スーパーストリートファイターCROSS:StrikerS EDITION   作:拳を極めし者

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リュウの大きな悩みをここでピックアップします。
これに関してはしっかりと書きたかったのでメチャクチャ長くなってしまいました。しかもちょっと暗い話になってしまいますが、どうかご容赦を……。


第二話「試験 -再会と覚醒-」 B

【リュウside】

 俺の日常は基本的に修行の為に費やすが、渡航などで路銀が必要になった時は肉体労働で稼いでいた。だがそれは俺の世界での話だ。こちらの世界では勝手が分からず都合良く肉体労働がある訳でもないので働き口が無く、今は時空管理局で世話になっているので無理に働く必要が無い。

しかしある日なのはは「いい大人が働きもせずにご飯を食べるのは許さない」と言い出して以来、時々俺に(半ば強制的に)仕事を回して来るようになった。なるべく俺向きの仕事を選んでくれるのは有難いが…それを言われると立つ瀬が無いな…。

 

 

 

[新暦75年4月 ミッドチルダ 第8空港近隣 廃棄都市街 試験会場中間地点 巨大な廃ビル]

 

「ここが指定の場所か。……やはり気が進まんな」

 

 なのはに強制されて連れて来られた試験会場。正直な事を言えば、今は他人の事を気にする余裕は無かった。だが4年前に出会ったあの少女が今回の受験者となれば話は別だ。

 

 あの時…俺の殺意の波動が共鳴した事は勿論気になっている。なのはの話によるとあの後彼女を探したが何故か情報が隠蔽されていて行方が知れなかったらしい。

 殺意の波動が目覚めれば事件にならない筈が無いので、それらしき事件が無いという事は少なくともこの4年間は無事だと言えるが…。

 

 そして共鳴により増幅されて噴き出した筈の殺意の波動が謎の光によってその殆どが掻き消された事…。それは彼女と無関係では無い筈。その事に関して何らかの確認が出来れば俺の悩みも少しは晴れるかもしれない。

 それを確かめる為には拳を交えるのが最適だ。ただ、それが今である必要は無いと思うんだが…。

 

 

 

☆☆☆☆

[同時刻 試験会場から離れた廃墟ビル]

 

《範囲内に生命反応、危険物の反応はありません。コースチェック、完了です》

 

 首に掛けたネックレスの赤い玉が点滅する。

 

「うん。ありがとう、レイジングハート」

 

 なのはは試験コースの下見をしていた。

☆☆☆☆

 

 

 

『そっちの準備は出来てる?』

「……ああ、問題無い」

 

 なのはからの通信だ。

 

『通信機とサイレンサー、それと幻術魔法の発生装置は壊さないでね?タダじゃないんだから。特に幻術魔法の発生装置は製造が難しいから高価だし、壊れやすいから。使い方はもう大丈夫だよね?』

「おいおい、俺は子供じゃないんだ。それ位分かってるさ。壊したりしないし使い方も…」

『分かってる人は夢中になり過ぎてトレーニングルームを壊したりしないの!』

「……大丈夫だ」

 

 思わず声が小さくなる。時々なのはは小さい事で癇癪を起こすんだ。

 

「しかし…人を試すなんて俺の性に合わないんだがな。他の仲間に頼めなかったのか?それに俺は修ぎょ…」

『「働かざる者食うべからず」って言葉、知ってる?毎日働きもせずに修行修行って言ってた人は誰だったかな?』

「……了解」

『素直でよろしい』

 

「……一つ言わせてくれ。受験者があの子だというのは分かったが、試すなら試験中でなくとも配属されてからで…」

『試すなら早い方がいいんだよ?それにまだ配属が決まったわけじゃないし、あの子を試すだけでなくもう一人の子も一緒に適性を見るの。そもそもこれは個人的な事情じゃなくて正式な審査なの。文句ある?』

「………」

 

『じゃあ試験の流れを確認するね。二人が到着したら挨拶の一撃から飛び道具で牽制…』

「…適度なところで当てやすい片方に狙いを絞り、狙っていない方の様子を伺いながら攻撃続行…」

『動きがあったらスバルにあの技(・・・)を当てられるタイミングで放つ…』

「まだ未完成だが何とかしよう。力を抑えれば問題無い筈だ。それを何らかの方法で凌いだら装置を通過許可の表示に切り替えて通過させる…」

『勿論常に二人が互いを支え合っていたならね。チームで動く事が前提だから単独行動のスキルばかり高くても力を合わせられないなら部隊には必要無いって覚えておいて。

 それに手足は使っちゃダメだし大きいダメージを受けるのもダメ。手足を使ったら人間だってばれちゃうしダメージを受けたら幻術魔法が解けちゃうからね。…とりあえずよく出来ました!』

「…素直に喜べんな…」

 

『分かってると思うけどもしあの技であの子に変化があったら…』

「状況次第では全力で止めなければならないかもしれん…が、そうならないよう尽くそう」

『…さて。観察用のサーチャーと…障害用のオートスフィアの設置も完了。私達は全体を見てようか、レイジングハート』

《Yes,my master.》

『それじゃあ出番まで待機しててね、リュウさん♪』

「……通信、切るぞ」

 

人使いの荒い奴だ。だがあの子の事を知るいい機会には違いない。前向きに考えよう。上手く行けばあの光の正体も分かるかも知れんしな。…それにはあの技を確実に制御しなくては…。

では気を取り直し、精神統一しながら少女達が来るのを待つか。

 

「(リュウさん…。スバルのことは当然大事だけど…最近悩んでるみたいだったからって修行の息抜きも兼ねて今回のことを頼んだのはやり過ぎだったかな…。それに…少し嫌な予感がする…)」

 

 

 

[数十分後]

「来たか…」

 

 目の前には少女が二人。そのうちの青い短髪の少女を見つめる。

 

「(やはり資料よりも面と向かった方が実感出来るな。情熱的で力強い目付きだ)」

 

 4年前の空港火災で出会った少女に違いないが、当時とは比較にならない程心が強くなったのがよく分かる。

 

「(それにしても…既視感があると思ったら雰囲気が『あの子』によく似ている。姿も若干似通っているしな。年齢もあの頃のあの子とそう変わらなさそうだ)」

 

 思い出したのは俺の世界で出会った少女の話だ。

 

 

 

【回想】

[8年前 地球 日本 関西地方 とある山奥 朱雀城]

 この日俺は一年振りに日本へ戻って来た。目的は毎年行っているある行事(・・・・)を行う為、そして今回は初心に帰るべくかつての修行場で時間をかけて修行する為。

 この朱雀城は俺の修行時代、師匠に技の習得や精神鍛錬の場としてよく連れて来られた場所だ。

 

「やはりここは心が落ち着くな。これで師匠とあいつがいれば昔そのままだ。…師匠…」

 

 ここに来ると様々な思い出が去来する。いい思い出もあれば、中には辛い思い出もあった。

 

「思い出を巡るのはここまでだ。早速始めるか」

 

 俺は記憶を辿って昔の修行内容を思い出しながら修行を開始した。

 

 

 

[半年後]

「少々名残惜しいが…そろそろ行かねばな」

 

 俺はまた世界を回るつもりだ。当分ここには…いや、もしかしたらもう二度と戻らないかも知れない。

 ここには思い出が多過ぎる。俺の足を止めてしまう程に。 だから何処にいても初心を忘れぬ為、この朱雀城を目に焼き付けよう。

 

 

 

「………」

 

 城を見上げると名残惜しさ故かしばし呆然としてしまった。

 

「…ん?」

 

 やっと我に返ると背後に人の気配を感じ、振り返ってみる。

 

「やっと…会えたんだ…」

「……君は?」

 

 そこにはセーラー服を着て白い鉢巻きを巻き、赤いグローブを嵌めた少女が佇んでいる。その少女は俺の顔を見るなり突然涙を流した。

 

「だ…大丈夫か?君…」

「あっ…つい…感激しちゃって…。まいったなこりゃ…」

 

 その少女は涙を拭うと真っ直ぐな瞳で俺を見つめてきた。

 

「リュウさん……ですよね?ずーっとあなたを捜してここまで来ました」

「………」

 

 彼女が何故俺を捜していたのかは分からなかった。だが彼女が並々ならぬ思いで俺を捜していたのであろう事はその瞳で直ぐに理解出来た。

 

「リュウさん…。あたしと…闘って下さい!!」

 

 …そうか。君は俺を求めて来てくれたのか。その直向きな思いと真っ直ぐな瞳で俺を追い掛けてくれたのか。

 

「………」

 

 俺は無言で構えた。

 もう会話は必要無い。後は拳が語ってくれるからだ。だが最後にこれだけは聞かねばならない。

 

「…君の名は?」

「さくら…春日野さくら!」

 

 少女も構える。

 

 無言の俺達の空間に風は無く、息遣いだけが聞こえる。

 そして沈黙は少女の一言によって破られた。

 

 

 

「さくら、がんばります!!!」

 

 

 

 

 

 ………

 ………

 ………

 

「あの…リュウさん…」

「………」

 

 自分の握り拳を見ながら物思いに耽る。

 

「(…やはり拳は正直だ。そして口よりも多くを語ってくれる。 朱雀城での半年よりもさくらとの闘いの方がより多くのものを得られたような気がするな。 このひと時が終わってしまったのが残念でならない…)」

 

「また…あたしと闘って下さい!」

 

 ……そうだな。ならばまた闘えばいい。いつでも、何処でも。

 

「ああ、今度は俺が君に会いに行く番だな」

「ほっ…本当に!?」

「君がストリートファイターで有り続ける限りはね。次に会う時が楽しみだ。…じゃあ俺は行くよ」

「ま…待って!最後に写真を…」

「ああ、撮ろう」

 

 ………

 ………

 ………

 

 あれからまだ彼女には会っていない。いつになるかは分からないが…また会いたいな。いや、会うんだ。

 彼女と再び会うまで…勿論会ってからも俺は戦い続けよう。俺自身の為にも、俺なんかの為に心と技と体を尽くしてくれたさくらの為にも。

【回想終了】

 

 

 

「(……こちらの世界にいるせいで会うのも難しくなってしまったな。まあいずれは戻るつもりだが。

 さて、装置の作動状況の確認だ。人間である俺の姿を見ても驚いていないという事は幻術魔法の発生装置は正常に作動しているという事だな。ならば次は…)」

 

 確認中に青髪の少女…スバルが突進してきた。次にやる事は…攻撃だ。

 

「波動拳!」

 

 俺は青色の気弾を両掌から放った。

 

 

 

 

 

 

 当てるつもりで放った波動拳だったがスバルはギリギリでそれを回避する。だが俺の声に驚く様子は無い。

 

「よし、叫んでも聞こえていないな。これで遠慮無く攻撃出来る。飛び道具のみという制限は厳しいが、これも修行と思えばいいか。それにしても…小手調べだったとはいえ正面から突っ込んで来てよく躱したな。後ろの少女の声のお陰とはいえ反応速度はなかなかだ」

 

 スバルは俺に向き直りそのまま向かって来るかと思ったが、一旦もう一人の少女…ティアナの場所まで後退した。

 

「作戦会議か、存外冷静だな。まあそれくらいの時間は与えてもいいだろう」

 

 二人が話している最中、スバルが俺の方をちらりと見てきた。

 

「(?…そういえばスバルは波動拳に妙な動揺を見せていたな。まさか俺の『気』に気付いたのか?この世界の人間は自力で気功の素質に目覚められる者はいないと思ったが…まさかこの子が?)」

 

 

 

 二人の話が終わった。どうやら作戦が決まったようだ。スバルが先程と同じように俺に向かって来る。

 

「(さっきと同じように向かって来てはいるが…気勢が違うな。囮か…ならばあえてそれに乗ってやろう!)波動拳!」

 

 しかし今度は余裕を以って躱される。

 

「やはりあの靴による機動力はなかなかのものだな。…面白い!素早く気を練り、動く敵を波動拳で狙ういい修行になる!」

 

 俺はスバルに狙いを絞った。

 

 

 

「波動拳!波動拳!波動拳!波動拳!」

 

 なるべく最短の間隔で撃ってはいるが一向に当たらない。

 

「(一定距離を保たれた上にあの速度…。回避に徹するとこれ程厄介なものなのか)」

 

 スバルへの対策をあれこれ考えているとティアナが銃で連射を開始した。

 

「(銃は槍と同じ!銃口から素早く軸をずらせば簡単には当たらん!)」

 

 小刻みに左右へ動く事で回避には成功しているが、ティアナは主に胴体を狙いつつ正確に足元へ撃ち込んで俺の機動力を削ぎに来ている。いい作戦と腕だ。それにしても…

 

「(くっ…。この連射…いつまで続くんだ?)」

 

 ティアナの銃は見た目からすると装弾数は然程多いとは思えない大きさなのに立て続けに十数発は撃っている。

 

「(恐らくは魔力を装填してそれを銃弾として撃ち出す銃…。実弾と違って予備の弾倉を減らせる訳か。便利な銃だ)」

 

 連射を回避し続けてしばらくすると、スバルの動きが変わった。

 

「(この動きは…俺の逃げ道を減らして誘導したところに攻撃を集中する気か。考えたな。だが逆にそれを利用させてもらう!直接触れる訳ではないから大丈夫な筈だ!)」

 

 俺は空いている道ではなくスバルのいる方向へ突っ込んだ。それを予測していなかったためか、スバルは反応が一瞬遅れて殴ってきた。

 

「(ここは『これ』で切り抜ける!)」

 

 

 

☆☆☆☆

[数年前 地球 イギリス のどかな田舎町]

 かつて俺がとあるイギリス人のボクサーと戦った時の事だ。

 

「俺の拳撃が悉く受け流されて鋭い一撃が差し込まれる…。素晴らしい技術だ…」

 

 俺は有効な拳撃を一度も当てられないどころか、俺の体勢を崩して流れるような反撃を打ち込んでくる相手に感動を覚えていた。

 

「お褒めに与り光栄だ。では私からも一つ。

 私は風の噂で君の技…波動拳の事を知っていた。だから初見でも難無くインファイトに持ち込めたのだ。

 だが私だけが事前に相手の情報を仕入れているのは不公平というものだ。それでは仮にこのまま私が君を倒しても私の力で勝ったとは言えない。 そこで私も今から君にボクシングの技の一つを教えようという訳だ」

「悪いが俺はそんな施し…」

「私の…いや、紳士の誇りが許さないのだよ。いいから聞きたまえ、リュウ君」

「(…これが英国紳士というものか。何という愚直な誇りだ。ならばその誇りを穢す訳にはいくまい)。…分かった。では頼む」

 

「よし。先程君のパンチを受け流したのは『パリング』というボクシングのディフェンステクニックだ。

 簡単に言えば『相手のパンチを手首の返しで逸らす』というものだな。これは大した力も必要無く、最小限の動きで攻撃を凌げ、主にストレートパンチに対して有効だ。

 まあ私ほどの実力になればパンチだろうがキックだろうが種類を問わないがね。更には手首を使わずともピンポイントでナックルパートをぶつけて回避と攻撃を同時に熟す事も出来る。そして…相手の体勢を崩して私の『一撃必殺』を打ち込む事も可能だ…が、先程も言ったとおり本当の意味での勝利を得るにはそれを打つ訳にはいかなかったのだ」

「(この男、相当な自信家だな。だがそれ故に誇り高く…強い。そして『一撃必殺』か…)」

 

「さて、これで私の手の内の一つが知られてしまった訳だが…ここから一切の手加減は無い。迂闊な攻撃は私の『一撃必殺』の餌食となる事を覚悟したまえ」

「望むところ!行くぞ強敵(とも)よ!」

 ☆☆☆☆

 

 

 

「(相手の拳撃を片手で逸らす!…だが今は相手に触れてはいけない。ならば…試した事は無いがやるしかあるまい!)」

 

 波動拳の応用で掌から「気」を拡散させながら放つ「面」を使って受け流す。これなら多少狙いが外れても何とかなる筈だ!

 

「波っ!」

 

 その結果、あのボクサーほど上手くはいかなかったが、元々無茶な体勢からの攻撃だったせいでスバルは大きく体勢を崩して倒れそうになっていた。

 

「(付け焼き刃だが何とかなったな。このまま距離を離す!)」

 

 本来ならばこのまま攻撃するべきだが、今回は倒すのが目的ではないので俺はそのままスバルの脇を走り抜けた。すると倒れそうになるのを踏ん張ったスバルはこちらを見ながら完全に動きが止まった。

 

「(何やら随分と驚いた表情をしているな。攻撃を受け流されて余程動揺したのか?)」

 

 ところが次の瞬間に突如嬉々とした表情に変わり、凄まじい速度で突進してきた。

 

「(なっ!?笑っている!?)」

 

 スバルの笑顔に驚いていると今度は単純な乱打戦を仕掛けて来た…が、先程とは気迫が違う。荒削りで無駄な動きが多いながらも情熱が込められたいい拳だ。だが…

 

「(この動き…いい動きだが格闘家のそれと同じだ!本当に魔導師か!?)」

 

 予想外の事態が起こり過ぎて失念していたが、別方向からは銃も待ち構えている。射撃も警戒しながら手も足も使わずにこの攻撃を避け切るのはかなり厳しい状況だ。

 

「(せめて射撃だけでも封じねば!)」

 

 俺はスバルとティアナをなるべく直線上に捉えてスバルを盾にするよう立ち回った。すると作戦が功を奏し、ティアナは殆ど弾丸を撃ってこなかったのでスバルの攻撃に集中する事が出来た。

 程なくして攻撃が当たらない事に痺れを切らしたのか、スバルが大声で叫ぶ。

 

「ティア!このままじゃダメだよ!連携で行こう!」

「珍しく気が合ったわね!じゃああたしに合わせて!」

「了解!」

 

「(敵に聞こえているのに大声で叫ぶとは…。余程自信があるのか?…いや、俺が機械だと思っているからか。…二人には悪いが警戒させて貰うぞ!)」

 

 二人を視界に捉えやすくするべく横に移動しようとするが、スバルは我武者羅に俺を追い掛ける。

 

「あなたの相手はあたしですよ!」

「(『あなた』…だと!?俺が人間だと気付いたのか!?)」

 

 またしても動揺してしまい、一瞬だけ動きが鈍った為に距離を詰められてしまった。

 

「(そういえば…最初の波動拳を躱した時や連発した時、俺が拳撃を受け流した後の反応が妙だったな…。俺の『気』に立て続けに当てられた事で『気』を感じ取れるようになったのか?いや、それよりも人間と気付いたなら何故作戦を大声で……)」

 

 

 

 後ろではティアナが何か準備しているようだがまだ動かない。こういう時は動きの止まったティアナを狙うのが定石だが、纏わり付くスバルがそれを許さない。

 

「(こうなったら仕方ない…。躱しながら『気』を練っておいて大きい攻撃が来たら迎撃するしかない!)」

 

 俺はスバルの攻撃を躱しながら少しずつ気を練り始めた。動きながらでは時間がかかってしまうが、こればかりはどうしようもない。

 

 

 

「スバル!」

 

 突然ティアナが叫ぶ。同時にスバルが震脚からの拳撃でコンクリートの破片を飛ばして来た。

 

「(速度は大した事はないが…広過ぎて避け切れん。ダメージは軽微だろうが、もし喰らい過ぎれば幻術魔法が解けてしまうかもしれん。こうなれば…)」

 

 俺は真半身に構え、手から放射状に「気」を放出して破片の一部を跳ね返し、当たる面積を最小限に抑えた。 先程の波動拳を応用したパリングを更に応用したという訳だ。

 

「(ふう…何とかなったか)」

 

 細かい破片は命中してしまったが、幸い幻術魔法は解けなかった。だが安心したのも束の間、更にもう一発の散弾が飛来。僅かな隙を突き、後退して更に被弾率を下げる。

 そしてそれを先程と同じ方法で凌いでいる最中、スバルとティアナが叫ぶ。

 

「クロスファイアー……!」

「リボルバァァァァ……!」

「(今の攻撃で目隠しして技の準備を進めていたのか…!見事だ!)」

 

 さっき二度も放出してしまったせいで練って溜めていた「気」が減ってしまっている。だが今から練り直す時間は無い。

 

「(これでは本来の威力は出せんがこのまま迎撃するしか無い!)」

「「シューーーーーーーート!!」」

 

 俺を囲うようにオレンジ色の弾が、そして空色の閃光の後ろを竜巻らしきものが追い掛けつつ向かってくる。

 

 

 

 

「真空…!波動拳!!!」

 

 俺はそれを迎撃すべく合わせた両掌から大きく青い気弾を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「…何とか間に合ったか…」

 

 放った光は大きい気弾となり、二人の攻撃が届くギリギリのところで相殺に成功した。辺りには煙が立ち込めている。

 

「イエーイ!ナイスだよティア!」

 

 スバルの声だ。

 

「(二人の緊張が解けている…。確認もせずに勝ちを確信するとは…。先程の布石と連携は見事だったがやはりまだ子供か)」

 

 若干落胆しながらも気を取り直し……

 

「少し灸を据えてやるか」

 

 煙が止まない内に気を探ってスバルに狙いを定める。

 

 

 

 

「悪く思うなよ…波動拳!」

 

「スバル回避!」

 

 ところがティアナに一瞬早く気付かれてスバルを庇われる。 煙の隙間から俺の姿が見えたのか?

 

「波動拳!波動拳!波動拳!波動拳!」

 

 スバルとティアナは二手に別れたため、機動力の高いスバルを後回しにしてティアナを狙う。ところがティアナは俺の攻撃ではなく思わぬ形で痛手を被る事になった。

 

「うあっ!」

 

 声を上げて倒れるティアナ。どうやら足を挫いたようだ。しかもそれはスバルの震脚で割れた地面だ。

 

「自らの油断が招いた災難か…だが手は緩めん。波動拳!」

 

 俺は倒れたティアナに容赦無く波動拳を撃ち込む。しかしティアナは倒れたまま転がって波動拳を躱し、瓦礫の影に隠れた。

 そして瓦礫の影から射撃を試みたが、射角が限定される射撃だった為俺は難なく躱す。続いてスバルが隙を見てそこへ辿り着いた。

 

「(瓦礫ごと吹き飛ばすのは造作も無いが…それだと大怪我をさせてしまうかもしれん。また様子見だな)」

 

 話の内容が分かる距離ではないが、どうやらかなり揉めているようだ。互いが自分の非を責めているんだろう。無理もない。しばらく様子を見ていると突如スバルが禍々しい『気』を放ち始めた。

 

「待っててティア…。今そいつを…殺すから!!」

「きゃッ!」

 

 その直後、スバルは「気」を解放してティアナを吹き飛ばした。同時に俺に向かって飛び込んでくる。

 

「(こ…これは『殺意の波動』…!なんて事だ!)」

 

 俺は以前殺意の波動に目覚めた事が数度あったが、感情の爆発によってそうなった事は一度も無い。 だがスバルは違った。

 

「(根の深い感情かも知れんが感情だけでこうなってしまうとは…。

非常に危険だ…。今まで何も起こらずに無事でいられたのが不思議な程に…!!)」

 

 こうなってしまった以上は迷う時間も無く、闘わざるを得なかった。

 

 

 

「ハアッ!!」

「!?」

 

 スバルは飛び込みざまに厳つい武器の装備された右拳を振り下ろしてきた。嫌な予感がして飛び退くと、拳が振り下ろされたその地面が衝撃で抉れて直径5mはあろうかという巨大なクレーターが現れた。

 

「(右拳に装着された何かが回転して威力が増しているであろうとはいえ、ただの拳撃でこの威力…!油断したらやられる!)」

 

 スバルは止まらずに突進し、そのまま格闘戦に突入。先程とは攻撃速度が桁違いだ。

 

「(もう手加減は出来ん…行くぞ!)」

 

 俺は手足を使って攻撃を捌き始めた。

 

「ふっ!」

 

 隙を突いて鳩尾に右拳を打ち込むが、溢れ出す殺意の波動が壁を作っておりスバルの身体には届かなかった。

 

「(くっ、やはり『気』を込めた一撃でなければ届かんか!)」

 

 殺意の波動は身体能力を異常に強化する力を持っている。それは攻撃力や速度だけでなく、防御力も同じだ。

 

「(あの右は一撃でも喰らったらまずいな。最低でもそれだけは…)」

 

そして特に攻撃力は桁違いに上昇する。その影響か武器の装備された右拳は急所に当たれば一撃で致命傷になりかねない威力に達していた。 それでも先程地面を抉った一撃は本気には見えなかったんだ。考えれば考える程恐ろしい。

 

「(それにしても…)」

 

 俺の姿は幻術魔法でオートスフィアに見えている筈なのに、本当の姿が見えているかのように的確に人体を捉えている。

 

「(これも殺意の波動の力か…!)」

 

 

 

 右拳を警戒しながら攻撃を捌いていると当然他の部分への警戒は甘くなる。スバルは俺が右拳を躱したその隙を突いて俺の右脇腹に左膝を入れる。

 

「ぐっ!(人間が最も反応しにくい対角線からの攻撃…!)」

 

 更にダメージを受けてくの字になり、もたげる俺の顔に右拳を減り込ませる。

 

「がっ!!」

 

 俺は吹き飛ばされて地面を何度も跳ねて転がっていき、同時に幻術魔法が解けてサイレンサーと通信機も壊れた。

 そしてやっと止まったところでそのまま追撃を喰らう事を覚悟していたが、スバルは動きを止めていた。

 

「(この子に染み付いた…格闘技の基本か…。油断した…)」

 

 油断した自分を恥じながらもスバルの動きが止まっているうちにダメージチェックを行う。

 

「(脳が揺れて…体に力が入らん…。肋骨は…右が何本か折れている…。吹き飛んだ時に…全身打撲…。顔は…腫れているが…骨折はしていないようだ…)」

 

 右拳が命中する瞬間に頭部を後ろへ引いた事で頭部へのダメージを軽減する事に成功し、K.O.はされずに済んだようだ。しかし…

 

「(何故…攻めて来ない…)」

 

 スバルはその場に立ち止まって俺を見つめている。

 

 

 

「…思った通りリュウさんだ。4年振りだね。どう?あたし、強くなったでしょ?」

 

 何を思ったのかスバルは突然語り出した。

 

「(『4年振り』?…って事はスバルとこの人は知り合い?…スバルが前に言ってた『気になる人』ってまさか…!)」

「(立てるまで…時間を稼ぐしかない…)。やはり…気付いていたか…。確かに君は…強くなった…。だが…その力は…」

「うん、凄い力だね。使えば使うほど…壊せば壊すほど力が湧いてくるよ!」

「その力を使って…どう思った…?」

「ハハハハハ!楽しい…楽しいね!感情のままに…壊すため、殺すために力を振るうのがこんなに楽しいなんて!」

 

 なんて乾いた笑い声だ。しかも壊す事や殺す事を「楽しい」と言った。

 

「そ…そんな事は…許されん!本当の君も…そんな事は望んでいない筈だ!」

「本当のあたし?…これがそうだよ!」

「闘いの本質とは…!己を鍛え!相手の生命とぶつかり合い!互いを高め合う事!一方的な破壊は何も生み出さない!その力に身を委ねるな!力に…自分に負けるな!」

「あんたに…あたしの何が分かるんだ…。あたしは負けない!この力があれば…誰にも!何にも!」

 

 

 

 問答の時間は終わった。スバルは俺に向かって拳を構える。

 

「(まずい…まだ立てん…!)」

 

 スバルが今正にこちらへ向かおうとした瞬間、ティアナが駆け寄りスバルを羽交い締めにした。

 

「スバルやめなさい!あんた自分が何を言っ…」

「うるさい」

 

 スバルはティアナの腕を振りほどくと左裏拳でティアナの顔面を殴る。続けて振り返りざまに腹へ右拳を打ち込むとティアナは後退りし、よろめいて尻餅を突く。彼女は鼻と口から血が流れ、腹への一撃で悶絶している。

 

 

 

「ウ…ソ…でしょ…?あ…あんたが…こんなことす…」

「……邪魔だよ」

 

 ティアナの言葉を遮ってスバルはティアナを蹴り飛ばし、ティアナは転がって力無く倒れた。ダメージ自体は大した事が無く意識はある筈だが、全く立ち上がろうとしない。

 

「その子は…貴様の友ではなかったのか…!」

「うるさい!!」

 

 こんな事が許される訳がない。そう思った瞬間、自分の中で怒りが膨れ上がるのを感じた。

 

「ぐっ…(まずい…怒りを抑えねば俺も…!)」

 

 スバルに触発されてか俺も心が乱れてきた。怒りが憎しみに変わり…憎しみが「殺意」に…。

 

「あんなの…本当のスバルじゃない…。でもあたしじゃ…スバルを止められない…。お願い…スバルを…スバルを止めてぇ!!」

 

 倒れていたティアナが涙を流しながら叫んだ。

 

「(そうだ…。友の涙を…破壊と死を招くだけの力なんてあってはならない!認めてはいけない!本当のこの子も望む筈が無い!)」

 

 俺は何とか自分を取り戻して立ち上がった。

 

 

 

 

 

 何とか立ち上がったものの、今の俺には一人で殺意の波動を止める力は無い。 ならば…

 

「君!俺がこの子を止める!だから君も手伝ってくれ!」

「は、はい!」

 

 ティアナは即座に立ち上がり、スバルに向けて銃を構える。

 こうして俺は即席でティアナと共闘する事となった。

 

 

 

 

「二人で来ても無駄だよ!ハアッ!!」

 

 スバルは最初より大きな「気」…殺意の波動を解放した。先程より更に強くなったという事だ。

 

「ならばこれでどうだ!はああああ……!!」

 

 波動拳と同じ構えで「気」を練り、合わせた掌に青白い光を灯らせると…

 

「連波動拳!!」

 

 掌から波動拳を連続発射した。

 

 

 

「!!」

 

 5連射の波動拳は全弾がスバルに直撃し、爆風が巻き起こる。

 

「倒せないまでもこれなら効く筈だ!」

 

「ちょっ…本当に大丈夫なんですか!?」

 

 ティアナが俺の元へ走り寄りながらスバルを心配して思わず声を上げる。だがその心配は直ぐに杞憂だと判明した。煙が消えるとスバルは額から血を流しながらも平然と立っていたからだ。

 

「いいね…ずっと一方的じゃつまらないからね!」

 

「(予想はしていたが…いや、予想を超える防御力…。そしてあの破壊力…。完全ではないというのに何という力…まるで『天の男』のようだ。時間稼ぎすらままならんとは…!)」

 

「(…スバルの体から噴き出ている『何か』…。フィールドタイプの防御魔法…その中でも『バリアジャケット』に似てる…けど防御力が異常に高過ぎる。身体の内側から外側に向けて魔力みたいなのを噴出させて攻撃を押し返しているように見えるわ…。

 あんな凄まじい攻撃を受けてあの程度の傷じゃ、あたしの魔力弾なんて撫でる程度のものね…でも!)」

 

 ティアナは再び銃を構え…

 

「その程度で諦めたりしない!」

 

 意を決するとスバルの注意を引く為に俺から離れるように走りながら射撃を開始した。

 

 

 

 その射撃はスバルは立ち止まっていたので難なく命中するが、当然ダメージは無い。だが命中した瞬間、スバルの表情が鬼気迫る怒りの表情に変わった。

 

「……ティアァァァァ!!」

「…ッ!!」

 

 最早正気を保っているとは思えない。まるで仇を見るかのような怒りと憎しみ・殺意に満ちた目だ。スバルに睨み付けられたティアナは射撃も足も止まってしまった。

 

「(そんな目で…あたしを見ないで…!)」

 

 ティアナは銃を構えながら目を潤ませてスバルから目を逸らす。

 

 

 

 しかし苦悶の表情になりながらもティアナは立ち直り…

 

「…そんな顔…!あんたらしくないわよ!」

 

 再び意を決して攻撃を再開する。ティアナは本気になった為か、その連射速度はさながら機関銃の如く凄まじいものになっていた。

 

「ユルサナイ…!!」

 

 しかしスバルは拳を胸の高さに構えて片足を上げながら滑るように移動し、弾丸の雨を隙間を縫うように回避しながらティアナに急接近。スバルの身体はそのあまりの速さに残像を生じさせていた。

 

「(ウソでしょ!?これだけの弾丸をこの距離で全弾避けるなんて人間にできる動きじゃない!)」

「(あれは…以前俺が暴走した時に使った技…!)」

 

 ティアナとの距離を殆ど一瞬で詰めたスバルはそのまま攻撃に移る。

 

「(か、躱せない!)」

 

 あまりに速いスバルの動きにティアナは体が追い付かず、文字通り「一撃必殺」の右拳が打ち込まれようという瞬間……

 

「させん!」

 

 俺はスバルがティアナに襲い掛かる瞬間を見計らい、渾身の飛び蹴りでスバルを蹴り飛ばした。

 

 

 

「グアッ!」

 

 ティアナに気を取られて防御も回避もしなかったスバルは蹴りが肩口に命中して弾かれるように吹き飛び、瓦礫の山に激突すると山が崩れて埋まってしまった。

 

「(吹き飛ばしはしたが、頭部ではなく肩口に当たってしまった上に手応えが妙だった。恐らくまたダメージは無いな)。…無事か?」

「はい。でもあなたの攻撃も効かないとなると…」

「…考えがある。もし成功すればあの子を元に戻せる筈だ。だが君にかなりの負担をかける事になってしまうが…」

「あの子が元に戻るなら覚悟の上です。聞かせて下さい」

 

 ティアナは銃に巨大な薬莢を詰めながら話をする。

 

「すまんな。…あの子に同質の力をぶつけてその力を相殺する。10秒ほど時間を稼いでくれ」

「分かりました。10秒ですね?じゃあ私からもお願いがあります。もう一度さっきの技を撃って下さい。その後は絶対に時間を稼いでみせます」

「分かった。頼むぞ」

 

 話が終わるのとほぼ同時に叫び声と共に山を吹き飛ばしてスバルは立ち上がる。

 

「ガアァァァァ!!」

 

 目付きが鋭くなり、叫び声も人間のそれとは思えない…正に獣の咆哮となっていた。

 

「(何なのよこれ…まるで獣じゃない…。一刻も早く戻さなきゃ…!)」

「(自我を失いかけている!?…急がねば!)…はああああああ…!!」

 

 俺の攻撃の為に再度ティアナが走りながらスバルを撃って注意を引きつける。

 

「こっちへ来なさい!」

 

ティアナが引きつけてくれる間に溜めが完了し…

 

「連波動拳!!」

 

 次は先程より多い6連射の波動拳を発射した。

 

「オアァ!!」

 

 …が、それにも関わらず今度は右腕一本で防がれてしまった。

 

「(効かんか…だが!)」

 

 しかし爆風は巻き起こり、辺りが煙で包まれる。直後にティアナが俺の元に戻ってきたかと思うと、俺の肩に触れて魔法を使い始めた。

 

「オプティックハイド…」

 

 ティアナが呟くと彼女の姿が消え、彼女が触れていたせいか俺の姿も消えていく。

 

「(彼女だけでなく俺の姿も消える…。自身と触れた対象を見えなくさせる魔法という訳か。では俺も…!)」

 

 俺は静かに気を練り始める。

 

「フェイクシルエット…!」

 

 続いて離れた位置に二人のティアナが出現した。

 

「(今度は残像…いや、幻か。初見では本物と見分けがつかん。幻術魔法も然る事ながら二つの魔法を同時に使用するとは大した腕だ。…ぐっ!集中しなければ意識が持って行かれる(・・・・・・・)…。意識を保て…!殺意の波動を限界まで圧縮しろ…!)」

 

 右脇で合わせた掌の空間に紫色の光が輝き始める。

 

「(くっ…魔法の同時使用がこんなにキツいなんて…でも弱音は後!絶対に保たせてみせる!)」

 

 

 

 煙が晴れてスバルが姿を表し、走り回るティアナの幻に反応して追跡を開始。単調な動きの幻に食い付く様を見るところ、思考能力も獣並になっているようだ。

 

「(今のあの子の殺意の波動が大き過ぎて相殺する分を溜めるのに時間が掛かる…。10秒では足りん…!)」

 

 スバルは一人の幻に追い付くと猛烈な勢いで殴り掛かる。幻は拳を受けるとあっさり消えてしまい、もう一人の幻も間も無く殴り掛かられてあっという間に消された。だが別の場所から新たな幻が二体現れる。

 

「(消されるのが予想より早い…。またフェイクシルエットを使ったせいでもうオプティックハイドが保たない!それにもう10秒は経ってるのにこの人はまだ動けないの!?)」

 

 スバルが二回目の幻を追う最中に透明化が解けた。

 

「カアッ!!」

 

 そして同時に聞こえたスバルの発声と共に二人分の幻が消え失せる。

 

「(な……)」

 

 その光景に俺は動揺を隠せなかった。幻は拳ではなく両掌から放たれた気功波で両方が同時に掻き消されたからだ。

 

「ハアァァァァ…!!」

 

「(何と言う…力…!)」

 

 俺のいた世界では「気」を操る者の殆どは修行によってその術を得る。稀に修行も無しに操る天性の素質を持っている者も存在するが、それは身体能力の強化に限る。

 その理由は…手を強く握れば拳の硬さが増すように、腹筋に力を入れれば筋肉が張るように、「自分の身体の一部に力を込める行為の延長」として肉体が反応するからだ。身体中の「気」を一部に集める行為は基本的に「気」の喪失が殆ど無いので無茶な使い方をしない限りは大した疲労感も無く、無意識にそれをやる者は使っている事自体に気付く事も殆ど無い。しかし「気の放出」は修行無しには会得出来ない。何故ならば本来人間には「気を放出する」という概念が存在しないからだ。

 その行為は言ってしまえば生命力を投げ捨てるに等しい行為で、無闇に使えば命を削ってしまう。そんな行為を人間の生存本能が許す筈も無く、無意識にそれを拒否してしまう。だが先人達は本能を乗り越えた。「気」を体内で練り上げ、増幅し、在り方を変える事で放出する術を得たのだ。

 その為放出される「気」は元々体内に存在するものとは別物になっており、それは摂理に逆らう行為でもある為、「概念を知らなければ絶対に不可能な行為」となっている。

 

 

 

「(本来は気功の概念すら持たない人間がこの短時間にここまで成長するなど…況してや気功波を放つなど決して有り得ん…。殺意の波動はこんな事まで可能にしてしまうのか…!)」

 

 スバルは幻を一掃すると踵を返してこちらへ向かって来る。

 

「(だが幻のおかげで距離は稼げた。そしてこの技ももう完成する…。俺の方が早い!)」

 

 先程の気功波では射程が短く、あの高速移動でも間に合う距離ではない。

 ところがスバルは接近しながら右手を後ろに引き、「気」を溜め始めた。

 

「(何ッ!?しまった!)」

「アァァァァッ!!」

 

 気付いた時には既に遅く、スバルは右掌を突き出し巨大な気を放出した。先程の気功波は両手から同時に放出していた為に威力も射程距離も半減していたようだ。

 「気」の収束も放出も未熟なスバルであったが、今の一撃は片手で先程の両手分の「気」を放った為に圧倒的な放出量で補われており、俺達に届くには十分なものとなっていた。

 

「貫け!滅………!!波動けぇぇぇぇん!!!!」

 

 俺は一か八か殺意の波動の塊を撃ち出した。

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 紫色の気弾がスバルの放った気功波を貫いた…が、スバルは即座に体勢を立て直し、両腕から「気」を放出して受け止めた。

 

「オオオオオオオオ!!」

 

 スバルの「気」が更に膨れ上がり、滅・波動拳を押し返そうとする。

 

「波ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺も負けずに「気」の放出量を増やして押し込む。しかしスバルの殺意の波動の力は止まる事を知らず、更に強くなっていく。

 

「(押されてる…!この人でもダメなの!?)」

「(こ…このままでは押し返される!俺では勝てないのか…!!)」

 

 滅・波動拳がジリジリと押し戻されていくと俺は焦りを感じ始め、心が認め難い敗北を認めようとしていた……その時、再び「あの光」が輝いた。

 

 

 

 

「(これは…!)」

 

 その光は4年前と同様に眩しく輝き辺りを包む。その直後、スバルの殺意の波動が弱まった。

 

「(明るくて暖かい…これは何…?)」

「(今だ!)波ぁ!!」

 

 俺は力が弱まった一瞬の隙を突き、全力で押し込んだ。

 

「グアアアアアアアア!!」

 

 紫色の気弾はスバルの防御を突破し、直撃した。

 

 

 

 

 

 

「きゃああああ!!」

 

 直撃した瞬間、炸裂音と共に激しい爆風が巻き起こりティアナが吹き飛ばされた。

 

「痛っ…。スバル…スバルは!?」

 

 身体を起こしたティアナがスバルへ目を向ける。スバルは身体中から煙を上げて白目を剥き棒立ちしていたが、数秒後には力を失って膝が折れて倒れようとしていた。

 俺も「気」を消耗し過ぎて脱力してしまい、片膝を突く。

 

「スバル!」

 

 捻挫している筈のティアナだが痛む素振りすら見せずに全力で駆け出し、倒れる寸前のスバルを受け止めた。

 

「(足を挫いているのに無理をする…。やはりいい…コンビだな…)」

 

 落ち着いたところで先程の攻防を振り返る。

 

「(…あと一瞬でもあの光が遅かったらまずかった…。こんな偶然…いや、奇跡に助けられるとは…俺はなんて未熟なんだ…)」

 

 俺は安堵と同時に自分の未熟さを痛感した。

 

 

 

「スバル!スバル!聞こえる!?」

 

 スバルの返事が無い。まさか…!

 

「…寝てる…。人の気も知らないでこいつ…。でも…良かった…!」

 

 ティアナは自分の怪我も忘れてスバルを抱きしめていた。

 

「何とか…なった…か…」

 

 俺はそのまま倒れて意識を失った。ダメージが大きい体で殺意の波動を使い過ぎたせいか…。

 

 

 

 ………

 ………

 ………

 

「(俺は…気絶していたのか。どれ位寝ていたんだ?…これは…)」

 

 目を覚ましてから自分の体を見ると、応急措置が施されていた。どうやらティアナがやってくれたようだ。そしてティアナ本人はまだスバルを抱きかかえている。

 それから程無くしてスバルが目を覚ました。どうやら肉体的なダメージは殆ど無いようだ。目を覚ましたスバルは自責の念で悲しんで挫折しかけたが、ティアナの叱咤激励で何とか立ち直った。

 

 気を取り直した二人だったが、ティアナはスバルが目を覚ますまで待っていた為に試験の残り時間があと僅かとなっていた。こればかりは俺の力ではどうしようもない。

 元々今回の試験は諦めていたティアナだったが、スバルは二人でゴールする為に自分の考えた「裏技」を提案。ティアナはスバルを信じてそれに乗ったようだ。

 

 スバルの作戦説明が終わったところで短い残り時間に無理を言ってスバルに殺意の波動の制御の仕方を口頭で説明し、ついでにスバルの技に関して助言もした。

 そしていよいよ最終関門に向けて二人が動き出す。

 

 

 

「…行ったか。俺は自分があんなに世話好きではないと思っていたんだがな。柄にも無い事をしてしまった」

 

 試験前までは他人の事を考える余裕も無かった筈なのに、気付けば今はスバルの事ばかり考えていた。

 

「(同じ力に苦しむ者としての同情か?…いや、こんな事を考えるのはスバルに失礼だったな。

 だが…俺は心の何処かで苦しみを共有出来る仲間を求めていたのかも知れん。だとすればそれは俺の心の弱さに他ならない。俺は…こんなにも弱い人間だったのか? …ケンや師匠が今の俺を見たらどう思うだろう…)」

 

そして再びスバルの事思い返す。

 

「(スバル…。一時的に精神が揺らいだだけであれだけの事が起こった…。俺は…本当に闘い続けていいのか?)」

 

 今までは漠然としていた不安が、目に見える形となって心を覆っていった。スバルに起こった事が俺には起こらないとは言い切れず、自分の歩む道に疑念が生じる。しかしいつまでも落ち込んではいられない。

 

「(…今それを考えるのはやめよう。スバルの試験も気になる。追い付いたら隠れて見守るか)」

 

 気持ちを切り替え、スバルの気配を探って捕捉。そして上半身を深く捻転させた構えを取り……

 

「竜巻旋風脚!」

 

 俺は目標地点へ向かって急上昇しながら全身を回転させて目標地点へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

「リュウさん!」

 

 移動中になのはが飛んで来た。俺は話をする為にビルの屋上に降りる。

 

「サーチャーが壊れたから様子を見に来ようと思って向かってる最中に妙な魔りょ…『気』の増大を感じて嫌な予感がしたんだけど…大丈夫だったの?」

 

今のなのはに余計な心配をさせる訳にはいかんな。話を逸らすか。

 

「この距離から感じ取れたのか…また腕を上げたな。最初は近距離で感じ取る事さえ難…」

「今、大事な話をしてるんだけど?」

「…すまん。だが特に問題は無かった。大丈夫だ」

「本当に?じゃあさっきの『気』の増大と消失は何だったの?あれは殺意の波動じゃなかったの?何で顔が少し腫れてるの?

 それに応急措置はしてあるけどあちこち怪我をしているみたいだし。あなたの実力であの二人にそこまで苦戦するとは思えないんだけど?(それに…顔が暗過ぎだよ)」

 

…お前に嘘はつけんな。

 

「……スバルの殺意の波動が一時的に暴走した」

「!!……やっぱりそうだったんだね。スバルはもう大丈夫なの?あなたの体への影響はどうなの?」

「スバルの方は俺の殺意の波動で相殺した。しばらくは大丈夫な筈だ。俺は…この通りだ」

「『しばらくは』、か。根本的な解決はまだって事だね」

「……そうだ。すまない…全ては俺の未熟さと弱さが原因だ…」

「「………」」

 

 しばしの沈黙が訪れるが…

 

「…とりあえず上を脱いで。治療するから」

 

 沈黙はなのはにより破られた。

 

「応急手当は済んでいるんだ。気にしないでくれ。それよ…」

「時間は取らせないから。ね?」

 

 なのははいつも以上の笑顔で優しく語りかけてきた。だがそれは俺を心配して無理に振舞っている事を意味している。

 

「…では頼む」

 

 なのはは治療魔法で治療を行いながら話を続ける。

 

「……何でも一人で抱え込まないで。私に出来ることがあれば何でも協力するから」

「…ああ」

「それに時空管理局で『気』の研究が進めばきっと殺意の波動のことも何とかなるよ!」

「…そうだな…」

「そうそう!だから元気出して!……はい、終わり!」

 

「…すまんな。だがお前に話して少し気が楽になった。もう大丈夫だ」

「……そっか」

「俺はスバルの様子を見てくるからお前はゴール地点に向かってくれ」

「…うん。じゃあ…また後でね!」

 

 話を終わらせて俺達はそれぞれの場所へ向かった。

 

「(……本当に分かりやすい人。だからこそ…見てるだけなんて…。力になりたいのに…何もできないなんて…辛いよ…)」

 

 

 

[試験会場 最終関門付近 廃ビル]

「間に合ったか。ここからなら大型のあれも外の様子もよく見えるな」

 

 どうやらスバル達より先に到着してしまったようだ。これで最初から様子を見られるが、スバル達はこのままでは最終関門を突破しても時間に間に合わなくなってしまう。

 

「(早く来い…。友の想いを無駄にするな!)」

 

 スバルの事を案じていると走ってくる人影が見えた。

 

 

 

 

「(ティアナ一人か。…これは…)」

 

 走るティアナからは気配を感じないので直ぐにあの時の幻だと分かった。

 

「ティアナは幻で敵を引き付けているようだな。本人は瓦礫の影…。ではスバルは…向こうのビルか。あれを発見したんだな。だがあんな距離で何を…」

 

 今のスバルの実力ではあの靴を使っても跳べる距離とは思えなかった。

 

「何か策があるんだな。お手並み拝見といくか」

 

 しばし様子を見ているとスバルの体が光り出し、高々と掲げた右拳を床に打ち付けるとそこから空色に輝く道が伸びていった。

 

「(道を作り出す魔法か、初めて見るな。…む、先端は物理的な衝撃が発生するのか)」

 

 感心しているとスバルがその道を伝って内部に突入し、即座に交戦に入った。バリアを破れずに苦戦しているように見えたが、突然魔力が膨れ上がってバリアを粉々に砕いた。

 

「(どうやらあの薬莢を使ったようだな)」

 

 しかしバリアを破った事で油断したのか、スバルは至近距離でレーザーを喰らって吹き飛ばされた。

 

「(ダメージは受けたが時間稼ぎにはなったな。煙が晴れるまでが勝負所だ)」

 

 予想通りスバルは気配が変わり、何かの準備を始めた。魔法陣を展開してあの薬莢を使っているようだ。

 

「(やはり決めに来たか。それにまたあの薬莢を…。補充する時間は無かった筈だが…。装填出来る数が多い………ん?)」

 

 スバルの武器に感心していた次の瞬間、目の前で信じられない事が起こった。

 

「(これはまさか…!)」

 

 スバルは殺意の波動をかなりの出力で見事に制御して自分の技に組み入れてしまったのだ。

 

「馬鹿な!!さっき殺意の波動の制御方法を知ったばかりだぞ!?」

 

 スバルの才能に動揺を隠せずに思わず声を張り上げる。

 次の瞬間、スバルは殺意の波動が込められた弾を撃ち出して敵を撃破。ビルを飛び出すとティアナを背負って走って行った。

 

 スバルへの助言は飽くまで掻い摘んだものに過ぎず、一朝一夕で出来るものであれば俺はここまで苦しんだりはしていない。殺意の波動を制御するには相応の修行が必要となる……筈だ。だがスバルはそれを一日とかからず成し遂げてしまった。

 

「これが…天賦の才…というものか…」

 

 俺はしばし呆然とした後に我に帰り、ゴール地点へ向かった。

 

 

 

[試験会場 ゴール地点]

 追い付いてみると既に二人はゴール目前だった。 だが残り時間は既に十数秒。スバルは急加速してゴールを目指す。

 

「(ラストスパートか。あれなら間に合うだろうが…)」

 

 ゴールの奥は行き止まり。あの速度で突入して止まれるのだろうか?

 

「「ああああああああーーーーっ!!」」

 

 二人の叫び声が聞こえてきた。

 

「(やはり止まれないか。ならば先回りして…いや、その必要は無くなったな)」

 

 走るのをやめて空を見るとなのはが俺の後ろから飛んで来て俺を追い抜き、魔法を使う準備をしていた。飛んで来た方向から察するにどうやら最終関門の様子を離れて見ていたようだ。

 

「(見ていたのはスバルか…俺か…)」

 

 なのはは空中で静止すると衝撃を和らげる魔法で突進の勢いを相殺し、網を張る魔法でスバルを受け止めた。ティアナはリインの白い突起物を出現させる魔法で引っ掛けられたようだ。

 

 

 

 

「よっ、と。私の方が遅くなっちゃったね」

「ああ…」

 

 なのはが俺の隣に降りて来た。先程と同じ笑顔で側に立つが…。

 

「………」

「…リュウさん?」

「(後先考えずに突っ走る、か。昔を思い出させてくれる…。面白い子だ)」

「(笑ってる…。よかった…)」

 

「(そして…)」

「?」

 

 なのはに振り向いて再び考え込む。

 

「(自然体で二つの魔法を同時に操る…相変わらず見事な腕だ)。…俺もお前を見習わねばな」

「な!ななな何をいきなり!」

 

 なのはが顔を真っ赤にして焦り出した。

 

「いや、お前の魔法はいつ見ても見事だと思ってな。俺もコツを教えて欲しい位だ。はっはっは!」

 

 何の苦も無く同時に魔法を使うなのはの腕には毎度の事ながら感心する。何とかして俺も応用できないものか…。

 

「は、恥ずかしいからそれ以上言わないで…」

 

 なのはは顔を伏せてしまった。

 

「…言葉を選んで感想を言ったつもりだったんだが…。気を悪くしたならすまん」

 

 やってしまったか…。対話の修行も必要かもしれんな…。

 

「あ、謝らなくていいってば!それより早く二人の所に行こうよ!」

「む、それもそうだな」

 

 顔を真っ赤にしながら慌てるなのはに若干戸惑いを覚えながらも言葉に従って二人の場所へ向かった。

 

 

 

 

 なのはと二人でスバルへ駆け寄って声を掛けると、スバルは慌てふためいた後に感極まったのか涙を流した。

 

「覚えてるっていうか…あたし…ずっと…なのはさんに憧れてて…」

「(なのはに憧れていたのか。だが闘い方が全く似てない…というより基本は殆ど格闘家と変わらんな。やはり空を飛べないと真似るのは難しいか。そもそも魔法の使い方を見るに中距離以遠の攻撃も得意ではないようだ。

 だが逆に見れば不得手な分を格闘術と魔法を組み合わせて近接戦闘に特化して補いつつ、燃費は悪いながらも中距離まで届く魔法も使えるようにしているんだな。なかなか合理的な戦闘技術だ。ヴィータ達の魔法…『ベルカ式魔法』だったか、それと似ているな)」

 

 

 

 

 会話が一通り終わってから思索に耽る。

 

「(スバル…不思議な子だ。あの子は俺が過去に置いてきてしまった気持ち…ただひたすらに『強くなりたい』『強敵と闘いたい』という純粋な気持ちを思い起こさせてくれる。まるでさくらが目の前にいるようだ。

 だが強くなるという事は…力を高め、『相手を倒す』という事…。そして…)」

 

「相手を倒す」という言葉をきっかけに修行時代のある出来事が頭を過る。

 

【回想】

[リュウの青年時代 地球 日本 関西地方 とある山奥 朱雀城]

「武道とはな…」

 

「「(また始まった…)」」

 

 寝そべりながら俺達の組手を眺めつつ、俺達の師匠「剛拳」が唐突に語り出す。

 

「『闘う相手』という存在がおり、その相手を倒す為の術を磨く事じゃが…。さて、それが問題よ…。『相手を倒す』という事はどういう事じゃろうなぁ?」

 

 師匠は度々唐突に突拍子もない事を言い出す。今回はまるで禅問答のような問い掛けだ。勿論俺達は真剣に答えるが、いつも何を答えても師匠はまともな回答や説明はせずはぐらかしてしまうから意味のある話なのか疑問なところだ…。

 

「それは…『相手より強くなった』という事でしょうか?」

 

 当時の俺はまだ学が無かったので頭は悪かったが、一生懸命考えて答えた。

 

「『勝利をこの手に掴む』って事では?」

 

 俺の数少ない友であり同門でもある「ケン」が答える。

 

 俺達の答えを聞くと、師匠は少しだけ沈黙した後に口を開く。

 

「ふっふっふ…。お主ら、まだまだ若いのう!はっはっはっは!

 ……まあ、ゆっくり考える事じゃ。武の道を歩み続ければいずれ必ずこの答えを見出さねばならぬのじゃからな。ほれ、手が止まっとるぞ」

 

「「………(またか…)」」

【回想終了】

 

「(…それは突き詰めると相手を『殺す』事に他ならない。その果ては『一撃必殺』…。俺は…殺す為に強くなろうとしているのか?)」

 

 俺の中に眠る殺意の波動は俺の意思に関係無く常に破壊と死を求めている、言わば「本能」のようなものだ。

 

「(俺は殺意の波動と同じものを求めてしまっているのか?…師匠、あの時の問いは俺がこうなる事を見越して俺に正しい答えを出させようと…)」

 

 だが考えても考えても答えは出ない。それどころか出て来るのは殺意の波動に飲み込まれるかもしれないという不安、そして…それによって自分が「破壊」と「死」を振り撒くだけの存在になるかもしれないという恐怖。

 

 殺意の波動とは俺の修める拳法の伝承によると「闘いの中に身を置く者ならば誰もが目覚め得る力」であり、「この世の全てを殺し得る力」らしい。だが実際にそんな事は起こっていない。原因は不明だが、「殺意の波動に目覚めし者」は例外無く「時代の変革と共に消え去っていった」からだそうだ。

 訳が分からなかった。それ程の力ならば何故歴史の表に出て来ない?「消え去る」とはどういう意味だ?何故…俺に宿っている…。

 

 考えれば考える程に訳が分からなくなる。

 

「(何故俺が…望んでもいないこんな力を…!)」

 

 気付けば俺は歯軋りしながら自分の拳を血が出る程強く握っており、やり場の無い怒りを抱いている事に気付いた。

 

「(くっ…。こんな事で心を乱してどうする…!)」

「(リュウさん…なんて怖い顔…。やっぱりまだ…)」

 

 分かってはいても、どれだけ落ち着こうとしても胸の奥から煮え滾る激情が溢れ出す。

 

「(だがそれでも…この感情を抑え切れん…。俺の拳は…拭い切れない穢れた血に染まる運命なのか…!)」

「リュウさん…。落ち着いて、ね?」

 

 突然なのはが俺の手を握ってきた。すると不思議と怒りで煮え滾っていた心が静まっていくのを感じた。

 

「大丈夫。あなたの拳は無闇に人を傷付けたりしない。もしそうなりそうになったら私が絶対に止めてあげるから…。だから…そんな顔しないで…」

 

 …俺は情けない男だ。自分の苦しみで友を…仲間を悲しませてしまうとは…。だが今は…

 

「…お前には感謝せねばな。すまん。そしてありがとう、なのは」

「もう…大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。だからお前もその泣き顔はやめてくれ。お前は笑顔の方がよく似合う」

「……うん、私らしくなかったかな。じゃあ私からも…。ありがとう、リュウさん」

「うむ、やはりお前は笑顔の方が年相応に見えるな」

「ひ、人を老け顔みたいに言わないでよ!もう!」

「はっはっは。調子が戻ってきたな」

「…ふふっ、じゃあ行こっか!」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 …なのはに気付かされるとはな。

「自分らしくない」。これは俺にも言える事だ。先程のような後ろ向きな事ばかり考えてしまうという事は、これは頭で考えるだけでは出ない答えなのかもしれない。

 ならば俺にできる事はただ一つ…「闘う」という事。 思えば俺の悩みにはいつだってこの拳が答えてくれた。あれこれ考えるのは俺らしくなかったな。ならば俺はいつものように俺らしく闘うだけだ。

 

 

 

 そう………

 

 

 

『闘いの中に、答えはある』

 

 

 

【リュウside…END】

 

 

 

第二話「試験 -再会と覚醒-」

 

-END-

 

 

 

 

【次回予告】

なのは「きっかけと始まりは四年前の空港火災…」

 

フェイト「炎の中…幾つかの出会いが、幾つかの決意がそこから生まれて…」

 

リュウ「出会いが…そして決意が運命を交差させ、標無き道を照らし出す…」

 

次回 スーパーストリートファイターCROSS:StrikerS EDITION

第三話 「機動六課 -決意と始動-」

 

TAKE OFF.




スバルがまさかの大暴走でしたが、これはスバルとリュウが殺意の波動の恐ろしさを再認識するきっかけとなりました。
ストリートファイター本編でもテーマの一つになっている「リュウの殺意の波動の克服」がスバルの目標にもなったという事ですね。

ちなみにスバルは戦闘のセンスや気功の才能だけならリュウを上回っています。
スバルってホントに魔導師とは思えない程の格闘家タイプだからStrikerSを初めて見た時は「なのはじゃなくてザフィーラに特訓してもらった方がいいんじゃね?」とか思ったなぁ(vividでは子供に格闘技教えてたし)。

…というワケでこれにてプロローグ終了です。
次は機動六課結成までの流れを追う形になります。
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