剥き出しにして構えた。
「(やってやる…やってやる…やってやる…!)」
ナッシュは心の中で念仏のように唱え、意を決すると静かにファイティングポーズを取る。
「うああああああ!!」
スバルのローラーブーツが火花を散らして回転し、前傾姿勢になって先程と同じ声を上げながらスバルが突進して来た。
「(また同じように逆上したか…未熟者が!今度は邪魔は入らんぞ!)」
ナッシュは邪魔された時と同じく狙いを頭部に定めた。
☆☆☆☆
[ストリートファイター&なのは組]
「む、あれは…」
「うん、さっきと同じ状況だね。でも今度は立場が…」
「ああ。今の精神状態ではそれに気付けるか難しいところだが…」
「流れが変わったわね。どうなるかしら」
☆☆☆☆
「(今度は本気だ!)ソニックブーム!!!」
ナッシュはスバルに止めを刺すべく右腕でソニックブームを放った。
「(…ッ!!)」
放った直後に反動で再び左腕に激痛が走り、一瞬だけ意識が遠退いた。その一瞬から我に帰った時、一瞬前まで十数m手前にいた筈のスバルが右拳を引いた状態で眼前に迫っていた。
「(なっ…)」
「キャノン!!!」
「グブッ!?」
スバルの拳が命中した瞬間にナッシュは爆発したように衣服が千切れ飛び、同時にくの字になって弾かれるように真横に吹き飛んで行く。
吹き飛ばされたナッシュはビルの壁を何枚も突き破っても勢いが止まらず、一つのビルを突き抜けて奥のビルの外壁に激突してからようやく止まった。ヒビの入った壁が崩れると、壁に減り込んでいたナッシュは崩れた壁と共に後ろに倒れ込んでしまう。
「(…ここは…)」
意識を取り戻したナッシュはビルの内部で大の字になって倒れている自分に気付いた。
「(な…何が…起こった…)」
意識が混濁して記憶がハッキリせず、暫し呆然とする。
☆☆☆☆
[ヴォルケンリッター組]
「な…何だよあれ…。あの程度の魔力じゃ絶対ありえねえ威力だ…。スバルのヤツ何しやがった!?あんなのまともに喰らったらあたしらでもやべえぞ!ナッシュの奴、死んでねえだろうな!?」
「生体反応は感じるから生きているのは間違いないわ。…話を戻すわね。二段階目の加速と攻撃が命中した瞬間に一瞬だけ魔力以外の力を感じたんだけど…それが多分『気』ね。一瞬だけだったから感知も大変だったわ。…で、もしかしたらそれを何らかの方法で使って一瞬だけ爆発的な力を生み出したのかも」
「『気』という事は…リュウの仕込みか?ならば『気』が存在しない我々には不可能な技術という事だな」
「これ以上はナッシュが危険だ。『盾の守護獣』としてこれ以上見過ごす訳には…」
「待て、ザフィーラ。手を出すな」
「シグナム…そこを退け」
「断る」
「退かぬならば我が将とて…!」
「彼の気持ちを無視する気か?」
「取り返しの付かぬ怪我を負っても良いと言うのか!」
「それは身体だけではなく、心も同じ事だ。今止めたら彼は消えない心の傷を負うだろう」
「…!!」
「そう…。『自分の取った行動はただ感情に任せて子供の身体と心を傷付けただけに過ぎなかった』とな」
「くっ…。承知…した…」
[ストリートファイター&なのは組]
「これが…あの子の魔法の力…。信じられない威力だわ…」
「ああ、俺の技でもあれ程の威力は簡単には…」
春麗とガイルはスバルの予想外の力に感嘆を漏らしたが…
「ば…馬鹿な…有り得ん!こんな事が…」
「スバル…。いつの間にこんな…」
リュウとなのはは動揺し、言葉が途切れてしまった。
「…話が見えんな。その驚き様…あれはお前達が仕込んだ訳ではないのか?」
「てっきりリュウか高町さんが教えたんだと思ったわ。一瞬だけ魔力でも『気』でもない力を感じたけど…もしかしてそれが?」
「ああ、そうだ。威力は勿論だが…重要なのはそこじゃない」
「そうです。スバルは…『二つの力』を同時に使ったんですよ」
「二つ?…一つ一つが違う力って事!?」
「ああ、そうだ。…拳には命中する直前までは間違い無く魔力しか込められていなかった。だが…」
「命中した瞬間、魔力に『殺意の波動』を上乗せしたんです。そしてそれらが一つに合わさってあの破壊力を生み出した。一瞬だけだったから感じにくかったですが…」
「殺意の波動!?有り得ないわ!貴方でさえ殺意の波動を制御出来るようになるまで何年も掛かったんでしょ!?しかも二つの力を同時になんて…!」
「俺も…そう思っていたところだ…」
「それに今のはスバル本人も意識しないでやったみたいです。『やれ』って言っても意識的には出来ないと思います」
「直感でやってのける天賦の才、か。論理で詰めていくナッシュとは正反対のベクトルの天才だな」
「(二つの異質な力…。同じ魔力を使った魔法の同時発動だけでもかなりの訓練が必要なのに別の力を同時に…。
仮に私がその三つを持っているとして…。力を切り替えて使うならまだしも二つ以上同時に発動するなんて絶対に無理だ。信じられない程の才能だけど…そんな異常な力を使い続けたらいつ暴発や暴走が起こってもおかしくない…!)」
☆☆☆☆
ナッシュは妙な違和感を感じた腹部に手を伸ばそうとするが…
「(体が…動かん…)」
更に声を出そうとするも…
「ゴフッ」
突然の吐血により妨げられた。
「(声も…!)」
そこへ段々と自分へ近付いて来る疾走音。
「(そうだ…。私は…スバル・ナカジマに…殴り飛ばされて…)」
ローラーブーツの駆動音を聴いて漸く自分の状況を把握した。
「(実に…単純な誘い…。単純過ぎて逆に気付けなかったか…。いや…動揺していたせいで…同じ状況に対して…咄嗟に同じ行動を取ってしまった…。だが…スバル・ナカジマのスピードが…想定外だったのも事実…)」
「ナッシュ中尉!」
聞こえた声は突き破られた壁を乗り越えて走りながら自分の名を呼ぶスバルの声。
「(そうだ…倒れている場合か…!)」
自分を奮い立たせたナッシュは限界の近い体を気力で動かし…
「大丈…」
「何を…しようとしている…」
ゆっくりと立ち上がり、血を吐きながらスバルに話し掛けた。
「な、何って…早く手あ…」
「甘過ぎるぞ…。自分を狙う敵を助ける愚か者が何処にいる…」
スバルの言葉を遮り、歩いて近付きながらナッシュは語り出す。
「手を差し伸べようとした瞬間にお前の命を狙って来たらどうする気だ…!勝ちを確信する暇があるなら生死の確認をするか…!止めを…刺せ…」
「……でもあなたはそうしなかった。その気があったなら声なんて掛けずに誘き寄せて倒せば良かったのに」
「………」
「あたし…さっき目を覚ました時に分かった事があるんですよ。あなたは悩んでる…というか迷ってるんじゃないですか?」
「(馬鹿な!何故…!)」
危うく喉まで出掛かった言葉を飲み込み、平静を装いながらナッシュは言葉を紡ぐ。
「…どうして…そう思った…」
…が、スバルの予想外の言葉に動揺を隠し切れなかった為に自分ですら耳を疑う質問をしてしまった。
………
………
………
「だからもう…やめましょうよ…」
「(言うな…)」
「あたしもこれ以上戦いたくない…」
「(やめろ…)」
「これ以上は…お互いが悲しくなるだけです…」
「(やめてくれ…!)」
これ以上スバルの話を聞いていたらまた決心が鈍ってしまう。そう考えたナッシュは…
「ふざけるな!」
形振り構わず自分の気持ちを必死に捲し立てた。
「まだ分からんのか…!お前には『覚悟』が足りんと!戦場に於いて必要なのは『目的を達成する覚悟』でも『死ぬ覚悟』でもない!そんなものは必要最低限の条件だ!本当に大事なものは『生きる覚悟』と『殺す覚悟』だ!
生きる覚悟が無ければ自分を殺す事になり、守りたいものも守れなくなる!殺せなかった相手が無用な悲しみを広げる事だってある!そして殺す覚悟が無いまま殺せば!…心は傷付き…最悪の場合…壊れてしまう…。
いいか!この世には命より大切なものは存在しない!それが未来有る若者なら尚更だ!お前のような子供が戦場に出る必要は無い!戦場は大人に任せて引っ込んで子供は子供らしくしていろ!」
「………」
「(私は何を言って…)」
ナッシュは不本意ながらも全ての思いを吐き出した。それを聞いたスバルはしばし呆然とした後、微笑みながら口を開く。
「…優しいんですね。そんなにあたし達の事を思ってくれていたなんて…感激しました。でも…その話を聞いたら尚更引く訳にはいかなくなりました」
「(何故だ…。何故…分かってくれない…)」
………
………
………
「欲張りかもしれないけど…無茶で無謀かもしれないけど…諦めなければ可能性は消えません。でも…諦めたらその可能性もゼロになる!あたしはそんなの嫌なんです!」
「(いや…分からなくていい…。ただ…遠ざかってさえくれれば…。なのに…)」
「…それがあたしの全てなんです。だからあたしは絶対に諦めません。諦めたらあたしはあたしでなくなっちゃう。一生後悔しちゃう」
「(何故…戦場に踏み入ろうとする…)」
「何が何でも命懸けで生き抜いて、命懸けで人を助けてみせます。だから…こんな事はもうやめましょうよ!」
「(やめられるか…。お前達の命を守る為…誹りも恨みも受け入れてやる…。罪を…背負ってやる!)」
ナッシュは動揺のあまり思考が混乱していながらも必死に取り繕う言葉を探して口に出すが…
「な…何を勘違いしている…。私は…戦場で邪魔になる役立たずを排除したいだけだ…。そう、これは私情…。ただ…それだけだ…!」
支離滅裂な事を自分が言っている事にも気付かず、左腕の痛みも忘れて震えながら拳を構えた。
「なんで…。………だよ…。………違うじゃん…」
スバルが下を向きながら何か呟いている。ナッシュは言葉までは聞き取れなかったが、異様な雰囲気を察知した。それと同時に自分の「ある感情」が異様に昂ぶるのを感じる。その感情とは……
「どっちが子供だよ…。この…!バカヤローーーー!!!」
「どの口がそれを言う…。それは私の…!台詞だぁぁぁぁ!!!」
そう、「怒り」だ。
分かってくれなくてもいい。恨まれてもいい。ただ安全に、平和に生きてくれるだけで良かった。自分は誓いを破り、矜恃を捨ててこの闘いに挑んだ。だがスバルは全てを理解した上で自分を否定した。これ以上どうすればいいか分からない。どうしようもない。このやり場の無い不鮮明な感情が目の前の相手に怒りとして向けられるのは自然の成り行きと言えよう。
そしてその様な経緯が有ったとはいえスバルに触発された事でナッシュは本来では有り得ぬ程に激昂し、互いに飛び込んで拳を交差させるとそのまま足を止めての殴り合いに突入した。
☆☆☆☆
[ヴォルケンリッター組]
「彼がこれ程までに感情を剥き出しにするとはな…」
「そうだな。ま、結果がどうなるにしても溜まったモンを全部吐き出せるだろうからいいんじゃねえの?」
「見て…られないです…」
「多分これで決着するわ。最後まで見届けなさい、リイン」
「私は…彼等を止めなくて本当に良かったのか…」
「心の傷は時として身体の傷より深刻になる事もある。今、我々がすべきは止める事ではなく見守る事だ。信じてやれ」
「…我が将よ…。箴言、痛み入る…」
[ストリートファイター&なのは組]
「ナッシュが子供と殴り合いを…!あの小娘…ナッシュの感情をこれ程までに煽るとは…!」
「ナッシュがここまでの激情家だとは思わなかったわ」
「ナッシュさん…」
「これは…!」
「リュウさん、どうしたの?」
「…いや、どうやら俺の勘違いのようだ。気にしなくていい」
「…うん、分かった」
「(スバルは普段から我が強いが…あれ程までに感情的になる性格ではなかった筈だ。それに最初にソニックブームを喰らった時もそうだが激情の中に憎悪に近い感情が紛れていたような気がした…が、気付いたのは俺だけか?それとも俺の気のせいか?)」
「(さっきもそうだったけど…リュウさんの様子が変だ。どうしたんだろう)」
☆☆☆☆
二人は無言で殴り合った。傷を負っても血が流れても骨が折れても殴り続け、よろめいても踏ん張って殴り返す。二人は互角に殴り合っていたが、リュウはその「互角」に違和感を感じ、直様その違和感の理由に気付いた。
「(音速の拳が今や見る影も無い。さてはティアナのあれを喰らって左腕が折れていたか…。痛みは感じていないようだが、無意識に左腕を庇っているのか…)」
動きの鈍いナッシュにスバルのリボルバーナックルが次々と突き刺さり、その一撃毎にナッシュの動きは更に鈍くなっていった。
殴り合いが始まってから一分ほど経過した頃…
「グッ…!」
とうとうナッシュの左腕がだらりと下がったまま上がらなくなった。最早気力だけで動かせる状態ではなくなっていたからだ。更にその瞬間…
「アァァァァ!!」
それを狙い澄ましたかの様にスバルの渾身の一撃がナッシュの顔面へ叩き込まれた。
「グゥッ…」
小さい呻き声と共に膝から崩れ落ちて片膝を突くナッシュ。もう立ち上がる事すら出来ず、動かせる右腕で倒れかかった身体を辛うじて支える。
「(これ…までか…)」
それから数秒後にスバルも膝が折れて尻餅を突き、そのまま後ろに倒れた…と思われたその瞬間…
「クッ…!」
咄嗟にナッシュが飛び出し、スバルが倒れないように優しく右腕を回した。しかし体力の残っていなかったナッシュはスバルを支え切れず、スバルに引っ張られて倒れ込んでいく。
「スバル!」
「ナッシュ!」
その二人をリュウとガイルがそれぞれ抱え起こした。
続いて離れてモニターで見ていたメンバーが合流する。
「御二方、二人を寝かせて下さい」
リュウとガイルは二人をそっと寝かせるとシャマルの診察が始まる。明らかに状態の悪いナッシュから診ようとすると…
「ま…待て…」
ナッシュがシャマルに話し掛けてきた。
「私よりも…その子を先に…」
「貴方の方が重症なんです。ですか…」
「頼む…!」
シャマルの手を握ってナッシュは訴える。
「…分かりました。先にスバルを診ますけど大人しく待っていて下さいね?」
「ありがとう…シャマル先生…」
こうしてシャマルはスバルの診察と治療を先に行う事となった。
「ナッシュさん…」
「…高町隊長か…」
シャマルの診察中、全員が沈黙する中でなのはがナッシュの傍に寄って膝を下ろし、口を開く。
「あなたがこんなになるまで戦った理由は分かりました。でもまだ分からない事があります。あなたの過去に何があったんですか?私達はあなたの事を知りたい…いえ、知らなくちゃいけないんです。本当のあなたともっと向き合うために…。だから教えて下さい。お願いします」
「………」
「ナッシュさん。診察、始めますね」
「………」
僅かに躊躇いを見せて沈黙していたナッシュだったが…
「…これは…私の独り言だ…。耳障りなら聞き流してくれていい…」
空を見つめながら静かに語り始めた。
………
………
………
「だから私は…こんな事をして許されるとも許して欲しいとも思わない…。ただ…子供達の命を…未来を守りたかった…。その結果が…子供達の想いに打ちのめされて…この有様だ…!」
ナッシュが興奮して声を荒げると激しく咳き込み、溜まっていた血を吐き出す。
「ナッシュさん、落ち着いて。少しの間静かにしてて下さい。治癒魔法で応急処置をします。それで少しは喋りやすくなりますから」
「………」
ナッシュは右腕を上げながら拳を握り、それを震わせながら続ける。
「私のした事は…守る為のこの拳で…守るべき者を傷付けただけなのか?私は間違っていたのか?私は…どうすればいい…」
「そんなの簡単ですよ」
「な…に…?」
呆気に取られるナッシュの右手をなのはが微笑みながら優しく握り…
「手の力を脱いて下さい」
「……?」
訳が分からないままなのはの言う通りにナッシュは右手の力を抜く。
「こうして自分の手を開いて…相手の手を握って…引っ張ってあげればいいんですよ」
「…!!」
「私はこう思います。
確かに握った拳で力の無い人を守ってあげる事は出来る。私も昔はそれだけでいいと思っていました。だけど『ある事件』をきっかけに『その人が誰かを守りたいという気持ちを持っているなら、何かを守る為の強さを求めるなら、開いた手でその人を導いてあげるべきだ』、って感じました。
そうしなくちゃその人はその為にきっと自分の限界を超えて無理をする。そしてその無理は悲劇の引き金にもなり兼ねません。私は昔、そう学びました。思いが同じならあなたも…」
「フッ…。ハッハッハ…」
突然ナッシュが自嘲気味に笑い出した。
「なんて事だ…。私と同じ思いを抱きながら…出した結論が全くの正反対とはな…。考えた事も無かったよ…。私はその思いを…踏みにじろうとしていただけだった…。
『導く』…確かにそうだ…。そんなやり方もあったんだな…。だが…私にそんな資格はもう無…」
「そんなことありません!」
「!?」
急になのはが声を張り上げた。続け様に激しい剣幕でナッシュに言葉を浴びせる。
「あなたはただ視野が狭くなってちょっと周りが見えにくくなっただけです!今からだって全然遅くありません!それにあなたはそんなにも子供達を思ってくれているじゃないですか!」
「…だが…私はあの子達を…」
「あなたの強い気持ちは必ずあの子達に伝わります。だって…スバルにはもう伝わってるじゃないですか。それが答えです」
「私に…資格があると…?」
「もちろんです」
「君は…あの子達が無事に育つと思うか…?」
「育てますよ。あの子達がちゃんと自分の道を戦っていけるように、ね」
呆然としながらなのはの顔を見るナッシュだったが、その後僅かに笑顔を見せた。今度は自嘲ではない、気を緩めた優しい微笑みだ。それにより和やかになった場の中でナッシュは呟く。
「フッ…。何とも…頼もしい言葉だ…」
「ふふっ、どういたしまして!」
「それはそれとして…。私はこれから一仕事しなくちゃいけないから先に戻ってますね」
「ああ。スバルとナッシュを頼んだぞ、シャマル」
「はいはい皆さんどいて下さーい。ナッシュさんは緊急手術が必要な状態なのでこのまま運びますよー。私も先に戻りまーす」
「ま…待ってくれ…シャマル先生…」
シャマルが手術の為に先に戻ろうとした時、ナッシュがまたしてもシャマルを止めた。
「シャマルでいいですよ。…何ですか?」
「スバル・ナカジマは優しい子だ…。私の容体を知ったら…悲しむだろう…。自分を悔いて…責め続けるだろう…。そのせいで…自分の道を諦めるかもしれない…。だから…容体の事は言わないでほしい…。もし…隠しきれなくて…あの子が知ってしまったら…諦めないよう説いてやってくれ…」
「…それはあなたが自分ですべきでは?」
「合わせる顔が無い…。これは君にしか頼めないんだ…。頼む…!」
ナッシュがシャマルの目を凝視しながら懇願すると、シャマルはナッシュから勢い良く顔を背けながら答える。
「し…仕方ない、ですね…。分かりました。ですから…安心して下さい…」
「…恩に着る…ありがとう…。私が…言ったという事は…伏せて……」
「…ナッシュさん?」
シャマルが言葉の止まったナッシュに気付き振り返る。すると死んだように目を閉じて意識を失ったナッシュが視界に入ってきた。
「(…最後の最後までスバルの事ばかり心配しちゃって…本当に子供の事が大事なのね。一本気な人だわ)」
こうして波乱に満ちた模擬戦は幕を閉じた。スバルは医務室に運ばれて他のスタッフに治療魔法での処置を施され、ナッシュは手術室に搬送されて長時間に渡る手術を受けた。
[翌日 午後 機動六課隊舎 病室]
「……!スバル!ぐっ…」
飛び起きながら目を覚ましたナッシュは衝撃で腹部と左腕を痛める。
「ナッシュさん!あなたは重症なんだから急に動かないで下さい!」
「…シャマル先…」
「シャマルでいいですってば!早く横になって!」
「!?」
シャマルの迫力に負けたナッシュは無言で横になって布団を被った。
「シャマル先…君…。あの子…スバルの怪我の具合はどうだったんだ?思い悩んだりしていなかったか?」
「…怪我は一日あれば治る程度でした。けど…あなたの言った通りになりましたよ。泣きながら自分を罵る程でした」
「なっ…まさか…!」
「大丈夫ですよ。スバルは一度決めた事を簡単に投げ出す子じゃないですから。でも…」
「…でも?」
「迷ってるみたいです。『自分のやった事は許される事じゃないのにそのまま目標を目指していいのか』、って。……あなたから何か言ってあげればあの子も気持ちの整理ができるんじゃないかしら?」
「しかし…私はあの子に…」
「スバルも同じ事を思ってます。どちらかが歩み寄らないとずっとそのままですよ?」
「………」
「…直ぐにとは言いません。でもスバルのことを案じるなら早く話した方がいいですよ」
「………」
[二日経過]
「…今日も無理そうですね」
「…すまない…」
「謝るならスバルに謝ってください」
「………」
[四日経過]
「スバルから面会の希望がありました。チャンスですよ!」
「…断ってくれ。理由は『静養の為』でいい…」
「…仕方ないですね…」
[六日経過]
「そろそろ気は変わりましたか?」
「………」
「はあ…。まだですか…」
[一週間経過]
毎日シャマルの説得が続いたが、ナッシュは一向に首を縦に振らない。そしてこの日も変わらずシャマルがナッシュに発破をかける。
「ナッシュさん、一週間経ちましたよ」
「…ああ」
「まだ決心できないんですか?」
「………」
「またスバルから面会の希望が来てますよ」
「………」
「あの子から歩み寄ってきてるんです。あとはあなた次第なんですよ!」
ナッシュは顔を背けて無言でやり過ごそうとしたが、この日のシャマルは随分と食い下がる。
「………」
「いつまでもこのままじゃダメだってあなたも分かっているはずでしょう?」
「しかし…」
「どうせ近いうちに会わなくちゃいけないんだから今会った方が絶対いいですって!」
「会っても…何を言えば…」
「だーかーらー……」
突然シャマルの声が低くなり、言葉が途中で止まった。異変に気付いたナッシュが思わずシャマルの顔を見た途端…
「いい加減にしなさい!」
「!?」
…と、今までに無い剣幕で怒鳴り立ててきた。
「いつまで引きこもりの子供みたいな駄々をこねてるんですか!」
「私が子供だと?悪い冗談はやめてくれ」
「子供ですよ!あなたよりずっと若い子が勇気を出して歩み寄っているのにあなたはいつも逃げてるじゃないですか!スバルの方が大人らしくてあなたの方が遥かに子供じみてますよ!」
「そ、それは…」
「面会の日時と場所は私がセッティングします!あなたはそれに従ってもらいますからね!」
「し、しかし私はまだ体調が…」
「あなた達格闘家はバカみたいに回復が早いからもう外出許可を出せるくらいには回復してますのでご心配なく!」
「ば、馬鹿…」
こうしてナッシュの決心に関係なくスバルとの面会が決まり、翌日にそれが行われる事となった。
「(まったく…世話のかかる人ね。頭が回る分、子供より質が悪いわ)」
【アナザーside…TO BE CONTINUED】
以上、大きな子供ことナッシュくんとシャマルお母さんでした。
ちなみになのはとナッシュのやりとりは絶対入れたかったものの一つです。
これによって互いが良き理解者になった…っていうのを表現出来ていればいいなぁ…。